プロローグ
【プロローグ】
日露戦争後の日本はプレートの歪みや、メタンハイドレートの採掘が原因で沿岸部の多くを海中に失う事となった。
その結果、海上都市が多くなりそれらの都市間を繋ぐ海上交通の増加により海運大国となった。その過程において、嘗て軍事兵器として建造された軍艦はその多くが民間用に転用される事となり、戦争には使わないと言う“象徴”として、艦長は女性が務める事となった。
これが海上の安全を守る「ブルーマーメイド」の走りであり、ブルーマーメイドは多くの女子の憧れとなっていった。
嘗ての軍艦の中には未来のブルーマーメイドを育成する為の教育艦となるものもあった。
が、あくまでもこれは“
“本来の世界線”同様「航空機」こそ机上の空論として発展しなかったが、少々の違いがあった。それは魚雷である。
今から30年程前に開発された「スーパーキャビテーション魚雷」の登場によって各国の海軍戦略は見直しを余儀なくされた。
航空機が存在しない以上「大艦巨砲主義」こそが絶対であった海軍戦略であったが、スーパーキャビテーション魚雷と言う高速かつ高射程、そして高威力を誇るこの魚雷を相手にした時、今迄の鈍重な軍艦では対応仕切れないとされ、対SC魚雷戦は同じ魚雷で持ってして撃破するか回避するといった戦略へと変換され、“
結果として各国の軍艦は装甲では無く速力を重視する様になり、“史実”の近代艦へと姿を変えていった。
ーーーーーー4月、横須賀女子海洋学校
晴天の下「記念艦武蔵」甲板上において新1年生の入学式が行われる少し前、同艦内艦長室において新3年生の成績優秀者に対する艦長任命式が行われていた。
横須賀女子海洋学校を始めとするブルーマーメイド養成学校においての艦長職とは基本的に、3年生のみが選任されるものでありその選考資格は前年度2年生時に副長であった事、もしくは2年生時に乗艦していた艦の艦長の推薦があり、職員会議において認められる事である。また、此処まではあくまで選考資格であって任命されるには此処から更に試験に合格する必要がある。よって艦長とは任される艦がどの様な艦であっても学年トップクラスの優秀生徒の集団である。
今年度艦長に任命される生徒の数は15名、制服をきっちり着込み5名づつ三列に別れて整列する少女達を見て、横須賀女子海洋学校の校長である宗谷真雪は今年の艦長も優秀な子達だと微笑みを零す。
「それでは此れより、第二十一期艦長任命式を執り行います」
真雪の言葉に漂っていた緊張感が更に張り詰めたモノになる。ここから成績順に名を呼ばれ艦長への任命と任される事になる艦が告げられる。
「では順番に、航海科1組知名もえかさん」
「はいっ」
真雪から見て右側の列のその先頭にいる少女、もえかは大きな声で返事をして、しっかりとした足取りで真雪の前へと進み出る。
「航海科1組知名もえかさん、貴女を直接嚮導艦こんごう艦長へ任命します」
「こんごう艦長、拝命します!」
言葉と共に差し出された任命状を受け取り真雪へと一礼すると右回りで居並ぶ同級生達へと体を向けると
「二十一期生航海科1組知名もえか!直接嚮導艦こんごう艦長を拝命しました!」
瞬間拍手が起こる。
それに対し一礼すると再び真雪の方へと体を向け一礼し、元の位置へと戻って行く。
ここまでが艦長任命式の一連の流れである。
ー全員が真剣な顔で拍手をしている中チラリと見えた幼馴染の嬉しそうな顔に、頬が思わず緩みそうになるのを堪えるのは学年主席のもえかをもってしても、少々難易度の高いものであったー
「それでは続いて・・・
この様な任命式がもえかの後12人続き、いよいよ最後の1人となった。
名前を呼ばれるのはもえかの幼馴染にして、“本来の世界線”そして“この世界線”の主人公たる少女....
「では最後に、航海科2組岬明乃さん」
「はいっ!」
緊張を含んではいるが元気な声で返事をした明乃は何処かぎこちなく硬い動きながらも、しっかりとした動作で真雪の前へと進み出た。
15人の中で唯一昨年度副長を務めていない、
数年振りの推薦枠の生徒に居並ぶ教師陣のみならず同級生達からも、彼女以前の生徒よりも強い視線を浴びせられる。
真雪自身数年振りの快挙を成し遂げたこの少女に、思わず期待の眼差しを送ってしまうのは仕方の無い事であった。
「航海科2組岬明乃さん、貴女を直接嚮導艦はれかぜ艦長へ任命します」
「はれかぜ艦長、拝命します!!」
■岬明乃
原作主人公で今作でも主人公。
前年度、2年生時には上級生が少なかった事もあり
航海長を務めていた。
その時の艦長の推薦により艦長試験を受験、
合格航洋直接嚮導艦はれかぜの艦長を拝命した。