鹿島の告白編、書きたいことが多すぎて一話にまとめきれませんでした……。
それでは、少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。
霞が彼方に告白して付き合い出すようになってから、霞の機嫌は果てしなく上機嫌だ。
生徒が何をしていようともーー
「若さってのは、大事よね!元気がなきゃ何もできないもの!」
ーー完全に色ボケと化していた。
それまでの鬼教艦っぷりは完全になりを潜め、今ではクラスのマスコット扱いだ。
威厳もへったくれもあったものではない。
表だって彼方とベタベタしているのは吹雪達三人だけで、霞は一応今まで通りとはいかないまでも、教艦と生徒の距離を保っている。
しかし、いざ教艦室に帰ってくればーー
今日の彼方はどうだったからかっこよかっただのーー昨日の彼方はこうだったから可愛かっただのーーそんな話ばっかりだ。
もはや羨ましさより呆れの方が先に立つというものだ。
鹿島は未だ彼方に想いが伝えられていない。
そのため、彼方独占日からは外されているのが現状だ。
吹雪達三人は、校内でも生徒という立場を振りかざしてお構いなしにベタベタベタベタしているし、霞は休日まで待てないのか、夜な夜なこそこそと部屋から抜け出して彼方に会いに行っているのを見かけたことさえある。
ーー正直な話心が折れそうだ。
あんな中に割って入っていけというのか。
かといって、簡単に彼方を諦めることなんて出来る気もしない。
鹿島をあの暗い場所から引き上げてくれたのは、彼方なのだ。
あの時の彼方との写真は今でも鹿島の一番の宝物だ。
あの時、朝霧彼方という男の子の隣で心から笑える日常を過ごしたいと思った。
鹿島の気持ち全てを彼方に知って欲しいと思ったのだ。
「……ねぇ、鹿島。貴女、本当に彼方のこと好きなの?」
不意に、教艦室の隣の席に座る霞に声をかけられた。
「ーー好きですよ!私だって、皆さんに負けないくらい彼方くんのことが好きです。……でもーー」
どうしても、彼方と二人きりで話がしたいと誘うことが出来なかった。
彼方はあの時の鹿島の行動をそれほど気にしていた様子は見受けられないが、鹿島はそうはいかない。
(どんな顔で彼方くんに会えばいいのかわからない……)
鹿島は最近ずっとそのことで悩んでいて、いい加減どうすればいいのかどうしたいのか、自分でもわからなくなってしまっていた。
霞はその様子を見かねて、鹿島に助け船を出すことにした。
「今度の休日、彼方と二人でゆっくり話してみなさい。そこでどうにか気持ちを伝えなさい。このままじゃ、鎮守府に行ってからまともに働くことも出来ないわよ?」
確かにその通りだ。
鹿島は出撃する霞達とは違い、常に鎮守府内で彼方を補佐する補佐艦という役割を担う予定だ。
つまり彼方とのコミュニケーションを避けることは不可能。
恥ずかしいだの何だの言っていられる場合ではないのだ。
確かにこれ以上ずるずる先伸ばしにしても想いを伝えるのが難しくなる一方だ。
(霞ちゃんが折角作ってくれたチャンス……。ーーうん、彼方くんに好きだって伝えよう……)
今度の休日ーー
「ーーってそれ明日じゃないですか!?そんないきなり無理ですよ!」
「前もって言っても土壇場で同じこと言うでしょ。彼方にはもう言ってあるから」
必死に抗議するが、もう霞にとっては決定事項のようで、全く耳を貸す気がない。
鹿島は覚悟を決めざるを得なかった。
「……わかりました。ーーあの……ありがとうございます、霞ちゃん」
本当は彼方との時間を奪う存在である自分は、霞にとっては邪魔な存在だろう。
それなのに、こうして鹿島に世話を焼いてくれた。
ーーやっぱり霞は変わらない。初めて会ったときから、ずっと優しい子だった。
「いいの!私達、これから家族になるんだもの。これくらいのお膳立ては『今回に限り特別に』やってあげるわ」
先駆者の余裕を見せつつ、霞は鹿島にエールを送る。
(家族……かーー)
彼方が作ってくれた鹿島の新しい居場所。
彼方には本当に感謝してもしたりない。
叶うなら霞達と同じように、鹿島も彼方の隣に寄り添いたいと思うのだった。
彼方と二人で過ごす予定の休日の朝。
緊張して予定よりかなり早く目が覚めてしまった鹿島は、今出来る最大限のお洒落をして彼方の部屋へと向かった。
今日はあの時と違って、メイクも派手ではなく余り目立たないように、服装もブラウスにロングスカートという清楚な上流階級のお嬢様といった出で立ちだ。
本来の鹿島はこのような服装を好んでいた。
「大丈夫かな……彼方くんに変に思われないかな……」
ちらちらと、窓に映る自分の姿を確認しながら、鹿島はあの時とは全く違う装いで、あの時と同じように彼方の部屋へとやって来た。
「ーー彼方くん……あの、起きてますか?」
ノックをしても返事はない。
これもあの時と同じ。
まぁ、まだ起きるには少し早い時間だ。
鹿島も寝ていてくれていることを祈ってここまでやって来た。
まだ彼方が寝ていることを確認し、鹿島はゆっくりと静かに部屋へと忍び込んだ。
あの時、鹿島は彼方を見ていたようで見ていなかった。
こうして部屋へと忍び込んだ時も、鹿島は彼方の寝顔をよく見ていた筈なのに全く覚えていない。
それが鹿島にはとても心残りだったのだ。
だからまだ早朝であるのに彼方の部屋へとやって来て、寝ていることを確認して部屋の中にこっそりと侵入したのだった。
今目の前で静かに寝息をたてている彼方の顔は、子供みたいで可愛らしいーー本当に愛おしく感じる。
どうしてこの顔を覚えていなかったのかーー過去の自分がどれだけ愚かだったのか、今はこの彼方にどれだけ救われているのかがよくわかった。
そっと頬に手を伸ばし、優しく頬を撫でるーー
「ーーぅん」
少し彼方が身動ぎした。そろそろ起きるのかもしれない。
残念だが、折角彼方と二人で過ごすことの出来る休日だ。
鹿島はもう一度声をかけてみることにした。
「彼方くん、あの……私です。鹿島です。起きてーー」
起きてください、と言おうとしたところで彼方が急に身体を起こした。
「ーーきゃっ」
「鹿島教艦?……あれ、どうしてここにーー」
まだ半分寝ぼけているのか、彼方はいつもよりぼんやりした様子で鹿島を見ている。
「お、おはようございます!あぁあぁあのっ……そのっ……。今日は、か、彼方くんと……二人で過ごせるって、霞ちゃんに……」
鹿島はしどろもどろになりながらも何とか答える。
先程まで彼方の寝顔をまじまじ見ていたというのに、起きてしまえばろくに顔を見ることも出来ない。
罪悪感ゆえか、恋する乙女というか……我ながら情けないことこの上ない。
「ーーあ、はい!そうですよね!?もしかして寝坊しちゃいましたか?」
彼方は鹿島と二人で過ごすという約束を思い出したのか、慌てて飛び起きた。
「い、いえっ大丈夫です!私が早く来ちゃっただけですので!本当はまだまだ寝ていても大丈夫な時間なんですよ」
「ーーそうでしたか、よかった。じゃあ……折角早く来ていただけたので、ちょっと早いですけど出掛けましょうか?」
彼方は、鹿島が彼方と一緒に過ごすのを待ちきれなくて、早くに彼方の部屋へとやって来たのだと判断したようだった。
実際その通りと言えばその通りなのだがーー子供みたいに思われなかっただろうか。
少し不安になる。
「あ……あの、彼方くん。ご迷惑じゃ、ないですか?こんな朝早くから押し掛けてしまってーー」
不安になって彼方に聞いてみると、
「いえ、迷惑なんかじゃないですよ。僕も久しぶりに鹿島教艦と出掛けられるのを楽しみにしていましたから」
彼方は本当に意外そうに否定してくれた。
鹿島と出掛けることを純粋に楽しみにしてくれていたみたいだ。
鹿島は緊張して重くなっていた気持ちが、すっと軽くなったのを感じた。
「あの、私……今日は彼方くんに連れていってほしい所があるんです」
鹿島は、今回大きな目的を持っていた。
前回は彼方のことなんてお構いなしに街のデートスポットを適当に連れ回しただけだ。
正直鹿島は楽しくもなんともなかった。
彼方だってそうだろう。苦痛すら感じていたかもしれない。
「今日はーー私を彼方くんが生まれ育ったお家に、連れていっていただけませんか?」
ここまで読んでくださいまして、ありがとうございました!
次回は家庭訪問になります。
鹿島はこの小説を書き出してから一番思い入れが強くなったキャラかもしれません。
大事に書いてあげたいと思います。
そういえば、活動報告にてご意見募集を行わせていただいております。
もしよろしければ、そちらもご覧いただければと思います。
それでは、また読みに来ていただけましたら嬉しいです!