艦隊これくしょん ー夕霞たなびく水平線ー   作:柊ゆう

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おはようございます!
朝になってしまいましたが、投稿します。

最近本当に沢山の方が読みに来てくださって、毎日が楽しいです。
お気に入りに登録してくださっている方も24名様となり、UAも1000人を突破いたしました。
本当に感謝です。



今回は鹿島の過去話となります。
それでは、今回も少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


羨望

 鹿島は練習巡洋艦だ。仲間である艦娘を効率よく鍛え、戦地へと送り出すのが仕事だった。

 ある時鹿島は大本営の命を受け、艦娘の損耗が特に激しいとされていた鎮守府へと派遣された。

 その鎮守府の提督は艦娘を兵器として扱い、無理な進撃を繰り返しては傷つく艦娘を切り捨て、深海棲艦の殲滅だけを自分の使命と考えていた。

 鎮守府へと着任した鹿島に与えられた命令は、昼夜を問わずとにかく迅速に艦娘を鍛えること。

 命令に逆らうことが出来なかった鹿島は、せめて戦地で仲間が失われないよう精一杯艦娘達を鍛えた。

 しかし、帰ってくる艦娘はいつも出撃時よりも少なかった。どれだけ鍛えても、限界を迎える艦娘が生じない限り撤退の指示がされないからだ。

 暗く沈んだ様子で戻ってくる仲間達。

 鹿島は何のために自分が存在しているのか疑問に思わずにはいられない。これでは艦娘を沈めるために鍛えているようなものだった。

 そんな日々を過ごしていたある日、初めて出撃した艦娘全員が帰ってきた。

 一隻の駆逐艦が提督の命令を無視して、傷ついた艦娘の救助を優先したらしい。

 最近鎮守府へと着任してきたその駆逐艦は、更に命令を無視し続け、仲間の艦娘を救い続けた。

 その度重なる命令違反に提督は腹を立て、その艦娘を鎮守府から追放した。

 また暗澹とした日々が戻ってきた。

 送り出した艦娘が帰ってこない。

 今度は練度の高い艦娘達からいなくなった。

 あの駆逐艦に感化された艦娘達は、我先にと傷ついた艦娘を庇って散っていく。

 この鎮守府には既に近海を守護するだけの力すらもう残っていない。

 派遣されてくるのは訓練校上がりの駆逐艦ばかり。

 工廠の妖精などもう長いこと姿すら見えない。

 もう鹿島は仲間を笑顔で見送ることすら出来なくなっていた。

 ーー『解体』の希望を出そう。

 そう決意した鹿島は、提督の執務室にやってきた。

 入室の許可を求める鹿島の声に提督が応える。

 

 

 

「何の用か知らんが丁度お前を呼ぼうと思っていた所だ。明日、あの忌々しいジジイと対抗演習をすることになった。この鎮守府の未来を賭けた大事な演習だ。負けることは許さん。沈んでも構わんから必ず相手を仕留めろ」

「……は、え?」

(対抗演習?私が?どうして?)

 混乱する鹿島に提督が痺れを切らして怒鳴り付ける。

「今となってはこの鎮守府で最も練度が高いのはお前だ!私だって本当はお前を使いたくなどない。ろくに育てることもできない能無しめ!」

 提督から叩きつけられる言葉の前に、鹿島は解体を希望しようとしていたことなどもはや忘れてしまっていた。

 よろよろと幽鬼のように執務室を退室した鹿島は、自室に戻るとそのまま崩れ落ちるように倒れた。

 

 

 

 翌日、鹿島は提督に連れられ演習場にやって来た。

 そこには、三人の先客が二人を待っていた。

 立派な髭をたくわえた老練な提督と、すらりとした長身に長い黒髪が美しい艦娘。そして、もう一人はかつての命令違反常習者の駆逐艦だった。

「霞……ちゃん?」

 思わず見覚えのあった艦娘の姿に声が漏れる。

 しかし、その姿は鹿島が鍛えていた頃とは全く重ならない。覇気に満ち溢れるその表情に、鹿島は強い違和感を覚える。

 霞は黙って睨み付けるようにしてこちらを見ている。

 その目に何故か後ろめたさを感じて、鹿島は目を逸らした。

 

 

 

 対抗演習は、お互いの艦娘一人ずつを選んでの一騎討ちだ。

 提督はもちろん鹿島を選択した。

(霞ちゃんなら、戦い方も知ってるし……何とか私でも勝てると思う、けどーー)

 あの変わりように少々の不安はあるものの、鹿島はそれほど霞に驚異は感じなかった。

 銀髪のサイドテールを揺らし、少女が前に出る。

(よかったーーこれなら)

 鹿島は無意識に安堵した。その様子に霞が眉をひそめる。

 

 

 

 霞は駆逐艦としては飛び抜けて性能が高いわけではない。

 戦闘センスも、一部の突出した才能を感じさせる駆逐艦に比べれば平凡だ。

 自分に負ける要素は無い筈だ……そう鹿島は自分に言い聞かせた。

 合図と共に二人は同時に動き出す。

 速度で劣る鹿島は、射程距離に勝る。

 中距離より放たれる狙い澄ました砲撃を、霞は速度を活かしギリギリで回避する。

 近距離からしか砲撃することができない霞は、どうにか鹿島の懐に飛び込む必要があった。

 しかし、進行方向を妨げるように砲撃を行う鹿島はそれを許さない。

 お互いに決定打に欠ける攻防が続く。

 鹿島は理解している。霞は基本に忠実だ。恐らく勝負を仕掛けてくるのは、夜戦に切り替わったタイミング。

 駆逐艦の長所を最大限に活かした行動を取ってくると鹿島は読んでいた。

(だったら、私が霞ちゃんに勝つためには……)

 鹿島は牽制を行いながらチャンスを待つ。

 鹿島の脳裏に、縦横無尽に動き回る霞の姿が映し出される。鹿島が飛ばしていた水上偵察機からの映像だ。

 霞が加速しようとするタイミングに合わせ、鼻の先に砲撃を放つ。霞は慌てて急停止し、バランスが崩れた。

「当たって!」

 偵察機からの補助を受け、完璧なタイミングで完璧な精度の射撃を行う。

 避けようのない砲撃に、霞の戦慄が手に取るようにわかった。

 着弾の瞬間ーー霞が爆発した。

 轟音と共に巨大な水柱が上がり、辺りが水飛沫と水蒸気に包まれて何も見えなくなる。

「霞ちゃん!?」

 まさか魚雷に直撃して爆発したのか。

 もうもうと上がり続ける水蒸気に鹿島は動揺を隠せない。

 動揺する鹿島には足元に迫る白い軌跡に気づくことが出来なかった。

 霞は被弾する直前に、鹿島の放った夾叉弾に紛れ込ませる形で魚雷を放っていたのだ。

 直後に爆発ーー鹿島の下にも水柱が立ち上る。

 余りの衝撃に、鹿島は意識を手放した。

 

 

 

 鹿島が目を覚ますと、傍にはボロボロの姿になってしまった霞が座り込んでいた。

 鹿島が目覚めたことに気がついた霞は、

「アンタ達はクビよ。これでもう……泣かなくても済むようになるわ」

 再就職先は用意してあげる。と言って笑った。

 どうやらこの鎮守府は、戦力の著しい低下により海域の守護が困難だと判断され、現在の霞が着任している鎮守府に代わりにここの海域も守護するよう命が下ったらしい。その命を不服に思ったのか、提督は演習で勝った方が鎮守府のトップに立つと言う賭けを持ちかけてきたそうだ。

「私、負けちゃったんですね」

「そうね、何とか勝てて良かったわ」

 実際霞も当たり所が悪ければ鹿島の一撃によって倒れていたことだろう。

 偶々霞の左腕に残った魚雷の一本に命中し派手に爆発を起こしたものの、その衝撃に弾き飛ばされる形で吹き飛んだ霞は、ギリギリ意識を保っていた。

「どうして、こんな短期間であそこまで強くなれたんですか?」

 鹿島は不思議でならない。数ヵ月前まで、鹿島と霞の練度は大きく開いており、万に一つも霞に勝ち目はなかった。

「……私ね、鹿島さん。護りたい人が出来たの」

 この鎮守府に着任していた頃の呼び名だ。

「護りたい人……?」

「そう。あの子がいたから今の私がある。」

 

 

 

「朝霧彼方。私の大切な人。」

 大切なものを抱き締めるような霞のその姿に、鹿島は魅せられる。

 そこに、かつての傷つき涙を堪えていた少女の姿はない。

『朝霧 彼方』とは一体どんな人物なのだろう。

 私もその人に会えば、霞のように強くなれるだろうか。

 鹿島はその人物に強く興味を持った。

 結局鹿島は解体を選ぶことはなかった。

 

 

 

 鹿島は霞と共に樫木提督の設立した訓練校で教鞭をとることになった。

 この訓練校では、昔のように艦娘を悲しみの涙でもって見送ることなどない。充実した教艦生活に、鹿島は満足していた。

 しかしーーある時鹿島は見てしまった。

 校門で霞と仲睦まじく写真を撮っている少年の姿。

 遠目からなのでその顔はよく見ることはできないが、霞の様子からすぐに彼がそうだと直感した。

『朝霧 彼方』

 隣にいる霞の何と幸せそうなことかーー。

 私も彼が欲しい。私も彼の隣に立ちたい。その顔を間近で見せて欲しい。鹿島はそう思わずにはいられなかった。




最後まで読んでくださってありがとうございます!

戦闘描写って難しいですね……。
この先も何戦も控えているし、頑張って考えます……。
矛盾点、ここがおかしいなどありましたらよろしければご指摘下さい。


それでは、また読みに来ていただけると嬉しいです。

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