ハイスクール・フリート-近代艦   作:たむろする猫

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1話

艦長任命式が終わった後、続けて新1年生の入学式が行われる武蔵から降りた明乃ともえかは、それぞれの艦の教室へと向かう前に校内にあるカフェへとやってきていた。

 

「ああ〜緊急したぁ〜」

「ふふ、お疲れ様ミケちゃん」

 

緊張の糸が切れたのか、テーブルにダラっと上半身を預ける明乃の姿にに微笑みながら、もえかは渡された船員名簿を開く。

艦長である自身の名前が一番上で、その下に副長村野瞳子以外こんごうクルーの名前が役職毎に並ぶ。副長の名前が予想していた名前と違った事に些か驚いたが、今気にすることでは無いと一人一人の名前を確認していく。

 

「あれ?」

「どうしたの?ミケちゃん」

 

明乃の少し驚いた感じの声に顔を上げると、向かいで同じ様に船員名簿を確認していた明乃が首を傾げていた。

何か問題でもあつたのだろうか?そう考えたもえかに、ちょっとビックリしちゃってと言いながら明乃ははれかぜの船員名簿を示して見せた

 

「あれ?この子.....」

 

【艦長:岬明乃(3年)】の名前のすぐ下に【副長:宗谷ましろ(2年)】とある。2年生が副長になっている事は別段驚く様な事ではない、実際もえか自身も去年は2年生で副長だった。そもそも、艦長選考の条件でもある以上副長という役職は来年の艦長候補である優秀な2年生が選ばれるものである。ならば、何に驚いたのかと言うとそこに書かれていた名前だ。当然校長と同じ苗字に驚いた訳でもなく、では何に驚いたのかと言うと彼女、宗谷ましろの名は上級生の中でもそこそこ有名だったからである。

 

「この子、去年の1年生の学年主席だよね?」

「うん、とっても優秀な子だって聞いてたけど........」

 

2人も彼女が入学した頃からそれなりに彼女に関する噂を聞いていた。

母親である宗谷真雪たけでなく、2人の姉もブルーマーメイドの関係者であり、代々ブルーマーメイドの重役を務める宗谷家の人間である為、コネだなんだといった悪い噂もあつたりしたが、入学時から各分野で名家の名に恥じぬ優秀な成績を収め学年末の時点で来年の副長は確実、3年時には艦長になるだろうと言われていた。

実際に今年には副長としてはれかぜに乗艦する事が明乃の持つ名簿にしっかりと記されている以上、噂は間違いなく彼女が期待通りの優秀生であった事の証明であるのだが、しかし配属艦か【はれかぜ】である。

 

「この子はモカちゃんの【こんごう】だって思ってたんだけど」

「去年の乗艦ははれかぜじゃ無かったよね?」

「うん、違うよ」

 

副長は大抵一年生の時に乗っていた艦で務める事が多い。

特に優秀な生徒を集めたこんごうや3年生が副長を務める際はその限りでは無いが、1年生の時に乗り込んだ艦から3年間動く事は余程の事がない限りあり得ない。実際明乃ももえかも、去年はそれぞれはれかぜ航海長とこんごう副長だった。こんごうは3年生と2年生しかいない為、もえかは1年生の時こそ違う艦だったが明乃は1年生の時からずっとはれかぜである。

余程の事と言うのは1年生2年生の時に取り分け優秀な成績を収め、こんごうを始めとする優秀クラスへ移る事か若しくは、退学にはならないものの何か問題を起こしてそれ程優秀とは言えないクラスへと移される事である。

1年生の時には優秀クラスのどれかに乗艦していたであろう宗谷ましろが、お世辞にも優秀クラスとは言えないはれかぜの副長に就任するという事は、その余程の事があったと言うことだろう。

 

「これ、本人の居ない所でする話じゃ無いよね」

「うん、そう...だね」

 

入学したての1年生や噂好きなら兎も角、2人とも艦長に任命された3年生であり分別も弁えているし、そもそもそこまで噂好きという訳でも無い。明乃としては何らかの問題を起こした可能性のある生徒が自分の副長だと考えると、不安を覚えなくも無いが優秀だという事実はあっても問題行為を起こしたという噂は無い以上、本人を直接見定めるしか無いとそう考えることにした。


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