艦隊これくしょん ー夕霞たなびく水平線ー   作:柊ゆう

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こんばんは!いつも読みにきていただきましてありがとうございます!
最近読みに来てくださる方が増えまして、投稿した頃の10倍以上の方が見に来てくださるようになりました。
本当に嬉しく、そしてありがたく思っております!
お気に入りも増えまして、とっても嬉しいで。

さて、今回からクラスメイトを中心とした話になります。
それでは、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


信頼を得るために

 一人居残りで教艦二人から訓練を受けていた彼方は、夕焼けの海に一人の艦娘がいるのを見かけた。

「あれは……」

 確か、同じクラスの吹雪型駆逐艦、一番艦の吹雪だ。

 吹雪は、何度も海の上をあちらこちらと走り回っている。

 艦隊行動演習の動きだ。彼女も一人で残って訓練していたようだった。

 一生懸命反復練習を繰り返す吹雪の姿に、少し前の自分が重なる。

 彼方は吹雪と話がしてみたいと思った。

 

 

 

「吹雪さん!」

 校舎から出て演習場に歩いていくと、一通り訓練を終えたのか、吹雪は桟橋の縁に腰かけて休んでいた。

「んぇええぇっ!?」

 海を眺めながら惚けていたのか、吹雪は予想もしていなかったことにすっとんきょうな声をあげてひっくり返った。

「あ、ご……ごめん。急に声なんかかけちゃって」

 それを見た彼方も慌てて謝罪する。

「う、ううん!大丈夫、ちょっとぼーっとしちゃってて!こっちこそ、ビックリさせちゃってごめんなさい!」

 立ち上がり頭を下げる吹雪に、思わず彼方も頭を下げる。

 お互い頭を下げ合うその滑稽な様子に、二人はどちらともなく噴き出すように笑いあった。

「そういえば……朝霧君はどうしてここに?」

「あー……実は僕もさっきまで教艦にこってり絞られててさ。帰り際に、こんな時間まで一人で訓練してる人がもう一人いたのが見えたから」

「あ、あはは……。最近凄いよね、朝霧君。教艦二人にびしばしーって」

 最近の彼方に対する訓練の苛烈さを思い出し、吹雪は両手で交互に叩くようなジェスチャーをしながら苦笑いを浮かべた。

「吹雪さんは、自主練?」

「あぁ~、吹雪でいいよっ。何だかさん付けされるとくすぐったくって!ーーうん、そうなの。私って、ほらーー鈍臭いから」

 みんなより、もっと一杯練習しないと!と小さくガッツポーズをして、吹雪はみなぎるやる気を表現した。

「それに、ほらっ。来週から提督候補生の指揮訓練で、艦娘と合同での訓練が始まるじゃない?せめて、一緒に組んでくれる人に迷惑はかけたくなくって……」

 眉尻を下げて、最後には元気をなくしてしまう吹雪。

 そうだ。彼方が居残りさせられていたのも実はその件だった。

 ーー彼方は指揮が得意ではない。

 安全策ばかり取る傾向があった。逃げ腰とも言える。

 艦娘を傷つけることを極度に恐れるような指揮をする彼方に、霞と鹿島の二人は時には虎穴に飛び込むような勇気も必要だと、こんこんと説いたのだった。

 

 

 

 その吹雪が話していた合同訓練に関して、彼方も問題を抱えていた。

 彼方はチームメイトがまだ決まっていないのだ。

 まさか訓練のチームメイトを教艦から選ぶわけにもいかない。

 未だそこまで仲のいい艦娘がいなかった彼方は、チームメイトを決めかねていた。

 その件でも、二人の教艦から速やかに決めるよう言われていたのだった。

「吹雪は、もう組む相手は決まってるの?」

 問われる吹雪は自嘲気味に笑いながら首を降る。

「ううん、まだ。こっちから誰かに声をかけるのも……迷っちゃって」

 恐らく自分に自信が持てないせいだろう。

 彼方も自分自身の指揮に自信が持てない以上、中々自分から声はかけ難かった。

 

 

 

「ーー吹雪、よかったらだけど。僕と組んでくれないかな?」

 お互い似たような状態だ。お互い様ということで丁度いいのではないかと彼方は考えた。

「えっ!?で、でも……いいの?私、あんまり強くないよ?」

「いや、それを言うなら僕の方だ。僕は正直な話、指揮がまだ得意じゃない。吹雪に迷惑をかけてしまうかもしれない。でも……」

「でも?」

 不思議そうに見る吹雪に、訓練をしていた吹雪の姿を見かけた時に感じた気持ちを素直にぶつけた。

「一人で頑張ってる吹雪を見て思ったんだ。君と一緒に頑張ってみたいって。ダメかな?」

 吹雪は快く承諾してくれた。

 

 

 

「ーーじゃあ、あと二人は私も探してみるね!」

 合同演習で組むチームメイトの人数は、提督候補生一人に艦娘三人の四人編成だ。

 チームにはあと二人の艦娘が必要となる。

「ありがとう、僕も何とか探してみるよ。これからよろしくね、吹雪」

「うんっ、これから一緒に頑張ろうね!」

 こうして彼方は吹雪と別れた。

 

 

 

 合同演習の行われる当日の朝。

 演習場前に集合するように言われていた生徒達が集まっていた。

 皆チームメイト毎に固まり、今日から始まる新しい訓練に期待を膨らませ、親睦を深めあっている。

 彼方は吹雪達を待ちながら、桟橋で海を眺めていた。

 そこへ、彼方の下に三人の艦娘を連れて太一がやって来た。

「おはよう。太一はもう決めたのか。彼女達が?」

「おう、おはようさん!そうそう。ーー知ってると思うけど。こいつ、俺の友達の朝霧彼方。多分これから絡む機会も多くなるだろうから、優しくしてやってくれ。いい奴なんだよ、教艦達には目の敵にされてるけどな!」

 太一が連れてきた艦娘達に適当に彼方を紹介する。

「はぁ……知ってるわよ、ウチのクラスじゃ有名人じゃない。叢雲よ、よろしく」

「曙よ。馴れ馴れしくしないでよね!」

「響だよ。不死鳥と呼んでくれても構わない」

 最後の響の自己紹介は本気なのか冗談なのか判断がつかない。

「朝霧彼方、よろしく。ーーそれにしても」

「意外だったか?」

 悪戯に成功したような顔で太一が笑う。

 そう、太一の性格とは正反対にみえる三人だった。

 一見高飛車そうに見える、強気で負けん気の強そうな叢雲。

 長いサイドテールを揺らし、ツンとした態度に少しだけ霞に似た印象を受ける曙。

 長い銀髪に帽子を目深に被り、神秘的な雰囲気をもつ響。

 誰もが太一の印象とはかけ離れている。

 すると太一はニヤリと笑顔を浮かべ一言ーー

 

 

「俺はMだからな!」

「「「気持ち悪いよ(わね!)」」」

 

 

 

 三人の突っ込みが同時に入る。

 意外と相性はいいのかもしれない。

「ところで、彼方のチームメイトは?」

「あぁーー多分そろそろここに来ると思うんだけど」

「おーい、朝霧くーん!」

 丁度到着したようだ。

「吹雪、おはよう。時雨とーー」

 吹雪の後ろには黒髪のお下げの少女。

 白露型駆逐艦 時雨は彼方に声をかけてきてくれた唯一の艦娘だ。

 そしてもう一人は、彼方が以前名前を呼んだときに無意識に艤装を展開してしまった少女だった。

 その少女は、吹雪の後ろに隠れ少し緊張した面持ちでこちらを見ている。

「ふ、吹雪……もしかしてーー」

「う、潮が吹雪ちゃんにお願いしたんです……。あの時は、ご迷惑をおかけしちゃって……謝らなきゃって、ずっと気になってて。だから……」

 潮が最後には涙目になりながら理由を説明してくれた。

 とりあえずは一緒に戦ってくれるらしい。

「ありがとう、その……これからよろしくね」

 名前を呼ぶことを躊躇う彼方に、潮は意を決したように口を開いた。

「あの……潮って、呼んでください」

「……わかった。潮、これからよろしくね」

「~~~~~っ。は、はいぃ」

 潮の決意を無下にしないため、彼方は潮を名前で呼んだが、今回は潮は顔を紅くして悶えながらも、何とか艤装が飛び出してくるようなことにはならなかった。

 

 

 隣でそのやり取りを面白そうに眺めていた時雨が彼方に向き直る。

「彼方、おはよう。僕も彼方には期待してるから、今日はかっこいいところを見せてほしいな」

「時雨を失望させないように、精一杯のことはするよ」

「謙虚だね。まぁそれも美点と言えば美点かな?」

 薄く微笑む時雨に、彼方は気を引き締める。

 今日から行うのは、彼方が提督となったら必ず行う、艦娘との信頼を築き上げ、勝利という戦果をあげるための大切な訓練だ。

 それは、吹雪達艦娘にとっても同じことだ。

 

 

 

 先程の太一達と同じように今度は彼方のチームメイトが太一に自己紹介を行っている。

 彼方達はお互いのことをまだ何も知らない。

 まずは互いの信頼を築き上げることから始めよう。

 

 

 

 霞が訓練を開始するため生徒達に呼びかける。

 緊張に顔を強張らせる吹雪を見ながら、彼方は決意を新たにした。

「それでは、合同訓練を始める。今日はチーム毎に模擬戦を行ってもらうわ!」

 

 

 

 彼方は初めて自分の意思で、演習とはいえ戦地に艦娘を送り出すことになった。




ここまで読んでくださって、ありがとうございました!

ここからは吹雪達がメインの話になります。
そして、戦闘シーンがグッと増える予定です。
書けるだろうか……頑張ります。

それでは、また読みに来てくださったら嬉しいです!
ありがとうございました!

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