トブの大森林での薬草採取はやはり一筋縄ではいかなった
森の奥には確かに未発見の薬草の群生地はあったが、同時に村にとっての厄災も同時に存在していた
薬草と厄介事を大量に抱えて村に戻って散策隊のメンバーは一時ゴブリンたちの住居に集まり今後の事を話し合う事にした
「簡単に言えば襲われたから逃げてきた」
そう発言したのは厄介事に巻き込まれているゴブリンの少年、たしかアーグという名だそうだ
悪霊犬に襲われているところをエンリの決断で助けた存在で何かしらの森の中の異変をしている貴重な情報源である
「簡単過ぎんぞ・・・。どんなモンスターに襲われたんだ」
アーグの言葉足らずに追加の情報を問いただしたのはエンリがアイテムを使用し召喚したというゴブリンの集団の一人、カイジャリである
悪霊犬と戦う時に共闘したが、その強さは並のゴブリンの遥か上を行き、人間と会話し戦闘の段取りを話し合えるくらい知識も高い。
これほどの実力を持つゴブリンをなぜ村娘であるエンリが召喚できたか問いただしたことがあったが、彼らを召喚したアイテムはもとはこの村を救ったアインズ・ウール・ゴウンより直接授かったと聞いて腑に落ちた、あの方達ならばしかたがない
「東の巨人の手の者だ」
「東の巨人なんでぇ、そいつは?」
「・・・お前たちはあいつをなんと呼んでいるんだ?」
「いや、呼び名がどうのの前に聞いたことがないんですけど・・・アルシェさん、ヘッケランさん何かご存知ですか?」
この中で最も博識なのはンフィーリアだがモンスターに関する知識ならば帝国でワーカーを生業としてきた二人のほうが上であろうと意見を聞いてみたが、二人とも顔を見合わせた後に首を横に振る
「すまないけど俺たちも東の巨人という存在については聞いたことがないな。この村に移住してきてから何度かイミーナとロバーと共に森に入ったがそれほど奥地まで探索したことがないから、森の住人ほど詳しくはないぜ」
「そう、だから森の住人であるアーグに基本的なところから説明をしてほしい」
「基本って何が基本なんだ?」
「なら、森に住んでいる強いモンスターから順に話してほしい」
俺からしたら悪霊犬やオーガも強いんだが・・・とぶつくさ言いながら森のモンスターについて語り始めた、最も聞けば聞くほど大森林の奥地は魔境だと思い知らされる
森に存在する東の巨人、西の魔蛇、南の大魔獣、これらの三大勢力が拮抗しておりある意味大森林の奥地は安定していたが、いつの間にか南の大魔獣が森からいなくなり、代わりに滅びの建物の主人が新たな勢力として現れ奥地の勢力バランスは崩壊し混迷を極め、残った二大勢力が手を組み滅びの主人を打ち取ろうという事である
それでなぜアーグ達ゴブリンが追われていたかというと、その討伐隊の戦力に加われと脅しされたが、彼の一族は良くて使い捨ての戦力にされ、悪くて非常食になるのが嫌で逃げてきたという訳である
話を聞きながら情報整理すると・・・アルシェは頭痛がしてきた気がした
いなくなった大魔獣は十中八十九、あの墳墓で悪魔王サイファーに『フォーサイト』の皆で忠誠を誓った後、集団としての戦力が知りたいと模擬戦の相手として彼が連れてきた魔獣がそうなのであろう、あの英知を感じされる力強い目、強靭な身体つき、大魔獣といわれるだけの風格があった
・・・一応言っとくと模擬戦は三回行われたが一回も勝てなかった
一回目の何でもありルールでは開始された瞬間、ハムスケと名乗る魔獣の尾が動いたと思うと意識がなくなり、気が付けば試合は終了していた
二回目は尻尾はなしというルールが追加されたがハムスケの魔法によりまったくチームとして動けず敗北に終わった・・・『全種族魅了/チャームスピーシーズ』で戦力の要を魅了しての同士討ちは流石に汚いと思った
三回目は尻尾と魔法なしという魔獣の長所を全部潰したルールで行ったが、この時少しでも善戦出来ると思った自分が恨めしい・・・なんで魔獣が『武技』を使うんだろう・・・
そんな化け物と同各の強さをもつ東の巨人、西の魔蛇、はっきり言って『フォーサイト』全員で全力で戦っても時間稼ぎが出来たらラッキーくらいだろうか。もっとも何秒かしか持たないだろう
滅びの建物はサイファーより渡されたカルネ村の資料にちょっとだけ書かれていた森に造っているダミーの館だと推測する
恐らくその事を知らない森の住人が無闇に近づき、建設の邪魔だと判断され処分されたのだろう
つまりはこのトブの大森林で起こっている異変ははっきり言えば、自らが絶対の忠誠をささげる組織のせいで起こっているといっても過言ではない
しかし、考えれば考えるほど、この状況に納得がいかない
あの、恐ろしい大墳墓の絶対者が、あの悪魔王が、森の奥地に自分達の拠点を造り、大魔獣を森から引き離すと森にどの様な変化が起こるのかを予想できない訳がない
それと、なぜ自分達『フォーサイト』はカルネ村の守護を言い渡されたのだろう、この村には恐ろしいとしか言い表せないほどの力を持つメイドが常駐しており、彼女が守護しているのならば自分達はいらないのではないか
話が停滞し始めたとき、ルプスレギナがこの村を救った魔法詠唱者アインズ・ウール・ゴウンに問題を解決してとお願いしてもいいと言ってきたが、エンリ・エモットが拒否したため、救援の件は一時保留となった
最も、サイファー様ならともかく、あの御方にはもう当分会いたくはないというのがアルシェやヘッケランの本音だった
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「で、アルシェはどうするつもりなんだ?」
「え?」
話し合いが終わり、それぞれが帰路につく帰りにヘッケランが不意にそう問いかけてきた
「今回の件だよ。俺らはサイファー様の命令でこの村にいるわけだし、異変があったらやっぱ報告しといたほうがいいんじゃないか?」
「確かに、必要かもしれない。でも、今日村の近状を報告したから次にこの村に使者来るのは6日後になる」
「緊急時の連絡方法とかはないのか?」
「一応ある」
そう言って腰に下げている道具袋から街の魔法店よりも質が良いスクロールを取り出しヘッケランに見せる
「随分と上質なもんだな、中には何が入ってんだ?」
「・・・『伝言/メッセージ』の魔法」
「マジかよ、何でサイファー様はそんな信頼性の低いものを緊急用としてアルシェに渡したんだ?」
この魔法の逸話は有名なものでありほとんどの人が知っているものである、しかし当の本人はスクロールを大事そうに抱えながら恍惚とした笑みを浮かべていた
「それはもちろん私たちが嘘をつくはずがないとの信頼の現れに決まっている。あの強大にして慈愛に満ちた御方ならそう言ってくださるはず」
「お、おう、そうだな・・・」
帝国でワーカーを営んでいる時は感情をなるべく表そうとしなかった少女の笑みにヘッケランは若干引きながら複雑な思いを抱いていた
(昔より笑うのは良いんだけど、何か違う気がするよな)
大墳墓で味わった恐怖はヘッケランも偶に夢に見るくらい忘れがたいものだったが彼らは一度死亡し、恐怖体験は終了したがアルシェは違う。相手の魔力が分かるというタレントによってさらに恐怖を加算され、目の前で仲間が殺され、命がけで逃がしてくれたが逃走中に助けを求めたアダマンタイト級冒険者は実はこの墳墓の絶対者の友人であり決して逃げられないという絶望に立たされた状態からのハッピーエンド
究極の飴と鞭というか、最悪のつり橋効果というか、心労性ショックというか・・・この事件後よりアルシェは悪魔王サイファーにかなり心酔している事はある意味仕方がないことである
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エンリ・エモットがエ・ランテルに薬草を売り必要な資材を買い付けに行った翌日、お隣の夫婦が畑に行っている間赤ん坊を預かってほしいとの要望を受け、いつも妹達を預かってくれているから構わないと赤ん坊を預かり妹たちと揺り籠を揺らしていると、不意に扉をノックする音が響く
お隣さんが戻ってくるには早い時間だと考えながら扉を開けるとそこには泣き笑いをしているかのような奇妙な仮面と仰々しいガントレットをはめた魔道士風の者が立っていた
「・・・敵!?」
完全に油断していたが目の前の怪しい男?は微動だにしていなかったため先制攻撃を受けるとこはなかった
アルシェは自らの油断と失態に顔をしかめながら後方へとすぐさま移動し怪しい男?と距離を話すとすぐさま魔法の詠唱を始めようとしたが・・・・
「ちょ、ちょっと、待ってほしい!! アルシェ殿、私だ! A作だ!!」
目の前の男は慌てながら腕の赤い腕章を見せ敵意のない事をアピールし始める
相手の正体が分かった途端、アルシェの顔色はみるみる青くなり
「本当に申し訳ございません。私の早とちりでこのような無礼を働いてしまいました。私は如何なる罰も受けますので、妹たちだけは助けてください!」
「顔を上げてください。私のほうこそ女性宅にお邪魔するのに配慮が掛けていました・・・ここはおあいこという事で・・・」
「ありがとうございます。ところで今日はどの様なご用件でしょうか? 次の定期連絡は5日後のはずでは?」
「うむ、この前の果実の問題なのだが、代わりのモノを幾つか悪魔王様に選んでいただいたので少し予定よりは早いが届けに来たというわけだ」
「それは、ありがとうございます。それで、その御召し物はいったい?」
いつもと違って怪しさ満点の仮面を指さすと彼は何の問題はないとばかりに淡々と答えた
「ああ、これかね。これは今回は急な来訪だったため家に君以外が誰かいた場合アンデッドが出たと騒がれない様に変装したのだよ」
確かにアンデッドとバレるよりはましだと思うが、どっからどう見ても物語の悪者にしか見えない
「・・・そうですか。ここではなんですので、お入りください」
いつもの様に家の中に招き入れると二人の妹はやはり仮面が怖かったのかアルシェにしがみ付き半泣きの状態になり今にも泣きそうだったが、預かっている赤ん坊は恐怖を感じないようで、A作に抱きかかえられ仮面のままいないないばーとかされても泣きもせずき上機嫌で笑い声を上げていた
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「なんと!! 森の中にそんな脅威が存在していたとは!!」
「はい、皆との話し合いで、アインズ・ウール・ゴウン様に頼るのは最後の手だと決まりましたが。一応悪魔王サイファー様のお耳にお入れ頂いたら幸いです」
「任せておきたまえ、すぐさまエ・ランテルに向かい、悪魔王様より助言を頂いてくる!!・・・あっ、新たに持ってきた物は玄関に置いていくから後で確認したまえ。中に説明書も同封してあるので困ることはないと思う。では、また!」
そう言ってA作は玄関を飛び出してエ・ランテルに向けて走り去っていく
魔法も使わず走り去っていく彼を見送ったアルシェは玄関に置かれた袋を机の上に運び、中を確認すると幾つかの植物の種子が入った小袋が幾つか入っており、それぞれの袋の縛り口に種子の生育の方法が書かれたメモが括り付けてあったため椅子に腰を下ろし確認していく
「・・・・確かに前の果実の木よりはマシだけど・・・こんなの売れるはずがない」
机の上に倒れこみ、やっぱりエンリに街で内職の道具でも見繕ってもらうべきだったと考えながら、妹たちが声を掛けるまでうなだれるしかなかったアルシェであった
袋の中の内容
その① 野菜タイプ トマト(割ると金色輝くタイプ) カブ(某女神様の大好物) ナスビ(みんなに・・・笑顔を・・・)
その② 薬草類 木精霊調整済マンドレイク(鳴き声はもちろん 『アインズ・ウール・ゴウン万歳!!』 )
あとその他諸々。
選別した悪魔王様はちょっとでも高く売れそうなのを選びました
もちろん悪意0です