赤鬼転生記~異世界召喚・呼び出された赤鬼は聖剣と魔剣を持っていない~   作:コントラス

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第十鬼

 死角から迫る大剣に宏壱は気付いた……が、遅かった。避ける暇がない。

 

 

「――っ!? 【鉄塊】!」

 

 

 ギイィィンッ!!

 

 鉄と鉄を擦り合わせたような音が響き火花が散った。

 突然の奇襲に反応が遅れた宏壱は避けることをせず、【鉄塊】でリーナの斬撃を受けきった。

 

 

(硬いっ! 人体を斬り付けた感触ではないぞ!)

 

 

 女神の加護がある制服のDEFは上下合わせて2000だ。この数値は防具として驚異的で、リーナでさえこれを身に纏った勇者達にダメージを与えるのは至難の技だ。

 しかしだ。ダメージは抑えられても、衝撃を抑えることはできない。

 幾ら防具が優れていても、扱う本人の技量が追い付いていなければ意味はない。受けた衝撃を吸収し外に逃がす技術が必要だ。それはスキルでは会得できない“経験”に依るところが大きい。

 それはリーナも分かっていた。宏壱はリーナが舌を巻くほどにそれが上手かった。だからこそ、宏壱には他の勇者にはない“経験”があると思っていた。

 

 しかし、今回の攻撃は死角からで、昨日までの宏壱なら衝撃を逃がすどころか、スキルの発動などできず、認識する前に昏倒していただろう。

 だが今は違う。既に宏壱のレベルはリーナクラスだ。回避は不可能でも、スキルの発動は間に合った。これは飛躍的な進歩と言える。

 

 

「……やはり、隠していましたね。他にないスキルをっ……!」

 

「いえ、ユニークスキルじゃないです、よっ!」

 

 

 宏壱は右肩に乗る形で止まったレッドクレトスを弾き、右足で跳んで身体を捻り左足を蹴り出す。

 リーナは宏壱の蹴りを体勢を崩しながらも左腕で受けた。

 

 

「……ぐっ!(重たい! 衝撃を逃がしきれない!)」

 

 

 ザザァァァッ!

 

 リーナの両足が地面を滑り、5mほどの距離が空く。

 

 

(ダメージは恐らくない。だが……)

 

 

 リーナは痺れる左腕を気にしていた。逃がしきれなかった衝撃は、鎧を突き抜けてリーナの腕の芯を捉えていた。

 

 

(回復までに少し時間が掛かる……だがっ!)

 

 

 思考は一瞬、その刹那の時間に宏壱はグレートソードを抜き、リーナに斬り掛かっていた。

 

 リーナの回復を待つほど宏壱は優しくはない。

 手応えは感じていた。リーナの左腕が暫く動かせないことは分かっていた。だからこそ休む暇を与えない。

 

 

「……っ!」

 

 

 リーナは右から袈裟斬りに斬り下ろされるグレートソードを、右側に屈んで躱す。

 それを予測していたのか、宏壱はグレートソードは半ばで起動を強引に変えてリーナの胴を狙う。

 

 

「……っ!」

 

 

 リーナは後ろに跳んで間合いの外に逃げることで躱したが、横凪ぎが突きに変わりリーナの胸を狙い追う。

 

 

(くっ!? 速いっ! パワーもスピードも桁違いだ! この方は強くなるとこれほどまでに厄介なのか!)

 

 

 突き出されたグレートソードを半身になって躱す。全身を伸ばしきっていた宏壱はリーナの前を通過した。

 右足で急制動を掛けて止まり、そして屈んだ。宏壱の頭上、胸のあった位置を紅の大剣が通り過ぎた。

 

 

「はっ!」

 

「ぐぅっ!」

 

 

 レッドクレトスを横凪ぎに振るって隙のできたリーナの腹部に、宏壱は左後ろ蹴りを叩き込んだ。

 

 宏壱は直ぐに上体を起こして反転、後ろ蹴りで蹴り飛ばしたリーナを追い斬り掛かる。

 

 

「ぐぅっ!」

 

 

 だが、体勢を崩しながらもリーナは大剣を宏壱のグレートソードに当て、できた隙に左足を鞭のように振るい吹き飛ばした。

 

 

「く、はっ。やりますね……!」

 

 

 空中で後方宙返りをして宏壱は着地した。蹴りを受けた腹部を左手で押さえながらも視線はリーナに向いている。

 

 

「勇者コーイチもお強くなりました……いえ、元々それだけの力量を持っていたのですね?」

 

 

 痺れが引いたのか、リーナは左拳を握ったり開いたりを数度繰り返して、レッドクレトスを両手で握り込む。

 

 

「さて、どうでしょう……」

 

 

 惚けた宏壱はグレートソードを背中の留め金に嵌め込み拳を構える。

 

 

「徒手空拳ですか……」

 

「ええ、僕の本領はこっちなんですよ。ただ、剣も使えるってだけで」

 

「それは先程の答えですか?」

 

「さて、どうでしょう」

 

 

 軽口を叩きあった二人は同時にニヤリと口角を上げて飛び出す。

 常人で視認できない速さで駆けた二人は、互いの中心点で拳と大剣をぶつけ合った。

 

 ◇

 

 模擬戦と言うには激しすぎる闘いを繰り広げた宏壱とリーナ、それを見学していた晶とカエデの姿は食堂にあった。

 

 

「うん、美味しいね、これ」

 

「『フレイムポークのレバーとヤドギリソウ炒め』ですね」

 

 

 宏壱は陽炎を纏うレバーに舌鼓を打つ。

 レバーの纏う陽炎は口に入れると一瞬で肉汁を含んだ上気に変わり口内を満たす。肉の弾力はゴムのようで幾ら噛んでも千切れることはできないが、噛めば噛むほど肉汁が溢れて旨味が増す。その度に水を絞ったスポンジのように縮み、最後には米粒サイズまで小さくなり飲み込むのが定番の食べ方だ。

 と言うか、噛んで縮めなければ飲み込むことは不可能に近い。

 

 

「この『フロッグラビットの串焼き~自家製濃厚タレ付け~』も美味しいよ」

 

 

 フロッグラビットとは、ウサギの耳のような触覚を持ったカエルだ。沼地に多く棲息していて、虫を食べるだけの害のない魔物だ。

 味はチキンそのもので、晶が食べているのは焼き鳥のようなものである。

 

 

「今日は明日に備えての準備期間なので街に下りて道具を買い揃えましょう」

 

 

 白濁としたスープを一口スプーンで掬い、飲んだリーナがそう提案した。

 

 

「それは良いんですけど……何で三船君とカエデさんが一緒に?」

 

「あれ? 山口君はイヤ? 僕たちが一緒にいるの」

 

「そうじゃない、けど」

 

 

 悲しそうに晶に見られ、拒絶する理由もない宏壱は口籠もった。

 

 

「じゃあ、良いよね」

 

「まぁ、良いけど……っと、そういえばリーナさん」

 

「……んっく……何でしょう?」

 

 

 咀嚼していた料理を飲み込んでリーナは首を傾げた。

 

 

「クイーンアント討伐隊のメンバーは誰です?」

 

「あ、そうですね。話していませんでした。……私と勇者コーイチ、勇者ミフネ、カエデ殿。他に勇者オオワシ、その指導役である人族騎士団総団長のリカルド・ボレア殿。勇者ニシムラとその指導役、エルフ兵団第三士団長エカーヤ・アソップ殿。勇者アカツミネとその指導役、妖精族のランチェ殿。勇者イナモリとその指導役、紺碧騎士隊・三番隊隊長、ラベス・レッツェ殿。勇者サエシマとその指導役、ドワーフ兵団団長、ドン・ヤッゴ殿。勇者ミヤハラとその指導役、聖白騎士団団長補佐、サコイ・ルニーノ殿。勇者アマミとその指導役、ルニーノ殿と同じく聖白騎士団団長補佐、マリヤ・ウェット殿、勇者アサイとその指導役、マグガレン王城書庫の司書、獣人族のパレリア・メドッソ。勇者スガノとその指導役、カエデ殿同様、ジェネガン国王陛下の近衛師団、ヨツキ・ミハラ殿。この11組が討伐隊になります」

 

「……随分と大所帯ですね」

 

「本当であれば全勇者を宛がいたかったのですが、それでは万が一が遇った時、我々が守りきれるか分かりませんでしたから、現在伸び代のある勇者に経験を積ませることになりました。ですから、我々指導役は、サポートメインで同行することになっています」

 

 

 クイーンアントは瘴気を吸収して卵を産み、子を増やす。それに制限はない。

 放置すれば大災害となり得るが、今の段階だと格好の経験値稼ぎの獲物だ。

 

 

「それじゃ、早く食べて道具を揃えに行きましょう」

 

 

 宏壱のその言葉で食事は再開され、彼らは城下街へと足を運んだ。

 

 ◇

 

「はぁ……」

 

「どうかしたんですか~?」

 

 

 溜め息を吐く少女が1人。そんな少女の顔を心配気に覗き込むのは、約50cmほどの背丈しかない妖精だ。

 

 外に跳ねた淡い水色の髪を短く切り、頭の頂点からは3cmほどの髪の毛が若干前に傾いて伸びている。

 目はぱっちりと大きく、ライトグリーンの瞳。

 着ている衣装は草色のワンピースだ。細身の身体の線が浮き出ている。

 その細身の身体の背中には透明の羽が2対、身体に触れるか触れないかの微妙な間隔を空けて存在していた。

 この羽は身体から生えているわけではない。魔力で出来ている擬似的なものだ。

 妖精族は性行為ではなく、自然から生まれる。その象徴として透明の羽が背中に出来ると言われているが、詳細は定かではない。特に使い道があるわけではないが、あっても困るものでもないため、誰も気にしていない。

 

 そんな妖精族の少女、ランチェは気分を落とす少女の周囲をふよふよと漂っていた。

 

 

(今日も全然話せなかった)

 

 

 落ち込む少女、なずなは自室のベッドに腰掛けて思い耽る。

 考えることは宏壱のことだ。先日、話をすると決意したものの、話す機会がいっこうに訪れなかった。

 話し掛けようとすると、勇気が必ずなずなを呼び止めるのだ。その間に宏壱はなずなの視界から消え、話し掛ける機会を失する。

 そんなことを幾度か繰り返して既に深夜だ。明日は朝からクイーンアントの討伐がある。二人で話す機会はもうない。

 

 当然形振り構わなければ話すことは可能だ。勇気を無視し、宏壱の都合を度外視すれば話もできる。だが……。

 

 

(そんなこと、できるわけないよ。これ以上、わたしは宏壱(・・)くんに嫌われたくない……)

 

 

 なずなは宏壱の機嫌を損ねることを恐れて、踏み込めずにいた。

 

 

「う~ん? 本当にどうしたんですか~?」

 

 

 なずなの指導役である妖精族の少女、ランチェは困り顔で首を傾げた。

 

 

「……はぁ」

 

 

 なずなはランチェに答えず、三頭身の鬼のような顔をした強面の人形を指で(つつ)く。

 

 

「あの~? ……むぅ~、反応してくれません~。すぅー」

 

 

 何度呼び掛けても答えないなずなに痺れを切らせたランチェは、なずなの耳元で大きく息を吸う。

 

 

「なーずーなーちゃーんっ!!」

 

「ひゃあああっ!?」

 

 

 ランチェの大声量になずなは飛び上がり、ベッドから落下した。

 

 

「な、なに!? み、耳がキーンってする!」

 

「ふ~、ようやく気付いたみたいですね~」

 

 

 ランチェの大声量で痛む耳を押さえて驚くなずなに、ランチェは腰に手を当てて膨れっ面を作る。

 

 

「あ……ランチェちゃん」

 

 

 ベッド脇で座り込んだなずなは眼前に浮かぶランチェを見て呆けた声を出す。

 

 

「ランチェちゃん……じゃないですよ~。まったく。何度も呼んでいるのに~」

 

「そうなんだ。……ごめんね。ちょっと考え事してて」

 

「この分じゃあ私の説明、聞いてませんね~?」

 

「説明?」

 

 

 ベッドに再び腰掛けて、クエスチョンマークを頭に浮かべるなずなにランチェは「やっぱりです~」と溜め息混じりに呟いて、「良いですか~?」と前置きをして続ける。

 

 

「明日、大規模な討伐作戦があります」

 

 

 ランチェは間延びした喋り方を意識的に引っ込めた。

 

 

「討伐作戦?」

 

「そうです。極希に第4バセットダンジョンにはアントを産み出し統率するアント、クイーンアントが発生します」

 

「……クイーンアント」

 

「はい。彼女から産まれたアントは強い縄張り意識と、連帯感を持っています。しかも無尽蔵に産み出されるアントは巣を拡大させるんです。これはダンジョン内で止まりません」

 

「え、それって」

 

「なずなちゃんの想像の通りです。……話は変わりますが、昨日、勇者様の1人が重傷で運び込まれたのを知っていますか?」

 

 

 そうランチェに聞かれたなずなは数秒記憶を巡らせて……。

 

 

「……ごめん」

 

 

 謝った。

 

 

「別に謝る必要はないですけど~……勇者様の間ではけっこう広まっているみたいですよ~?」

 

 

 そんななずなに気が抜けたのか、ランチェの口調は元に戻っていた。

 

 

「こほん……私が回復魔法を掛けて治療したんですけど、酷い怪我でした。右腕はあらぬ方向に曲がり、胸骨に助骨も数本折れていました。額が割れて多量の出血、頬にも幾筋の切り傷が見られました」

 

「ええっ!? だ、大丈夫なの?」

 

「発見された時も、命が危ういということはありませんでしたし、HP自体それほどの減少はなかったみたいです」

 

「そっか、良かった」

 

 

 ほっとなずなは胸を撫で下ろす。クラスメイトがそんな事態に陥っていたとは夢にも思っていなかったのだ。

 

 

「普通なら今日は絶対安静なんですけど、早朝から訓練をして、明日の準備のために城下街に出掛けて、お昼からは王城の書庫にいたみたいです」

 

 

 ランチェは王城の使用人を介して聞いた怪我人、宏壱の今日一日の行動を言葉にして並べた。

 

 

「す、凄いね。わたしだったら動けないよ」

 

「回復魔法も万全ではありません。後遺症にある程度の鈍痛がする筈ですし、疲労も抜けていない筈です」

 

「だよね。それを耐えて動くって凄いなぁ」

 

「……」

 

 

 ランチェは少し考えるようにふよふよと漂いなずなに視線を向けた。

 

 

「……耐えてと言うのは少し違うと思います」

 

「違う?」

 

「我慢すると言うより、多分麻痺しているのではないでしょうか?」

 

「麻痺? それって感覚がってこと?」

 

「いえ、正確には痛覚でしょう。多分もっと痛い思いをしたことがあるんだと思います」

 

「……もっと?」

 

「はい。今回の傷を上回る大怪我を負ったことがあって、それ以下の痛みには強くなっている。しかも、一度や二度ではないです。何度も何度も……そう考えた方が妥当だと思います」

 

「……何度も何度も……ね、ねぇ、それって……」

 

 

 なずなには心当たりがあるのか、生唾を飲み込みながら緊張した面持ちでランチェに聞く。

 

 

「勇者コーイチ様です」

 

(やっぱり)

 

 

 なずなにとって今の問い掛けは確信に近いものがあり、認識を確たるものにするための確認作業に過ぎなかった。

 そしてそれはなずなの思い描く人物と同一で、揺るぎのないものだった。

 

 

「彼の指導役であるリーナ・バコフ様の話では、彼には実戦経験があるそうです。死線を潜り抜けてきた自信と、強者に勝つための技術。私も見たんですけど、あのしなやかな筋肉と身体に残る幾つもの古傷は研鑽された老兵みたいでした」

 

(銃痕に刀傷、打撲痕、火傷……知ってるよ。みんな、誰かを守った時の傷跡だもん)

 

「なずなちゃんに聞く地球という世界の医療技術で、治療できるものじゃないものもいくつかありました。あの傷の塞がり方からして、多分自然治癒に任せたものです。竜人族や魔人族、魚人族の再生能力は群を抜いて高いです。でも、でもですよ? 人族である彼が、あれほどの再生能力をどうやって身に付けたんですか? 人の身でありながら、人を遥かに上回る能力をその身に秘め、46体もの自分のレベルを大きく超えるアントを倒せたんですか!」

 

 

 話が進むにつれてランチェの声量は上がり、ズイ、ズイとなずなに近付いていく。

 

 

「ち、近い! 近いよ! それに話が逸れてる! クイーンアントとこう、じゃなくて、山口くんに何の関係があるの?」

 

「むぎゅっ」

 

 

 なずなは興奮を隠しきれず、顔に近付いてくるランチェを右手で押し返した。

 

 

「そ、そうでした。実は昨日――」

 

 

 そこからランチェの長い説明がされた。

 

 宏壱が冒険者ギルドに登録していること。

 依頼内容と依頼の過程で晶と組むようになったこと。

 依頼遂行中にダンジョン外でアントに襲われたこと。それを撃退したこと。

 晶に護衛対象の安全確保と異状事態を報せるためにマグガレンへの帰還を勧め、宏壱自身はアントの発生源を調査するために残ったこと。

 そして見付けた穴から出てくるアントを1人で食い止めたこと。

 晶の報告を受け、別件で出ていたリーナを初めとした数人の指導役が駆け付けた時にはアントの出現は止まり、宏壱が気を失って倒れていたこと。

 それから集った各王と全指導役がいる場で、クイーンアント発生が宣言されたこと。

 

 そんな説明が、30分を要して行われた。

 

 

「そんなことが……」

 

「多分他の勇者様にも説明されると思うんですけど、勇者コーイチ様のお名前が出るかは微妙です」

 

「どうして? 山口くんのお陰で知れたんだよね?」

 

「そうなんですけど……指導役の殆んどは余り勇者コーイチ様のことを快く思っていません」

 

 

 それはなずなも感じていたことだった。

 聖剣も魔剣も持たない宏壱はレベルの上昇速度が他の勇者に劣り、初期ステータスにさえ差があった。

 

 ◇◆◇

 

 Lv1 名前:ナズナ・アカツミネ(♀)

 

 年齢:17

 

 種族:人族

 

 HP:469

 

 MP:273

 

 SP:280

 

 STR:267(+100)

 

 DEF:299(+2000)

 

 INT:389

 

 AGL:313(+200)

 

 DEX:343

 

 MND:367(+2000)

 

 LUK:54

 

 《スキル》

 

 菅野流棒術 月華(げっか) LvMAX SP20

 

 菅野流棒術蜂突(ほうとつ) LvMAX SP20

 

 菅野流歩法術音蜂(ねばち) Lv5 SP10

 

 《魔法》

 

 なし

 

 《称号》

 

 菅野流棒術有段者・勇者・聖剣を持つ者

 

 《装備》

 

 武器:なし

 

 防具:頭・なし

   上・内宮東高校制服ブレザー(DEF+1000 MND+1000)

   下・内宮東高校制服ズボン(DEF+1000 MND+1000)

   足・内宮東高校指定革靴(STR+100 AGL+200)

 

 ◇◆◇

 

 なずなの初期ステータスだ。

 称号の少なさやスキルの違いは当然だが、ステータスの値がどれも宏壱を上回っている。

 これは称号の『聖剣を持つ者』が大きく関係している。

 

 ◇◆◇

 

 聖剣を持つ者……己の内なる聖剣を獲得できた勇者。初期ステータス増。経験値取得が2倍になる。レベル上昇時、ステータス上昇値が増す。

 

 ◇◆◇

 

 勇者は聖剣、魔剣で初期ステータスが高くなると決まっていた。それを勇者達のステータスを把握していた指導役達は、宏壱を指導することを嫌った。

 

 

「ですから、勇者コーイチ様がお活躍になられた、というのを認めたくないんです。自分が見切りを付けた勇者がそんなまさか……なんてちっぽけなプライドが邪魔をするんです」

 

「うーん? 分かるような、分からないような……」

 

「分かる必要なんてないです。勇者様の指導を一種のステータスだと考えている人も多いです。だからそんな傲慢さが生まれてしまうんです」

 

 

 ランチェはぷんすかと怒る。指導役の勇者を見る目が気に入らないのだ。

 

 

「でもみんなじゃないんだよね? 誰かは山口くんのことをしっかり見ているよね?」

 

「勿論です。私もそうですし、勇者コーイチ様の指導役、リーナ・バコフさん、勇者アキラ様の指導役、カエデ・ミカグラさん、あとはリカルドさんとか他にも数人いる筈です」

 

「あ、そっか、リカルドさんはそういうの気にしないよね」

 

「はいです」

 

 

 リカルド・ボレア。勇気の指導役を務め、ジェネガン王国の全騎士団を纏める総士団長でもある男だ。

 大柄な体躯を持ち、戦闘経験が豊富で騎士団の指揮も的確だ。

 

 勇気、淳、秋穂とパーティーを組んでダンジョンに潜ることが多いなずなは、3人の指導役との面識も当然あった。

 

 

「さて~、明日は早いです~。もうお開きにしましょう~」

 

「うん、そうだね。……今日はこっちで寝る?」

 

 

 話が一区切りしたところで真面目モードの切れたランチェがそう言うと、なずなも同意だと頷く。それから続けてベッドをポンポンと叩いて、ランチェの様子を窺うように聞いた。

 

 

「うーん。そうですね~、そうします~」

 

「じゃあ、一緒に寝よっ」

 

「はいです~!」

 

 

 なずなが布団に潜り、スペースを空けてランチェが寝る場所を作る。

 

 

「ではでは~、失礼します~」

 

 

 ランチェは空けられたスペースに入り込んで横になる。なずなと並ぶと巨人と小人だ。

 

 

「なずなちゃんはぬくぬくですね~」

 

「ランチェちゃんはひんやりだね」

 

「妖精族の身体は魔力がほとんどを占めてますからね~。体温自体はないに等しいんですよ~」

 

「うーん、よく解らない理屈だよ」

 

「私にも解りません~」

 

「えー?」

 

 

 くすくすと2人は笑い合う。穏やかな時間がなずなの部屋を満たす。

 

 

「さ、もう寝よ? 明日はうんと頑張らなきゃだし」

 

「はい~」

 

「【ライト】解除」

 

 

 なずなは照明を消した。

 

 

「お休み、ランチェちゃん」

 

「お休みなさい~、なずなちゃん~」

 

 

 2人は身を寄せて数分で眠りに就いた。




――キャラクター紹介――

ランチェ

身長:21cm

体重:0.53kg

B:14 W:9 H:11

妖精族の少女。なずなの指導役を勤めている。
得意魔法は回復系統だが、攻撃魔法とエンチャント魔法もそこそこ使いこなす魔法のエキスパート。


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