丁度ラッタルから下りようとしていた古庄の背中に、教室から追いかけて来た明乃の声が掛けられる。
「はい、何かしら?岬さん」
「はい、少しお聞きしたい事が有りまして」
明乃の呼びかけに応え古庄はラッタルから艦内へと戻る。
「副長の宗谷ましろさんについてなのですが.....」
「宗谷さんがどうかしましたか?」
「えっと、その......」
ましろがはれかぜ配属となった理由自体はましろ本人に聞くつもりであった明乃だが、そもそもそれが
「その....宗谷さんが【はれかぜ】に副長として配属された理由についてなのですが.......」
「それは」
それでも艦長として全てでなくても良いので知っておく必要が有ると、意を決して明乃は言葉にする。
「いえ、その全容を教官にお話し頂きたい訳じゃ有りません。この後に本人に直接確認するつもりです、ただ」
「ただ、何かしら?」
古庄としてはましろがはれかぜ配属になった理由については勿論知っているし、本人には悪いがそれがそこまで真剣な表情で語る事でも無いと知ってはいるが、艦長として部下に関してキチンと把握しておこうと言う明乃の姿勢に自然と真剣な表情と声になる。
「彼女は去年度から他艦の上級生の中でも
「そんな彼女が【はれかぜ】に自分の副官として乗艦して来て驚いた?」
「はい、正直驚きました。勿論!私ははれかぜとクルーの皆は最高の艦と最高の仲間だって思っています!......けど..」
そこで明乃の言葉は止まる。
その先は岬明乃個人として言いたく無かったのかそれとも、【はれかぜ】艦長として口を噤んだのか。それは明乃本人では無い古庄には当然判らないが、判らないからこそ彼女達の教官として教師として古庄は敢えて口にする
「総合評価において下位クラスであるはれかぜに昨年度の学年主席が副長として乗艦するのは何か有ったのでは無いのかと?」
「はい.....」
成る程艦長としては気に成る事だと古庄は内心うなづく。眼前の少女が自身の乗艦である【はれかぜ】やそのクルーを誇りに思っている事は良くわかる。でも、だからこそ気に成る、いや、気にしないといけないと考えたのだろう。学校側からの評価として下位になるはれかぜの副長として上位クラスに配属されておかしく無い生徒が配属された、それは理由を知っていなければ何かしらの問題を起こしたのでは無いかと考えるのは仕方の無い事だろう。ただのクルーなら未だしも副長に不安を抱えたまま航海に出る事はしたく無いと言う事だ。
ならばと古庄は笑みを浮かべる、正直な話本人にとっては重大な事だろうが、些か気の抜ける様な理由なのだから。
「岬艦長」
「はい!」
「貴女の考えている程重大な理由では有りません。でも流石に私の口から話すのはかわいそうだから、本人に聞きなさい」
「えっとはい、了解しました!」
姿勢を正し返事をする出航用意急いでねと声を掛け背を向けラッタルを下りていく。その古庄の背中に明乃はありがとう御座いましたと一礼すると、出航用意の指揮を引き継ぐ為艦橋へと足を向けた。
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ー明乃が古庄と話していた丁度その頃、機関室にて機関長の柳原麻侖が唸り声を上げていた。
「あの、麻侖?」
「むぅ〜」
機関助手であり幼馴染でもある黒木洋美が横から声を掛けるが、ました侖は手にした仕様書を睨み付けたままで顔を上げない。側から見ていればスネている様に見える麻侖だが、その実昔から彼女を良く知る洋美から見れば軽くではあるものの麻侖が
ーこの新設の主機なんですが、少々不安定でしてそのえぇっと、突然止まるかも知れないので気を付けて下さい
主機に関してはガスタービンエンジン搭載の近代艦を原作通り、主機の不調により遅刻させる為(因みに鈴ちゃんによる航路の間違いは起こりません)のかな〜り、無理矢理な設定です。