ゲートから姿を現したモモンガが最初に目にした光景は騎士の死体の近くでお互いを抱き合う様にへたり込んで怯える二人の姉妹らしき少女とその少女達を安心させようと背中をさする悪魔の姿だったが・・・二人の少女に手を回している友はリアルなら即通報されてたかもしれない
「えぇと、大丈夫でしたかサイファーさん」
「ちょっとモモンガさん!そんな怖い顔でいきなり現れないで下さいよ、せっかく落ち着いてきてたのに台無しだよ」
「ちょっと待ってくださいよ、なんで怒られないといけないんですか、状況が飲みこめないんだけど・・・」
抗議の声を上げたがサイファーは聞く耳を持たず二人に「あのおじさん顔は骸骨だけどとっても優しい人だよ」などと言っている・・・誰がおじさんだ、俺はまだお兄さんでも通用するぞと考えたところで真面目にサイファーに現状の報告をさせた
「戦況はどうでしたか?、我々の力は通用しそうですか?」
モモンガの言葉にサイファーは立ち上がり近くまで歩いて口を開いた
「そこに転がっているのしか相手にしていないから詳しくは分からないけど、『上位物理無効化』の『特殊技術/スキル』が破られなかったし『苦痛なき反撃』の固定ダメージで即死っぽいから・・・女の子を追いかけてた奴は使い捨ての雑兵で村を襲っているのが本命かもしれないですね」
「そうかもしれませんね、なら村に行く前に俺もスキルで戦力を増やしますね」
「準備に時間がかかり、申し訳ありませんでした」
サイファーがモモンガの言葉に返答する前にゲートから漆黒の鎧に身を包んだアルベドがあらわれモモンガに頭を下げた。
「いや、これから私のスキルを使うところでな、実に良いタイミングだ」
「ありがとうございます・・・それで、この下等生物はどの様に処分いたしますか?」
アルベドが二人に視線を向ける前にサイファーがアルベドの声を掛けた
「いやいや、せっかく助けたんだから処分したらダメだよ」
「よろしいのですか?」
アルベドはモモンガの方に視線を向け言葉をまった
(えぇ~アルベドさん俺の意見無視してなんでモモンガさんに確認とるの)
気のせいさ、NPCはみんな俺達に優しいはずさサイファーはそう思うことにした
「かまわないさ、今回の目的はそこに転がっている者達を潰し村を助けることだ」
モモンガの言葉に了解の意を示すアルベドから視線を動かし、転がって死体にスキルを発動させた
「中位アンデッド作成 『死の騎士/デスナイト』」
モモンガがスキルの発動を宣言すると近くにあった死体に黒い霧の様なものが死体に憑りつき死体がギクシャクとした動きで立ち上がり全身からドロドロした何かがあふれ出し完全に死体を包み込んみ、形が歪みながら変わり大きさも元の死体より大きく変わりタワーシールドとフランベルジュを装備したデスナイトが生まれた
「ちょっ、モモンガさんこんなにグロいんなら最初に言ってくださいよ」
「いや、俺だってこんな仕様に変わってるなんて知らなかったですよ。 ゴホン、デスナイトよそこに転がっているものと同じ鎧を身に着けている者を殺せ」
モモンガは咳払いをしデスナイトに命令を与えるとデスナイトはうなり声をあげながら村の方に走っていき取り残される三人・・・
「デスナイトって確かプレイヤーの側にいて守ってくれるんでしたよね」
「うん・・・」
「あいつ走って行きましたよ」
「うん・・・」
二人はデスナイトが走って行った方角を見つめながらため息をつき、モモンガはいまだに震えている姉妹に視線をうつした
「ところで、お前たちは魔法というものを知っているか?」
「は、はい。む、村に時々来られる薬師の・・・私の友人が魔法を使えます」
「それなら話が早い、私は魔法詠唱者(マジック・キャスター)だ」
「俺は違うけどね」
サイファーが手を振りながら笑顔で二人に答えたがあえて無視し魔法を唱えた
「『生命拒否の繭/アンティライフコクーン』『矢守りの障壁/ウォール・オブ・プロテクション・フロムアローズ』」
モモンガが魔法を唱え終えると姉妹を中心に微光を放つドームが作り出された
「守護の魔法をかけてやったからそこにいれば大抵は安全だ。それとこれもくれてやる」
モモンガは二つの角笛を取り出すと二人に放り投げた
「それは『小鬼/ゴブリンの角笛』というアイテムだ、何かあった時はその角笛を吹きゴブリンに助けを求めるがよい」
それだけ言うと、モモンガは歩き出し、サイファーも二人に手を振りながら後に続いた。しかし数歩も歩かないうちに声がかかる
「あ、あの、助けてくださって、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
その声に三人は歩みが止まり涙をにじませながら感謝の言葉を述べる二人にサイファーは振り返り笑顔で返答した
「人間じゃない異業種の俺たちにお礼が言えるなんてエライね」
「・・・気にするな」
「あ、あと、図々しいとは思いますが・・・でも、あなた様達しか頼れる方がいないんです、どうかお父さんとお母さんを助けてください」
「了解した、生きていれば助けよう」
「ありがとうございます!本当にありがとうございます・・・それとお名前は何とおっしゃるんですか」
名前を聞かれモモンガは自分の名前が素直に出てこなかった、代わりに頭に浮かぶのはナザリック地下大墳墓と自らがギルド長を務めるアインズ・ウール・ゴウンの事ばかりであった
ああ、そうだ、俺の名は・・・
「我が名を知るがよい。我こそがアインズ・ウール・ゴウンである」
モモンガがギルド名を自分の名として名乗ったのを聞いたサイファーは少し驚き寂しそうに笑い自分も二人に名乗った
「そして、俺がアインズ・ウール・ゴウン様の友である悪魔王サイファーである」
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モモンガ一行は二人の姉妹と別れた後村には急行せず、村の周りで警戒していた騎士を使って人体実験を繰り返していた。三人の周りには騎士の死体が転がり血の臭いが濃厚に漂っており並の人間なら気分が悪くなりそうなほどであったが・・・この場にいる生者は人外ばかりであるため問題はなかった。
「ね、言った通り誰も上位物理無効化のスキルを突破できないでしょ、アインズ様」
比較的キレイな兜を椅子代わりに座っているサイファーはアインズに声をかける
「確かにそうですね・・・昔は物理ダメージ軽減とかの方が羨ましいと言ってたくせに、あとサイファーさんは別に無理して呼び方を変えなくてもいいんですよ?」
モモンガは騎士の剣を地面に捨てながらサイファーに視線を移した
「いやいや、あの子達やアルベドの前で宣言したんだから公式の場ではアインズ・ウール・ゴウン様と呼ばせてもらいますよ」
「せめて様づけは止めてください、なんだか距離を置かれたみたいで寂しいじゃないですか」
「俺は悪魔なんですよ、ワザとに決まってるじゃないですか」
「ワザとかい!」
死臭漂う場所で談笑している魔王と悪魔だが突如村の方角から角笛の音が聞こえきた
「うゎ! びっくりした、なにこの音?」
「たぶん角笛の音ですよ・・・思ったよりデスナイトが頑張ったみたいだな」
「流石はアインズ様がお作りになられたアンデッド。見事な働きには感服いたします」
「ところでアインズさん、あの子達の両親はどうするの?・・・たしかもう死んじゃってるよね、蘇生でもしてあげるの?」
兜から立ち上がり服の汚れをはたきながらサイファーはアインズに助けを求めた二人の両親のことについて質問したがアインズは少し考え蘇生しない事を告げた
「この世界の事がまだ何も分からない以上下手なまねは出来ないので今はやめておきます・・・村を救っただけで満足してもらおうと思ってます」
「了解した、じゃ、これからどうします? 村はデスナイト1体で十分みたいだし、もうちょっとこの辺りを探索しますか」
「いや、生き残った村人の様子を確認するために村に向かいますけど、ちょっと待ってて下さいね、デスナイトに騎士の生き残りがいるなら残しておくように命令をします・・・あとは・・・」
そう言ってアインズはアイテムボックスから何かを取り出し始めた。
時間が空いたサイファーはアルベドに話を振った
「そういえばアルベド、モモンガさんがギルドの名称を個人の名として名乗るのに不満とか抵抗とかはなかったの?」
サイファーはモモンガがギルド名アインズ・ウール・ゴウンを勝手に名乗ったのに何も反論しないアルベドが気になりモモンガが準備をしている間に聞いてみた
「いいえ、そのような事はございません、至高の御方々をまとめられていた方に相応しいかと」
「そうなの? でも、もともと俺ら四十一人全員を示す名だよ、俺やタブラさんを差し置いて名乗ってるのになんも思わない事はないでしょ」
「・・・一言申し上げますと、私たちをお捨てになられた方が、今まで共にいてくださったモモンガ様を差し置いてその名を名乗られたならば多少なりとも思うところがあります、しかし、他の方々がお姿をお隠しになられたいま、最後まで留まられたモモンガ様であれば、喜びの感情以外ありません」
すっと頭を下げたアルベドに、サイファーは恐る恐る自分の事を聞いてみた
「モモンガさんに呼ばれて帰って来た俺はセーフですか?」
「・・・」
アルベドは頭を上げこちらと目線を合わせたが何も言わなかった。が、その態度でサイファーですら察した・・・
(ヤバい、アウトっぽい・・・)
「いや、なんでもない、誰かが帰って来てモモンガさんに異を唱えるまで、アインズ・ウール・ゴウンはモモンガさんただ一人を指す名だからね」
「畏まりましたサイファー様・・・それに私の愛するお方が、その尊き名を名乗られるとはとても喜ばしい事です」
なんでモモンガさんはアルベドに愛されて、俺は若干嫌われているの? まぁ、ずっとナザリックに通い続けるアインズさんと途中から来なくなった俺では好感度に差が出るのは仕方ないのかな
そう考えているとモモンガさんの準備が完了したようだがその姿を一目見ただけで脱力感に襲われ村に行きたくなくなった
「・・・顔を隠すならもっと良いものがあったでしょう・・・てか、まだ持っていたんですね嫉妬マスク」
クリスマスイブの十九時から二十三時までの間に二時間以上、ログインすると手に入る呪いのマスク・・・いや、実際に呪いのデータは入って無いがユグドラシルプレイヤーのほとんどが呪われていると答える最悪の装備品『嫉妬する者たちのマスク』それを平然と装備する勇者アインズ・ウール・ゴウン
「別になんだっていいでしょう、というかサイファーさんも何個か持っているでしょ」
「いや、あんな不名誉なもの、すぐに破棄しましたよ。てか、アインズさんは何個も持っているんですか」
普通1個あればコレクションとしては十分のはずだが今の発言からするに、この人は何個も所持しているみたいだ
「ええ、持ってますよ・・・毎年デザインが微妙に違うからつい・・・」
二人の間に数秒の沈黙が訪れたがすぐにアインズは魔法を唱え行動を開始した
「では村にいきますよ、『飛行/フライ』」
空中に軽やかに舞い上がり、遅れてアルベドが浮遊するがサイファーだけ飛ぶ様子がない
「どうしたんですかサイファーさん、何か問題でも?」
「いや、俺、高所恐怖症だから飛びたくないんだよ・・・目つぶっているから、アインズさん手を掴んで引っ張ってくれない」
「・・・しょうがないですね、ほら摑まって」
サイファーは差し出された手に摑まり村に向かったが村に着くまでいいしれぬ殺気が全身を襲ったが犯人は分からなかった・・・
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村の上空に付いたが中々悲惨な状況になっていた。広場の一部は水を吸ったかのように赤黒く、複数の死体が転がり、息も絶え絶えて動くのも億劫な人影が四人、デスナイトに殺され『従者の動死体/スクワイア・ゾンビ』になった死体が数体いた。少し数が多いがまあ、構わない
「死の騎士(デス・ナイト)よ、そこまでだ。・・・サイファーさんもう地上だから目を開けて大丈夫ですよ」
サイファーに地上であると声をかけ、生き残った騎士達に威圧てきに声を掛けた
「はじめまして皆さん、私はアインズ・ウール・ゴウンという」
ただでさえ静まり返っていたがアインズの言葉とサイファーの姿に場は凍り付く
「投降すれば命は保証しよう・・・まだ戦うのなら ーアインズはサイファーを指さしー この悪魔も戦列に加わることになるぞ」
その言葉に即座に四本の剣が地面に投げ捨てられ、騎士達は座り込み頭を上げだした
「諸君らには生きて帰ってもらう、そして諸君らの上・・・飼い主に伝えろ。この辺りで騒ぎを起こすな、騒ぐようなら今度はお前たちの国まで死を告げに行くと伝えろ」
騎士達は何度も頭を上下に振り、振り終わると一目散に走り出した
「中々様になっていたよアインズさん」
「・・・この演技も疲れるんですよ」
移動中ピクリともしなかったサイファーだったがやっと軽口を言えるほどには精神が安定したようだ
「さて、キミたちはもう安全だ。安心してほしい」
アインズはある程度村人から距離をおき優しい口調で話はじめた
「あ、あなた様はいったい・・・」
「この村が襲われているのが見えたのでね。助けに来たものだ」
「おお・・・」
ざわめきが起こり安堵の色が浮かぶが不安は完全には消えていないためアインズは交渉の手段を変更した
「とはいえ、ただと言うわけではない、村人の生き残った分だけの金銭を要求したいのだが」
「い、今村はこの様な状態でして・・・」
村人の言葉をアインズの横で黙っていたサイファーが手を上げて中断させた
「ちょっと良いですか、村の外で騎士から逃げていた姉妹を助けて保護していますけど、たしか・・・エンリとネムと言った筈だけど、此処の子ですか」
その言葉に村長らしき人は目を丸くし答えた
「そ、その通りです、二人は生きているのですか!」
「怪我していたけどポーション飲んでピンピンしているよ、後で連れてきてあげるよ」
その答えに村長は驚愕した。人に害悪を与えるはずの悪魔が人を助け、治療までしたという話は聞いたことが無い・・・目の前の悪魔は人を助けたというが本当だろうかという疑いの眼差しをサイファーに向け始めた
その眼差しに気付いたアインズは村長にそれっぽい話を始めた
「・・・あ~、この悪魔はそこのデスナイトと同じく私の魔法の支配下にあります、ゆえに一般的な悪魔とは全くの別物なのですよ」
「そ、そうでございますか」
「では保護している二人を連れてきます、報酬の話はそのあとで」
アインズは村長の反応を待たずアルベドを従え魔法で空を飛んで行いきその場には悪魔のみ残され、村長は恐る恐る声を掛けてみた
「・・・あなた様は一緒に行かれないのですか」
「高いとこは嫌いだから此処で待ってます・・・」
「そ、そうですか・・・」
アインズ達が帰って来るまでお互い気まずい沈黙がながれ、サイファーは思っていたより歓迎されないことを不思議に思っていた