ハイスクール・フリート-近代艦   作:たむろする猫

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9話 B

「はれかぜより追加情報きました!!」

「読み上げてちょうだい」

 

横須賀女子海洋学校艦隊司令部ー通称職員室に詰める教員達は、機関の不調で遅れると連絡のあったはれかぜや、別海域での合流予定だった「とわだ」「あかし」「うらかぜ」「たにかぜ」以外の、さるしま以下の演習参加艦艇のデータリンクが途切れたとの一報が入って以降、さるしまやその他の直接教導艦との通信を試みたり、関連各所への連絡や確認で、ただでさえさるしまから「こんごう」が音信不通だと連絡してきて騒ぎになっていた上でのこの事態に、大騒ぎになっていた。

そこに、退避勧告を出した時点で既に艦隊と接触していたはれかぜからの情報が届く。

 

「さるしま以下、データリンクが切断されている艦艇はIFF・ビーコン共にノーリアクション!船外スピーカーによる直接の呼び掛けにも応答無しとの事!また、接触している艦艇は全10隻!データリンク等が途絶していない艦艇を除き、1隻少ないとの事です」

「了解しました。はれかぜにはそのまま退避する様に連絡を。居ない艦がどれかは解る?」

「見当たらないのは「こんごう」との事」

「こんごう..やはり行方不明になっていると言う事ですか」

 

今までにも天候の影響などによって、データリンクや通信の状況が悪くなったという事態が無かった訳では無いが、今回の様な状況は前代未聞であった。直接教導艦ぎ行方不明に成った事も今までに一度も無い。

真雪はそんな状況でも、冷静に事態の対処に当たる職員達を頼もしく思うと同時に、自身の娘が乗艦している船が連絡の取れる状態にある事に、横須賀女子海洋学校の校長では無い個人として安堵する。

 

「それにしても、さるしま以下の艦艇に一体何が起こっているのかしら」

「データリンクの切断だけだなく、IFFにビーコンまで切られていますから、只事では無いのは確かですが......通信やスピーカーでの呼びかけに教員艦のさるしまだけでなく教導艦まで一切無いにも関わらず、航行に関しては問題無く行えていると言うのは些か.....」

「トラブルと言い切れないのがね」

「はい」

 

そう事態は唯のトラブルとは言い難い。

10隻もの艦艇のデータリンクが途絶し、IFF・ビーコンも切られ、その上通信やスピーカーでの呼びかけにも応答は無くとも、何らかの方法ー例えば、自室以外での使用が禁じられているとは言え、教員も生徒も自身の通信端末を所有している筈だし。

通信が行えない状態にあったとしても、はれかぜが接近しているのだから、発光信号なり手旗信号なり、意思疎通の手段が全く無い訳では無い。

それらの方法での連絡があれば機材のトラブルと言い切ってしまう事も出来なくは無い(最も、だとしても11隻もの艦艇の機材が同時に全く同じトラブルを起こした事は割と大問題だが)が、しかし現時点ではそれらによる連絡も一切行われていない。

そうなると、一つ最悪の事態が予想されるが、その事を口にする者は真雪を始め一人も居ない。それは本当に最悪だから。

 

「例えば、西之島新島沖には海底火山の活動による影響で、強力なECMが発生している様な状態になっているとか」

「副校長、それだと事前の調査の時点で報告が上がっているでしょう。その時は大丈夫で今になってだとしても、さるしまが到着した時点で古庄教官からの連絡がある筈よ」

「それは、そうですな」

「何より、さるしま以下の艦艇ははれかぜと接触した、それは詰まり彼女達は西之島新島沖から動いたと言う事よ」

 

何にせよ、直接接触して確認しない事にはあらゆる対話方法が封じられている以上、急行しているブルーマーメイド艦艇の到着を待つしか無い。真雪だけでなく、職員達の中に学生ではるはれかぜにその役目を任せる等と言った選択肢は存在しない。

学生達に任せられる程簡単な事態では無いからと言うのもあるが、学生達に危険な真似をさせたく無い、はれかぜには出来うるだけ退避して欲しいと言うのが、教員達の共通した思いだ。

しかし、悪い事と言うのはそういった時にこそ起こるもので

 

「はっはれかぜより緊急伝!!さるしま発砲!繰り返します、さるしまが発砲!!尚、使用されたのは、じっ実弾です!!」

「何ですって!?」

「はれかぜは!無事なのか!!」

「現在、被弾2!されど損害は軽微、乗員にも被害は無しとの事です!」

 

突然、さるしまがはれかぜに対し発砲した。それもあろう事か実弾によってだ。損害は軽微で生徒達に怪我も無いのは良かったが、だからと言って事態が好転する訳では無い。それ以上にまだ(・・)2発しか当たっていないのは単なる幸運でしか無い。

 

「えぇ!?」

「どうしたの!!」

「はっはれかぜ岬明乃艦長は、さるしまによる実弾を用いた攻撃に明確な“敵意”が有ると判断!はれかぜ乗員及びのり合わせたメーカー職員の生命保護を名目に自衛権の行使を宣言、横須賀女子海洋学校艦隊司令部及び整備局安全監督室に対して、攻撃の許可を求めてきています!」

「そんな、いくら何でも無茶だ!」

 

いくら何でも、学生が操る直接教導艦で教員の操る教員艦に対抗するのは無茶な話だ。こんごうならば元々沿海域戦闘艦であるインディペンデンス級が元に成ったさるしまとは、単純戦闘能力に差がある為に或はと言えるかも知れないが、はれかぜの艦級とさるしまとでは最新鋭艦と旧型艦という差こそあれど戦闘能力の差は然程存在しない。

電子機器の差こそあれ武装数では、はれかぜの方が多いのは有利な点と言えるかも知れないが、それでも操艦しているのは教員と学生だ、その技量の差は推して知るべし。

そもそも教員艦と直接教導艦が演習以外で撃ち合うなど、前代未聞の最悪の事態だ。

 

「直ぐに止めさせなさい!はれかぜは退避を最優先よ!!」

「はれかぜは演習弾頭による牽制射と、同弾頭の魚雷による足止めを行うとの事です。同じプランが安全監督室にも提出されています!」

「それでも幾ら何でも無茶よ」

「ッ!!安全監督室宗谷真霜室長がはれかぜに対して自衛権の行使を容認!提出されたプランに基づいての反撃を許可しました!!」

「何ですって!?」

 

真雪は自らの娘の出した判断に戸惑いを見せる。

この辺りは生徒の安全を第一に考える教師と、現役のブルーマーメイドとの違いだろうか。

 

「何もせずに退避するよりは、さるしまの行動を妨害した方が安全性は高いと判断された模様です」

「そんな、さるしま以外の艦がどう動くかもまだ解らないと言うのに」

「真霜.......」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「本当に宜しかったのですか?」

「はれかぜに反撃の許可を与えた事かしら?」

「はい。反撃などせずに、逃げに徹した方が良いのでは?」

「はれかぜが全力を発揮出来るのならね、その方がいいでしょう。でも、今のはれかぜは最大船速に急旋回を封じられている状態よ」

「それは、そうですが」

「信じましょう。はれかぜの生徒達を彼女達の指揮官を」


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