赤鬼転生記~異世界召喚・呼び出された赤鬼は聖剣と魔剣を持っていない~   作:コントラス

14 / 66
第八鬼

 そこは複合都市・マグガレンの王城の最上階に位置する場所、謁見の間だ。

 高さ4m、幅5mもある両開きの扉から赤絨毯が正面にある玉座まで続いている。

 天井の高さは6m、幅は20m、10mの間を開けて玉座まで均等に8本の柱が並ぶ。

 

 7段の階段を上った先に5つの玉座があり、真ん中に妖精女王・ハサーシャ。その右に魔人族女王・ルーカス・ビフ。更に右に人族王ブルセオ・ジェネガン。ハサーシャの左側に亜人族王・ロッサ・シュープス。獣人族王ゴーロス・ディケンの順で並ぶ。

 彼らの眼前には、勇者の指導役と呼ばれる各種族の強者が集い、方膝を付いて臣下の例を取っていた。

 その数、総勢33名だ。

 

 

「ふむ、では勇者コーイチは無事なのだな?」

 

「はい。発見時も多少の怪我はあれど、命に関わるようなものは御座いませんでした」

 

「怪我の治療は私がしました~。肋2本、右腕の骨が折れてましたね~。後は頬に幾筋かの切り傷と~、額が割れていたくらいです~」

 

 

 宏壱が洞窟を発見した日の夜、今現在は指導役は各王に宏壱が発見した穴についての報告を行っていた。

 

 

「なるほど……どう思うハサーシャ殿」

 

 

 ルーカスが自分の左に座るハサーシャに聞く。

 

 

「……勇者コーイチの指導役は?」

 

「私です。紅蓮騎士隊二番隊副分隊長、リーナ・バコフです」

 

 

 数秒黙考したハサーシャが口を開く。その問い掛けにリーナが姿勢を崩さず名乗る。

 

 

「そうか、お前だったか。一度は紅蓮騎士隊総隊長も務めたことがあったな?」

 

「はっ! 力不足で辞退させていただきましたが……」

 

 

 ルーカスの言葉にリーナは粛々と答えた。

 

 

「で? そいつのレベルは?」

 

 

 玉座の上で胡座を掻いて左膝に左肘を乗せ、その掌に顎を乗せたゴーロスが問う。

 

 

「最後に見たのは14でした。ステータスもレベルに反して高い数値を出しています。最も高いものはAGL……確か500台だった筈です。他にもSTR、DEF、MNDは400台だったかと……」

 

 

 リーナは宏壱のステータスを思い出しながら答えていく。

 その数値に指導役がざわめき始める。

 

 

「ほう、近接戦闘に特化しておるのう。して、戦い方はどうじゃ? 才能はあるかの?」

 

 

 ブルセオが顎髭をさすりながら問う。他の王も興味ありげな視線をリーナに向けた。

 

 

「……恐らく、実戦経験があるものと思われます。それに五感が優れているように思えます。背後からの奇襲も、物陰からの奇襲も通用しません。獣人族に匹敵した耳、エルフ族に匹敵した広い視野……並みの人族ではなし得ません」

 

「ふむ、只者ではないな」

 

 

 リーナの見解に興味深気に顎に指を添えて呟くルーカス。そこを見計らって声が掛かる。

 

 

「皆、論点がズレてきているぞ。今我々が議論すべきは出現した洞窟の件だ。でなければ、アントの発生をその身で防いだ勇者コーイチが浮かばれん。リーナ・バコフ、お前も皆が興味を持つような情報を出すな」

 

 

 ロッサだ。各王を窘め、リーナにも言葉を向けた。

 

 

「はっ! 申し訳ありません」

 

 

 リーナは姿勢をそのままに頭を下げる。

 

 

(かて)ぇなぁ、ロッサは。勇者の実力も知っとくべきだろぉ?」

 

「我らは大まかで良いのだ。勇者の詳細な力量は指導役が把握していれば良い」

 

 

 ゴーロスが茶化すように言うが、ロッサは軽く流して話を切った。

 

 

「新たなダンジョンの出現……ではありませんね。アントは確り統率されていた。そうですね?」

 

「アキラ殿の話ではそのようです。足並みを揃え、陣形を組んでいた、と」

 

 

 ハサーシャに晶の指導役であるカエデが答える。

 

 

「……では確定ですね」

 

「うむ、決まりだな」

 

「それしかねぇだろ」

 

「決定じゃのう」

 

「早めの対処が必要だ」

 

 

 ハサーシャの言葉に続いたルーカス、ゴーロス、ブルセオ、ロッサは同時に言葉を放つ。

 

 

「「「「「クイーンアントの発生です/クイーンアントの発生だ/クイーンアントの発生じゃ」」」」」

 

 

 そう宣言した。

 

 ◇

 

「……と言うわけで、我々もクイーンアント討伐に参加する運びとなりました」

 

 

 クイーンアント発生の宣言をした各王とその場に居合わせた指導役は、討伐作戦を組み立て詳細を詰めていった。

 そしてその討伐に参加することになったとリーナは宏壱の自室で報告していた。

 

 

「準備期間を置いて、明後日の早朝になります。宜しいですね?」

 

「分かりました。そのつもりで準備しておきます。……でもその間あの洞窟は?」

 

 

 額に包帯を巻き、ベッドに横になった宏壱が心配して聞く。

 

 

「ご心配無用です。我が紅蓮騎士二番隊が駐留しています。今日明日と、あの場で彼らは野営です」

 

 

 宏壱は心配事が減って「良かった」と一息吐いてベッドに身を深く預ける。

 

 

「それにしてもよく生き残ってくださいました。お姿を見た時は胆が冷えました」

 

 

 報告を受けて駆け付けた時のことを思い出してリーナは苦い表情を作る。

 

 リーナは早朝からバセット山で目撃されたというメガベアーの捜索に出ていたが、昼を過ぎても痕跡一つ発見できなかったため、一度マグガレンに帰還した。そこで偶然リンを連れた晶に出会った。

 そこで話を聞いたリーナ、カエデを含めた複数の指導役は現地に急行、足跡や掻き分けられた草木から宏壱が進んだ場所を把握してそこに向かった。

 そこでメガベアー捜索隊が見たのはぽっかりと空いた穴と周囲に散乱する直剣や短剣、槍、大剣、弓矢、“魔石”、アントの部位だった。

 そして戦闘で切られたのか、倒れた木に寄り掛かり、左手に持ったグレートソードの切っ先を穴に向け、瓶底眼鏡が外れ前髪も払われ、その余りにも鋭すぎる目を更に鋭くして額から血を流す宏壱がいた。

 目は虚ろで焦点が合わず、伸ばした左腕もふらふらと覚束ない。慌てて駆け寄って見ると糸が切れた人形のように倒れた。

 

 その光景を思い出してリーナは拳を固く握る。

 

 

「私が同行していれば……」

 

「リーナさんはメガベアーの捜索に出ていたんでしょ? そっちも重要ですよ」

 

「何故それを……」

 

 

 高レベルの魔物が出現したという話は出回っているが、メガベアーだとは言われていない。

 メガベアー自体を知らない者も多いというのと、知っている者がいるとパニックになるからだ。

 

 

「ギルドで依頼に出てました。多分掲示板にはないと思いますけど、ギルド職員にいいクエストがないか聞いた時にうっかり見せられました」

 

「……なるほど。ですがよく想像がつきましたね。我々の任務内容まで」

 

「冒険者に任せっきりでは国の沽券に関わりますよね? だから騎士隊、騎士団、獣兵、亜人混合兵団を動かして早期解決を狙った」

 

「はい。ですが目撃されたのが本当にメガベアーならば我々では仕留めきれないでしょう」

 

 

 悔し気に言うリーナ。

 だが、それは事実だった。レベルが違いすぎるのだ。メガベアーは低くてもレベル300、リーナの倍近くある。1人で挑めば勝ち目はゼロだ。

 

 

「今も交代で捜索を行っています。第4ダンジョン近くで痕跡を見付けたそうなのでもしかすると……」

 

「ダンジョンの中……ですか」

 

「断言はできませんが、可能性としてはあり得るかと」

 

「確か、クイーンアントの発生場所は常に第4ダンジョンの中層から下層でしたよね?」

 

「目下の懸念事項です。正直不安です」

 

「……考えても仕方ありませんよ。そうなった時はそうなった時です」

 

「放って置けることではありませんが、概ね同意です。……ところで、話は変わりますが……」

 

 

 リーナはそこで言葉を切り視線を中空に彷徨わせる。だが、意を決して宏壱を見据え……。

 

 

「……レベルはどうなりましたか?」

 

 

 と聞いた。

 正直な話、相当なレベルアップが見込めるのだ。

 

 第4ダンジョンのアントは1層から5層までがレベル15から20。6層から10層までがレベル21から25。11層から20層までがレベル23から40。21層から50層までがレベル35から55。更に言えば35層から45層までが中層と言われている。

 そこから下、下層と呼ばれ、56層より下ればアントのレベルが更に上昇する。

 当然アントだけではない。他の魔物、蜘蛛型のジャイアントスパイダーや蛾形のビッグモスといった虫系統の魔物が第4ダンジョンには存在する。だが、恐らくこれらはクイーンアントの配下によって一掃されている可能性が高い。

 クイーンアント配下のアント達は瘴気から生まれるのではなく、クイーンアントから生まれる。これによってクイーンに対しての絶対的な忠誠心と、兄弟としての一体感がアント達に生まれ、連携や意思疏通を円滑に行い、縄張り意識を高めて他の魔物では見せない排他的な思想が強くなる。

 要は部外者は排除するのだ。

 

 そして縄張りを広めようとした結果、彼らは階層を登り降りするのではなく、壁を掘って横に進むという行動に出た。そう各王及び各指導役は判断した。

 

 閑話休題(それはともかくとして)

 

 宏壱が戦い、倒したアントのレベルは低く見積もって40、ハイアントに至っては60を超えると予測された。

 であれば、宏壱のレベルは大幅な上昇が見込める筈だ。ましてやレベル14の宏壱が、40を超えると思われる武装したアントの相手などできはしない。

 たとえ女神の加護がある制服を着ていても、倒すことなど不可能だ。

 リーナはその秘密が知りたかった。それに魔人族女王・ルーカス・ビフによる命という名目もあった。

 

 

「まだ見てません。ちょっと待ってくださいね」

 

 

 宏壱はそう前置きしてまず自分だけが確認する。

 

 ◇◆◇

 

 Lv:68 名前:コウイチ・ヤマグチ(♂)

 

 年齢:16

 

 種族:人族

 

 HP:1861

 

 MP:1074

 

 SP:939

 

 STR:1540(+158)

 

 DEF:1512(+2000)

 

 INT:905

 

 AGL:1748(+200)

 

 DEX:811

 

 MND:1434(+2000)

 

 LUK:693

 

 《スキル》

 

 六式(指銃 LvMAX SP5・嵐脚 LvMAX SP5・紙絵 LvMAX SP5・鉄塊 Lv SP5・剃 LvMAX SP5・月歩 LvMAX SP1)

 

 六式奥義・六王銃 LvMAX SP30

 

 回転斬り Lv5 SP10

 

 突剣 Lv2 SP10

 

 二連斬り Lv1 SP23

 

 《魔法》

 

 炎魔法適性 Lv1

 

 ファイアーボール Lv1 MP10

 

 《ユニークスキル》

 

 見聞色の覇気 SP40 LvMAX

 

 武装色の覇気 SP35 LvMAX

 

 覇王色の覇気 SP70 Lv5(固定)

 

 《ユニーク魔法》

 

 雷神槍 MP10

 

 炎神槍 MP10

 

 氷神槍 MP10

 

 雷神 MP5(使用中継続的毎5秒消費)

 

 炎神 MP5(使用中継続的毎5秒消費)

 

 氷神 MP5(使用中継続的毎5秒消費)

 

 《称号》

 

 多重転生者・赤鬼・不死者・強者に挑む者・退かぬ者・ハーレム王・殺戮王・勇者・聖剣を持たない者・魔剣を持たない者・アントキラー

 

 《装備》

 

 武器:グレートソード(STR+58)

 

 防具:頭・変哲もない包帯

   上・内宮東高校制服ブレザー(DEF+1000 MND+1000)

   下・内宮東高校制服ズボン(DEF+1000 MND+1000)

   足・内宮東高校指定革靴(STR+100 AGL+200)

 

 ◇◆◇

 

 

(……は、あ? 上がりすぎじゃないか? レベル68って、おいおい、目立ちすぎるぞこれは……それにステータスだけを見ればリーナさんに届く数値じゃねぇか。これが勇者の称号にあった『レベルアップ時、ステータス上昇値に上方補正が掛かる』ってやつの効果か? しかも称号が増えてやがる)

 

 

 正直、見せるかどうか躊躇う数値である。経った1日で変わりすぎた。

 ステータスの数値に目を剥きながら宏壱は意識を新たに加わった称号に向けた。

 

 ◇◆◇

 

 強者に挑む者……強き者に何度も挑む者。自分よりレベルの高い者に対峙した時に、ステータスが2%上昇する。

 

 退かぬ者……不利な状況でも撤退しない。気持ちが前に向きやすくなる。

 

 ◇◆◇

 

 

「如何しましたか?」

 

「あ、っと……う~ん、見ますか?」

 

 

 リーナに声を掛けられて宏壱は視線をステータスからリーナに移す。

 

 

「話題にしたのは私ですから……当然みます。何か不都合が?」

 

 

 首を傾げるリーナに「どうしたもんか……」と呟き思考を巡らす宏壱だが……。

 

 

「うん、面倒だ」

 

 

 考えることを止めた。

 

 

「……は?」

 

「いえ、何でもないです。じゃあ見せますね」

 

「……お願いします」

 

 

 リーナには確りと宏壱の言葉は聞こえていたが、それ以上追求するようなことはしなかった。

 

 例のごとく宏壱が展開したのはステータスの数値だけだ。スキル以下は見せる気はない。

 

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」

 

 

 耳が痛くなるほどの静寂が宏壱の部屋を包み数分。リーナの空気が抜けたような声が発せられた。

 

 

「え? な、は? えぇ……?」

 

 

 リーナは目を瞬き、擦り、剃らす。それを何度も何度も繰り返した。

 しかしステータスの数値は変わらない。

 

 

(ど、どういうことだ? STR、DEF、AGL、MNDが1000を大きく超えている。他の数値も凄まじい上昇だ。あれだけのアントを倒したのだ、レベルの上昇は頷けるが……いや、そもそもあれだけのアントを1人で倒せる筈がない。……その秘密は恐らくステータス以下、スキルや魔法、もしかしたら称号なのかもしれない)

 

 

 ゴクッ。リーナは口内に溜まった唾液を飲み込む。

 

 

「……勇者コーイチ」

 

「……なんですか?(来るか?)」

 

 

 宏壱は大方の予想をした。宏壱はリーナにスキル以下のステータス欄を見せたことがない。

 だからこそ何を聞いてくるか分かっていた。そして誤魔化しきれないことも宏壱は理解している。

 

 

「……ステータスを全て見せてください」

 

「強制ですか?」

 

「い、いえ! けしてそういう訳では……!」

 

「ははっ……ジョークですよ」

 

 

 慌てるリーナに笑顔を向けて、宏壱はステータスの表示欄をスキル以下まで展開――コン、コン、コン、コン――しようとしたところで4度、ドアをノックする音が響いた。

 

 

「何方でしょうか?」

 

 

 宏壱が声を発する前にリーナが誰何の言葉を投げ掛ける。

 

 

「あれ? 女の人の声? えっと、この部屋は山口 宏壱君の部屋、ですよね?」

 

 

 扉の向こうから中性的な声が聞こえた。それは宏壱が昼過ぎに行動を共にした人物のものと非常に似通っていた。

 

 

「うん、合ってるよ。鍵は掛けてないから、入って」

 

「お邪魔します」

 

 

 扉を開けて姿を見せたのは中性的ながらも整った顔立ちをした青年、晶だった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。