オーバーロード~悪魔王の帰還~   作:hi・mazin

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四十三話目 魔導国建国物語~合間にお仕事~

 

 

 

帝国の皇帝であるジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスを招きナザリック地下大墳墓の存在を公に明かしてから早一カ月がたった。

 

その一か月間の間、ナザリック地下大墳墓の主人であるアインズ・ウール・ゴウンは様々な雑務や守護者との予定のすり合わせなどの仕事でほぼ寝る間もなく働きづめである

 

「ふぅ、疲れた。いや、実際は疲労無効だから肉体的には疲れていないけど、ここまで忙しいとテンションただ下がりだな」

 

執務室で本日最後の書類に判を押し終えたアインズは知らず知らずのうちに今までの忙しさの愚痴が口から漏れていた

 

「しかし、自分がOKを出したとはいえ、戦争を仕掛けるのってこんなにも忙しくなるんだな。あ~あ、アインズ・ウール・ゴウン様の策とはいえ、このままではアンデッドだけど過労死してしまうかもな」

 

もちろんOKを出したのも自分であり、アインズ・ウール・ゴウンとは自分を指すものだから今の状態は自業自得と言っても過言ではない、が守護者達に頼りないありのままの自分をさらけ出すよりかはマシだと自分に言い聞かせるようにする

 

「そう言えば、最近サイファーさんの姿を見てないけど何をしているんだろう? ・・・まさか俺に仕事を押し付けて一人遊んでるんじゃないだろうな」

 

そう思い目を閉じれば仕事もせずソファーに寝転がりながらお菓子を貪りながらメイドにお茶を催促する友人の姿がはっきりと見えてくる

 

「く、おのれ悪魔王め。この俺がここまで忙しく働いているのに自分は何食わぬ顔で怠惰を貪るとは・・・許しがたし!」

 

自身の勝手な想像のためか精神の抑制は発動しなかったがそれに近い憤りがアインズの中に生まれ、サイファーの自室兼執務室に向かうべく椅子から勢いよく立ち上がり歩みを進める

 

執務室の扉を開け、そこに待機していた本日のアインズ当番のメイドに声を掛ける

 

「少しサイファーさんの部屋に行ってくる・・・」

 

「畏まりました。ではすぐに近衛に声をかけ準備いたします」

 

「極秘に話したいことがあるのだ。ゆえに今回に限り必要はない」

 

どこかで聞いたことのあるセリフを何時のも様にやんわりと拒否し速足でサイファーの執務室に向かう

サイファーの自室はアインズの自室とあんまり距離が離れていないせいもあってすぐに到着する

アインズはノックもせず扉を開けると待機しているメイドがびっくりしたのか身を震わせたのが視界に入り、内心そのメイドに謝りながら部屋の中に入り執務室への扉を開いた、そして友の姿が目に入り言葉を失った

 

 

 

「採決済みの書類が、さんじゅう~いち、さんじゅう~に~まい。これで終り・・・か?」

 

疲れ切った顔で書類の束を横に寄せたサイファーの目の前に新たな書類が置かれる

 

「いえ、まだカルネ村で育成中のユグドラシル産の種子の生育状態のレポートに目を通していただき実験の継続許可の判が必要でございます」

 

「悪魔王様。新たにエ・ランテルの屋敷に名指しの依頼が多数寄せられております。こちらの書類にまとめておきましたのでこちらも採決とご指示をお願いいたします」

 

二体のエルダーリッチ達に急かされる様に仕事をしている友の姿があった

 

「あ、アインズさん。てつだって・・・いや、たすけて」

 

目が合ったサイファーの呟きが耳に入り黙って扉を閉めた。

アインズの判断は正しかったのかは誰にも分からないが、ナザリックのシモベ達に聞いたら間違いなく自分の判断は正しいと答えてくれる気がしたので、扉を閉めたのは正しかったと思うことにしてアインズは再び自分の仕事を済ますため執務室に戻ることにした

 

「さて、仕事にもどるか」

 

帰ろうと踵を返し歩こうとした時、いきなり肩をつかまれたため嫌な予感はしたが一応確認のため後ろを振り返ると疲労困憊のサイファーの姿がそこにはあった。

 

「ここまで来て逃げられるわきゃねーだろが!」

 

肩をつかんで離そうとはしないサイファーになし崩し敵に執務室に連れ込まれてしまった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先ほどまでの喧騒が嘘のように静まりかえった執務室では誰もいないことを良いことにアインズとサイファーはソファーにぐで~と座りお互いに疲労を回復させていた

その状態から数分以上過ぎたあたりでサイファーからアインズに言葉を掛ける

 

「・・・とりあえず、お疲れ様ですアインズさん。そっちの仕事ぶりはどうですかね?」

 

「えぇ、なんか知らないうちに制作されていた計画書とかが別紙の資料付きで毎日アルベドやデミウルゴスから送られてきてそれを処理するのにてんてこ舞いですよ。サイファーさんはどんな仕事をしているんですか?」

 

「聞きたい? ふふふ、さっき少し聞いたかもしれませんけど俺のほうはナザリック外での活動の事後処理とアダマンタイト冒険者としての野外活動がメインですね。ぶっちゃけると戦争に向けて準備をしているナザリックにとって重要性が低いけどやらなければいけない事の処理を一人でしている状態ですね」

 

「ええ!一人でこの量をこなしているんですか!?」

 

「仕方がないでしょ。今回の計画はナザリックの最重要事項なのでそっちに人手が割かれて、その計画にあまり関われない俺が臨時で統括する立場になっているんですよ。」

 

力なく笑うサイファーを見て少し前まで遊んでいると決めつけていた自分が恥ずかしくなってきたが少し背伸びをして体を伸ばしたサイファーは言葉を続けた

 

「ま、アインズさんが来る前にデミウルゴスとすこし話したんだけど本日中にナザリックの準備が完了するから俺の仕事量も平時と同じになるんだってよ・・・さてと・・」

 

「急に立ち上がってどうしたんですか?」

 

「もちろん仕事に向かうんですよ。あ、冒険者としてのお仕事なので数日ナザリックから離れますから何かあったら『伝言/メッセージ』で連絡してください。 それとも手が空いたらこっちに合流します? アルベドも今は忙しいから二人で気兼ねなく冒険できますよ」

 

「ふふふ、それも悪くないですね。・・・よし、少しでも早くサイファーさんに合流できるように俺ももうひと頑張りしますか」

 

二人で軽く笑い合い、アインズは自身の執務室に向かい、サイファーは部屋の外で待機していたメイドを呼び戻し外に行く準備を始める

 

 

穏やかに時間が流れてはいるが運命の時は一秒一秒確実に近づいてきている・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ハムスケに跨ったサイファーは手綱を引いて歩みを止め、冒険者組合の入り口で颯爽と飛び降りる

その姿を見た何人かの冒険者からは感嘆の声が漏れ、憧れの人を見る眼でサイファーとハムスケを見ていた

いつもならその視線は冒険者モモンが一身に受けていたが今日は彼がいないためその視線はサイファーが独り占めしていた

 

(ふふふ、何時もアインズさんがやっていることを真似してみたが、案外上手くいったようだな)

 

そんな視線を満更ではない気持ちで受け止めながらアインズの真似をしながらカッコつけて冒険者組合の門を開ける中に入る

冒険者組合の中には結構な人数がおり何時も通りの騒がしさがあったがサイファーの姿を確認するやいなや徐々に静まっていき受付嬢の前に立つころには静まり返っていた

 

「これは『漆黒』のサイファー様。今日はどの様なご用件でしょうか?」

 

「名指しの依頼があると聞いて来たのだが。組合長のアインザック殿は居るかな?」

 

「はい。承っております。どうぞこちらへ」

 

丁寧に対応され組合長の部屋に案内された

 

「おお、サイファー君! よく来てくれた!」

 

組合長アインザックは少し大げさに歓迎してくれて右手を差し出し握手を求めてきたため、こちらも手を出し差し出された手を握り返した。

 

「さぁ、立ち話もなんだ、座ってくれたまえ」

 

「お気遣いありがとうございます」

 

サイファーが誘われるままソファーに座るとその対面に組合長が腰を下ろす。前回アインズにした様な粘着行為は一切せず社会人としてまっとうな態度をとるアインザックを見てサイファーはふぅと心の中で安心した

 

(良かった。どうやら俺は彼の趣味ではなかったようだ。やっぱり線の細い魔法詠唱者よりガタイの良い戦士タイプが彼の好みなのだろうな)

 

以前のアインズへの粘着行為を目撃しただけあって一人でこのホ○に会うのは恐ろしかったが、どうやら杞憂に終わったようだ、しかしそれと同時に彼にロックオンされているアインズに少しばかりの同情が沸いてくる

 

「それで今回の依頼なんですが、西区で行方不明者が多数いると言う話なのですが、人探しくらいにアダマンタイトは過剰ではありませんか?」

 

「うむ、私も最初はそう思い『銀級』以下の冒険者に依頼を出していたんだがね、彼らがいくら調査しても異常が見つからなかったのだよ。しかしその後も件数は減ったが何件か西区で行方不明者が出たんだよ。そのつど依頼を出していたんだが全く原因が分からずこの前『ミスリル』にも声を掛けたのだがやはり成果はなかったのだよ」

 

「それで俺たちに依頼を?」

 

「そうだ。行方不明者が多発する西区の墓地では少し前に君たちが解決したアンデッドの大量発生が起こった場所でもある。最悪の事を考えるとその事件を解決した君らに頼るほかないんだよ」

 

「・・・わかりました、その依頼受けましょう。では早速ですが行方不明になった者たちのリストを見せてもらえないでしょうか、もしかしたら何かしらの共通点があるかもしれません」

 

「わかった、受付に行って資料を貰ってくれたまえ。一応ミスリル冒険者を待機させているが必要かね?」

 

「・・・いえ、今は必要ありません。」

 

「わかった、くれぐれも頼んだよ」

 

 

その言葉を最後にサイファーはソファーから立ち上がり部屋を後にした

しかし自分たちの拠点がある地区で行方不明者が存在するなぞ屋敷に待機しているシモベ達からは報告がなかったはずだ

考えられる可能性は二つ

一つは気付いていたけど屋敷に被害が及ばないから無視した

もう一つは屋敷のシモベ達が気付かないほどの隠密性が高い者の仕業か

どちらにせよ一度屋敷に行き情報を集める必要があると考えたサイファーは急いで冒険者組合から出てハムスケとともに屋敷に向かうのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エ・ランテル西区の屋敷

 

現地で購入した中古物件であるためナザリックのどの施設よりも劣る汚い屋敷だが、ナザリックのメイド達により整備と掃除が行われ呪われていた土地と屋敷を徹底的に神聖魔法で清めたためエ・ランテルでも上位に入る屋敷へと生まれ変わっていた

その立派さからアダマンタイト冒険者に対する憧れと、強くなればこれくらいの屋敷が手に入ると下級冒険者らの夢の終着点な感じで崇められるところである

 

そんな屋敷の一室にこの屋敷を任されている八肢刀の暗殺蟲八体に最近配置されたエルダーリッチ二体(A作、B助)そして死の宝珠が集まり目の前の悪魔王に頭を垂れていた

 

 

「忙しいところをわざわざ集まってもらい感謝する」

 

アインズの様に仰々しくシモベ達に話しかけるが、サイファーには何と答えるかは大体想像が出来ていた

 

「何を仰います、至高の御方であらせます悪魔王サイファー様のご命令とあらば我らは何を差し置いても馳せ参上いたします」

 

「うむ、お前達の忠義、しかと受け取った。今回の要件なのだが、まずはこの資料を見てくれ」

 

そう言って冒険者組合から受け取ったリストを言語解読の魔法がかかった眼鏡とともに代表で取りにきた八肢刀の暗殺蟲に渡すと全員が集まり情報を交換し始める

 

数分の間で資料を読み終えたシモベ達は資料を机の上に置き再び頭を垂れる

 

「読み終えたようだな。この事件に関して何か心当たりがあるものは挙手せよ」

 

サイファーの言葉が終わると同時に全てのシモベの手が高らかに上がる。どうやらサイファーが考えていた様にここのシモベ達は知っていたが屋敷に被害がないからほっといたようだ

 

「ふむ、全員心当たりがあるのか? では、右から順番に発言してもらおうか」

 

「はっ!!僭越ながら、まずは私から発言させていただきます!!」

 

「うむ、発言を許可する」

 

「はっ!! リストの一番目から三番目の男ですが夜間に屋敷に強盗目的で侵入してきたので始末し我々の餌にさせていただきました!!」

 

(へ? 今なんて言ったこいつ・・・処分して食った・・・?)

 

「四番目の女と五番目の冒険者の奴らはこの屋敷に火を放とうとしたため、捉えて拷問し背後関係を吐かせたところ、至高の御方がたの冒険者としての働きに嫉妬した単独犯だった模様でデミウルゴス様の牧場が人手不足だとお聞きしましたのでそちらに送りました!!」

 

(え~!? マジですかーこれってもしかして・・・)

 

「最後の女ですが、こいつも強盗目的で侵入したため我々がおいしくいただきました!!」

 

(はい、犯人は身内でした。事件解決・・・て! 何こいつらそんな勝手な事してんの! ちょっとガツンと行ってやらんといかんな)

 

「お前ら・・・」

 

「しかし、サイファー様は本当にお心が広い!」

 

「全くだ。他の部署では自由に人間が食せないと聞くがサイファー様が管理するここでは屋敷に危害が加えられた場合のみだが我々で焼くなり食うなり好きにしてよいなどの裁量をお与えになるなど本当にお心が広い!」

 

「え? 俺、そんなこと言ったっけ・・・?」

 

「「はいっ!! 確かに仰いました!!」」

 

あーそういえば、警備をしてくれてるこいつらに何か褒美を与えたほうが良いと思って隠蔽系のアイテムを大量に渡して証拠を残さなかったら良いよっていったんだっけ?

悪人+屋敷に危害を加える奴に限定したけどアダマンタイト冒険者の屋敷だとわかっていてもバカやる奴はたくさんいたのね

 

ということは今回の事件は俺のせいってことか?

いや、俺ら『アインズ・ウール・ゴウン』に喧嘩を売っといてその程度で済ましてやってんだ、寧ろシモベ達に食われた奴らは俺の対応に感謝するべきだろうな『ちゃんと殺してくれてありがとう』ってな

 

「話は分かった・・・とりあえずこの事件の犯人役のスケープゴートを用意し、お前達が処分した者たちの遺留品などがあったら持ってきてくれ」

 

命令を下すとシモベ達はすぐさま行動に移りあっという間に目の前にはこの屋敷に危害を加えようとした馬鹿どもの遺留品とボロ布に包まれた白骨体が持ち込まれた

 

「ごくろう。で、この骨は何だ?」

 

「は! この屋敷に現れた王を名のる愚か者の成れの果てにございます。その残骸であれこの事件の犯人にするには十分かと・・・」

 

「そうか。よし、事件も解決したことだし飯にするか」

 

その夜はシモベ達が用意してくれた料理に舌鼓を打ちながら今までの忙しさの疲れを十分に癒し、次の日の朝一番に冒険者組合に遺留品とエルダーリッチの残骸を持っていき事件解決の報告をしたら物凄く驚かれ、帰り際に扉越しであるが組合長の『一日で解決とかオカシイだろう!』と声がしたがアインズだって3日で特殊な薬草を採取してきたんだから何も問題はないはずだ

 

その日の内に仕事を終えたアインズと合流できたが2日後帝国が王国に向けて宣戦布告をしたためナザリックに戻ることとなった

少しの間だったが二人は日ごろの重圧から解放され晴れ晴れとした気持であった

 

 





次回『アインズさん本気出すってよ』

標的はもちろんあの国です



~悪魔王サイファーの影響~

ナザリック外での影響


『カルネ村の場合』

・ 初期こそ原作と同じだがその後の復興支援と言う名の現地実験に植物など食料になるものが追加され村人たちの栄養状態が少し良くなった
・ 原作ではナザリックに消えた『フォーサイト』がサイファーの気まぐれで助けられ村の警備の名目で移住してきており戦力増強につながっている

『エモット家の場合』

・ 基本的には原作と変わらないがネムがサイファーより果実の木をプレゼントされため日に一回は食卓に果物が並ぶようになる
・ エンリの村長としての勉強会にアルシェが参加するようになり、彼女の持つ帝国式の教科書とンフィーリア以上の教育で何気に原作より賢くなっている



『アルシェの場合』

・ 原作の様に安らかな死を与えられる訳でもなく、web版の様なシャルティアのペットでもなく、サイファーの恩恵で生きながらえ妹たちと共にカルネ村で暮らしている
・ 元ワーカー兼同年代の女性と言う事でエンリ・エモットによく相談を受けている
本人も悪い気はしていない模様
・ サイファーに忠誠を誓っているも生活の足しにせよと送られてくるこの世界では最高級の品々に困惑しておりどう対応するのが正解なのか日々悩んでいる



『ヘッケラン、イミーナ、ロバーディックの場合』

・ 全員ナザリックより生還しカルネ村で第二の人生を歩んでいる
ヘッケランとイミーナは同じ家に住んでいるがまだ籍は入れてないもよう
だが原作のエンリとンフィーリアよりは早く夫婦になるかもしれない

ロバーディックは村でその力を存分に発揮し村人やゴブリン達からも信頼が厚く、よくお見合いの話が舞い込んでくるが本人は今のところ拒否している


簡単で短いですが今回はこんな感じです

ではまたね!




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