オーバーロード~悪魔王の帰還~   作:hi・mazin

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今回、悪魔王サイファー様の出番はなし
まぁ、仕方ないよね(笑)





三十九話目 カルネ村レポート ~前編~

 

 

アルシェ・イーブ・リイル・フルト。彼女の転機は人生で何度もあった

 

彼女は貴族の娘であったが皇帝の貴族の大規模な粛清によって爵位を剥奪され今までの暮らしができなくなり帝国魔法学院を辞めて働かなくてはならなくなってしまった。それが一回目の転機

 

しかし両親は貴族としての浪費を忘れられず借金を繰り返しているため普通に働いても借金の利息すら払えない状態だった

ならばより良い収入を得るために非合法のワーカーである『フォーサイト』に身を寄せ金を稼ぎ始めた

最初は疎外感から身を引いていたが仲間たちの暖かい思いに触れ、いつの間にか家の借金の事も話せるくらいに信頼関係が出来上がっていた

嬉しい誤算があった二回目の転機

 

妹のクーデリカとウレイリカの双子と共に家を出ようと考え、今ある借金を返し、後腐れのない様に家を出ようと最後の仕事―謎の墳墓探索―に向かい、遺跡と化した墳墓に侵入し捜索した結果、その墳墓は今まで見た事がないほどの宝物で溢れており家の借金を返済してもお釣りがくるくらいだった

多少の不安はあったが頼れる仲間たちとさらに奥に進んでいく・・・そして最奥の闘技場で一人の悪魔に絶対の忠誠を誓い三度目の人生の転機を迎えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁ!!」

 

まだ日も登りきらず薄暗い部屋にアルシェの声が響き渡る

言いしれぬ恐怖を感じ飛び起きた彼女は早いくらいに鼓動する自身の心臓の音で自分が生きていることに安堵し徐々に冷静さを取り戻していく

 

「お姉さま、またこわい夢をみたの?」

 

「お水もってこようか?」

 

横で寝ていた妹たちが心配して声を掛けてくれアルシェはここが現実であるとやっと自覚する事が出来た

 

「大丈夫よ二人とも。まだお外は暗いからもう少し寝ててもいいよ」

 

姉の優しい言葉に安堵し、二人は再び眠りにつき、それを確認したアルシェはベッドから起きだし水場で身支度を整え、食事の準備を始める。

 

というのも、ワーカーとして野外の経口食は作りなれていたがちゃんとした家庭料理はまだ不慣れなためどうしても時間がかかってしまうためである

保存されている野菜を黙々と切りそれが終わると肉も切っていく

一通り材料を切り終えると妹たちが眠そうな目をこすりながら起きだしてくる

 

「「お姉さま、おはよー」」

 

「おはよう、クーデリカ、ウレイリカ。もうすぐ朝ご飯だから顔を洗って着替えてきなさい」

 

「「はーい」」

 

姉の言葉に素直に従い水場に向かう妹たちを見送りながらこの幸せがあるのはあの御方のおかげだと心から感謝の気持ちが溢れてくる

 

もし、あの時遺跡には向かわず他の依頼を受けていたら私たちはどうなっていただろう?

いや、考えるまでもない、終わらない借金の返済に追われる日々を送り、何時かは危険な任務で命を落としていただろう

そして妹達は借金のかたにどこかに売られていくという未来もあったかもしれない・・・

 

「お姉さま、何かお手伝いはなーい?」

 

「なんでも言って良いんだよ」

 

暗い考えに浸っていたところに妹たちの優しく可愛らしい声が耳に入ると今まで頭の中に渦巻いていた暗い感情は無くなり、お手伝いをしたがっている妹たちに用事を言い渡した

 

「ありがとう、それならクーデリカは食器を並べて、ウレイリカは少しの間お鍋を見ていて」

 

「はーい」

 

「お姉さまはどこいくの?」

 

「畑から果実を取ってくるだけよ、二人ともお願いね」

 

二人に用事を言い渡し玄関の扉を開け外に踏み出していく。

朝の光が気持ちよく降り注ぎ、今日も天気が良いことがわかる。食事の後は洗濯をしなければと考えながら裏手にある自分たちの畑に向かおうとしたとき後ろから声がかかる

 

「よ、アルシェ、おはよう。今日も早いな」

 

「おはよう、ヘッケラン、朝の見回りご苦労様」

 

「おう、なんせ自警団団長様だしな、情けない姿はさらせないからな」

 

共に移住してきた『フォーサイト』のリーダーである彼はそのまま移住先であるカルネ村の自警団のリーダーに抜擢されその職務を忠実にこなしていた

ヘッケランも来たばかりの自分がリーダーなんて出来ないと抗議したがミスリル級冒険者に匹敵すチームのリーダーをしていた手腕とこの村の救世主アインズ・ウール・ゴウンの紹介もあり、なし崩し的に自警団団長の地位に座る事となった

 

「よかったら朝ご飯食べていく?」

 

「・・・いや、いいわ、イミーナが家で用意してくれていると思うし、また今度誘ってくれ」

 

「わかった、あとイミーナにお肉を分けてくれてありがとうって伝えて」

 

「おお、分かった。また手に入れたら分けてやるよ。でもって、その時はまた果物を分けてくれよな、あれ、すんごくうまいってイミーナも絶賛してたぞ」

 

「当然、あれは王族や貴族でも食べられないくらいの高級品」

 

「げ! マジかよ。そんな果実の木をあんなに所有しているお前って大金持ちになれるんじゃないか?」

 

ヘッケランが視線を向けた先には小規模な果樹園規模の木々がおい茂っていた

 

「そうでもない、高級すぎて何処にも卸せないし、下手に売りに出すとこの国の貴族の目をつけられてこの村を危険にさらす恐れがある。そんな事は断じて認められない、それこそ悪魔王サイファー様のご意志に逆らう事になる」

 

「そうだよな。おっと、少し話しすぎたかな。じゃ俺は見回りに戻るからな、妹たちによろしくな」

 

そう言って去っていくヘッケランの後姿を見送り、妹に鍋を任せていることを思い出したアルシェは急いで果実を取りに向かうことにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お昼に差し掛かるころアルシェの家には来訪者が訪れていた、アルシェは村人に気付かれない用に来客を招き入れ、いつも使っている椅子にクッションを置き来客の席とし来客が座る事を確認し事前に用意していたお茶の準備をおこなう

 

「森で取れた香草を使って入れたお茶です、良かったらどうぞ」

 

「おお、これは良い香りですな。お気遣いいただき、感謝しますぞ」

 

そう言って来客のエルダーリッチは出されたカップを持ち顔に近づけてお茶の香りを楽しみカルネ村での生活の近況報告という名の世間話に花を咲かせ始める

話をすればするほど、目の前のアンデッドの異常性が際立ってくる。まずこのエルダーリッチ、名をA作と言うが本当にアンデッドかというくらい普通に人間であるアルシェと会話ができ、生者に対してもまるで敵意を持っておらず、自分たちが定期的に来ると妹さんが怯えるかもしれないから、自分たちが来てる間はお隣で預かってもらえばどうかなどの気配りさえしてくる

 

「ふむふむ、果実が高級すぎて売るとこの国の貴族に目を付けられて村に危機が訪れるかもしれないですか・・・」

 

「はい、せっかくサイファー様に頂いたものですが現状は村の人々に配るか自分たちで消費するだけです」

 

「分かりました。このことは悪魔王様に進言し次回の訪問時には解決策かまた新しいものを持ってくることにいたします。今日はお忙しいところありがとうございます」

 

「い、いえ。こちらこそ・・・」

 

敵としてエルダーリッチとは数回戦闘をしたが、ここまで礼儀正しい姿に何度見ても違和感しかわいてこない

 

以前疑問に思い聞いてみたらA作と名乗るエルダーリッチは心の内を話してくれた

彼曰く、「自分たちの行動、言動、態度の一つで悪魔王様の名誉を傷つけてはあの方に合わせる顔がなく命をもって償っても返しきれるものではない、そう考えるとうかつなことはできない」と苦笑気味に話してくれた

本当に彼を見ていると自分の中のアンデッドの固定概念が砕けてしまいそうだ

 

そんな事を彼を見ながら昔のことを思い出しているとA作は何を思ったのかカップに入ったお茶を一気に口の中に流し込んだ

勿論骨だけのアンデッドなので口に流し込んだお茶は骨の隙間からすべて流れ落ち、着ていたローブがずぶ濡れになってしまった

 

「え、A作様。な、なぜそのような事を!?」

 

「いえ、せっかく出していただいたお茶に手を付けずに帰ってしまっては失礼かと思いまして、そして私の失礼は悪魔王様の名誉に傷を作る行為です、それだけは避けねばならぬのです!」

 

表情は分からないが何か思いつめたように力説し帰っていったエルダーリッチを見送りながらあんなに張りつめて仕事して生き辛くないのかと心配になり、次回からはお茶は出さずお香でも用意しようと心に誓うのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんください、アルシェさんいますか?」

 

「いる、ちょっと待ってて」

 

来客が帰りその後片付けをしていると玄関から若い女の人の声が聞こえてきたので片づけを中断して玄関を開けると自分と同じくらいの年頃の女の子が申し訳なさそうに立っていた

 

「どうしたのエンリ? 何か困り事?」

 

エンリ・エモット、この村に移住してきて知り合った村人で数か月前の事件で両親を亡くし妹と二人で暮らしており、同じく妹がいるアルシェと何かと話したり、相談し合うくらいには親交がある人物である

 

「あの、新しい場所に薬草を採りに行きたいんだけど、力を貸してもらえないかな?」

 

「・・・別に構わないけど、報酬は?」

 

薬草を採りに行くなら向かうところはトブの大森林だろう、確かにあそこならば薬草の群生地が多々あるだろう。しかしあそこはモンスターも数多く存在する危険な場所でも、そのためワーカーを生業としてきたアルシェは反射的に報酬の話をしてしまう

 

「え? う~ん、取れる薬草の量にもよるけど・・・頑張って支払うよ!」

 

「半分は冗談のつもり。でもなぜ危険な森に入りたいかは聞かせてもらいたい」

 

アルシェの問いにエンリは少し考え、トブの森に行く理由を話してくれた

 

彼女は危険と分かっていて森に飛び込むのはカイジャリという名のゴブリンの装備を補修できないという言葉を聞いたからそうだ

包丁の研ぎくらいなら彼女でも出来るが鉄の武具を修繕するには本職の鍛冶屋でなければできず、村の護衛のゴブリンたちは予備の武具すらなく、装備が劣化してしまう前に薬草の収益で丸ごと補いたいというわけである

 

「ゴブリンたちは村の守り手だから村人から武具の購入に必要な分を集めたらどう? 私も少しなら出せる」

 

「ホントはそうしたら良いんだろうけど、私はあくまで個人としてカイジャリさんたちに恩を返したいのよ、だからお願い力を貸して」

 

そう言って頭を下げるエンリの姿に最後の依頼の任務中聞いた『ゴブリンの母親が宝石を出して子を助けてくれって頼んで来たら助けるか?』という言葉を思い出す

おそらく悪魔王様はこの状況が訪れることを予想して予めワーカー達の適性を見ていたのであろう

ならばアルシェの答えは決まってる

 

「顔を上げてエンリ、私も森に向かう、手伝わせてほしい」

 

「ああ、ありがとうアルシェさん。えっと報酬は・・・」

 

「いい、私はお隣さんに妹をもう少し預かってもらえないか聞いてくる、準備ができたら直接森に向かうから待っていてほしい」

 

「本当にありがとうアルシェさん。じゃ、私はンフィーにも声をかけてくるね」

 

ンフィーリアの家に向けて走っていくエンリを見送ると、アルシェは家の中にしまっていたワーカー時の装備品を取り出し、異常がないかを確認する作業を行うのであった

 

 

 

 




アルシェさんのお隣さんは赤ん坊を養子にもらった若夫婦です
近所付き合いは良好でクーデリカとウレイリカはよく赤ん坊の面倒を見に行ってます

サイファーさんの渡した果実の木からはナザリックの食卓にも採用されるレベルのものが実を付けます
うん、この世界だとその価値は物凄いものだね

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