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この小説を書き始めた時は、こんなに沢山の方にに読んでいただけるとは夢にも思っておりませんでした。
本当にありがとうございました!
これからも、頑張っていきますのでよろしくお願いいたします!
それでは、少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
「さーて、どうでてくるクマー?」
水上偵察機を空へと飛ばし、球磨が不敵な笑みを浮かべる。
こちらの戦術は相手にある程度伝えてある。
その上でこちらに勝とうと挑んでくる相手だ。多少なり期待は膨らんでしまう。
今回は提督代理として楓の力を借りているため本当の全力は出せないが、それでも今の全力で戦う事が出来る相手であることを球磨達は期待していた。
それに相手はあの海軍一優れた提督と言われた男の一人息子だ。
球磨達は彼方の父親と因縁があった。
彼の父と共に失われた艦娘の多くは、今の球磨の提督が着任した鎮守府で建造されている。
球磨や北上、大井もその一人だと提督から聞かされていたのだ。
ーーこの世界に、同じ『艦娘』は存在しない。
艦娘には、二つの魂が宿っているという説がある。
一つは人としての肉体に宿る、人としての魂。
もう一つは、艤装に宿る軍艦としての魂だ。
この二つが合わさって、艦娘は建造されるという。
艤装が解体された場合、艦娘は元々の人格や建造後の記憶はそのままに人間へと変化する。しかし、軍艦だった頃の記憶は失われてしまうということから生まれた説だ。
彼方の母親も、元は艦娘であったため解体後も建造されてからの記憶を今でも持っているが、軍艦だった頃の記憶は失っている。
そして、今まで解体されない限りは同時に同じ艦娘が存在したことがないという事実から、艤装に宿る魂は一隻の軍艦につき一つしか存在しないということが推測されたのだった。
その説の通り、新たに建造された球磨達は前世の記憶は持ち合わせていない。
しかし、前世の自分が仕えていた提督の息子と敵として戦っているというのは、中々に面白い。
彼方には、不思議と艦娘を惹き付ける魅力のようなものがあった。
今日はきっと楽しませてくれるだろう。
ーー水上偵察機に反応はない。
この辺りには来ていないようだ。
「姉さん、ど~お?」
緊張感なく北上が索敵の首尾を聞いてくる。
「この辺りにはいないみたいだクマ。一体どこにいったクマー?」
この辺りはちょうど演習範囲に指定されている海域の中央辺りだ。辺りには何もない海のど真ん中といったところ。ここからならどこにいても偵察機で姿くらいは確認できると思っていたが……。
「……ここで索敵に引っ掛からないとなるとーーあの辺りかしらね」
大井が遠くに見える小島の方を指差す。
確かにあの島陰に隠れていたら、今偵察機を飛ばしている位置からは見えないだろう。
「んー、じゃあちょっと行ってみる~?」
北上が大井の言葉に大胆な行動に出ようとする。
「北上、待つクマ!油断はするなクマ」
恐らく策を用意してきているはずだ。
迂闊な行動は取るべきではないだろう。
「だったらどうするのさ。さすがにちょっと暇なんだけど~」
球磨の珍しい慎重論に北上が文句を言う。
その言葉に球磨が一度偵察機を戻そうかと考えるーー
「ーー動いたクマ!」
水上偵察機から敵艦発見の報せが届く。
先程見ていた小島とは真逆の方向だ。
即座に球磨は視界を偵察機の視界へと切り替えた。
そこにはーー
「ーー煙……クマー!?」
もうもうと上がる煙だけが球磨の視界に映りこんだ。
ーー時は演習開始直後まで遡る。
「彼方、敵に接近できる方法は用意できたのか?」
提督候補生二人は、指揮所で作戦の最終確認を行っていた。
「ーーあぁ。上手くハマれば、何とかなると思う」
彼方は自分に出来るだけの準備をしてきた。
彼女達に勝つには、先ずは目を潰す必要がある。
相手に先に見つかってしまえば、こちらが近づく前に大量の魚雷が襲いかかってくるだろう。
「まずは相手の偵察機を墜とす。そのために、僕の艦隊は太一の艦隊とは別行動をとる」
目の前に映し出されている海域図の一点を指差す。
「太一達にはまずは索敵を避けるため、海域ギリギリを進んでーーこの島陰に潜んでほしい。上手く乱戦に持ち込めれば、太一の艦隊なら十分に彼女達と戦えるはずだ」
「この島付近までは、彼方の艦隊が釣ってくるってことか。そう上手くいくか?」
彼方は太一の危惧に対して、自信を持って答えた。
「彼女達なら絶対できる。太一は力を温存しておいてくれ」
『彼方君、目標のポイントに着いたよ』
通信機から吹雪の報せが届く。
「よし、偵察機には見つかってないよね?」
『大丈夫、まだ姿は見てないよ!』
一先ずここまでは上手くいっている。
太一達と別行動中の今、それを勘づかれると各個撃破される可能性が非常に高い。
相手の索敵範囲から考えれば、今の吹雪達がいるポイントが相手が真っ直ぐこちらへ向かっていた場合の索敵に引っ掛からないギリギリのライン。
そして、相手もそろそろこちらの狙いに気がつき出す頃だろう。
ーー頃合いだ。
「吹雪、煙幕展開!広く煙幕を撒きながら次のポイントへ移動して!相手にこちらの位置を知らせるんだ!」
『はい!』
ーー暫く沈黙が続いた。
彼方は緊張してモニターを監視する。
『ーー彼方さん!電探が偵察機を捉えました!』
「全速っ!敵艦隊が向かってくる!」
潮の声に反射的に用意していた指令を送る。
不用意に限りある魚雷を撃ってくるとも思えないが、現状は煙幕に隠れているとはいえ完全に無防備だ。
相手にこちらが見えていないように、こちらも相手が見えていない。時雨と潮の持つ電探が頼りなのだ。
こちらの間合いに入るまでは安心はできない。
『彼方、上手く釣れたようだよ。こちらも三隻艦影を捉えた』
(よし、こちらに注意は向けられたみたいだ)
時雨の報告に作戦が上手くいっている事を確認した彼方は、僅かに安堵し次の作戦を指示する。
「時雨は指定したポイントで停止!煙幕の中で待機して相手の背後について!吹雪達はそのポイントで機雷を敷設して次のポイントへ移動!」
煙幕の狙いは、連合艦隊全艦が煙幕の中にいると思わせるためだ。激しく煙を吐き出し続ける夕張特製の試製煙幕は、かなりの効果をあげていた。
この作戦は、こちらが少数で動き回るために煙幕を隠れ蓑とすることが最も重要な軸となっている。
相手は半信半疑ながら、目の前にぶら下がる餌に食いつかない訳にはいかないのだ。
煙幕を放置して、いるかどうかもわからない敵艦を探しにいけば、後ろから撃たれるのはわかりきっている。
ならば、先に煙幕を撒いている者を倒せばいいと考えるはずだ、と彼方は考えた。
敵艦隊の動きを見ると、その推測はどうやら間違ってはいなかったようだ。
上手く作戦が進んでいると判断した彼方は、作戦第一段階の最後の仕上げへと移項する。
「吹雪、煙幕停止!速度はそのままで突っ走って!」
ーー全速で逃げ回る駆逐艦達を追いかけながら、球磨は不思議な感覚に包まれていた。
敵艦の詳細を把握できないまま追わされているという苛立ちと、それをさせている彼方達への称賛。
ちゃんと対策を練り、策を講じてきたくれたことに嬉しくなる。
この逃走劇もいつまで続くのかわからないが、恐らくそろそろ動くだろう。勘を頼りに球磨は主砲を構える。
その時ーー
煙幕の中から二隻の駆逐艦が飛び出した。
「ーー二隻!?」
四隻も足りていない。あの時は周囲に艦影は見当たらなかった。
囮にしても二隻なのが不自然だ。このやり方なら一隻でも十分なはず。
とにかく、ここで姿を見せた以上は、必ず近くに残りの四隻が潜んでいる。
(もう一度周囲の索敵をーー)
瞬間ーー轟音と共に僅かな衝撃。
手の中の水上偵察機が風穴を開けられて吹き飛んだ。
「ーー待ってたよ。これで……この前の演習のミスは帳消し、かな?」
時雨の放った砲弾が吸い込まれるように球磨の水上偵察機を貫いていた。
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました!
今回の演習は2回か3回に分けて書く予定となっております。
それでは、また読みに来ていただけたら嬉しいです。