艦隊これくしょん ー夕霞たなびく水平線ー   作:柊ゆう

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いつも読みに来てくださいまして、ありがとうございます!

今回から第二章となります。
これからもよろしくお願いします!

それでは、少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。


第二章 新人提督
教艦の教艦


 数日間かけて、彼方達はこれから生活していくことになる鎮守府へと辿り着いた。

 

 

 

 彼方達が通っていた訓練校は、元々鎮守府だった場所を改築して作られていたがかなりの広さだった。

 しかし、漸く見えてきたこれから生活することになる鎮守府は、それと比べてしまうと大分こぢんまりとしている。

 外観も薄汚れていて、久しく人が使っていないようにも見えた。

 

 

 

 正門を抜け、敷地内へと入ると、鎮守府の建屋の脇に小さな花壇が目に入った。

 こちらは建屋の外観とは打って変わって美しい色とりどりの花が咲いている。

 大切に世話をされていたのだろう、遠目から見ても花が生き生きとしているのがよくわかった。

 

 

 

 そこに、一人の少女が花と会話するようににこにこしながらしゃがみこんでいた。

 

 

 

「あれって……もしかして……!?」

 霞がその姿を目にした途端彼方の後ろに隠れる。

 

 

 

 少女は彼方達の気配に気がついたのか、立ち上がると駆け足でこちらへ近づいてきた。

 

 

 

「ようこそおいでくださいました、朝霧提督。お待ちいたしておりました。川内型二番艦 軽巡洋艦 神通、これより朝霧提督の鎮守府に着任します。どうぞ、これからよろしくお願いします」

 ぺこりと丁寧にお辞儀して、少女ーー神通が挨拶してくれた。

 

 

 

「はい!朝霧 彼方です。これからよろしくお願いします、神通さん!」

 彼方が提督となってから初めて接する艦娘だ。自然と力が入り、元気よく挨拶を返す。

 

 

 

「ーーーっ……ぁ、は、はい。……えっと、あの……私のことは神通、と呼び捨てにしていただいて構いませんので。これからよろしくお願いします、提督」

 神通は彼方の『挨拶』にかなり動揺していたようだったが、なんとか持ち直し平静を取り戻すことが出来たようだった。

 

 

 

「「………………」」

 

 

 

 ーーが、やはりまだ戸惑っているのか、神通が黙って彼方を惚けるように見つめている。

 

 

 

 

「ーー神通さんだったんですね、お久しぶりです。これは頼もしい方が来てくださいましたね!ね?霞ちゃん」

 鹿島がそれを見かねて助け船を出してくれた。

 神通ににこやかに挨拶し、先程から彼方の陰に隠れている霞に話を振る。

 

 

 

「えっあっ……そうね、頼もしいわ!うん!」

 

 

 

 が、やはり霞は彼方の陰から出てこない。

「霞、どうしたの?」

「な、なんでもないわ!」

 明らかに様子のおかしい霞に彼方が首をかしげているとーー

 

 

 

「霞ちゃん、お久しぶりです。教艦のお役目、立派に勤めあげられたみたいですね」

「は、はい!神通さん!ありがとうございます!」

 優しく微笑みかけて霞に話しかける神通に、しかし霞はガチガチに固まって答えている。

 

 

 

「あの、鹿島……霞はどうしてこんな状態になっちゃってるの?神通さん、優しそうだけど?」

 不思議に思った彼方は、隣にいた鹿島に聞いてみた。

 

 

 

「神通さんは、元々は訓練校創立者の樫木 重光提督の艦娘です。霞ちゃんより後に着任されたそうなんですが、そのたぐいまれな戦闘センスから、霞ちゃんの教練を担当されてた方なんですよ。訓練や実戦でビシバシしごかれて、霞ちゃんはちょっと苦手意識があるみたいですね」

 苦笑を浮かべて説明する鹿島に、今まで黙って成り行きを見守っていた吹雪達が反応した。

 

 

 

「はじめまして!吹雪型一番艦 駆逐艦 吹雪です!」

「同じく白露型二番艦 駆逐艦 時雨です」

「……綾波型十番艦 駆逐艦 潮、です」

 

 

 

「「「これからよろしくお願いします!」」」

 

 

 

 見事な敬礼だ。

 三人の緊張がありありと見てとれた。

 神通は謂わばあの鬼教艦と呼ばれた霞の教艦だ。

 霞の反応から何かを感じとった吹雪達は、即座に姿勢を正して挨拶したのだった。

 

 

 

「あ……そんなに緊張なさらないで下さい。これから共に戦う仲間なんですから。霞ちゃんも、そんなに固くならないで?」

 困った顔で笑う神通に、吹雪達も自然と肩の力を抜くことが出来た。

 霞もようやく、彼方の後ろから出てきて神通の前へと進み出た。

 

 

 

「じ、神通さん。これからよろしくお願いします!」

 こちらも見事な敬礼。

 しかし、先程よりは幾分か緊張も和らいだようだった。

 

 

 

 ーー挨拶も済んだところで、神通が鎮守府の中を案内してくれることになった。

 

 

 

 鎮守府には、主に三つの施設がある。

 

 

 

「ここが、提督の執務室や食堂、各自が寝起きする私室がある施設になります。外観はまだまだ手が回らなくて汚れてしまっていますが、中の方はお掃除もしておいたので、問題なく生活できると思います」

 普段は彼方達はここで寝起きし、寝食を共に過ごすことになる。

 そして艦隊指令施設がある彼方の職場だ。

 ここから出撃する艦娘に指示をだし、指揮を執る。

 

 

 

 食堂は、やはり建屋の規模に合わせて訓練校のものよりも大分狭い。

 しかし、それでも二十人近くは入れそうな広さだった。

 

 

 

「そういえば……食事って誰が用意しようか?当番制かな?」

 彼方がふと気になったことを口に出す。

 どうやらこの鎮守府には彼方達しかいないようだ。

 訓練校にも提督候補生と艦娘しかいなかった。

 艤装を展開した艦娘や妖精を民間人の目に触れさせたくないというのもあるし、深海棲艦を目の当たりにしてしまう可能性もあるからだろう。

 

 

 

 そのため訓練校には伊良湖がいて、皆の面倒を見てくれていたのだが……。

 

 

 

「私に任せなさい!」

 ぽん、と控えめな胸を叩いて、みなぎる自信を表現する霞が答える。

 考えてみれば、彼方は霞の手料理をまだ一度も食べたことがなかった。

 

 

 

 その自信に彼方達は今日の夕食を霞に任せることにした。

 今日からはほぼ毎日霞の手料理が食べられる。

 期待に胸が膨らむ話だ。彼方は夕食を楽しみにすることにした。

 

 

 

 次は各自の私室だ。

 こちらは訓練校の寮の部屋と殆ど変わらない。

 荷物は既に廊下に運び込まれており、各自が『好きな部屋』を選んで良いとのことだった。

 

 

 

 ……彼方は嫌な予感から逃げるように、神通に次の建屋への案内をお願いした。

 

 

 

「こちらが工廠になります。主に艦娘の建造、装備の開発を行う施設ですね。ちょうど先日妖精を見かけましたので、提督が着任されたことで工廠が動き出すと思います。」

 神通に工廠の中を案内されていくと、建造ドックの前を妖精がぶらぶらと歩き回っているのが見えた。暇そうだ。

 

 

 

「妖精かぁ……訓練校ではほとんど見かけなかったな……」

 物珍しげに妖精を見る彼方の視線に気がついたのか、妖精が彼方の方に振り向いた。

 

 

 

「~~~!」

 何事かを叫んだように見えたが、叫んだ途端に建造ドックに走っていってしまったため、彼方には妖精が何を言いたかったのか全くわからなかった。

 

 

 

 ーーガシャン!

 

 

 

 彼方が妖精を見送った直後、建造ドックに備え付けられたタイマーが動き出した。

「ーーやはり動き出しましたね。おめでとうございます、提督。もう一隻、仲間が増えますよ」

 神通の話通り、彼方が鎮守府に着任したことで建造が始まったらしい。

 建造とは、妖精が独断で必要なタイミングで、必要な鎮守府に、必要な艦娘を建造するというものだ。

 つまり、完全に妖精任せということになる。

 多くの謎を持つこの正体不明の存在ーー妖精は、提督や艦娘とは切っても切れない関係にある。

 妖精に認められるというのは、提督にとっては大切なことだ。

 

 

 

「今日の夜には建造が終了しそうですね。資材も備蓄されていた物で足りますし、案内を続けます」

 神通はそう言うと、工廠の一角へと歩みを進めた。

 

 

 

「こちらは装備開発室です。提督と艦娘がペアになって、装備を開発するんですよ。……やってみますか?」

 神通は説明しながら、開発室の扉を開けた。

 彼方は訓練校では開発室に入ったことはない。

 夕張が管理していたそこは、生徒の利用を禁止されていたからだ。

 

 

 

「ーー私、やってみたいです!」

 吹雪が元気よく名乗りをあげた。

 

 

 

 ーー必要な資材をボックスに入れて、妖精に開発資材を手渡す。

 後は二人で開始ボタンを押すだけだ。

 

 

 

「行くよ、彼方君!」

「よし、吹雪……せーのっ」

 

 

 

「えい!」

 

 

 

 光輝くボックスのなかにはーー

 

 

 

「なにこれぇ……」

 訳のわからない物体が入っていた。

 

 

 

 ……ペンギン?

 

 

 

 

 

「ーー最後はこちらです。こちらは入渠ドックです。艦娘の普段使い用のお風呂や、提督用のお風呂も隣接されてますよ。なんと露天風呂です。鎮守府に設置されているのはかなり珍しいみたいですよ」

 執務室等かある建屋から渡り廊下を歩いてすぐの場所に、入浴施設があった。

 露天風呂なんていつぶりだろうか……最前線だと言うのに、意外と暢気なものである。

 

 

 

 

 

 神通に鎮守府内を案内してもらった彼方達は、食堂で霞の夕食を待っていた。

 何やら厨房で慌ただしく動き回っていたが、先程からは静かに何かをやっているようだ。

 

 

 

 そうして、待つこと十分ほどーー

 

 

 

「さぁ、出来たわよ!皆沢山食べて、力をつけなさい!」

 

 

 

 霞が大量のおにぎりを持ってきた。

 

 

 

「せ、戦闘糧食……」

 

 

 

 艦娘達が引いている。

 確かに海上で食べれば士気も上がる素晴らしい物だが、これから先普段からこればかりというのは……

 

 

 

「何よ、アンタ達?……えっ……おにぎり、美味しいわよね……彼方?」

 艦娘達の反応に戸惑う霞は、助けを求めるような目で彼方を見る。

 

 

 

「うん、凄く美味しいよ!霞!」

 彼方は霞が作ってくれる物なら何でも好物だ。

 霞の小さな手で一生懸命握られたおにぎりは、ただのおにぎりとはひと味もふた味も違う。

 至福の時と言えた。

 

 

 

 その彼方の様子をみて、他の艦娘達もおにぎりを手に取り食べ始める。

 確かに美味しい。

 元気もでる。

 しかし、やはり毎日というのは……。

 

 

 

 食べ終わった艦娘達は、お茶を飲んでまったりしつつも、明日以降の食事に関してどうするべきかに思いを馳せていた。

 彼方は楽しげに霞と二人で後片付けをしている。

 

 

 

「ーーあ……提督、そろそろ建造が完了する時間です。工廠に迎えに行きましょう」

 神通の声に、彼方は厨房から出てきた。

「うん。ありがとう、神通。皆、新しい仲間を迎えに行こう」

 

 

 

 

 

 ーーガシャン!

 タイマーがゼロになる。

 建造ドックの扉が開くと、そこにはーー

 

 

 

 和服姿の美しい女性が立っていた。

 

 

 

「ーー航空母艦、鳳翔です。不束者ですが、よろしくお願い致します」




ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました!

というわけで、彼方の艦隊に二人艦娘が増えました。
上手く全員かわいく書いてあげられるか不安で仕方ありませんが……頑張りますので、また読みに来ていただけましたら嬉しいです!



お伝えが遅れてしまいましたが、以前行っておりましたアンケートにて、先詠む人@卒業検定がやっと終わった さんに神通の登場をリクエストしていただきました!
ありがとうございました!

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