麻雀少女は愛が欲しい   作:小早川 桂

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11.『東横桃子と思い出』

「くはー! 初めてのお泊りっす!」

 

「おうおう。テンションが上がるのはわかったから落ち着け」

 

「あっ、京さん何して遊ぶっすか? ゲーム? トランプか将棋にオセロ? それとも私でなんて……きゃぁぁぁぁ!!」

 

「落ち着けや、モモ」

 

「はいっす」

 

 アイアンクローを決められた桃子は京太郎の声のトーンから真面目に言っていることを察して押し黙る。

 

 だがしかし、少しずつまた顔はだらしなくとろけていき、行動を再開した。

 

「えへへー。本当に友達の家にお泊りしてるっすね、私」

 

 彼女の言う通り、場所は移って京太郎の自宅。美穂子たちと別れた後に明日も遊ぶ約束をしていた二人。

 

 いちいち帰ってまたこちらにやってくるのも面倒だということで両親の後押しもあって宿泊が決定したのだ。

 

 寝間着などは一切ないので全て京太郎のもの。

 

 ぶかぶかのTシャツ一枚。

 

 はっきり言って誘っているのかと勘違いされても仕方がない服装だと京太郎は思っていた。

 

 一方、桃子はいつになったら襲ってくれるのだろうとワクワクしながら待ち構えている。

 

「……ったく、明日も早いんだから部屋で寝るぞ」

 

 京太郎はこれ以上桃子が暴走しないように睡眠することを提案する。

 

「はーい!」

 

 キター!

 

 来ました! お誘い! 京さんから部屋へ来いとのお達し。

 

 これはもう間違いないっす。

 

 今日、モモは大人になってしまうっすね……。

 

「美穂子さん。衣ちゃん。……私は先に京さんの女になるっす……」

 

「……? なにブツブツ言ってるんだ? さっさと寝るぞー」

 

「あっ、ちょっと待ってください。荷物持ってあがるので」

 

 桃子は一冊のノートと筆箱を手に抱え、ルンルンとスキップしながら後をついていく。

 

 二階の廊下の端。一人で使うには広すぎる彼の部屋にはベッドの隣に布団一式が用意されている。

 

「……? 京さん、あれなんですか?」

 

「なにって……俺が寝る用だけど……もしかしてベッドは嫌だった?」

 

「違うっすよ! どうして二つも用意しているんすか!? これじゃあ一緒に寝れないっすよ!」

 

「そう言うと思ったから準備したんだ。同じ部屋で寝るだけで勘弁してくれ」

 

 でないと、俺の理性が絶対に持たない。崩壊すると京太郎は本心を隠して頼む。

 

 それを告げれば間違いなく桃子は離れないだろうから。

 

「えぇ~。そんなのズルいっす。生殺しっす~」

 

「何が生殺しだ。とにかく一緒には寝ないから」

 

「……わかったっす。じゃあ、私はベッドで寝ます」

 

 一向に応じてくれない京太郎に諦めたのか不貞腐れた顔をして桃子は言われた通りに彼が普段使用するベッドにダイブする。

 

 その勢いでもろにピンクのパンツが見える形に。

 

「…………チラッ」

 

「見てない! 見てないからな!?」

 

「…………ちっ」

 

 小さな舌打ち。

 

 桃子の誘惑作戦一号は失敗に終わる。だが、そんなことで挫ける彼女ではない。

 

 だてに鈍感系唐変木を相手にしているわけではないのだ。

 

 王道がダメなら搦め手。

 

 毛布を頭の上まで、体をすべて覆わせると甘い声が薄い布切れ越しに漏れ始める。

 

「あんっ……京さんの匂い…………ダメ。止まらないっす……気持ちいっ……んぁっ!」

 

「………………」

 

「こんなの止められないよぉ……! 京さんに見られながら、私……イッ、イッちゃう……!」

 

「よーし、一緒に寝るか、モモ!」

 

「わーい!」

 

 さっきまでの艶やかな声と仕草などどこかへ飛んでいき、桃子は京太郎の元へと移動する。

 

 ぬるりと俊敏な動きで布団へ潜り込むと彼の隣に陣を取った。

 

 ぎゅーっと胸の内の感情を押し付ける桃子は幸せいっぱいの笑顔をしている。

 

 我慢ができずに許可をしてしまった京太郎はだんだんと桃子の扱いになれてきたのか、拒絶せずに受け入れた。

 

「出会った時の純粋なモモはどこにいったんだ……」

 

「出会った時から私は京さんへの気持ちが溢れてたっすよ。少しだけ奥ゆかしかっただけで、想いはずっと変わってないっす」

 

「はいはい。電気消すからな」

 

「あっ、ちょっとだけいいっすか?」

 

「……譲歩はしないぞ?」

 

「退き時はわかってるつもりっすよ。これを書きたくて」

 

 桃子が見せるのは黄と白の水玉模様のノート。真ん中に大きく『思い出日記』と題されている。

 

「日記つけているのか?」

 

「はい。毎週、大切な思い出をもらっていますから。忘れることのないようにしっかりとつけているんです」

 

 彼女は今まで人々の記憶から忘れられて生きてきた。

 

 思い出は共有できず、彼女の為すことには誰も関わってこない。

 

 永遠の一人舞台に立っていた桃子だからこそ、誰よりも輝く過去の出来事。

 

 小さいも大きいも関係ない。

 

 誰かが作り上げたことが、笑いあって、泣きあって。

 

 そんなことが何よりも彼女にとって大事なものだった。

 

「だから、少しだけ待ってもらえるっすか?」

 

「ああ。そういうお願いなら歓迎するぞ」

 

「ありがとうっす! では、失礼して……」

 

 机にノートを敷くと、消えないようにサラサラとボールペンを走らせる。

 

 思い返しては書き、思い返しては書くを続けること十分(じゅっぷん)

 

 満足いく結果になったらしく、彼女は笑顔で布団へ戻る。

 

「明日は何時に起きる?」

 

「ランニングに付き合うつもりっすから京さんに合わせますよ」

 

「じゃあ、4時30分で。電気消すぞー」

 

「はーい。……京さん」

 

「ん? なんだ?」

 

「離れちゃ嫌っすからね」

 

「……これだけ強く手を握られたら誰も離れはしないよ」

 

「ふふっ。私の気持ちっすよ。おやすみなさい」

 

「おう。おやすみ」

 

 そんな何気ない言葉を交わしあい、二人は眠りについた。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

『五月○日

 

 今日は京さんに美穂子さん。衣ちゃんでピクニックをした。

 笑いながら食べるお弁当はとても美味しくて、みんなで遊ぶことはとても楽しい。

 私を受け入れてくれて、私と接してくれて。

 こんな日々が続けばいいと毎日思う。

 夢だったんじゃないかって眠るのが怖いけど、今日は京さんに甘えよう。

 この手をつないでいたら、きっと安心して寝られるだろう。

 そして、明日もまた一緒に思い出を刻みたい。

 そうすれば大人になっても私は一人なんかじゃない。

 それが私の夢見る未来。

 

 

 

 

 

 京さんと話した時間……4時間32分24秒

 京さんと目が合った回数……79回

 京さんと共にいた時間……15時間29分11秒

 

 えへへ。また記録更新したっす!』

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 日は変わり、新しい朝がやってきた。昨日よりも柔らかな太陽の光とほんわかとした陽気が素敵な一日になることが予測できるだろう。

 

 そんな空気の中で一人の女の子が焦りから、汗を流してある家の玄関で固まっていた。

 

 どうも、こんにちは。

 

 宮永咲です。

 

 大人になったら魔王って呼ばれているみたいです。

 

 だけど、本当は少し麻雀が得意な恋する少女の一人。

 

 未来からのお手紙によって独身アラサーを迎え、なおかつ大好きな京ちゃんも他人にとられるということを知った私はそんな悲しい結末を変えるために行動を始めました。

 

 というわけで、久しぶりに京ちゃんのお家に来た――までは良かったんですけど。

 

「えっと……どちら様っすか?」

 

 中から知らない女の子が出てきました。

 

 和ちゃんに続いてまた胸の大きな可愛い子。

 

 私はもう泣きそうです。

 

 

 

 そして、咲は敵前逃亡を決めた。




モモの好感度上げイベント終わり。
ぼかして書くの難しい。
次は出会ってしまった魔王と京ちゃんとモモの三人による修羅場デートです。

ほのぼのもいいけど、そろそろ修羅場見たくない?
あと、モモはヤンデレがよく似合う。

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