艦隊これくしょん ー夕霞たなびく水平線ー   作:柊ゆう

12 / 75
おはようございます!
昨日は用事があって投稿が遅れてしまいました……。

今回はみっちり艦隊戦やってます。
描写が難しくて中々大変ですね……。

少しでもお楽しみいただけましたら幸いです




『提督』になる覚悟

 今回の訓練で、初めて彼方は自分の意思で艦娘を戦わせる。

 手の中には艦娘達と繋がる通信機。

「彼方、お手柔らかに頼むぜ?」

 対戦相手が太一と決まった時、太一は高揚を抑えきれない様子でそう声をかけてきた。

 太一は彼方の唯一の提督候補生の友人だ。

 そして唯一のライバルでもあった。

「……そっちこそ、お手柔らかに頼むよ」

 太一とは対称的に、彼方の心は不安や緊張が渦巻いていた。

 

 

 

『朝霧君?大丈夫?』

 吹雪の声に我に帰る。

「あ、うん……大丈夫。ごめん、緊張しちゃって」

『ううん、大丈夫。私もすごい緊張しちゃってるし!』

 黙ったままの彼方に吹雪が声をかけてきてくれた。

 緊張しているのはお互い様だというのに、実際に戦うのは吹雪なのに、彼方は吹雪に心配をかけてしまった。

 提督失格だ。

 不安と緊張に苛まれる思考は悪い方へ悪い方へと彼方を誘導していく。

 彼方は再び黙り込んでしまった。

 

 

 

『ーー彼方、僕達が傷つくのが怖いのかい?』

 不意に、時雨が問いかけてきた。

「………………」

 そう、今回はただの演習とはいえーー『提督』になるということは、自分の指示によって彼女達を戦わせ、自分の指示によって彼女達に傷を負わせる行為なのだとーー今更ながらに気づいてしまっていた。

 その事に不安や緊張を感じていた彼方は図星を突かれ、言葉に詰まる。

『……その優しさは、僕も女の子としては嬉しく思うけどね。艦娘としては、少し寂しいよ』

 しかし彼方のその気遣いは、艦娘を信頼していないことに他ならない。

 本人にそのつもりはなくても、時雨はそう感じているということだ。

『僕達を信じてほしい。……そして、僕達に君を信じさせてくれないかな?ね、潮?』

『……は、はい。潮も、精一杯頑張ります。だから……』

 引っ込み思案の潮でさえ、彼方を励まそうとしてくれていた。

(これ以上、みっともないところは見せられないーー)

 

 

 

 彼方には約束がある。

 ーー今生の別れとなってしまった時に交わした、母親を守るという父親との約束。

 ーー道半ばで倒れてしまった彼方の父親の代わりに海を守ってくれている、霞の傍らに立つという霞との約束。

 ーー教え子達を奪われ、悲嘆の底に墜とされた鹿島を救いだす、鹿島を本当の笑顔にするという鹿島との約束。

 これらは、全て彼方が『提督』にならなければ叶わない。

『提督』になろうと努力するにつれ増えていく責任に、彼方は立ち止まることなど許されない。

 彼方の父親はさらに多くを背負い込んでいただろう。

 負けたくない、と彼方は思った。

 

 

 

「吹雪!」

『はいっ!』

「時雨!」

『あぁ……いいね、彼方。力が溢れてくるよ』

「潮!」

『……は、はい!』

 彼方は力を込めて仲間の名前を呼ぶ。

「僕に力を貸してほしい。僕が提督になるために」

 

 

 

 演習開始の合図が演習場に響き渡る。

 それを聞いて太一の艦娘達が一斉に動き出した。

 陣形は単縦陣。一直線にこちらへと向かってきている。

 距離はーー遠距離。まだ遠い。まだ少し砲撃戦まで時間がありそうだ。

 こちらも陣形は単縦陣。向かい合う形の今は、お互いに砲撃戦がやり難い位置関係となっている。

「吹雪、減速して面舵一杯。旋回後全速で敵艦隊の進路を塞ぐように位置取ったあとは、減速してその位置関係を維持。敵艦隊を迎え撃つ!」

 まずは砲撃戦で有利に立ち回れるような位置取りが必要だと判断した彼方は、旗艦である吹雪に指示を出す。

『は、はい!』

 吹雪が指示に従い動き出す。

 居残りの成果が出たのか、列を乱さず艦隊が移動を開始した。

(ーー吹雪、凄いな)

 努力をきちんと結果として出す吹雪に彼方も自然と勇気づけられる。

 

 

 

 しかし、こちらの射程距離に入る寸前で敵艦隊の動きに変化が現れた。

『朝霧君、敵艦隊が本艦隊の進行方向に魚雷を発射!発射後旋回して同航戦に移行しました!』

 吹雪が変化した状況を報告する。

 彼方も妖精が艦隊指揮用に造り出したモニターで確認していた。

(先手を打たれたーー)

 まずは相手の出方を見ようとしたのは失敗だったかーー

 まさかいきなり魚雷を放ってくるとは予想していなかった彼方は、己の迂闊さに辟易する。

 反省は後だ。状況は切迫している。

(魚雷をかわすには足を止めるか一気に駆け抜けるかしかない。でも太一もそれをわかっている筈だ。)

 足を止めれば今度はこちらが頭を抑えられる。

 しかし、加速して降りきろうとすれば、回避で手一杯のこちらはその間相手の砲撃に曝され続けることになるーー

 

 

 

(考えていられる余裕はない!)

「魚雷の射線を全速で駆け抜けて!敵は恐らく魚雷をかわすのに必死な僕達に砲撃戦を仕掛けてくる筈だ。こちらも魚雷回避後砲撃を開始!但し狙うのは先頭の旗艦だけでいい。相手の勢いを削ぐんだ!」

『わかりました!』

 吹雪達は返答と同時に一気にトップスピードに入る。

 

 

 

『ぅうぇええぇっ!?』

『これはーー』

『……凄い、です』

 自分達が全速で出した、明らかに敵艦娘達を引き離した速度に戸惑う三人。

 艦娘達の性能を限界以上に引き出すという、彼方の『提督』としての能力。その結果だ。

 思いがけず敵艦隊の砲撃すら回避することに成功した吹雪達が、今度は砲撃を浴びせる側となる。

『いっけぇ!』

 一斉砲撃。狙いは旗艦である叢雲だ。

 堪らず叢雲は減速して砲撃をかわすことを優先した。

 敵艦隊の隊列に乱れが生じる。

 こちらの砲撃が夾叉弾となったのだ。

 

 

(ーーよし、今回の攻防はなんとかこちらの有利で終わった。今度はこっちの番だ、太一!)

 そこを見逃すことなく今度は彼方が攻撃を開始した。

「潮、魚雷を敵艦隊中央から右側に広く扇状に発射して!吹雪は敵艦隊左側に向かって砲撃!時雨は敵旗艦を狙い撃って!」

 彼方は敵艦隊の逃げ道を塞ぎ、本命の一発を狙う。

 バランスを崩し、初動が遅れた敵艦隊へと潮の放った魚雷が迫る。

 魚雷を回避すれば吹雪の砲撃に曝されるが、魚雷の直撃を考えればまだそちらの方が被害が小さくてすむと考えたのか、敵艦隊は左側に向かって動いた。

 

 

 

 ーーつまり、予想通りということだ。

『残念だったね』

 時雨の狙い澄まされた砲弾が、叢雲へと突き刺さろうと空を引き裂き迫る。

 直後に着弾の衝撃と水飛沫。

 

 

 

 ーー大破、行動不能。『綾波型八番艦 駆逐艦 曙』

 モニターに攻撃の成果が表示された。

 

 

 

『彼方君、曙ちゃんが叢雲ちゃんを庇った!叢雲ちゃんはーー』

 

 

 

 ーー大破、行動不能。『白露型二番艦 駆逐艦 時雨』

 唐突にモニターに表示された文字彼方は目を見開いた。

 

 

 

 ーー吹雪の隣で、先程まで共に戦っていた時雨が倒れていた。

 砲撃後の隙を突かれたのだ。

「ーーまさか時雨はともかくアンタ達がここまでやるとは思わなかった。正直朝霧は『提督』には向いてないと思ってたしね。」

 吹雪の目の前に長槍を携えた少女が立つ。

 不意を突かれた時雨を仕留めたのは、その手に持った長槍だろう。

 艦娘の中には、叢雲のように超近距離戦を得意とする、特殊な艤装を持った者がいるのだ。

「でも、私に懐に飛び込まれた時点でアンタ達は終わりよ」

 吹雪や潮に叢雲の振るう長槍を捌けるだけの技術はない。

『吹雪、潮!すぐに離れて!』

 耳元で彼方の声が聞こえ、即座にその場を離れようとする。

 しかしーー

 

 

 

「遅いよ」

 聞こえたもう一人の声と共に激しい衝撃。

 

 

 

 ーー大破、行動不能。『吹雪型一番艦 駆逐艦 吹雪』

 

 

 

 彼方達の初めての演習は、敗北で終わった。




ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました!

情景や緊迫感の表現って、かなり難しいです……。
次回も頑張ります。

それでは、また読みに来ていただけると嬉しいです!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。