ハイスクール・フリート-近代艦   作:たむろする猫

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1話

『繰り返しお伝えします。本日午後17時30分頃、ブルーマーメイドの幹部養成学校の一つ、横須賀女子海洋学校所属の教員艦〈さるしま〉が国際救難チャンネルにて、救難信号を発信。

それによりますと、本年度最初の航海演習に参加予定であった直接教導艦〈はれかぜ〉が、〈さるしま〉に対し発砲。魚雷2発を発射した後に逃走したとの事です。

横須賀女子海洋学校及びブルーマーメイド海上安全監督室は現時点において、本件に関して一切のコメントをしておらず、攻撃を受けた〈さるしま〉や逃亡した〈はれかぜ〉の現状は不明です。

また、未確認情報ではありますが、直接教導艦〈はれかぜ〉は同校の学生によって運用されているものの、演習に合わせて実弾も配備しているとーー』

 

 

「で?何が如何してこんな事になってるんでい?」

 

はれかぜの士官食堂、集められた3年生からなる主幹要員の内、最後に到着した麻侖は苛だたしげに席に着くと、直様切り出した。

その言葉を受け、タブレットを手にした幸子が立ち上がる。

 

「では先ず始まりから、我が艦が戦闘海域を離脱後ラジオ情報によると、1730ごろ海上安全整備室からの正確な情報によると1732に横須賀女子海洋学校所属の教員艦〈さるしま〉が国際救難チャンネルにて、救難信号を発信しました」

「それが何ではれかぜの反乱になるの?」

 

そう尋ねたのは給養長にしてはれかぜの台所番伊良子美甘だ。

幸子は美甘の質問にその疑問は最もだと頷き、人数分の紙を取り出し全員に配布する。

 

「それはさるしまが発信した救難信号の全文です」

「ちょっとまって!コレ救難信号なんかじゃないじゃない!」

 

補給長の等松美海がバン!と机に手をつきながら声を上げる。

他の面子にしても、美海の様に声を上げこそしないが、意味が解らないと言った様子だ。

 

「つまり、このどう見ても救難信号と言うよりは、通報と言った方がしっくり来るモールスを有ろう事かさるしま、ううん古庄教官は国際救難チャンネルで垂れ流した上に。海上安全監督室と言うか、安全整備局が動く前に民間のラジオ局によって更に拡散された.......と」

 

明乃はそう言ってハァとため息をつくと、出港前に話した感じこんな事仕出かす様子じゃ無かったけどなぁと小さく呟く。

 

「それで、あの、職員室の方は何と?」

「現在、横須賀女子海洋学校艦隊司令部及び海上安全監督室からは此方に対し、新たな指示は出ていません。現状本艦に下されている命令は補給艦〈とわだ〉以下の別働隊との速やかなる合流です」

 

遠慮がちになされたましろの質問に幸子は首を横に振りながら答える。現在まだ副長権限は鈴に移譲されたままの状態だが、船務長ではあるためこの主幹会議に呼ばれたものの、ましろは何処か肩身が狭そうである。最も、そもそも周りはほぼ初対面の上級生ばかりで、副長権限を取り上げられていなくとも、萎縮していた可能性もあるが。

 

「それで艦長、この後どう動くよ。流石にとわだやらがラジオ放送を鵜呑みにして〈うらかぜ〉〈たにかぜ〉が攻撃仕掛けて来るなんてこたぁ無いとは思うけどよぉ」

「...いっしょ、かも」

「そうだね。とわだ以下の別働隊4隻がさるしま含む10隻と同じ状態になっていないとは、言い切れない」

 

麻侖と志摩に続く明乃の言葉に、室内が静まり帰った。

実際今現在、合流を目指している4隻がどう言う状態にあるのかは、はれかぜでは解っていない。

通信を入れて確認すればいい話たが、置かれている状況が容易な通信を躊躇わせる。

 

「艦長.....」

「本艦は一先ず、艦隊司令部からの命令を優先。とわだ以下の別働隊との合流を目指します。ただし、彼方の状態が解らない以上警戒は厳に。相手側の状態次第では攻撃を受ける可能性もあるけれど、可能な限り交戦を避ける為、レーダーに別働隊が映り次第短波通信を入れます......応答が有り、正常な状態だと判断された場合はそのまま合流。応答が無く、さるしま以下の10隻と同じ状態にあると判断された場合は、即座に離脱を図ります」

 

ー了解ー

 

全員が席を立ち明乃に敬礼して部屋を出て行く。

明乃と幸子以外が立ち去った士官食堂で、いつの間にか明乃の後ろに控える様に立っていた幸子に明乃が声をかける。

 

「本艦がさるしまの救難信号を受信出来なかった原因は?」

「申し訳ありません、原因は判明していませんが、さるしまから救難信号が発信された時間帯に、通信設備に電磁障害の様なモノが発生。障害自体は数分後にクリアになり、直後に行った診断では異常は発見されませんでした」

「さるしまが救難信号を発信した時間帯.....確か1732だったね」

「はい」

 

その時間に何があったか。電磁障害自体は既に報告は受けていたが、それ以外で起こった事と言えば確か........

 

「ああ、確か五十六がネズミ(・・・)を捕まえて来たのもそれ位の時間だった様な.......」

「ネズミ、ですか?」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「対水上レーダーに感!左舷前方18000!!」

「ビーコンはノーリアクションですが、IFFは応答有りです!」

「とわだ以下の別働隊?」

「いえ、これは.......シュペーです!!」

「シュペー?」

「IFFチェック!間違い有りません!ドイツ連邦共和国、ヴィルヘルムスハーフェン校所属、装甲艦〈アドミラル・グラフ・シュペー〉です!!!」

 


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