艦隊これくしょん ー夕霞たなびく水平線ー   作:柊ゆう

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本当に有難いことです……。

拙いなりに一生懸命書いて参りますので、これからもよろしくお願いいたします!

それでは、今回も少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。


『最強』の刺客

「……みんな、こんなのはただの言い訳だけど……潮と話していた時は、艦娘達には組んだ提督候補生の艦娘になる習わしがあるってことは知らなかったんだ。昨日の夜初めてその話を聞いて……。本当にごめん……。」

今まで教艦二人にみっちりと訓練漬けの生活をさせられていた彼方は、あまりそういった事情に詳しくなかった。

急変した潮の態度に不安を感じ、その夜太一に相談した結果、そういった習わしが艦娘達の間にあるという話をきいたのだった。

しかし、潮達艦娘の事を考えれば、チームを組んだ提督候補生に卒業後も着いていくというのは極々自然な話だ。

それを考えつかない己の至らなさを深く反省した彼方は、もう一度改めて事情の説明をさせてほしいと三人と談話室で話し合っていた。

 

 

 

彼方は自分の事情を、話せる範囲で全て話した。

その上で、もう一度吹雪達に自分の思いを正直に言葉にする。

「今回のことで、僕をもう信じられなくなってしまったかもしれないけど……それでも僕は君達と一緒に戦いたいんだ。初めて出来た、仲間だから……」

自分勝手でごめん。と彼方は頭を下げた。

潮とは演習当日に初めて同じチームになる事を知ったので、彼方の提督になろうとする理由を話せるタイミングがなかったのは事実だが……その前に吹雪に事情を伝えておくなり、何かしらやりようはあっただろうと思う。

とにかく、彼女達に期待を持たせ、裏切るようなことをしたのは彼方だ。その責任は取らなくてはいけないと思っていた。

「うん、まぁ……正直なところ、潮があれだけ怒っているのを見たら、毒気を抜かれちゃったって言うのもあるんだけどね」

微笑を浮かべ、時雨がおもむろに口を開く。

「彼方も、僕達と一緒にいたいと思ってくれているのは素直に嬉しいよ。僕達も一緒にいたいと思っていたから、さっきは怒ってたんだしね」

「……う~」

ちらりと時雨は潮を流し見るが、潮は暴走状態から我に返ってからはずっとこの調子だ。

どんよりとした雰囲気で落ち込んでしまっている。

しかし、余程思い詰めていたのだろう。彼方はあまりの罪悪感でもう潮には頭が上がりそうにない。

「私達も、朝霧君と一緒に戦いたいって思ってるよ。だから、校長先生の出した条件……クリアしないとね」

今度行われる大規模演習で、対戦相手に勝利すること。

大規模演習は、既に鎮守府に着任して実戦を経験している艦娘と戦うことになっている。

相手は三隻に対して、こちらは二チーム六隻での連合艦隊だそうだ。

数の上では勝っているが、楓が条件に出してくる位だ。

並みの艦娘ではないはず……。

(最強と言われる提督の下にいる艦娘。一体どんな艦娘なのだろう……)

 

 

 

「ーーねぇ、楓が言ってた提督候補生ってのは君?」

急に知らない女の子が彼方の顔を覗きこんできた。

「うわぁ!?」

彼方は驚いて椅子から転げ落ちそうになる。

「あはは、ごめんごめ~ん。楓が条件出したとか聞こえたからさ」

お下げを揺らしながら笑う女性。困惑しつつも、彼方はとりあえず名乗ることにした。

「えっと……僕は朝霧 彼方と言います。貴女は……」

「朝霧~?へー、なるほどねー……そういうことか。私は重雷装巡洋艦 北上。よろしくね」

重雷装巡洋艦ーーかなり珍しい艦種だ。楓の艦娘なのだろうか……。

「あの……北上さんは、校長の艦娘なんですか?」

訓練校にいるということはそうなのかもしれないが……楓の傍らに彼女がいるのを彼方は見たことがない。

「いや、あたしは君達の対戦相手。こっちの二人もね」

北上の後ろから、二人の艦娘がやって来る。

「重雷装巡洋艦 大井よ。北上さんにはあまり近づかないでよね」

「球磨は軽巡洋艦の球磨だクマー。二人のお姉ちゃんだクマ。よろしくクマー!」

「ついさっきここに着いて、久々に校内を散歩してたところでさー。なんか面白そうなこと話してたから、気になって声かけてみたんだよ」

 

 

 

……クマー?

(いや、それよりも僕達の対戦相手ということはーー)

「えっと……貴女達が最強だって言われてる提督の?」

「そういうことだクマ!演習を震えて待てクマー!」

びしっと音をたてるようにこちらを指差し仁王立ちする球磨。

「そうそう。因みにあたしと大井っちは重雷装巡洋艦だから、雷撃が得意だよ。毎年この演習には楓に呼ばれて来てるけど、毎回挨拶代わりに撃った魚雷でほとんど終わっちゃうんだよねぇ」

「球磨は二人が使えない水上偵察機での索敵と、二人が撃ち漏らした敵艦のお掃除が仕事だクマ!」

「因みに使ってる魚雷は九三式酸素魚雷。それが40門よ。まともに私達とぶつかれば近寄る前に雷撃で一発大破は確実ね」

次々に情報を漏らす対戦相手に彼方が困惑していると、球磨がにっこりと笑った。

「ーー話は聞かせてもらっているクマ。慕っている提督と一緒にいたいと思うのは、艦娘なら当たり前の事だクマー。だから、球磨達をその障害にされるのは正直ちょっと癪なんだクマ。今の情報は楓に対するお返しだクマ。上手く使えクマー」

「ただし、あたし達は手を抜く気はないからね?せっかく来たのに簡単に潰れちゃったら楽しくないからさ~」

彼方は球磨達の心遣いに感謝する。

確かに、今回の演習は事前に対策をとっていなければ会敵した時点で終わってしまっていた可能性が高い。

「……それに、貴女達に私達が負けるとはとても思えないもの」

「「「ーーっ」」」

大井が先程から黙りこむ吹雪達へと視線を向ける。

「少しでも長くこの優男と一緒にいたいなら、精々腕を磨いておきなさい」

それだけ言うと、大井は興味を失ったのかどこかへ行ってしまった。

「あー、待ってよ大井っち~。あ、それじゃあね~」

「当日を楽しみにしているクマー!さらばだクマー!」

北上と球磨も彼方達へと手を降りながら大井を追いかけていった。

 

 

 

「雷巡の北上さんと大井さんって……まさかあの……」

「うん、彼女達で間違いないだろうね。」

北上達が去っていって暫く経った後、吹雪が顔色悪く呟き、時雨もそれに続いた。

「二人とも、知ってるの?」

彼方が問いかけると、時雨が緊張した面持ちで答えた。

「ーー彼方、彼女達は鬼級や姫級の深海棲艦を何度も撃破している英雄だ」

鬼級や姫級の深海棲艦とは、海域を支配している強力な深海棲艦のことだ。

その力は強大で、並みの艦娘の攻撃では傷一つつけられない。彼女達は、それを何体も倒しているらしい。

そんな化け物染みた火力を持つ彼女達には、やはり正面から挑むべきではない。

「……勝てるのかな、潮達……」

ぽつりと呟く潮の瞳に微かに漂っているのは、絶望だ。

しかし、今回は彼方に負けは許されない。

彼方が負ければ、彼方は抱えている約束を守れなくなる。

それは、彼方が提督になる意味を失うことと同義だ。

「勝たなきゃダメ……みんなで一緒にいるためには、北上さん達に勝たなきゃ……」

「うん。負けるわけにはいかないね」

「……うん。うん、そうだよね」

三人は、それでも何とか心を奮い起たせた。

相手の情報はある。大規模演習は三隻二チーム計六隻の連合艦隊で挑むことになっている。対策を練るためにも、彼方達には北上達に共に挑んでもらえる仲間が必要だった。

 

 

 

「ーー太一達に協力を仰ごう。協力し合えば、打開策も見つかるかもしれない」

 

 

 

「ーー今度の大規模演習って、あの英雄と戦うのかよ……」

初めてその話を聞いた太一は、心底げんなりとした様子で呟いた。

「ってか、吹雪ちゃん達だけじゃなく霞教艦と鹿島教艦を懸けてその英雄様に勝とうってのは……相変わらず随分と難儀なことやってるな、彼方は」

「私は朝霧と組むことに賛成よ、太一。端から負けるつもりの奴となんて組む価値がないわ」

隣で話を聞いていた叢雲が賛成の意を示す。

「まぁ……そうだな、その通りだ。どうせやるなら勝ったほうが面白い。元々彼方と組みたいとは思ってたんだが……そういうことなら尚更だ」

太一も快く一緒に戦うことを約束してくれた。

 

 

 

心強い仲間を得た。

彼方は一度敗北した太一の強さをよく知っている。

リベンジを果たせないのは残念だが、いずれその機会もあるだろう。

彼方も負けたままで終わるつもりはない。

しかし、太一を仲間に迎えても尚、越えなければならない壁は高い。

 

 

 

「何か作戦を考えないと、正面からでは絶対に勝てない……」

訓練が終わった後の夕方。彼方は一人教室に残って、彼女達を攻略する糸口を掴もうと、頭を悩ませる。

「朝霧君、ちょっとーーお話しない?」

顔を上げると、夕焼けの光を浴びてーーいつもよりも少し儚げな雰囲気を漂わせる吹雪が立っていた。




ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました!

次回は吹雪回。
頑張ります!

また読みに来ていただけたら嬉しいです。

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