赤鬼転生記~異世界召喚・呼び出された赤鬼は聖剣と魔剣を持っていない~   作:コントラス

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第二十鬼

 叩き込む拳は熊面を強かに打ち抜く。

 苦悶の声を上げることもできずに獣の巨体を吹き飛ばす。

 獣を吹き飛ばした長身の青年は追撃を掛けようと一歩踏み出し……。

 

 

「――っ!」

 

 

 たところで起き上がり様に放たれた爪が、それなりの距離があるにもかかわらず衝撃波を発生させて青年の身体を後方に流した。

 咄嗟に顔を庇う青年の剥き出しの手が、衝撃波に含まれた真空波で幾筋もの創傷が刻まれた。

 

 むくりと立ち上がった獣は熊そのものだ。違いと言えば、銀の体毛と40cmはある爪。何より、3mを超えるその図体だ。

 

 青年のいる場所は幅8mほどの足場、左右の壁は20mもの距離がある空間。

 青年、山口 宏壱が立つその場所は8m幅の土整の橋で成り立っている。橋を渡りきるまでの距離は50mといったところだ。

 自然にできたものであることは“魔光石”が橋に埋まっていることからも明白で、ダンジョンの一部であろうことが容易に推測できた。

 手摺もない橋の下は奈落の底だ。淡く照らされる崖下は底が見えないほど遠い。“魔光石”の光さえ届かない地獄の門が、宏壱か……それとも正面に立ちはだかる熊を引き釣り下ろそうと口を開けているような錯覚を宏壱にさせる。

 

 

――グアアァァッ!!

 

 

 空気を震わせる雄叫びが宏壱に恐怖と興奮を与える。

 熊は4本の足で駆けた。狙いは宏壱の首だ。

 眼前まで迫った熊は大きく身体を広げて掴み掛かってくる。それと同時に口を広げて獰猛な牙を見せた。噛みつくつもりだ。

 

 

「【剃】」

 

 

 宏壱は【剃】で後ろに逃げる。そう簡単に捕まってやるつもりは彼にはなかった。

 

 

「【嵐脚】!」

 

 

 離れた位置から左足を横に薙ぎに振るう。空振った熊の胴に真空波がぶち当たった。バシュッ! と音がして熊の30mほど後方にある壁がズガガガガッ!! と横に切り傷を作った。

 だが、当の熊にダメージは見受けられない。【嵐脚】を放ってから未だに体勢を戻していない宏壱に猛突進してくる。

 

 迎え撃つ……そんな命を捨てる真似はしない。

 宏壱は熊がタックルを仕掛けようと頭を俯かせた段階で跳び上がり、真下を通過する瞬間に前宙して踵落としを熊に叩き込む。が、さっきのように吹き飛ばすことも、体勢を崩させることもなく、熊は何事もなかったかのように通り過ぎた。

 

 

「切れたのか。【武装色の覇気】【見聞色の覇気】」

 

 

 着地した宏壱は身体を熊に向けて【武装色の覇気】と【見聞色の覇気】を掛け直す。

 SPがごっそりと減ったのが分かる。この熊と戦闘を始めて2、3度【武装色の覇気】と【見聞色の覇気】を掛け直している宏壱。時間にして30分は戦闘を続けている計算になる。

 培った戦闘技術とユニークスキルに救われてなんとか熊、レベル300を超えるメガベアーにギリギリで対抗していた。

 

 

「早く終わらせないと、リーナさんに心配を掛ける。ピッチを上げてくぞ!」

 

 

 背負う騎士剣、グレートソードを右手で抜く。宏壱の浮かべる表情は、メガベアーよりも更に獰猛で壮絶な笑みだった。

 

 ◇

 

 第4バセットダンジョン、55階層。転移魔法陣がある場所から小走りで駆ける複数の男女の姿がある。

 二股に分かれた道やT字路、十字路、横道と、少し入り組んだ場所を通るが、彼らに迷う素振りはなく、決められていたように道を進む。

 

 

「ったく、心配性だな。そんなに気に入ってたか? 勇者ヤマグチを」

 

「……アイテムポーチを取りに行くのに時間が掛かりすぎだ 。だから、迎えにいく。それだけの話だ。勘違いは止めてほしい」

 

 

 赤い鎧を纏う女性、リーナの返答を聞いて「そうかよ」とくすんで年季の入った軽装の鎧を纏った男性、リカルドは呆れたような声音で返す。

 

 彼ら、即席のクイーンアント討伐隊一行は来た道を引き返していた。と言っても、その人数は減っている。

 勇気リカルドペア、なずなランチェペア、晶カエデペア、其々の指導役を置いてきた秋穂、龍治、美咲、そして担任である陵子と宏壱の指導役であるリーナだ。

 彼らは「宏壱が心配だから戻る」と言うリーナに同行を求める形で一緒に引き返していた。

 

 他の討伐隊メンバーは、第4バセットダンジョンの入り口で待機していた部隊、メガベアー捜索隊と合流、彼らに事情説明を行い、重傷者の搬送を手伝ってもらい、マグガレンに帰還して各国への報告を行うことになっている。

 討伐隊のリーダーであるリカルドがいないと不便なのだが、そこはサコイに委任された。

 と言うのも、リカルド自身が妙な胸騒ぎを感じているのだ。

 それは宏壱が使った言葉に問題があった。

 

 

「“取りに戻る”……ヤマグチ殿はそう仰られました。違和感が残る言葉遣いです」

 

「……普通は“取りに戻る”ではなく、“探しながら戻る”と言うものね。“取りに戻る”では、まるで置いてきた物を取りに行くだけ、そう受け取ってしまうわ」

 

 

 カエデの指摘に秋穂が頷いて補足説明をする。

 無意識によるものか、宏壱は“取りに”という言葉を使った。言い間違え、そう言ってしまえばそこまでだが、リーナ達に妙な違和感を覚えさせるには十分だった。

 だからこそ、彼らは違和感解消のために引き返しているのだ。

 

 

「にしても、どこまで戻ったんだよ。全然見付かんねぇぞ」

 

「かなり奥だね。55階層にはいないのかな?」

 

 

 龍治が悪態を吐くと、晶は苦笑いして応答した。

 彼が気にしているのは宏壱を見かけないことだ。既に彼らは56階層に繋がる橋の近くまできていた。

 

 

「……ん?」

 

「バコフ、どうした?」

 

 

 突然立ち止まったリーナにリカルドが問う。

 しかし、リーナはリカルドに答えず前方を見据えて意識を集中する。

 リーナが立ち止まったことで彼らの足が止まった。

 

 

「なんだ? これは……戦闘音、か? だが、激し過ぎる。虫系ではない……」

 

 

 リーナは更に意識を集中する。微かにスンスンと臭いを嗅ぐ音が聞こえる。聴覚だけでなく嗅覚も使用し始めたのだ。

 

 

「獣と……血の臭い。獣はメガベアーで、血は――っ!」

 

「っ! おい!? なんだ……ってナズナ! 勇者スガノ!」

 

 

 リーナは臭いの根元に気付き駆け出すと、ある程度の予測をしていたらしいなずなと美咲もそれに乗じて駆け出した。

 周囲が声を掛けるが3人の耳には届いていない。

 

 彼女らの背を追い、リカルド達も走り出す。

 騒音は近い。それはリカルド達の耳にも聞こえてくるレベルで、メガベアーと遭遇した場所に確実に近づいていることを知らせていた。

 

 

「――っ!?」

 

 

 先頭を走っていたリーナは開けた場所に出る。メガベアーと遭遇した橋のある空間だ。

 そして正面、自分に迫る物体が2つ。

 まずは直剣だ。それはジェネガン王国の騎士団が使う騎士剣、グレートソード。

 ガッ! グレートソードはリーナに届く前に落ちて橋に突き刺さる。

 そしてもう1つ。リーナは真っ直ぐ飛んでくるそれを受け止めた。

 

 

「うっ!」

 

「なっ!? 勇者コーイチ!」

 

 

 宏壱だ。受け止められた衝撃で呻き声を上げるが、目立った外傷は少ない。

 

 

「おいおい、お前は一体何と戦っているんだ! 死にたいのか!」

 

「あんたら……っと、話は後にしてくれませんかねぇ?」

 

 

 リカルドが橋の中央で吼える銀色の熊を見て宏壱に怒声を飛ばす。リーナ達がここにいることに一瞬驚きの表情を見せたが、本人はどこ吹く風といった感じでリーナから離れてグレートソードに右手を伸ばす。

 

 

――ウ゛ォォォオオオッ!!

 

 

 チャッ、と音を立てて引き抜かれるグレートソード。それと同時にメガベアーは四肢を隆起させて宏壱に向かって突進を始めた。

 引き抜いたグレートソードを宏壱は大きく振りかぶると、投げた。

 縦回転しながら迫るグレートソードをメガベアーは右に転がって躱した。

 

 

「止まったな?」

 

――ッ!

 

 

 メガベアーが躱したグレートソードを【剃】で追い掛けていた宏壱が右手で掴んで斬り下ろす。

 斬り下ろされたグレートソードがメガベアーの横っ腹を叩く。

 

 

「ちっ! やっぱ(かて)ぇっ、うおっ!」

 

 

 グレートソードはメガベアーに大した効果はない。それは十数分にも渡る戦闘で理解していた。しかし、ダメージはある。続ければ倒せると気長にやっていた。

 裏拳気味に振り上げられた左前足を後ろに跳んで躱す。

 

 

「っとと、とぉ!」

 

 

 橋の縁ギリギリまで下がったことで少しバランスを崩す。そこにメガベアーの攻撃、右前足の振り下ろしが宏壱を襲う。

 右斜め前に飛び込んで回避、すれ違い様にグレートソードを横薙ぎに振るって胴に当てて離れる。

 

 

「勇者コーイチ! 我らも……!」

 

「邪魔すんなっ!」

 

「――っ!? ぇ? ゆ、勇者コーイチ?」

 

 

 手助けを、と踏み出そうとしたリーナを怒声で止める。

 思わぬ言葉にリーナの動きが止まる。背を向けた宏壱の顔は見えないが、相当なプレッシャーをリーナは感じていた。

 

 

「今いいとこなんだよ。邪魔しないでくれ」

 

「あなたは……本当に山口君なの、ですか?」

 

 

 陵子が疑問の声を上げた。彼女の知る宏壱とは明らかに違った。その片鱗自体は今回何度も見てきたが、ここまでの豹変と言えるものはなかった。

 

 

「それ以外の何に見えるんだ? ……さて、誰にも邪魔はさせねぇ。俺とテメェ、どっちが先にくたばるか、殺し合おうぜ、熊公!」

 

――ッ!

 

 

 宏壱の言葉に答えるように、メガベアーは声なき咆哮を上げる。

 もう互いに相手しか見えていない。誰がどう声を掛けても宏壱の耳には届かない。全意識を総動員しなければメガベアーには勝てないのだ。

 

 

「しっ!」

 

 

 宏壱は2本足で立ち上がったメガベアーの懐に飛び込みグレートソードを横薙ぎに振るう。

 ドスッ! 強烈な一撃を受けながらもメガベアーは左前足を袈裟懸けに振り下ろす。

 予め重心を左に傾けていた宏壱は、左膝の力を抜いて身体を落とすことで回避、隙ができたメガベアーの左後ろ足を突く。

 攻撃を加え終えると同時に2歩下がる。一瞬前まで宏壱の顔があった場所を、メガベアーの右前足が唸りを下て通過する。

 

 通過する右前足と入れ替わるように前へ出た宏壱は、一撃、二撃、三撃とグレートソードを振るいダメージを与える。

 付いては離れ、離れては付く。それを徹底して宏壱は確実に攻撃を加えて、回避する。

 それを可能にしているのは【見聞色の覇気】だった。

 【見聞色の覇気】は簡易的ではあるが、ある程度思考を読むことができる。それを利用して宏壱はメガベアーが攻撃を放つよりも前に行動を起こし、ギリギリのところで回避していた。

 

 

「おらあっ!」

 

 

 気迫一閃。メガベアーののし掛かるような攻撃を後ろに跳んで回避した宏壱が、頭が下がったメガベアーにグレートソードを斬り下ろす。

 が、それは急に身体を起こしたメガベアーの頭頂部すれすれを掠めて通り過ぎ、橋を穿った。

 

 

――ガァアア!!

 

「ぐぅっ!?」

 

 

 メガベアーはその場で交差させるように両前足を振り下ろす。すると、衝撃波が発生して宏壱を襲った。

 スキル【ベアクロー】。前足の振り下ろしで衝撃波を発生させ、間合いの外の敵を吹き飛ばす攻撃だ。衝撃波の中には斬撃が混じっていて、相手の皮膚十数ヵ所を浅く斬り裂く。

 

 それは宏壱も例外ではない。

 予想外に回避され、動きを止めた宏壱はまともに衝撃波を受けて吹き飛ぶ。その際に、露出している頬と首筋を数ヵ所斬り裂かれた。

 

 

「くっ! 【見聞色の覇気】が切れたか。やるなメガベアー!」

 

 

 空中で体勢を整えて、ザッと着地した宏壱が笑みを浮かべて言う。

 回避も受けもできなかった理由は【見聞色の覇気】の効果が切れたからだ。

 それに伴い、【武装色の覇気】も切れているだろうことが予測できる。

 

 

「死ぬのはごめんだ、【剃】!」

 

 

 スキルを掛け直す暇もなく襲い来るメガベアーから【剃】で後方に下がって距離を取る。

 

 

「【ファイアーボール】!」

 

 

 グレートソードを持つ手とは反対の手をメガベアーに向けて火球を放つ。火球はメガベアーに直撃、爆炎に飲み込まれる。

 この隙に宏壱はスキルを掛け直そうとするが、爆炎に飲み込まれたメガベアーが煙と火の粉を纏って姿を見せた。

 

 

「ちっ! コイツ、魔法に耐性があるのか!」

 

 

 四つん這いで駆けてくるメガベアーに宏壱は反応が遅れた。

 接近したメガベアーは立ち上がり両前足を大きく広げ……宏壱にのし掛かった。

 

 メガベアーの体重を支えきれず、宏壱は後ろに倒れる。咄嗟に右膝をメガベアーの腹部に、右腕を喉に押し当てて空間を作った。

 

 

「ぐぅ、テッ、テメェ! くせぇ涎垂らすんじゃ、ねぇ!」

 

 

 涎を垂らし、大口を開けて宏壱に噛みつこうとするメガベアー。その目は完全に捕食者のそれだ。

 

 

「勇者ヤマグチ待っていろ! 今――「邪魔、すんじゃねぇ! ぶっ殺すぞテメェら!!」――……っ!? 何を言っている! 状況を分かって言っているのか!?」

 

 

 なんとか逃れている宏壱を見て、傍観者となっていたリカルドが動き出そうとするが、救助対象である宏壱がそれを拒む。

 

 

「黙って、見てろ!」

 

 

 そう告げた宏壱はもう取り合う気はないと意識を再びメガベアーだけに集中する。

 鼻先20cmの距離にメガベアーの口がある。押しては引いて、引いては押す。何度も何度も宏壱に噛みつこうと必死だ。

 宏壱も腕に力を入れて引き剥がそうとする。しかし、STRに大きな差があるのか、寄せ付けないだけで手一杯だった。

 

 

「【武装色の覇気】【見聞色の覇気】……? 思考、が、読め、ないっ? SPが、切れたか?」

 

 

 発動した形跡が見られず、宏壱はその原因に当たりを付ける。

 しかし、今の宏壱の状況では技力回復薬を飲むこともできない。

 

 

「【指銃】!」

 

 

 ドスッ! 宏壱の左手の人差し指がメガベアーの胸部を突く。宏壱の持つユニークスキルに比べて【六式】はどれも低燃費だ。

 それは宏壱が幾百、幾千年と研鑽を積んだ賜物でもある。

 それから幾度もドスッ! ドスッ! ドスッ! ドスッ! とメガベアーの胸部を突く音が響く。

 他の面々には見えない場所で、着実にダメージを与える宏壱。だが……。

 

 

「っ!? 【鉄塊】! がぁああぁぁっ!!?」

 

 

 メガベアーが一度大きく引く。腕に力を入れていた宏壱はそれで力の向けどころを失う。その拍子に体勢が崩れた。が咄嗟に【鉄塊】をして膝を再度メガベアーの腹部に当てる。が、右肩に噛みつかれた。

 激痛が宏壱を襲う。骨を砕かれるような痛みを感じながらも、思考は早急な打開策を模索する。

 痛みから逃れたいだけではない。動き出そうとするリーナ達に水を差されたくないのだ。

 

 

「【炎神】!」

 

――グギャァァアアア!!?

 

 

 突如、宏壱の肩が燃え上がりメガベアーの口内を焼く。これには堪らず、メガベアーは口を離して起き上がり、宏壱から距離を取った。

 

 

「んく……んく」

 

 

 宏壱は立ち上がっりながら回復薬と技力回復薬を2本一気に飲んだ。

 

 

「回復っと。口の中を焼かれるのは流石に辛いだろ? もっと味わうか?」

 

 

 グレートソードを背負い、笑顔で言う宏壱の両拳から肘上辺りまでを炎が覆う。

 その光景にざわつく後ろの観客達を気にも止めず、左半身になって構える。

 

 

「【武装色の覇気】【見聞色の覇気】……すぅ……【剃】っ!」

 

 

 スキルを掛け直すと、宏壱は静かに空気を吸い、鋭く息を吐いて前に飛び出す。

 地を這うような低い姿勢で疾駆する。メガベアーとの距離は僅か5m。その距離を一瞬で詰め……。

 

 

「――っ!」

 

 

 ズバシュッ! と今までにない音を響かせてメガベアーの胸部を宏壱の右拳が打つ。

 ジュゥゥッ、纏った炎がメガベアーの胸を焼いた。

 

 

 ――ッ!!!

 

 

 声なき悲鳴を上げながらもメガベアーは怒りの形相で腕を無茶苦茶に振るう。

 それを避ける、殴る、避ける、殴る、避ける、殴る、避ける、殴る。幾度も、幾度も繰り返す。

 打撃音と肉を焼く音、風の逆巻く音が響く。

 が、それも長く続かない。突然拳を包む炎が消える。

 

 

「もう切れたのか!? ……【鉄塊】! ぬぐぅっ!」

 

 

【炎神】の効果が切れたことで急激な魔力の減少が一気に押し寄せて動きが鈍る。その隙は致命的だったが、なんとか【鉄塊】の発動して右腕を立てて顔を守ることに成功した。

 振り抜かれたメガベアーの右前足が宏壱の腕を打つ。踏ん張った宏壱の足が橋を砕く。それも一瞬、宏壱の身体は真横に弾き飛ばされる。

 

 

「がはぁ!」

 

 

 宏壱は背中から壁に叩きつけられ、大きく壁面をヘコませた。

 

 

(……意識が……ぁっ)

 

 

 背中から伝わる激痛。チカチカと明滅する視界。宏壱は必死に飛びそうな意識を繋ぎ止める。

 

 HPは3割を一気に失うと30%の確率で意識が飛ぶ。5割になると50%。7割で70%。9割で100%。この確率はステータス外の能力、本人の意思の強さやどれだけ痛みに強いかでどちらに傾くかが決まる。

 宏壱の失ったHPは5割近い。持ち堪えられたのは経験や胆力の賜物だった。

 

 閑話休題。

 

 明滅する視界の中で宏壱はメガベアーが大きく口を開けるのが見えた。

 

 

「ウィンド……ボール!」

 

 

 開けた口の中に風が集束、直径40cmほどの風の球ができ上がる。

【ウィンドボール】。謂わば【ファイアーボール】の風魔法バージョンである。

 それが放たれ……直撃して壁面が弾けて砂埃が舞った。




長くなったので2話に分けました。

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