艦隊これくしょん ー夕霞たなびく水平線ー   作:柊ゆう

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艦隊これくしょん、霞をヒロインとした提督とのキャッキャウフフな妄想を垂れ流すためだけの小説です。
霞ママに叱られたり甘やかされたりしたい……。

作者は本作が初の小説になりますので、拙い出来でお見苦しい点も多々あるかと思いますが、ご指摘頂けた際には直せるよう努力致しますので、よろしければ感想等お願いいたします。

通勤中や艦これアーケード待機中に主に執筆する予定なので、更新は相当緩くなってしまうと予想されます。
エタらないように頑張ります。
旗艦はもちろん霞ママです。ホロ欲しい。

それでは、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。


序章 運命の人
霞の休日ー1ー


『霞、急な話ですまないが今日の遠征は中止だ。』

 朝、いつものように遠征に出かける準備を完璧に済ませた霞は、出発の報告をしようと入った執務室で彼女の提督にそう告げられた。

 まぁ、それはいい。急な予定の変更など日常茶飯事だ。

 ならば出撃かと尋ねた霞に返ってきた答えは、

『いや、君は非番にする。街にでも出て今日は一日羽を伸ばしてきなさい。今日は日没まで鎮守府への立ち入りを禁ずる。』

 抗議の言葉も空しく、霞は鎮守府から閉め出されてしまった。非番。そう休暇である。

 街のことを良く知っていればそういった降って湧いた休暇も有意義に使うことができるのかもしれないが、生憎霞は最近この鎮守府に着任したばかり。

 街と言われても一度も行ったことはなく、かと言って連れだって街へ繰り出してくれる艦娘もいない。

 非番にされたのは彼女だけだからだ。

 これはどう考えても自分だけ蚊帳の外に置かれていた。

 

 

 

「ったく…どんな采配してんのよ…本っ当に迷惑だわ!」

 肩を怒らせ早足で街までの道を歩く霞は吐き捨てるようにそう独りごちた。そうしていないと沸々と湧いてくる怒りを抑えることが出来なかったのだ。

 蚊帳の外に置かれた理由は何であるのか…近々大きな反抗作戦でも行われるのか。もしそうだとすれば、自分が現状戦力的に心許ないのを理解している霞には、作戦会議に参加させてもらえないのも仕方のないことだと納得できた。だが、鎮守府から閉め出される程の扱いを受けるような覚えはない。自分の非力を理解しているからこそ与えられた任務は完璧にこしてきたし、命令違反も今の鎮守府に来てからはしていない。

 霞には今の状況は甚だ不本意なことであった。

 とはいえ、命令は命令。仕方なく霞は一人で街へ出ることにした。一人で考えていてもムカムカするだけで時間の無駄であるし、何より休暇をこうして無為に潰してしまうのは同僚の艦娘に対して申し訳ないと考えた為である。

 

 

 

 街に辿り着いて中心街までやって来た霞は、その様子に違和感を覚えた。

 そろそろ昼時だというのに、商店街を歩いている人間が少ないように感じたのだ。

 店主達だけが少ない客を取り合うためか、大きく声を張り上げていた。

(そういえば、最近近くの鎮守府が深海棲艦に攻め落とされたのが民間人に漏れたって話があったわね。)

 おそらく噂を聞いた者達の一部がこの街を捨てて内陸部へと避難したのだろう。

 

 ただでさえ人が少ない中を、見た目小学生の美少女が美しい銀髪のサイドテールを乱暴に揺らしながらせかせかと歩いている。手には少し間抜けにデフォルメされた鯛が描かれた紙袋。目立ってしまうに決まっていた。周囲から好奇の視線が向けられていることに気づいた霞は嘆息し、街へやって来たことを後悔し始めていた。

(こうなるんじゃないかと思ってたから、街に来るのなんて嫌だったのよ……)

 正直に言ってしまうと、霞は人間があまり好きではなかった。艦娘とは深海棲艦から人間を護るために生まれた存在だと言われている。霞本人もそれは自覚しているし、その与えられた使命を全うすることに疑問は感じていない。

 ただ、人間が艦娘をどう考えているかということに関しては、好意的な物ばかりではないと理解もしていた。

 

 

 

『お前達はただの喋る兵器に過ぎない。故に、造り出されたその瞬間から血の一滴すらも我ら人類のためだけに捧げることを義務づけられているのだ。』

 霞が初めて着任した鎮守府の提督は、訓練校から着任したての霞に向かってそう言い放った。

 提督というのは、艦娘にとって一番身近な人間だ。その護るべき対象である人間の代表にこんなことを言われては、自分達が命を懸けて戦う意味も志も持てはしないだろう。

 感謝をしろとは言わないが、せめて対等に扱って欲しかった。

 霞達艦娘は、『提督』という人間の存在によりその本領を発揮できるよう造られている。提督に名を呼ばれることにより艦娘としての力を引き出され、艤装の展開が可能となる。

 つまり、提督とは艦娘という兵器の引き金であり安全装置なのだ。護るべき対象でありながら、唯一共に戦うことのできる人類。

 確かに艦娘という存在は人類に対しても驚異になりうる武力を持つ。兵器としての側面を持っていることは疑いようもない。今となっては、ある意味では提督からあの言葉が出てくるのも仕方のないことだとも思えた。

 彼らが私達を一人の人間として認めてしまうということは、女子供を矢面に立たせ、自分達は安全な陸地に引きこもり、人類の命運を委ねてしまっているということを認めなくてはならなくなる。

 提督の言葉により死地に赴き戦って散っていく艦娘を受け入れるのは簡単ではないということだ。彼らだって艦娘に心があるということぐらい本音では理解しているだろう。

 しかし、それを認めてしまえば彼らのプライドはボロボロだ。ただでさえ矮小で卑屈で醜いプライドが。

 当時、その言葉に全く納得できなかった霞は命令違反を繰り返し、鎮守府を追い出された。

 

 

 

「全く、休暇が聞いて呆れるわ……。気が滅入るったら!」

 思い出したくもないことを思い出してしまった霞は、敢えて声に出すことで少しだけ自分を落ち着かせることに成功した。しかし、思ったより大きな声が出てしまっていたのか、周りの人間達が足を止めて驚いたような目でこちらを見ていた。

(しまった。これじゃ私大声で独り言叫んでるおかしな子供じゃない!)

 慌てて霞は逃げるようにその場を離れた。

 逃げることに精一杯で、どこに向かうかなど一切考えていなかったのだが、自然と足は海の方へと向かっていた。

 

 

 

 商店街を抜けしばらく歩き続けると、急に視界が開けた。

 横たわる道を渡れば堤防があり、その眼下には白い砂浜と青い海が広がっている。

 しかし、堤防には海と陸を遮るように物々しいフェンスと『すなはまにおりないで!かいじゅうがきみをねらってる!』等と書かれた看板が設置されていた。

「何この絵……ぜんっぜん似てないわね」

 海から覗く愛嬌たっぷりに描かれた恐竜のような姿を見て霞は思わず噴き出してしまった。

 深海棲艦の存在は民間人には秘匿されている。奴らは上位の存在程人に形が近づいていく。それは、艦娘に近づいていくと言い換えてもいい。民間人には艦娘と深海棲艦の区別などつけられるはずもないだろう。軍人にだって区別のつかない者もいるのだから。

 つまり、民間人に深海棲艦の姿が広まれば、艦娘を排斥する運動が起こることが容易に想像でき、そうなれば人類の破滅であると軍部が理解しているからこその処置であった。故に、民間人は海に現れた得体のしれない怪物を、どこからともなく現れた得体のしれない艦娘が退治しているということしか知らされていない。これでは艦娘に不信感を抱かない方が無理というものだ。

 

 

 

 ぼんやりと考えごとをしながら海岸線を宛てもなく歩きながら波の音に耳を傾けていると、不思議とささくれだった心が少しずつ落ち着いてくるのを感じた。

(街から見る海って言うのは、狭いのね……。私達は、この狭い海を護るために戦っているんだ。)

 正直実感が沸かなかった。

 今日一日街を歩いてみて感じたのは、民間人には護ってもらっている自覚など全くないのではないかということだった。

 軽い昼食を摂ろうと気まぐれに鯛焼き屋に寄った時、店主がにこやかに話しかけてきた。

『あらお嬢ちゃん、こんな時間に散歩かい?学校はどうしたの?』

 駆逐艦である霞は、確かに子供にしか見えまい。

 霞が取り出した身分証を提示すると、それを見た店主の顔色が目に見えて変わった。

『お!?ぁ……あぁ、艦娘様でしたか!失礼なことを致しまして、大変申し訳ありませんでした!何分、このような店に足を運ばれるとは思ってもみませんで……。』

 へこへこと頭を下げる店主。瞳にありありと浮かんでいるのは得体の知れない存在に対する恐怖だ。

 鯛焼きを受け取った霞は、一言謝意を伝えるとそそくさと店を後にした。

 

 

 

 霞はちょうどフェンスの切れ間になっていた部分の堤防に腰を下ろした。もうそろそろ夕方、鎮守府に帰るまでここで海に日が沈むのを眺めていくことにしたのだ。

(……別に感謝されたくて戦っている訳じゃない。だけど、あそこまで恐れられるようなことをした覚えもないわ。)

 すっかり冷めてしまった鯛焼きをもそもそとかじりながら、霞は今日一日を振り返った。

「……正直、楽しかった思い出なんてひとっつもないわね。」

 本当に、憂鬱だ。艦娘とは一体何なのか、命懸けで戦っていることに意味はあるのか。これなら任務に就いている時の方が余程良かったと思っていた。

 今日何度目かという程の嘆息を漏らす霞の視界の隅に、砂浜で動くものが微かに映った。

「あれ、子供じゃない!」

 あの物々しいフェンスや看板が目に入らなかったのか、少年は砂浜に腰を下ろして海を眺めているようだった。

 霞は少年に注意するため、砂浜に降りることにした。堤防から軽く飛び降りると5mは下にあろうかという砂浜に事も無げに着地する。艦娘である霞は、艤装を展開していなくとも提督との通信機を持っている限りは常人を遥かに超える身体能力を持っている。

 少年の下へと歩く霞は、不意に強い敵意を感じた。

「ーーッ!?」

 視界の隅に大きな黒い影が映った。今度は海の方で。

鯨のような、黒くて丸みを帯びた甲殻と怪しく光る緑瞳。その下には不恰好な程大きな口、そして極めつけには人間の脚が生えているという何とも生理的嫌悪感を催す風貌。間違いなく深海棲艦だった。

 霞は少年に向かって全力疾走した。艤装を展開しなくてはと考えている暇もない。人間が好きではない等と散々言っておきながら、霞は結局深海棲艦を倒すことよりも、少年を助けることを優先してしまったのだ。

(お願い、間に合って!)

 深海棲艦は駆逐イ級と呼ばれている最下級の深海棲艦だ。

 だからといって人間の子供など奴の主砲に掠りでもすれば消し飛ばされてしまうだろう。

 もう奴の射程圏内に入ってしまっている。

 少年は腰が抜けてしまったのか深海棲艦を見ていることしか出来ていない。

 とうとうイ級の口が大きく開かれ、砲塔が顔を出す。

 

 

 

「ダメぇええええ!!」

 

 

 

 静かな海辺に不釣り合いな轟音と、少女の悲痛な叫び声が響いたのだった。




これから続きを書き始めます。
今回は本当に導入なので、霞の可愛いところはこれからどんどん書いていきたいです。

ここまで読んでくださってありがとうございました。
もしよろしければ、また読みに来ていただけると幸いです。

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