艦隊これくしょん ー夕霞たなびく水平線ー   作:柊ゆう

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こんばんわ!
いつも読みに来てくださってありがとうございます!
本当に沢山の方に読んでいただけて、幸せです。
ありがとうございます!

それでは、今回も少しでも楽しんでいただけると幸いです。


潮の居場所

「はぁ……潮、朝霧さんとちゃんとお話できるかな……」

 潮は反省会終了後、自室へと戻ってくるなり前のめりにベッドへと倒れこんだ。

 今日はもう遅いので、彼方に詳しい話を聞くのは明日だ。

 潮は明日のことを考えると気が重くなる。

「今更朝霧さん以外の提督なんて……」

 ーー考えられない。いや、考えたくない潮だったが、彼方から聞いたあの言葉が潮に重くのし掛かる。

 

 

 

 入渠ドック付近の談話室で、潮と彼方は傷ついた吹雪と時雨の艤装の修復を待っていた。

「ーー潮は、体の方は何ともない?」

 彼方が潮を気遣ってくれる。

 今回の演習では潮は被害を被っていない。補給だけで十分に元通りとなっていた。

「……は、はい」

 ただでさえ男性があまり得意でない潮は、どうしても態度が硬くなりがちだ。

 おまけに彼方には以前名前を呼ばれたときに悲鳴をあげてしまった負い目もあり、余計にぎくしゃくとした態度になってしまったいた。

「せっかくチームメイトになってくれたのに、勝たせてあげられなくてごめん……」

 彼方は悔しさを圧し殺すように手を硬く握り俯く。

「い、いえっ……そんなこと、ないです」

 実際、潮は彼方の采配にそれほど問題があったとは思っていない。むしろ、叢雲の動きに対応出来なかった自分達の方に問題があったと思っていた。

「潮は、あのとき……叢雲ちゃんが飛び出してきたのが見えてました。……でも、朝霧さんの指示を受けずに動くのを躊躇ってしまって……」

「そうか……」

「でも、あの一瞬で潮が朝霧さんの指示を仰ぐことなんてできませんでした。あの時は、潮が曙ちゃんみたいに身を挺して時雨ちゃんを庇うべきだったんです……」

 潮ではなく時雨が残っていれば、勝てていたかもしれない。潮はそう考えていた。

 

 

 

「それは、きっと違うよ……潮」

「えっ?」

 潮は俯いたままの彼方の否定の言葉に首を傾げた。

「叢雲さんの動きが見えていたのならーー多分彼女に勝てるのは、このチームでは君だけだ」

「朝霧さん……?」

 彼方は顔をあげた。瞳には力強い光が灯っている。

 

 

 

「ーー次は勝つ。潮、君の力が必要だ」

 

 

 

 元々は彼方への罪悪感から、頭数合わせになれれば、程度の気持ちでのチーム参加だった。

 演習で、彼方に力を貸してほしいと願われた時、初めて潮は彼方と共に戦うことを実感した。

 そして今、彼方に自分が必要とされているという実感を得た。

(潮は、朝霧さんと一緒に戦いたい。傍にいて、支えてあげたい……)

 潮はこの時、卒業後も彼方についていこうと決めたのだった。

「あ、あの……朝霧さん。卒業後は、朝霧さんはどうされるんですか……?」

 提督になり、何を成したいのか。自分もそれについていくつもりで、潮は彼方に問いかけた。

 

 

 

「ん?あー……その……実は僕は卒業したら、霞教艦を秘書艦にする約束をしているんだ。その上鹿島教艦とも最近一緒に連れていくって約束もしちゃったんだけどーー」

 その言葉を聞いた潮にはそれ以降の彼方の言葉などまるで耳に入ってこない。

(そんな……じゃあ、潮達は……?)

 卒業までの繋ぎ、ということなのだろうか。

(そんなのって、酷い……。潮は、もう朝霧さんについていこうって、決めたのに……)

 そもそも、この合同訓練で組んだチームの艦娘達を連れて鎮守府に着任するというのが、この訓練校の習わしだと聞いている。

 秘書艦にはなれなかったとしても、傍で支えてあげられれば構わないと思っていた。

 今の話では卒業したら離れ離れということなのだろうか……潮達は教艦を連れていくための踏み台に過ぎないのだろうか。

「……潮、帰ります」

 自分一人で盛り上がってしまったのが馬鹿みたいだ。

 吹雪と時雨には申し訳なかったが、今は彼方と二人きりではいたくなかった。

 呼び止めようとする彼方を振り切り、潮は自室に戻った。

 

 

 

 翌朝。潮達は、彼方に話を聞こうと教室へと向かっていた。

「潮!」

 潮を呼ぶ声に視線をあげると、彼方の方からこちらへとやって来ていた。

 彼方は潮達の前に立つなり勢いよく頭を下げた。

「朝霧君!?」

「彼方!?」

「………………」

「昨日はごめん!きっと、僕の自惚れじゃなければ……僕は君に酷いことを言ってしまった……」

「……何のことですか」

 自分の意識とは無関係に随分と冷たい声が出てしまう。

「それは、えっと……僕が卒業したら、教艦達を連れて行くってことは、君達を連れていかないってことだとーー」

「それが何か潮に関係あるんでしょうか」

 しかし、潮にもよくわからなかったが、もう自分を止めることもできそうになかった。

 吹雪と時雨は潮の様子に驚いて言葉を失っている。

「う、潮……」

 彼方は今まで見たことがないほどに落ち込み、すがるような目で潮を見る。

 その様子を見て、少しだけすっきりしたような感覚があった。

(そっか……潮、怒ってたんだ)

 自分を宥めようと慌てふためく彼方に、少し優越感のようなものを感じた潮は、少しだけ態度を軟化させることにした。

「……潮達は、朝霧さんの踏み台なんですか?」

「まさか、そんなことあるはずない!僕は君達を大切な仲間だと思ってる!」

(潮もそう思っていました)

「……でも、卒業したら教艦達を連れていっちゃうんですよね?」

「それはーーうん。それだけは……約束なんだ。僕は霞教艦の傍に立つために『提督』になりにこの訓練校にきた……」

(ほら、やっぱり。最初から潮のことなんて眼中にないんじゃないですか)

「だったら、潮達はどうなるんですか?卒業したら、潮達は朝霧さんと離れ離れになって、どこか別の提督のところに行けって、朝霧さんは言うんですか……?」

 言いながら悲しくなってきて潮の目には涙が溢れてきた。

「力を貸してとか、潮が必要だとか……そんなこと言ってた癖に、潮のこと何だと思ってるんですか!」

 もう自分で言っててよくわからなくなってきた。

 自分勝手なことを言っている。

 彼方は最初から霞教艦のために提督になりにきた。

 自分は彼方に迷惑をかけ、そのお詫びのつもりでチームに入った。

 演習を経験して、本当の仲間になれたと思った。

 必要とされて、彼方の艦娘になろうと思った。

 そして今はその気持ちを裏切られたと、一人で馬鹿みたいに怒っている。

(それでも……朝霧さんと、一緒にいたい……)

 結局はその想い一つだった。

 

 

 

「彼方。潮の言っていることと、同じことを僕達も思っているよ。僕達は、君の何なのかな?何に、なれるのかな?」

「私は、朝霧君が声をかけてくれたから、今こうしてみんなと一緒にいられてる。卒業してからも、みんなと離れたくないよ……」

 時雨と吹雪が潮の言葉に続く。

「ーー僕は……」

 追い込まれた彼方が、何とか言葉を発しようとしているとーー

 

 

 

「彼方。アンタ達。その件に関して、校長から話があるそうよ。ついてらっしゃい」

 唐突に背後から聞き覚えのある声がした。

(この人が……朝霧さんの)

 最も大切にしている女性。霞教艦。

「……私個人としては、アンタ達が増えたってどってことないと思ってるわ。彼方を渡すつもりもないし」

 確かな自信を滲ませて、霞教艦が言う。

 その自信に対抗する術を、潮達はまだ持っていない。

 潮達は、圧倒的に彼方と過ごした時間が少ないのだ。

「霞姉さん、その……」

「霞教艦!何泣きそうな顔してんのよ、だらしないったら!」

(悔しい……)

 見ているだけで解る、彼方が霞教艦へと寄せている信頼の大きさ。

 彼女に対抗するには、それだけの信頼を彼方から勝ち獲らないといけない。

 

 

 

「来たわね、問題児が」

 校長室に入ってみると、不適な笑みを浮かべる校長が椅子に座っていた。

「率直に言わせてもらうと、朝霧君があなた達三人を自分の艦娘として向かえ、卒業していくことには何ら問題はないと思っているわ」

 ただしーーと校長は続けた。

「教艦二人も連れていくとなると話は別。朝霧君にそれを出来るだけの力が証明できなければ、私はそれを認めることはできない。いくら霞教艦を朝霧君の秘書艦にするように。というのがお祖父様の遺言だったとしてもね」

 ぴっ、と校長は人差し指を立てた。

「そこで、一つ条件を出します。数日後、現役の提督達から艦娘をお借りして、大規模な演習を行う予定にしているわ。その演習で、敵艦隊に勝利すること」

 

 

 

「貴方達が戦うのは、『最強』の提督がいる鎮守府に着任している艦娘よ」




ここまで読んでいただけき、ありがとうございました!

今回は潮回で修羅場回。
潮に怒られたい。その後仲直りしたい。

次回は、最強の鎮守府にいる方々が登場します。

また次回も読みに来ていただけると嬉しいです!

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