ハイスクール・フリート-近代艦   作:たむろする猫

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2話

ましろに関しての話を止めた後、しばらく他愛も無い話をしていた明乃のもえかであったが、広場を歩く生徒が増えて来ている事に気付いた。彼女達は皆書類を片手にきょろきょろとしながら歩いている、

おそらくは入学式が終わり各艦の教室へと向かう新1年生だろう。

 

「入学式終わったみたいだね」

「それじゃあ私達もそろそろ行こっか?」

 

グラスに残っていたアイスティーを飲み干し席を立つ。

船員名簿などの手荷物はテーブルに置いたまま、

どちらからともなく手を取り合いそのまま抱き締める。

 

「モカちゃん」

「ミケちゃん」

 

しばらくの間そのままで、お互いの体温を伝え合う。チラホラといる1年生達が二人を見て何やら顔を赤くしたり、鼻息を荒くしたりとしているが、二人がそれを気にする事はない。

 

「やっとここまで来たね、モカちゃん」

「うん、でもここからだよミケちゃん」

 

“豊作”と呼ばれる今年の3年生ではあるが、その人数は1・2年生に比べその人数は少ない。勿論入学時からその人数しか居なかった訳では無い、理由は単純で3年生になる迄に次々と減っていく(・・・・・)のである。

それでも尚、昨年の3年生と比べると多い辺り今年の3年生が全体的に見て優秀であると言って差し支え無いだろう。

最もそれでいて尚新入生の半数にも満たないのではあるが。

 

「そうだね、ここからが本番だね」

「一層頑張らないとね」

 

二人が言う様に横須賀女子海洋学校だけでなく、

ブルーマーメイド養成学校に於いては3年生からこそが本番であると言われている。それは艦長を始め艦の幹部となる役職には基本的に3年生が就く為である。上官(上級生)の命令に従っていれば良かった今までと違い、責任ある立場に就く事により自身で考え部下(下級生)に命じ、時として艦長に意見し対立する事も求められる。そして3年生になったからと言って脱落の可能性が無くなる訳では無い、それどころか寧ろ3年生になってから役職の重責に押し潰され脱落して行く事が多い程である。

何にせよ兎角優秀で無ければ生き残れないのが海洋学校であり、優秀で無ければなれないのがブルーマーメイドである。

 

「それじゃあ、また二週間だね」

「うん何時もと一緒、ニ週間なんてあっという間だよ!」

 

くすくすと笑いあいまたどちらからともなく離れる、その時絡めあっていた指が名残惜しそうに離されたのはご愛嬌だろう。

荷物を手に取るとお互い少々離れた所にある教室に向かう為に別々の方向へ向かって歩き出す。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

明乃がはれかぜ艦内の教室へ入った時には既に殆どの生徒が集合していた。見慣れたはれかぜのクルー達の顔に明乃の頬も綻ぶ。そして大半の見慣れない顔ぶれである1年生の顔と名前を船員名簿にあった写真と名前で確認して行く。件の副長は教室の隅に居た、取り敢えず副官である彼女に声を掛けようとして別の所から声を掛けられた

 

「なんでぇ航海長(・・・)!えらく重役出勤じゃねぇか!!」

 

振り向くとそこには機関科の生徒で今年から機関長になった柳原麻侖が居た。その隣には同じ機関科で2年生の黒木 洋美もいる。

 

「マロンちゃん!くろちゃん!」

「おう!はれかぜ機関長柳原麻侖でい!!」

「遅かったですね航海長」

 

自称江戸っ子で矢鱈とテンションの高い麻侖と、少々物言いにトゲのある洋美に若干苦笑いに成りつつ直ぐに教室に来なかった理由を告げ、序でに間違いを訂正する。

 

「うん、ちょっとモカちゃんとお話ししててね。

それと、私航海長じゃないよ。航海長はりんちゃん」

「なんだって?するってぇとおめぇさん」

「うん、艦長だよ」

 

明乃の言葉に周囲の喧騒が止む。

1年生の驚きはまぁ一見頼り無さそうに見える明乃が艦長である事への単純な驚きだろう。2年生達の驚きは去年のはれかぜに副長が居なかった事は分かっていてもまさか明乃がという純粋な驚きだろう。

そして3年生はと言うと、驚いていると言うよりは何方かと言うと納得しているといった様な様子がある。

 

「なんでぇなんでぇ!いつの間に試験受けてたんでい!!」

「いつの間にって、普通に試験の日にだよ」

 

バシバシと背中を叩きながら言う麻侖に苦笑する。

驚いているままの1・2年生をよそに、いつの間にか周囲に集まっていた3年生達が次々に祝いの言葉を述べていく

 

「おめでとうございます岬さん!」

「......めでとう」

「お、おめでとう明乃ちゃん」

「おめでとう」

「おめでとう!」

「おめでとう岬さん!何かお祝いしないと!」

「おめでとう!私ケーキ作るね!」

 

上から順に通信長の納沙幸子、砲雷長の立石志摩、航海長の知床鈴、見張り員の野間マチコ、応急長の和住媛萌、補給長の等松美海、給養長の伊良子美甘である。それぞれにありがとうと返しながら美甘にケーキはまた今度ねと返す。と、そこに3年生の輪の外から声がかけられる

 

「あのっ宜しいでしょうか!!」

「「「「「「「「「うん?」」」」」」」」」

「うっ」

 

9人全員、合計18の視線が一斉にそちらに向けられ声の主は僅かに怯む。若干そこに立って居たのははれかぜ副長の少女だった。

 




因みにこの時の彼女の姿は他の1・2年生から見ると3年生の輪の中に割って入る勇者に見えたらしい。


【はれかぜ幹部クルー】
上位意思決定権を持つ生徒。

艦長:岬 明乃__航海科3年生
船務長・副長:宗谷 ましろ__船務科2年生
通信長:納沙 幸子__通信科3年生
砲雷長:立石 志摩__砲雷科3年生
機関長:柳原 麻侖__機関科3年生
補給長:等松 美海__補給科3年生
給養長:伊良子 美甘__補給科3年生
衛生長:鏑木 美波__大学生

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