今回で一章は終了となります。
ここまで書いてこれたのも、皆様のお陰です!
本当にありがとうございます!
それでは、少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。
彼方の潮達に対する接し方が少しずつ変化し、彼方争奪戦も日々激しさを増していった。
日毎代わる代わるあの手この手で攻め寄る潮達に、疲れ果てた彼方を癒す霞と鹿島。
その目まぐるしい日常も、彼方達にとっては非常に大切な日々だった。
ーーそれから数ヵ月。
とうとう彼方が提督となる日がやってきた。
彼方は草薙提督の艦娘を破った事もあり、無事に訓練校を卒業することができた。
もちろん吹雪達や霞、鹿島も一緒だ。
彼方は無事、霞と交わした約束を果たした。
「彼方くん。まずは、卒業おめでとう」
卒業式の後、彼方は楓に呼び出されていた。
「はい、ありがとうございます。楓さん……今まで本当にお世話になりました!」
彼方は勢いよく頭を下げる。
楓には本当にお世話になりっぱなしだったのだ。
彼方が提督になるまで霞や鹿島を守っていてくれたのは楓だ。
他にも返しきれないほどの恩が、楓にはある。
恐らく一生頭は上がらないだろう。
「いいのよ。お爺様から言われていたし、霞ちゃんや鹿島を幸せにしてくれるのなら私も嬉しいわ。まぁ……五股は正直どうかと思うけど。本人達がそれで納得しているなら、私がとやかく言えることじゃないしね」
ブスリと刃物で彼方の心を突き刺してくる。
楓はキツイ性格をしてはいるが、心根は優しい女性だ。
純粋に同じ女性として霞達のことを心配しているのだろう。
しかし、もうクズだろうと何だろうと構わない。
もう決めたのだ。彼方の艦娘は皆彼方のものだ。
生き死に含めて全て彼方の物にする覚悟はできている。
彼女達を幸せにできるのは彼方しかいない。
潮達や鹿島の想いにどこまで応えられるのかは今後も考えていかなければならないが、一応はそれも含めて彼方は彼女達を自分の物とするつもりでいた。
「ーーとにかく、これで私は貴方の後見人ではなくなるわ。これからは共に戦う仲間として、宜しくお願いするわね」
彼方は、差し出された楓の手を握り返す。
「はい、よろしくお願いします!」
これで彼方は一人の提督だ。
階級に差はあれど、深海棲艦と戦う仲間として……彼方もこれからこの海を守る一員となる。
「……さて、それじゃあ彼方くん。配属先の話なんだけど」
配属先ーー新人提督はまずは深海棲艦が少ない海域から徐々に艦隊の練度や戦力を増強していくのだったか。
「貴方にはまず私の直属の部下として『西方海域』の解放を行ってもらうわ。ーー今は私の艦隊が深海棲艦を押し止めている状態だけど、そろそろ本格的に海域の解放を考えているのよ」
楓が地図上のある一帯を指で示す。
ここからはかなり遠い場所だ。
楓が護っている海域は広い。
ここで訓練校の校長を勤めながら、提督時代に解放した海域を、今も現役の艦娘達と守護しているのだ。
……つまりは、最前線ということだ。
「ーーとはいえ、今の貴方の戦力では少し心もとないのも事実。そこで私の艦娘から一人、貴方の鎮守府に着任させるわ。現地にいるから合流して頂戴。そして、貴方が着任する予定の鎮守府の工廠で妖精が確認されているわ。恐らく貴方が現地に到着すれば建造が始まる。戦力としてはそれで足りるはずよ」
彼方は楓の言葉に黙って頷くしかない。
楽な戦争などありはしない。
例え最前線といえど、楓は彼方にならできると思っているから任せてくれようとしているのだ。
その期待に応え、彼方の仲間を守るのが彼方の役目だ。
「ーーふふ、頼もしくなったわね。正直もっと狼狽えるかと思っていたけど、覚悟は決まっているようね。お爺様と同じように、私も貴方には期待しているの。
楓の敬礼に彼方も応える。
とうとう実戦が始まるのか。
正直怖くないと言えば嘘になるが……彼方には霞達がついていてくれている。
そう思うだけで十分に力がもらえた。
「西方海域とは……楓もやってくれるわね。ーーでも、私達には確かに一番良い配置かも知れないわ」
彼方は、校長室を退室後、教艦室で霞達に楓からの命令内容を説明した。
霞が彼方の話を聞いて、始めは考え込むような素振りを見せていたが、納得したように頷く。
「ーーそうですね、私達を前線に配置しようとした場合、西方海域以外の海域は、深海中枢海域が比較的近い海域になります。流石にそこを任せるのはリスクが大きすぎると判断されたのでしょう」
鹿島もまた霞と同じ考えのようだ。
やはりこの二人が一緒に来てくれるというのは、非常に心強い。
ーー深海中枢海域とは、文字通り深海棲艦の本拠地と言われている場所だ。
現在はまだ誰も到達したことがない未知の海域。
ここを叩くのが人類の最終的な目標となっている。
この海域の周辺の海域は強力な深海棲艦も多く、深海棲艦による大規模な侵攻も行われることがある危険な海域だ。
その辺りはまだ彼方達には危険すぎると判断したのだろう。
「出発は来月頭か、あと一週間もないわね……」
「一度、彼方くんのお母様に皆でご挨拶にいかないとですね」
霞と鹿島は、出発前に彼方の鎮守府のメンバー全員で千歳に挨拶しに行くことを提案した。
確かに彼方も千歳と会うのは数ヵ月ぶりだ。
鎮守府に着任してしまえば、次に会えるのもいつになるかわからない。
彼方は霞達の提案を受け、実家に顔を見せに行くことにした。
「ーーいらっしゃい、皆さん。彼方も、お帰りなさい」
千歳に出発までに都合のよい日程を確認した彼方達は、全員で彼方の実家へとやって来た。
「は、はじめまして!吹雪型一番艦 駆逐艦 吹雪といいます!か、か、彼方君にはいつも優しくしてもらってますぅ!」
居間へと通され、席につくと早速ガチガチに緊張した吹雪がまず挨拶する。
「僕は白露型二番艦 駆逐艦 時雨と言います。はじめまして……」
続いて赤い顔でぷるぷるしながらも、いつも通りに頑張ろうとしている時雨。段々と下を向いて、最後には蚊の鳴くような声の挨拶だった。
「……あ、綾波型十番艦 駆逐艦 潮と申します。……あの……は、はじめ、まして」
最後の潮は吃りながらも何とか挨拶ができてほっとしているようだ。
「吹雪ちゃんに時雨ちゃんに潮ちゃんね!いつも彼方を助けてくれて本当にありがとうございます」
千歳は吹雪達に深く頭を下げるとにっこりと笑いかけた。
ーー吹雪達は、彼方と出逢ってからこれまでの話を千歳に聞かせた。
特に演習での彼方については、やれかっこ良かっただの優しかっただのと先程までの緊張ぶりは嘘のように興奮気味に語っていた。
「ーーそう。こんなに皆に慕ってもらえて、彼方は本当に幸せね」
にこにこと話を聞いていた千歳だったが、彼方の方へ向き直るとぴたりと動きを止めた。
「お父さんもね、彼方ーー鎮守府の皆にこの目で見られてたわ」
背筋が凍った。
「……しっかり皆のことを考えて、最後にはきちんと答えを出すのよ?」
千歳の放つプレッシャーに身動きが取れなくなっている彼方を見て肩を竦めると、最後にはまた心配そうな母親の顔に戻って、千歳はそう締め括った。
頷く彼方に千歳も頷き返すと、今度は霞と鹿島の方へ向き直った。
「貴女達が着いていってくれるのは、本当に心強いわ。ーー彼方は詰めが甘いところがあるから、しっかりフォローお願いね?」
「「任せてください、千歳さん!」」
千歳の言葉に、元気よく答える教艦二人。
いや、これからは秘書艦と補佐艦か。
……あれ?
「そういえば……秘書艦は誰が務めるの?やっぱり霞ちゃんかしら?」
「はい、私です!昔からの約束ですから!」
「はい、彼方君の艦隊の旗艦は私、吹雪です!」
千歳の声に重なり合う二つの声。
そうだった。この問題は未だ解決していない問題だった。
「ーーうん、いや……ごめん。話し合おう、二人とも」
その問題は訓練校に帰ってきてからも揉めに揉め、結局は第一艦隊の旗艦はやはりその圧倒的な練度の高さから、霞に務めてもらうことになった。
吹雪は将来第二艦隊が作れるようになったら旗艦にするということで、とりあえず納得してもらった。
因みに日替わりの彼方独占日は、鎮守府に着任してからも継続していくらしい。
彼方の現在の第一艦隊はーー
旗艦 朝潮型十番艦 駆逐艦 霞改二
吹雪型一番艦 駆逐艦 吹雪
綾波型十番艦 駆逐艦 潮
白露型二番艦 駆逐艦 時雨
の四隻に、補佐艦の練習巡洋艦 鹿島改だ。
これより彼方達は深海棲艦が蔓延る戦場へと旅立つ。
彼方の果たすべき約束はこれからが本番だ。
亡き父のように志半ばで倒れるわけにはいかない。
何がなんでも皆で生きて、またこの街へと帰ってこよう。
彼方達はそう固く誓い合って、戦場へと旅立ったのだった。
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました!
というわけで、これから漸く彼方が提督として動き出します。
新艦娘も登場いたしますので、また読みに来ていただけましたら嬉しいです!
活動報告にて実施させていただいておりましたアンケートは、これにて締め切りとさせていただきます。
お答えいただきました皆様、本当にありがとうございました!