ハイスクール・フリート-近代艦   作:たむろする猫

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9話 A

「総員戦闘配置!対水上戦闘用意!!コレは訓練では無い、繰り返すコレは訓練では無い!」

 

明乃のその命令を受け、はれかぜ艦内は慌ただしく動き出す。

訓練に非ず。その言葉は軍人では無いにしろ、戦闘を視野に入れた職種であるブルーマーメイドにとり、例え彼女達がその候補生でしかなくとも、否未だ候補生でしかない彼女達にとって想像以上に重たいモノであった。

最も、その事に身を硬くして冷静になれていないのは、今年からはれかぜに乗り込んだ一年生とましろそれから、巻き込まれた形になる吉野位であった。

何せ去年の時点で既にはれかぜ乗員であった三年生、二年生にとっては、初体験という訳では無い(・・・・・・・・・・・・)

それは前任の艦長が卒業目前にして艦を去り、来年度の艦長を期待されていた副長がブルーマーメイドに成る道を奪われた(・・・・)忌々しい記憶だ。

 

「航海長、艦橋を任せます」

「了解しました艦長」

 

明乃は鈴と敬礼を交わし、幸子を従え艦橋から出て行く。

その背を見送ると鈴は艦内電話の受話器を取り、機関室に繋げる。

 

「艦橋より機関室、航海長の知床です。艦長より操艦の指揮をお預かりしました、以降別命あるまで私が指揮を執ります」

『航海長、機関長の柳原だ。副長は?やっぱダメか?』

「まぁそんなところです」

 

一年生では無く機関長である麻侖が態々出た事に驚きもせず、彼女の質問に曖昧な回答で答える。

 

『わかった。で、何の用でい?』

「全速を出します用意を」

『・・・・10分だ、それ以上は保証しねーぞ』

「それだけあれば」

 

少し間を置いての麻侖の答えに満足気にうなづくと、受話器を置く。

 

「全力即時待機となせ!!」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「艦長追加情報です。前方の艦隊内に見当たらない艦は「こんごう」との事です」

「そう」

 

CICの艦長席に着いた明乃に背後に控えた幸子が、艦橋の見張り員からの報告を伝える。こんごうは明乃の親友であるもえかが艦長を務める艦だ、一瞬明乃の脳内にもえかの姿が浮かぶが、それを即座に振り払う。別に心配で無い訳では無い。だからと言って、何かが出来る訳でも無い。

ならば私の優先すべき事は、はれかぜの乗員を護る事だと、意識を切り替える。

 

「砲雷長、航海長、最終確認を」

 

その言葉に明乃の隣に立つ砲雷長、立石 志摩と通信越しに鈴が答える。

「うぃ。戦闘....に用いる....弾種、模擬弾頭に...限定。主砲による.....牽制、魚雷で進路.....を塞ぐ」

『その後は全速で当海域を離脱。鳥島の南方10マイルに退避』

「離脱のタイミングは航海長に任せます」

『了解しました』

 

確認を終え、はれかぜの戦闘準備が完了した所に、安全監督室から明乃が提出したプランに対する承認が伝えられた。

 

「驚いた、まさかこんなに早く承認が出るなんて」

「お役所仕事ですから、最悪事後承諾に成るかもと思っていましたけど」

「まぁ、承認されたのなら問題は無いって事だよ」

 

意外に早く出た作戦の許可に若干驚く、何だかんだと言ってもブルーマーメイドだって上はお役所仕事である事に変わりなく、ゴタゴタとして作戦の承認は遅れるか、そもそも承認されないかもと考えていた。そもそも作戦プランを送った事自体、最悪の場合事後承諾にでも成れば良いと言うのと、「報告はしていた」と言い訳する為でもある。

因みに、この際言っておくが、明乃は安全監督室だけでなく、職員室にも報告し作戦プランを提出したが、こちらに関しては何が有っても承認されるとは、微塵も思って居なかった。

横須賀女子海洋学校の教員が校長である真雪以下、全員が生徒想いの良い先生である事は明乃自身がよく知っている。そんな彼女達が生徒に危険な行為をさせるとは思っていない。

 

ともあれ、安全監督室からだけとは言え、承認されたからには直ちに動く。

 

「それじゃあ砲雷長......始めよう」

「うぃ、主砲1番2番....右砲戦用意」

「主砲1・2番右砲戦よーい!」

 

志摩の命令を受け、砲術長の小笠原 光の操作により、CICからは見えないが、艦首と艦尾に設置された【62口径72ミリ単装速射砲】が右舷側へ旋回する。

 

「弾種模擬弾頭、牽制射」

「弾種模擬弾頭!牽制射!!」

「撃ち方....はじめ!」

「うちーかたはじめ!!」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

ーDam!Dam!Dam!ー

 

さるしまに右舷側を向け、並走する形に成っていたはれかぜの前部後部の主砲が、未だに主砲による攻撃を続けるさるしまに対し火を噴いた。

 

「主砲発砲!」

「進路そのまま、速度そのまま!」

「よーそろー、進路速度そのまま!」

 

艦橋では鈴によりそのままの進路と速度を維持する様、指示が飛び。

 

「右魚雷戦用意」

「右魚雷戦よーい!」

 

CICではさるしまの頭を抑える為、魚雷発射の用意を志摩が命令し、水雷長の西崎 芽衣がテンションを上げる。

 

ーガアァン!ー

 

はれかぜの牽制射に対するさるしまの返答は相変わらずの砲撃であった。

 

「艦首に被弾!!」

「損傷は軽微!!問題ありません!!」

 

着弾はしたが、損害が無かった事に皆、特に艦橋に居て見た生徒達は一様に胸を撫で下ろす。そんな中鈴とマチコは精度が上がってきている事に僅かな不安を覚える。

 

「右魚雷戦用意よし!」

「攻撃はじめ!」

「魚雷、攻撃はじめ!!」

 

そんな不安を拭い去るかの如く、右舷側の【68式3連続魚雷発射管】から、一発の通常魚雷(スーパーキャビテーション魚雷では無いと言う意味で、弾頭は模擬弾頭)が撃ち出され、数瞬置いて追いかける様にもう一発撃ち出される。

因みに、この瞬間も二門の速射砲は牽制射撃を続けている。

 

「魚雷発射確認!」

「真っ直ぐさるしまへ向かう!」

 

通常魚雷が発射されれば、回避運動を取りつつデコイを射出するなり、迎撃用魚雷による迎撃が試みられるが、さるしまはその何れをも行わなかった。

 

「さるしま進路そのまま!!回避行動とらず!!」

「魚雷一発目さるしまの前方を通過します!」

 

最初に放たれた魚雷が、さるしまの鼻先ギリギリを通り抜ける。最初から当てる気が無い事に気付いていたのか?否、ただ単に避けるという事を考えてい無いだけだ。その証拠に

 

「二発目、さるしまに直撃!!」

 

ードォォン!ー

 

模擬弾頭と言え、爆発し無いだけで衝撃まで無くなる訳では無く、直撃を受けたさるしまは目に見えてその速力を落とす。左舷側のサイドハルでは無くメインハルに直撃した事が要因だろうか。

何にせよ砲撃は続いているが、著しく精度が落ちている。

 

隙は出来た

 

「機関最大!最大戦速!!」

「機関最大!最大せんそーく!!」

「0度よーそろー!鳥島南方10マイルまで退避!!」


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