艦隊これくしょん ー夕霞たなびく水平線ー   作:柊ゆう

13 / 75
こんにちは、いつも読みに来ていただきまして本当にありがとうございます!

お気に入りにしてくださっている方がとうとう70名様を越えました……!
UAも4000へと迫ろうとしています……!
本当に皆様のお陰で、楽しくお話が妄想できております。
感想も沢山書いて頂けるようになり、感謝感謝の毎日です。

これからも頑張りますのでよろしくお願いいたします!



それでは、少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。


時雨の奮闘

 演習後の夜。彼方のチームメイトである吹雪、時雨、潮の三人は、夕食を共にした後親睦を深めるためという目的も兼ねて、艦娘寮の吹雪の部屋で反省会を行っていた。

 

 

 

「はぁ~……朝霧君、がっかりしちゃったよね……」

 吹雪が大袈裟に肩を落として、抱いていたクッションに顔を埋める。

「それを言うなら僕の方だと思うけどね……偉そうなこと言っておいて叢雲に一撃大破だよ?」

 全く、かっこ悪いところ見せちゃったなぁ……。吹雪の言葉を受けて時雨も自嘲気味に答えた。

「……潮も、叢雲ちゃんが突撃してきたのが見えてたのに、何も出来ませんでした…」

「「えっ」」

「えっ」

 叢雲の突撃は、時雨の砲撃による水柱を利用した目隠し効果からの、異常とも言える速攻だった。

 叢雲を標的と定め狙い撃った時雨ですら、水柱の向こうに注目してしまってその速さに反応することが出来なかったのだが……。

(咄嗟に動けなかったのは仕方がない。僕も同じだし……。でも、視認出来ていただけでも潮に秘められた力は相当なものだと言えるのかも……)

 それとも、彼方との親和性の高さ故だろうか。

「あ、そういえば……時雨ちゃんって朝霧君に何て声をかけたの?」

 考え込む時雨に、吹雪が思い出したように問いかけてくる。

「あ、あー……えっと、それは……」

 歯切れ悪く答えようとする時雨は、初めて彼方に名前を呼ばれた時のことを思い出していた。

 

 

 

「やぁ、朝霧くん。ちょっと話をしたいんだけど、いいかな?」

 彼方の能力に興味を持っていた時雨は、提督候補生と艦娘の合同演習が行われる数日前に彼方に声をかけた。

「えっ?あぁ、構わないよ。君は確か……」

「あぁ、自己紹介が遅れてすまない。僕は白露型二番艦 駆逐艦の時雨だよ。仲良くしてくれると嬉しいな」

 内心少しだけ緊張していた時雨は自己紹介をし忘れていたことを思い出して、慌てて自己紹介をした。

 もちろん、その動揺している内心は表に出すことはなかったが……。

「あぁ、えっと……名前を呼んでも?」

 確認を取ってくる彼方に、時雨は心の準備を終えて答えた。

「ーーうん、構わないよ。その方が、僕も嬉しい。」

 時雨は初めて彼方に名前を呼ばれるということに否が応にも緊張が高まる。

「じゃあこちらも改めて自己紹介を。

 朝霧 彼方。こちらこそよろしく、『時雨』さん」

 ーー瞬間。

 温かい、包み込まれるような感覚に息を飲む。

(これが、彼の能力かーー)

 どうやら時雨も彼方との親和性は高いようだ。

 急に艤装が飛び出てくる程ではないが、意識すれば艤装を展開することも難しくないだろう。

「君の声は……本当に不思議だね。今言葉を交わしたばかりの相手だって言うのに力が湧いてくるのを感じるよ」

 ほんのりと頬を紅く染め、湧き上がる力に高揚した様子の時雨。

 彼方に名前を呼ばれることによって引き出される力は、彼方が意識することによってある程度の強弱が調節可能らしかった。

 無意識に呼んでしまうと、クラスメイトの潮の時のように、相手の意思もお構いなしに力を引き出してしまうのだろう。

 先程の声はその影響を危惧し、出来るだけ能力の発動を抑えて呼んでくれたのだと時雨にはわかった。

(彼となら、組んでみたいな)

 能力に傲ることのない彼方の気遣いに触れ、時雨は興味から好意へと彼方への印象を変えたのだった。

 時雨の言葉に少しだけ戸惑ったような雰囲気になった彼方は、話題を元へと戻してきた。

「あー、ところで……僕に何か用だったよね?」

「ふふっ。うん、そうなんだ。来週から始まる合同訓練のことは知っているだろう?君はチームメイトはもう決まっているのかな?」

 何となく嬉しくなって時雨から無意識に笑みが溢れる。

 彼方は時雨の問いかけに苦笑を浮かべ、緩やかに首を振った。

「一人組んでくれる人は見つけたんだけど、まだ後二人見つかってないんだ。その一人は吹雪だよ」

「吹雪が……それは君から誘ったのかい?」

 先約がいたのは少しだけ……面白くない気がした。

「そうだよ、今週の頭かな。彼女が演習場で訓練していたところに声をかけたんだ。」

「そうか……うん」

 やっぱり少しだけ面白くない。少しだけ。

「ねぇ、彼方って呼んでも構わないかな?僕のことも時雨って呼んでくれて構わないから」

「えっ?うん、構わないよ」

「ありがとう、彼方」

 

 

 

「「………………」」

 

 

 

 互いに沈黙する。

(僕としては、彼方から声をかけてほしいところなんだけど……)

 名前を呼び合うことで、彼方ともっとお近づきになりたいアピールをしてみた時雨は、続く彼方の言葉を待った。

「あ、あのーー」

「何かなっ?」

 食い気味に答える時雨。

 内心は期待に膨らみ、お尻に尻尾があれば振り回しているような状態だった。

 実は時雨はクラス内でも相当に優秀な艦娘であった。

 そのため、数名の提督候補生から誘いは受けていたのだが……その時点で既に彼方に興味を持っていた時雨は、その誘いをすべて断り、彼方に声をかけてもらえないかと待っていたのだった。

 しかし、一向に彼方は時雨を誘ってこない。

 今こうして時雨から話しかけている時点で、時雨はそれなりに焦り始めていたのだった。

 

 

 

「ーー時雨は、もうチームに所属してるんだよね?」

「ーーえ?」

 時雨は自分がフリーであることを彼方に伝え忘れていたことに今更気がついた。

「あ、あー……ごめん、伝え忘れてて!僕も今のところフリーなんだ。だからーー」

 慌ててそう伝える。先程から大事なことを忘れてばっかりだ。自分の間抜けな行いに、時雨の顔は羞恥で真っ赤になっていた。

「だったら……もし時雨が良かったらだけど、僕達とチームを組まない?」

 そんな時雨に、彼方がようやく待っていた言葉をくれる。

「も、もちろんだよ!『君から』誘ってくれたことを後悔させないだけの働きはしてみせるよ!」

 こうして、興奮気味に時雨はその待ちに待った誘いを受けたのだった。

 

 

 

「へ、へぇ~……そうだったんだ。た、大変だったんだね……時雨ちゃん」

 吹雪はその苦笑というか驚きというか、何とも言えない表情で時雨の奮闘をそう評価した。

「後から聞けば、彼方は僕が他の提督候補生から誘われていたのを見ていて、既にチームメイトが決まっていたと考えてたんだそうだよ……」

「朝霧君は指揮に自信が持ててなくて、自分から誰かに声をかけ難いって言ってたから。それもあったんだと思う」

 吹雪が彼方の心情を補足した。

 

 

 

「……あ、あの。お二人は、朝霧さんのことをどう思ってるんですか?」

 それまで黙って話を聞いていた潮が唐突に二人に問いかけてきた。

「そうだね……今日の演習で僕は決めたよ。僕は彼方に僕の『提督』になってほしい。彼方と一緒に戦ってみたいんだ」

「うん!私も時雨ちゃんと同じだよ!朝霧君は私をきちんと見てくれてる。私も朝霧君に『提督』になってほしいな」

「……そうですか。潮も、今日の演習で同じ気持ちになってしまったんです」

 なってしまった、とはどう言うことなのだろう。

 叶わないことを告げるように自分の気持ちを話した潮に、時雨は違和感を覚えた。

 

 

 

「……吹雪ちゃん達は、知らないんですか?朝霧さんは卒業後、教艦お二人をご自分の艦娘にするつもりだってこと」

「「ーーえぇっ!?」」

 

 

 

 初耳だった。

 潮がそれをどこから聞いてきたのかわからないが、それならばあの教艦達のスパルタ具合に納得できてしまうのも確かだ。

 ということは、時雨には吹雪だけではなくさらに強力な先約があったことになる。

「か、彼方君……私達のことどう思ってるんだろう」

 顔を青くして吹雪が不安気に呟いた。

 戦闘中でも一度あったが、無意識に苗字ではなく名前で彼方を呼んでいる。

 やはり吹雪も憎からず彼方のことを想っている、ということだろう。

 

 

 

 訓練校の艦娘は、卒業後どの提督候補生についていくかある程度自由に選ぶ権利が与えられている。

 そして、大抵の艦娘はこの合同訓練で組んだ提督候補生と共に戦うことを選択するのだ。

 もし彼方が教艦二人とだけ鎮守府に着任するようなことになれば、時雨達の居場所とこの気持ちはどうなってしまうのか。

 そろそろと不安が忍び寄ってくる。

 時雨はその不安を断ち切るように立ち上がった。

 

 

 

「ーー彼方に話を聞いてみよう。僕は彼方を諦めるつもりなんてない」




ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました!

今回は時雨中心のお話でした。
時雨のイメージが自分のイメージと違う!という方もいらっしゃると思いますが、何とぞ……何とぞご容赦くださいませ……!

次回は修羅場回?でしょうか。

それでは、また読みに来ていただけると嬉しいです!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。