いつも読みに来ていただきまして、本当にありがとうございます!
今回は引き続き演習となります。
それでは、少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
「時雨、機雷を盾にすぐに離脱して!魚雷が来る!」
『ーーっ!』
時雨は彼方の命令を受け直ぐ様動き出した。
直後に大量の魚雷が大井から発射され、時雨が先程まで立っていたところを通過する。
(ここで時雨を失う訳にはいかない。ーー逃げ延びてくれ!)
祈るような気持ちで彼方はモニターに映る時雨のマーカーを見つめる。
モニターに表示される機雷が次々と消えていく。
この夕張特製の試製浮遊機雷は、対雷巡用の試作兵装だ。
攻撃力は殆ど持っていないが、魚雷に接触して誘爆を起こさせる程度の爆発を起こす。
しかし、放たれる攻撃はその全てが必殺の一撃だ。
相手の間合いの外に出るまでは、常に大破の危険が付きまとう。
ーー小破。『白露型二番艦 駆逐艦 時雨』
「時雨っ!?」
表示される文字に彼方は思わず声をあげる。
『ーーっ。大丈夫、かすっただけだよ。やっぱり射撃の腕も相当だね』
魚雷は全てかわしきってみせた時雨だったが、時雨の隙を突いて放たれた相手の砲撃はさすがに回避しきれなかったのだ。
『一先ずは吹雪達と合流するポイントに移動するよ』
「了解。……時雨、くれぐれも気をつけて」
『うん。ふふっ……ありがとう、彼方』
ついつい不安のあまり弱気な言葉が出てしまったが、時雨は見逃してくれたようだった。
(ーー気を緩めちゃダメだ。戦いはこれからなんだ!)
両手で頬を張り気合いを入れ直す。彼方は再度気を引き締め、今度は吹雪達の状況を確認した。
吹雪達にも、煙幕を切ったことで時雨に向かった大井以外の二隻が追撃を行おうとしているところだった。
「吹雪、潮、作戦は成功した!後は島付近まで誘導するだけだ!」
『はい!』
吹雪と潮は全速で小島へと走る。
しかし、そう簡単に見逃してくれる筈もなく、吹雪達の後方にばら蒔いておいた機雷が一斉に消え始めたーー北上の放った魚雷だ。
「潮!吹雪を守って!」
『ーーはいっ!』
機雷でかなり数を減らしたとはいえ、それでも恐らく二人に到達するであろう魚雷は出てくる。
ここで吹雪を失えば負けが確定となってしまう。
しかし、数本の魚雷であれば潮なら必ず守りきってくれると彼方は確信していた。
ーー北上はこの戦いを楽しんでいた。
最初こそ敵を確認できず退屈だったものの、敵を確認してからは中々面白い相手なのがわかった。
間合いの不利を十分に理解していた彼方の取ってきた対策は、こちらにとって大きな障害となっていたのだ。
煙幕も機雷も相当に厄介だ。魚雷には限りがある。そうそう無駄撃ちはできない。
よく考えてきたのだろう、一隻も沈められずここまで時間がかかるとは。
しかし……そろそろこちらも一隻くらいは仕留めたい。まずはあの煙の中から出てきた奴等から。
「40門の酸素魚雷は伊達じゃないからねっと」
ありったけの魚雷を二隻くっついて逃げ回る駆逐艦に向けて放つ。
ーー圧倒的な物量で押し潰す。
機雷がその多くを巻き込み爆発して消えていく。
しかし、魚雷全てを消しきれはしない。
数本の魚雷は命中する計算だ。
「ーーはぁ!?」
北上はその光景に思わず驚きの声をあげてしまった。
命中するはずの魚雷が駆逐艦に命中する前に爆発した。
潮に迎撃されたのだ。とてもじゃないが実戦も経験していない駆逐艦のやることではない。
(あーあ、結局魚雷無駄撃ちさせられたかー……)
自然と北上の口が弧を描く。
「いいねぇ、しびれるねぇ……!」
これは面白くなってきた。
恐らくこのまま相手の思い通りにこの戦いは敵味方入り乱れる乱戦へと突入するだろう。
しかし、それでも北上は負ける気はしない。
直に夜が来る。
夜戦が得意なのは駆逐艦だけではない。
「ギッタギタにしてあげましょうかね!」
まだまだ楽しめそうなこの戦いに、北上は笑顔でそう宣言した。
『彼方さん……魚雷の迎撃に成功しましたぁ!』
「ありがとう、潮!よくやってくれたよ!」
これで相手の間合いの外に逃れた。暫く追撃はない。
時雨も上手く離脱出来たようだ。
(ここからだ……空も暗くなってきた。太一の艦隊との合流ポイントまで後少し)
「はぁー、上手くいっちまいそうだな。彼方、お前よくここまで相手を手玉に取れたな!」
感心した声音で先程まで黙って戦況を見ていた太一が声をかけてくる。
「ーー頑張ってくれた吹雪達のお陰だよ。それに、試作兵装を造ってくれた夕張さんのお陰」
実際本当にそうだ。この作戦は試作兵装を軸に組み立てた作戦。あれがなければまずこちらの土俵に相手を連れてくることすら出来なかっただろう。
それを使っても尚綱渡りな作戦だ。
上手くいったのは吹雪達の頑張りのお陰以外の何物でもない。
「謙遜すんなって!こっからは俺らも参戦だ。英雄様に一泡噴かせてやろうぜ!」
太一も彼方を信じて待っていてくれたのだ。その信頼に応えたい。
「あぁ、ここからだ。絶対勝とう!」
彼方は太一と力強く頷き合った。
ーー夜がくる。
「響、照明弾!」
太一の発令と共に一気に事態が動き出す。
漆黒の海を煌々と照らす光が空へと上っていく。
敵艦三隻は、無意識にそれを見上げてしまった。
それはーー致命的な隙となる。
水上偵察機を失っている敵艦隊は、動き出したもう一つの艦隊の位置に今初めて気がついた。
突如闇の中から飛び出す影ーー狙いは旗艦の首一つ。
完璧なタイミングの突撃は、容易に相手を貫くことができる必殺の一撃だ。
激しい火花と共に甲高い金属が擦れ会う音が鳴り響く。
「ーーっ!浅い!」
ーー仕損じた。完璧なタイミングで放った必殺の一撃を紙一重とはいえ避けられた。
「ふふん。そうくるだろうと思っていたクマ。まさか超近距離戦でくるとは思っていなかったがなクマ」
球磨ががっちりと掴んだ槍には力が籠められ、叢雲には振りほどく事ができない。
槍を諦めた叢雲は即座に槍から手を離し離脱しようとする。
しかしーー
「遅いクマ!」
既に照準を合わせられていた球磨の主砲から砲弾が放たれようとしている。
駆逐艦にとっては至近距離から受ければその砲弾すら致命の一撃だ。
「叢雲ちゃん!」
声と共に轟音ーー
「クマ!?」
慌てて予想外の位置から放たれた砲撃を身体を反らして無理矢理かわすーー体勢を崩しながら放たれた球磨の砲弾は、あらぬ方向へと飛んでいった。
叢雲の下へと駆けつけたのは吹雪だ。
「大丈夫、叢雲ちゃん!?」
「大丈夫よ……。助かったわ、姉さん」
その隙に球磨はそのままバック転をするように体勢を立て直す。
「今のは少しビックリしたクマ。ーーでも、勝負はこれからクマ!クマの力を見せてやるクマー!」
「……変わった口調の人ね……」
微妙に脱力感がある中、旗艦同士の戦いが始まった。
ーー小破。『球磨型一番艦 軽巡洋艦 球磨』
「ーーで、あたしの相手はあんた達がしてくれるのかな~?」
北上は奇襲を受けたというのに、全く気にした様子もない。むしろ反撃する余裕すら見せながら、そう問いかけた。
「……なんであれが当たんないのよ、おかしくない?」
「……あ、曙ちゃん……大丈夫?」
対峙する少女二人の見た目は対称的だ。
一人はボロボロの傷だらけ、もう一人は傷一つない姿だ。
「潮と組むとどうしていつもこうなるのよ!」
「……そんなこと、潮に言われても……」
ーー潮は敵の攻撃の標的になりにくい。特に曙と一緒にいるときはその傾向が強かった。
緊張感なく言い争っている二人に、北上も緊張感なく話しかける。
「そっちのおっぱいの娘は魚雷を撃ち落とすからねぇ。先に『楽そうな方』を狙っただけだよ」
その言葉に曙がぴくりと反応する。
「ーーっ!嘗めるんじゃないわよ!」
「曙ちゃん、挑発だよ!乗せられちゃダメっ!」
飛び出す曙に、それをフォローするように動く潮。
二人を見ながらやはり北上は緊張感なく笑っている。
「そうそう。しっかりウザイところを見せてよね、駆逐艦!」
その言葉を合図に、激しい砲雷撃戦が幕を開けた。
ーー中破。『綾波型八番艦 駆逐艦 曙』
「ーー照明弾なんて上げておいて、無事で済むはずないって分かっていたでしょう?」
大井の側には、主砲の直撃を受け倒れる響の姿。
大井は照明弾が上がった瞬間ーー無意識に見上げてしまったのと同時にその光に照らされた見知らぬ駆逐艦を発見した。
奇襲作戦を看破した大井は直ぐ様その駆逐艦に向けて砲撃を行う。照明弾を上げた響はその判断の迅速さに対応できない。
動きを止めてしまった響は、大井に仕留められないはずがない相手だった。
(これで一隻ーー)
あと何隻が自分に向かってくるだろうか。
考えて、倒れる響に一瞥をくれ、大井が移動を開始しようとするーー
轟音と共に激しい衝撃。左腕に装着していた魚雷が全て吹き飛び、大井自身も爆発に巻き込まれ吹き飛ばされる。
「ーー響、悪かったね。……でも、この人にはちょっと借りがあるんだ」
声と共に闇から浮き上がる姿。
「さっきはよくもやってくれたね」
淡々と言葉を発しながら近づいていく。
「お陰で彼方に心配かけさせちゃったじゃないか。正直嬉しかったよ、ありがとう」
紡がれるのは、明らかにズレているが本人はいたって真面目らしい感謝の言葉。
「ーーこれで、後二隻。目指すは完全勝利だよね、彼方」
嬉しそうに呟いて、時雨は他の艦娘の援護へと向かった。
そこには、魚雷の爆発に巻き込まれボロボロになって気を失っている大井の姿があった。
ーー大破、行動不能。『暁型二番艦 駆逐艦 響』
ーー大破、行動不能。『球磨型四番艦 重雷装巡洋艦 大井』
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました!
曙ちゃんはいつもいつの間にかボロボロ。
でもそこが可愛い、意地悪したい。
それでは、次回で演習終了です!
また読みに来ていただけたら嬉しいです!