時刻は放課後。
第二アリーナ、そこはこの次の日からクラス対抗戦用に調整されるので使えなくなるアリーナの一つだ。
そこは今、多くの生徒で埋め尽くされていた。
席という席は全て埋まり、中には立っている者もいる。
イベントでない限りこんな現象が起こることはまず少ない。
これはただの試合。それで起こるということはそれだけの価値があることを示している。
IS学園最強、生徒会長の更識楯無。
その妹であり、実力不明の代表候補生である更識簪。
その二人の試合が始まろうとしていた。
簪side
『3』
開始のカウントが始まった。
そんな中、目の前の相手は気軽に話しかけてくる。
『2』
「何か言いたいこと、ある?」
片目で機体の再確認をしながら、
『1』
「…じゃあ一言」
「勝つ!」
『0。試合開始』
開始の合図と共に、一気に下がる。
相手、更識楯無は槍を構え、追ってくる。
彼女のIS、「
他には左右にクリスタルのようなものが浮いている。
(あの機体の主兵装は槍。ガトリングが内蔵されてるから気をつけないと)
後方に移動しながらも距離を気にする。
射程圏から離れないといけないからだ。
「逃げるだけ?ならこっちから!」
速度を上げ、接近してくる。
槍の先端がドリルのように回転し、その表面に螺旋状に纏っていた水も、回り出す
(来た…!)
両足に付けていた四発撃てるミサイルポッドから
楯無は槍で払い落とした。ミサイルは爆発し、白い煙が彼女を包んだ。
煙幕。それも、対IS用のジャミング粒子を混ぜたある知り合いの特注品。
その隙に壁際まで寄り、次の準備をする。
「こんなものっ!」
すぐに煙から楯無は出てきた。
予想よりも早かったが構わない。
準備は出来た。
「…くらえ」
私は背中の二門の荷電粒子砲「春雷」と両手に高出力ビームライフル「白蕾」を撃つ。
高出力ビームライフル「白蕾」。
結人のビームマグナムをもとに開発されたこれは普通のビームライフルの三倍の威力を持つ。
ただし、七発撃つとしばらくの間冷却期間に入ってしまい、使えなくなる。
「くっ!」
楯無は横に
「逃がさない!」
「春雷」は速射型の荷電粒子砲。
機体の向きを変え追撃する。
もちろん白蕾も連射する。
避けながら回り込むように近づいて来る。
白蕾が冷却し始めたので戻して、新しくサブマシンガンをコールして撃つ。
撃ち出された弾丸は、まっすぐに目標へと進み、クリスタルから展開された水のヴェールに阻まれた。
「それは…」
「私のISはISのエネルギーを伝達するナノマシンを制御して水を操れる。それを使えばこうやって実弾系射撃武器は封じられるのよ」
ご丁寧に解説してくれたけど、そんなこと
とはいえ、実弾は効かないことは変わらない。
サブマシンガンをしまって近接武装「夢現」を呼び出し迎え撃つ。
数秒としない内に槍と薙刀がぶつかり合った。
第三者side
大勢の生徒が第二アリーナに向かった中一人の少女は自室にいた。
もっとも彼女も独自のネットワークを用いて二人の試合を見ているのだが。
「いい調子。今の所、更識楯無の行動パターンはプラン24通り。一応警戒してパターン50までは教えたけど、まぁなんとかなりそうね」
呟きながらも空中に投影されたキーボードで、試合を映してるのとは違う、同じ空中投影ディスプレイに文字を打ち込んでいる。
「で、何か用かしら結人」
「…わかってるだろ」
音も無く部屋のドアを開けたのは、今日退院(?)した橘結人。
それに驚きもせず、言葉をかけたのはこの部屋の主、篠ノ乃瑠璃。
「簪さんが何故、お姉さんと戦ってる」
「これ」
一枚の紙を渡す。それは学園新聞だった。
「えーと、『快挙!更識会長200人切りまで後少し』?」
「IS学園の生徒会長は、前の会長に勝てば交代になるのよ。更識楯無はこの1ヶ月で現在198人の挑戦者を倒したわ」
「それが何だよ」
「学園の歴史上、1ヶ月で倒せた挑戦者の最高は199人。200人倒せば快挙よ」
「だから、何なんだよ」
凄いことだとは分かるが、どうしてそんな話をする必要がある。そう言いたげな顔をしている結人。
「分からない?つまり200を超えたら更識楯無は学園に名を残す。それは彼女、更識簪からしたらまた姉が遠くなるように感じられない?」
「!」
「だから焦ったんじゃないの?」
「くそっ」
拳を握り締める結人。
それを横目に、
「だけど今の更識簪じゃ最強の生徒会長には勝てない。だから、手助けしといたわ」
「何?」
新しくディスプレイを出現させ、結人に見せる。そこにはグラフが書いてあった。
「これは更識楯無が挑まれ、勝負した形式のグラフ。その内最も多いのは生身での勝負。けどその次はIS戦」
瑠璃は結人の方を向き、ニヤリと笑う。
「教師用のデータベースから過去のアリーナの戦闘映像を漁り、更識楯無の物のみをコピー。さらにそこから、私と母さんで創った量子コンピューターで行動パターンを予測。その内可能性の高いもの50を彼女に教えたわ」
実際は158まで出たけど時間なかったから、と付け足す。
結人は冷や汗をかきながらも質問する。
「でも、勝てるとは限らないだろ」
「そうね。だけど負けるとも限らない。見てなさい。貪欲にも運命に、姉という越えられない壁を越えようとする姿を」
(問題は、前日に更識楯無宛てに届いたナニカだけど…)
簪side
「くっ…」
「ほらほら、ペース落ちてるわよ」
薙刀と槍のぶつけ合い。
それは最初こそ私が食らいついていたが、次第に姉さん、いや楯無のペースに呑まれかけていた。
(そろそろかな)
脚部のミサイルポッドから再びそれぞれ一発のミサイルを出す。
それは地面にぶつかり、爆発した。
「くっ!?」
爆発が起きたのは二人の間。
余波はどちらにも影響を与え、お互い距離を取った。
「…仕掛ける」
脚部ミサイルポッドをパージしながら後方に下がる。
追おうとしてくる相手に対し、冷却が終わった白蕾と春雷を牽制として放つ。
「…マルチロックオン起動。…対象ロック。 八連装ミサイルポッド「山嵐」を起動」
本来ならキーボードを使うことでミサイルの細かい調整を行わなければいけないが、今回はあらかじめ入力済みなので放っておく。
「行って…!」
肩部ウイング・スラスターに取り付けれれた六枚の板がスライドして開く。
内部には八連装ミサイル、それが六ヶ所あり、計四十八発あった。
それらは簪の言葉と共に一斉に発射された。
「こんなもの!」
楯無はランスに搭載されている四門ガトリングで撃ち落とそうとする。
「今!」
春雷を撃つ。狙いは撃ち落とそうと止まった楯無では無く、その足場。
そこには先程パージしたミサイルポッドがあった。
「なっ!?」
楯無の足場で爆発が二つ起こる。
撃たずに残していたミサイル一発が爆発したのだ。
それにより、バランスを崩し、ミサイルに向けていたランスの先端は下を向いた。
ミサイルは数十発が複雑な軌道を描き、全方位から向かう。
アクアクリスタル二つでカバー出きるのは、約百八十度。
楯無の顔に焦りが見えた。
直後、ミステリアス・レディを包むように爆発が連続して起こった。
後編は現在二割完成。
十月最初らへんに投稿できればなぁ、と思ってます。
感想、アドバイス頂ければありがたいです。