更新が遅れてしまい、申し訳ありません。
リアルの方でいろいろとあって、執筆作業にあてられる時間を取ることが出来ませんでした。
それでは、今回も少しでもお楽しみ頂けましたら幸いです!
いくつもの光芒が朱に染まる空を切り裂くように、戦場を駆け抜けていく。
大鳳の操る艦載機――その中でも一際素早く空を飛び回っている艦上戦闘機達は、黒い球体のような形をした敵艦載機を追い立てては撃ち堕とし、危なげなく次々と撃墜数を重ねていっていた。
出撃前からその練度の高さに驚いてはいたが、考えていたよりも遥かに強く美しいその勇姿によって大きな自信を得ることが出来た大鳳は、彼女達の働きに応えるために力強く頷いた。
(艦載機の質はこちらが圧倒している。本当に鳳翔さんのお陰だわ。……だけど、そろそろ日が暮れる。私が戦っていられる時間もそう長くはないわね)
完全に夜となってしまえば、艦載機を飛ばすことが難しくなる。
広域殲滅が可能な艦載機が扱えなくなれば、今も水底から湧き出続けている深海棲艦を抑えることが難しくなり、その結果彼方を護ることも出来なくなってしまうだろう。
「だったら……その前に、元凶を絶つまで!」
大鳳は先程建造されたばかりで、なぜ今この鎮守府がこれ程大規模の深海棲艦に襲われているのか、詳細に理解できてはいない。
自分の提督である彼方に対しても、その人となりや提督の能力、資質等もほとんど分からないままに戦場に飛び出してきてしまった。
だが、分からないことばかりの中でも、一つだけ確かだと言えることがあった。
(提督は、私自身のことを本当の意味で必要としてくれていた。自分だけが生き残るためじゃない。
艦娘の命は、人間と比較しても決して軽くはない。
生まれた瞬間から深海棲艦と戦うことを定められているというだけで、艦娘はただ戦場で死ぬために生まれてくるわけではない筈だ。
大鳳の提督は、そう考えていてくれていたように思う。
だから、建造されたばかりの大鳳を出撃させることを躊躇ったのだ。
大鳳を出撃させなければ、彼方自身を含めた大鳳を除いた全員が死ぬことになるとわかっていても、自分の勝手な都合のために呼び寄せた大鳳を犠牲にしてしまう可能性を危惧していた。
艦娘が深海棲艦と戦うのは当然のことだ。
大鳳自身も本能のようなもので、あの深海から這い出てくるおぞましい存在を撃滅するべきだと強く感じている。
そのため、例え仕える提督がどのような人物であろうと、それがどんなに絶望的な状況であろうと、自分は命懸けで深海棲艦と戦っていただろう。
ただ……それと提督を本心から守りたいと思うかどうかは、また別の話なのかもしれない。
提督を深海棲艦を倒すための手段として考えるのか、深海棲艦から人間を――提督を護るために戦うのか、ということには艦娘の士気の観点からいっても、とても大きな差が生まれてくる。
元々は軍艦だった手前、当たり前と言って良いのかは分からないが……艦娘には心があるのだ。
大鳳の提督はそれをきちんと理解した上で、大鳳や仲間の艦娘達と向き合ってくれていたように、大鳳は感じられていた。
出撃前に交わした、そんな彼方との言葉は……今も確かな力を持って、大鳳の中に存在している。
あの言葉があったからこそ、大鳳は彼方を護るために戦場に出ることを心に決めることが出来た。
本来艦娘として与えられた役割である、深海棲艦と戦うことを第一に考えるのではなく、彼方や仲間の艦娘達を護ることを第一に考えて。
自分を必要としてくれた彼方の言葉を信じ、危険を顧みずに仲間を護ろうとしていた彼の行動を信じることにした大鳳は、腰に取り付けていたマガジンをクロスボウにセットする。
出し惜しみはしない、ここで全ての敵を倒すという気概をもって、大鳳は守るべき提督の顔を思い浮かべながら、高らかに告げた。
「ここで一気に決めるわ! 艦載機、全機発艦! 有象無象の深海棲艦達を食らいつくして!!」
大鳳の力ある言葉と共に、クロスボウから放たれた艦載機達が焔を纏って現れる。
その速度は今までよりも更に速く、描く軌道は速度を上げても尚鋭い。
唸りをあげて戦場を駆け抜けた艦載機達は、焔の残滓を撒き散らしながら、蠢く深海棲艦の全てをいとも容易く食らいつくした。
深海棲艦の残骸を包みこむ爆炎で、赤く黒く染められた海が、一瞬で紅一色となって燃え盛る。
その瞳に映る焔の揺らめきは、確かな手応えを大鳳へと伝える。
周囲に展開していた深海棲艦は、その全てが今や炎に包まれ、動いている物は一つとして存在しなかった。
「……さすがにもう増援は、ないみたいね」
ほっと一息ついた大鳳は、改めて周囲を見回してみる。
敵の深海棲艦を撃滅したはいいが、この鎮守府の安全の確保が最も大切な問題であるため、慎重に慎重を重ねても足りないということはないだろう。
そこで……自分の周囲の海の色が、明らかに変化してきていることに気がついた。
(海が、赤から黒へ……!? 海の穢れが更に強まってきているというの?)
びしりと大きな音を立てたかと思うと次の瞬間にはぐしゃりと足の艤装がひしゃげて潰れる。
上体のバランスが崩された大鳳は顔をしかめると、艦載機達に再度攻撃するために指令を飛ばすことにした。
「くっ……敵の旗艦を仕留めれば――」
この早さで艤装の損傷……いや、崩壊が進んでしまうのであれば。
大鳳には、本当にもうあまり時間が残されていないということになる。
いかに駆逐艦や練習巡洋艦よりも厚い装甲を持っていたとしても、この足元に広がる暗闇のようになりつつある海による艤装の損傷が早過ぎるのだ。
ここに来て、大鳳は全身の艤装が急激に錆びついてきているのを感じ取っていた。
ここで勝負を決めなければ、大鳳自身の身が危うくなる。
折角艦娘として生まれてきたというのに、艦の時と同じように初陣で沈むなど、冗談でも笑えやしない。
それに……もしそうなってしまえば、彼方はきっとそれを悲しみ悔やむ。
彼の危惧していたことを現実にしてしまう訳にはいかない。
それは大鳳のプライドが決して許さない。許すわけにはいかないのだ。
(提督は、私が守ります!)
今一度、強い決意を込めて海面を踏みしめることで、大鳳は鎌首をもたげつつあった不安を無理矢理に踏み潰す。
不退転の覚悟をもって、敵の旗艦と対峙する。
全員無事に生きて帰るには、この海を汚染し尽くす化物は絶対にここで倒さなくてはならない敵だ。
「……見えた! あれが、敵の旗艦――」
昏い海の中心に立つのは、白い少女。
左腕は根本から異形と化し、頭部には角が生えている。
かなり人型に近い形をしていることや、目立った艤装も見当たらないことから、明らかに普通の深海棲艦とは異なっている存在であることがわかった。
そして深海棲艦特有の幽鬼のように虚ろな、しかしそれでいて激しい憎悪を滲ませている顔には、見覚えのある顔が貼り付いていた。
「……ふ……吹雪、さん……?」
その顔は、大鳳が先程知り合ったばかりの仲間の顔と瓜二つ。
(なぜ吹雪さんの顔をした深海棲艦が……!? まさか、吹雪さんがこの海の影響を受けていなかったことと何か関係が――)
驚愕からほんの数秒、思考に意識を持っていかれた大鳳の身体が硬直する。
「……消エテ」
「っ……くぅ!」
その一瞬の虚を突かれ、あっという間に距離を詰められてしまった大鳳は、振り上げられた異形の左腕に咄嗟に反応することが出来なかった。
それでもと手にしていたクロスボウを、何とか自分と吹雪の間に滑り込ませる。
万が一にも飛行甲板を破壊されるわけにはいかない。
幸い艦載機は全機発艦中。
ここでクロスボウを破壊されたとしても、
「邪魔ヲ……シナイデ!」
ズドン、と。
凡そ打撃音とは程遠い砲撃音のような音が、振りかぶった勢いもそのままに海面に叩きつけられた左腕から発せられる。
クロスボウなど何の障害にもなるものか。
あまりの衝撃に弾け飛ぶ穢れきった海が、大鳳の全身に振りかかり、身に纏った艤装の悉くを食らい尽くしていく。
「ぅ……ぁあっ!?」
この身を吹き飛ばすには十分過ぎる暴風のような衝撃と、皮膚に
(まさか、この海そのものが敵の艤装のような物なの……!?)
ぐるぐると回る視界の中でも、大鳳は自らの負ったダメージを冷静に分析する。
先の一撃は……あの腕で海面を激しく叩きつけ、発生した水飛沫をぶつけられることによって、ダメージを与えられたのだ。
腕の一撃でも直撃すれば大きなダメージとなるのは必至だが、海そのものを武器として使ってくる相手など、艦娘として生まれたばかりの大鳳でなくとも考えもしないだろう。
(だけど、事実私の艤装と身体はこの海水で大きなダメージを受けている。……海そのものが私の敵に回るだなんて。あの深海棲艦は、正に艦娘の天敵と言えるわね……)
艦娘の天敵――吹雪と同じ顔をした
対して大鳳には最早そのような余裕はどこにもない。
どうにかこの危機を脱しようと、大鳳は必死に考えを巡らせる。
幸いなことに未だ自分は沈んではいない。飛行甲板も一応は健在だ。
既に発艦している艦載機達も多くは生き残ってくれているし、大鳳自身に余力がないわけでもない。
「ま、まだまだ……これからよ!」
まだ少なくとも勝ちの目が残されていることを確認した大鳳は、散々海の上を転がされたものの、どうにか身体を起こして今度は自分の身体の様子を眺めてみた。
すると、飛行甲板以外の艤装はほぼ全滅。
それどころか服にまでもそこかしこに大きく穴が空いて、露出した肌も焼け爛れたようになってしまっているような有り様だった。
(うぅ……生きてるのはいいけど、まさか初陣でここまでボロボロにされてしまうなんて……)
艦娘としての名誉の面でも、年頃の女性としても、あまり彼方には見せられない酷い姿になってしまっていること思うと、戦闘中だというのについ己のふがいなさに悲しくなってきてしまう。
大見得切って戦場に飛び出してきて、この体たらくでは笑い話にもならない。
というか、恥ずかしくて死んでしまいそうだ。
とは言え、今は屈辱や羞恥に耐えている余裕は流石にない。
(それでも直撃は何とか免れたし、相手がこちらに注意を向けてくれている今なら、まだ十分に勝機はある……!)
想定外に大きなダメージを負ってしまったが、それでも諦めることなく反撃の糸口を探していた大鳳は、視界の片隅にちらりと映った影に気がつくと、ほんの僅かに微笑んだ。
その影とは、鳳翔が手塩に懸けて育て上げてくれていた、艦載機達の姿。
敵旗艦に気づかれることのない絶妙な間合いを維持しながら、その死角に回り込んでくれていた。
彼女達は大鳳の指示もなしに独自の判断で、例え仮初めの主であろうとも関係なく、大鳳を守るために最適の行動を取ってくれていたのだ。
「………………」
息を潜めた大鳳が視界を艦載機からの物へと切り替えると、脳裏には動かない大鳳のことを見て不思議そうに首を傾げている敵旗艦の小さな後ろ姿が映し出された。
油断しているのか戦い慣れていないのか、まだ大鳳が生きているというのにとどめを刺そうと動きだす気配がない。
艦載機の位置取りは完璧だ。今更反応したところで、もう回避は不可能な場所にまで迫っている。
相手は吹雪と同じ顔の深海棲艦だ。ということは恐らく駆逐艦だろう。
おまけに艤装という艤装もほとんど装備していない。
つまり一撃与えさえすれば、こちらの勝利は揺るぎないものとなる可能性が高い。
「……ッ!?」
「遅いわ、これで終わりよ!」
高高度から全力で加速し、稲妻のように爆撃機が急降下を開始する。
しかし唸りをあげて迫る脅威に気がついた筈なのに、敵は見上げることすらせず、それどころかピクリとも動かない。
吹雪の表情を伺えば、驚いているのは間違いない。
間違いなく、奇襲には成功している。
だというのに、彼女はこちらを全く見ていなかった。
かの深海棲艦の瞳に映っていたのは――
「――カナタ、クン……?」
熱に浮かされたように瞳を濡らす、深海棲艦の姿。
口から溢れだしたのは、歓喜か、熱情か。
それとももっと別の何かか。
大鳳はその瞳が見せる、深海棲艦とは思えない複雑な感情を滲ませた色に魅せられた。
「――っ!?」
しまったと思った直後に、爆発。
ギリギリまで爆弾の投下指示を待っていた艦上爆撃機により投下された爆弾が、敵の旗艦の目前で爆炎を巻き起こしていた。
つまり、千載一遇の機を見事に逃してしまったということだ。
これでもう奇襲は通用しないだろう。
大鳳は自分の愚かさを呪いながら、巻き上がる黒煙が薄れていくのをただ眺めていることしか出来なかった。
「カナタ、クン……アァ……カナタクン……!」
「――うん……おかえり。吹雪」
「そんなっ、提督!? 何故海に――」
この場では絶対にあり得ない筈の声が、項垂れた大鳳の
通信機越しではない。大鳳の提督である彼方自らが小型の舟艇に乗り込み、戦場に現れたのだ。
正気の沙汰とは思えない、自殺行為としか思えない行動に、大鳳は頭が真っ白になりながらも今すぐここから逃げるよう
諭そうとする。
しかし――
「仲間が、還ってきたから。……僕は、彼女を出迎えなくちゃいけないんだ」
日課だからね。そんな軽い言葉を繋げた彼方は、ゆっくりと大鳳の隣へと進み出てきた。
「仲間……!? 提督、あれは深海棲艦です! 私達の敵……いえ、確かに吹雪さんと同じ顔をしていますが……仲間だなんて、そんなの絶対にあり得ません!」
必死に食い下がって彼方を止めようとする大鳳だったが、とうとう足下の艤装が崩れ去り、片足が海中へと引き込まれる。
唐突な浮遊感と、足首から先に伝わる穢れた海による焼けるような痛み。
自分が沈む。否、沈んでいるという実感と、目の前にいる提督を守ることが出来なかったという無力感が、大鳳のまだ幼さの残る相貌を悲痛に歪めていく。
「大鳳、手を!」
絶望に埋め尽くされかけていた自身の前に差し伸べられた大きな手を、大鳳は無意識ながらも強く掴んだ。
そのまま海底から引き揚げられるように、視界が彼方の乗り込んでいた舟艇の上へと引き揚げられていく。
「て、提督……」
大鳳は自分が彼方に助けられたということを理解したと同時に、助けられなければ自分が間違いなく沈んでいたということに思い至り、やるせない気持ちでいっぱいになった。
例えあの深海棲艦を倒せていたとしても、彼方がいなければ大鳳自身も沈んでしまっていた可能性が高いからだ。
大鳳が沈んでしまえば、彼方は悲しむ。
それでは、意味がないのだ。
「大鳳。僕達を守ってくれて、ありがとう」
ふわりと、大鳳の肩に彼方の着ていた軍服がかけられる。
そこで初めて、今の自分があられもない格好をしていたことを思い出した大鳳は、慌てて彼方を見上げた。
「……本当に、吹雪なんだね」
ところが、彼方は既に大鳳から意識をあの深海棲艦へと移していたようだった。
少し寂しいような気持ちを抱えてはいたが、現状船の上に引き揚げられた大鳳は、既に戦力の一つと数えられることは難しい。
もう大鳳はことの成り行きをただ静かに見守る以外に、出来ることはなくなってしまっていた。
「彼方くん。……危ないと思ったら、例えあの深海棲艦が本当に吹雪ちゃんだったとしても、私は躊躇わずに撃ちますから」
「僕もだよ、彼方。それに、吹雪はここにいる」
「え、えっとえっと……あの……」
ようやく少し冷静になることが出来て辺りを見回してみれば、彼方と大鳳が乗り込んでいる小型舟艇を守るように、仲間の艦娘達が周囲に展開している。
それぞれの浮かべる表情は様々だ。
しかし、三人ともが彼方の身を第一に案じているのであろうことは見てとれた。
やはり彼女達も、完全に納得した上でこのような状況になっているというわけではないのだろう。
「フ、ブキ……? チガウ、ワタシハ――」
彼方の言葉を受けた深海棲艦が頭を押さえて苦しみ出すのと、海中から何かが飛び出してくるのはほぼ同時だった。
「彼方くん、伏せて下さい!」
舟艇の前方に立っていた鹿島が叫びながら砲撃を開始する。
時雨や吹雪もそれに遅れることなく、海中から飛び出てきた何かに狙いを定めて砲撃していた。
「カスミ、時間切レ! 退クヨ!」
「ッ! ………………ワカッタワ」
海から現れた浮遊要塞のような三つの砲台は、事も無げに鹿島達の砲弾を弾き飛ばし、新たに現れた深海棲艦の周囲に展開する。
表情を苦悶の色に染め上げた吹雪と同じ顔の深海棲艦は、頷くとこちらに背を向けて海の中へと潜っていく。
「霞……だって? 一体どうして……」
呆然とその後ろ姿を眺めている彼方を鋭く見つめる、新手の深海棲艦の瞳の剣呑さに、その視線を遮るように鹿島達が立ち塞がった。
「……フン。ソンナ気味ノ悪イ
吐き捨てるように彼方から視線を外した新手の深海棲艦は、そのまま海へと姿を消した。
仲間の深海棲艦だったようだ。
一隻でも大きな脅威であったあの深海棲艦と同格、いやこれ以上に強力である可能性もある新手の深海棲艦。
気が滅入るとはこのことだ。
「化物……僕が?」
事態を動かした張本人である彼方ですらついていけない目まぐるしい出来事に、彼方は命の危機であることも忘れた様子で首を傾げている。
無理もないと思うと同時に、ほんの少しその間の抜けたその表情に、大鳳の口元には笑みが溢れた。
「彼方くん、海が!」
「元通りに……! どうやら本当に敵は撤退したと見て良さそうだね」
「う、うぅ……良かったよぉ」
三人の言葉通りに、海が平時の色へと戻っていく。
あれほどまでの穢れが嘘だったかのように消え去っていく。
大鳳は、無事……ではないかもしれないが、どうにか初陣を生きて還ることが出来たらしい。
彼方の思い描いた通り、全員が無事に生還を果たしたのだ。
「………………うん。皆、お疲れ様。還ろう、僕達の家に」
何かを自分の内に飲み込むような仕草をした彼方は、その一瞬見せた悲哀のような表情を優しげな微笑みに変えた。
その視線の先には……戦闘の影響で破壊されてしまった箇所もあるものの、皆で力を合わせることで何とか守りきることが出来た、大鳳達の大切な居場所がある。
「はいっ!」
大鳳は初めて役目を果たして家に帰ることが出来るという歓びに打ち震え、頷く。
「……提督」
「うん? どうしたの、大鳳。……大丈夫、傷が痛む?」
思わず話しかけてしまった大鳳を心配してくれたのか、彼方が大鳳の顔を覗きこんできた。
「あ、いえっ! あの……私を、この鎮守府に呼んでくださって、ありがとうございました」
ぺこりとお辞儀をして、その感謝を示す。
色々と戸惑うことは多かったが、彼は本当に艦娘のためを思って生きてくれている提督だ。
それだけでこれほどまでに恵まれた艦娘は、そう多くはないだろう。
「……私、貴方に出逢えて……良かったです」
上気した頬を朱に染めて、それだけをどうにか伝えた大鳳に、にこりと柔らかな微笑みで応えた彼方は――
「僕も、君がここに来てくれて……生きていてくれて良かった」
と、心から安心させられる声でそう言ったのだった。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました!
これで当分は日常パートに戻ることができそうです。
そして、終章へと向かっていきます。
しばらくの間は不定期更新になってしまうかもしれませんが、また読みに来てくださいましたら嬉しいです。