オーバーロード~悪魔王の帰還~   作:hi・mazin

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三十七話目 何もない日常 その2

 

 

 

 

ナザリック時刻 10:24

 

ナザリック地下大墳墓の第十階層内には『最古図書館/アッシュールバニパル』と言われる巨大図書館が存在し、ユグドラシル時代の本が大雑把に五種類に分けられて保管されいてる

 

まず一つ目が傭兵モンスターを召喚するための本棚であり、サイファーが書類整理用に召喚したエルダーリッチもここに保存されている本を使用して召喚された者である

 

二つ目が本の形態をしたマジック・アイテムであり、巻物と違い誰でも使用可能な魔法が込められているのが特徴である

 

三つ目がイベントアイテムと呼称されるもので特定の職業に転職するときに使用するものや特定の魔法や技術を習得するものが収められている

 

四つ目が外装データであり、剣や盾、鎧などの外装データがインプットされており、特定の鍛冶技能を使いインプットされている外装の装備を作る事が出来る

 

五つ目が元の世界で版権がなくなっている古典小説や運営お手製のユグドラシルの世界観のお話、『アインズ・ウール・ゴウン』以外のプレイヤーが書いたオリジナル小説や旅行記風に書かれた攻略情報などが収められている

 

 

「『死者の本』か、確かエルダーリッチに転職する為に必要なものだったな。ふーむ、よし今日はこれにしよう・・・あとは『ソロモンの遺訓』に『モーセ第八の書』とこんなもんかな」

 

 

そんな図書館に今日の仕事を終えたサイファーの姿があった

アインズとは違い基本的にナザリックでの書類仕事が少ない彼は最近時間が出来るたびにここに頻繁に出入りしている

異世界に転移しはや数か月、最近傭兵モンスターを召喚するために本を読んでいて気づいた事なのだが、転移の影響は自身の異形種化やNPCの自意識の発現、マジック・アイテムや魔法の変異だけではなく、図書館の本にまで影響が出ていたのだ

 

例えば使用すれば魔法『火球の玉/ファイアー・ボール』が覚えられる魔法書だが、ゲーム時代はアイテム選択で魔法書を選択すると覚えられたのだが。この世界では本当に文字が書いてある魔法書になっており携帯電話の説明書の様に文字がびっしり書き記されていたり図入りの説明文があったりと勉強嫌いにはたまらない仕様になっていたのだ

 

だが逆にサイファーは設定資料集みたいで面白いと感激し時間が空くたびにここに訪れているのだ

そして今日も今日で目についた本を片っ端から本棚から取り出し近くのテーブルに積み上げていくのであった

 

「さーてと、今日は冒険者のお仕事はお休みでナザリックで待機の日だから思う存分本が読めるぞ。あ、フィース、俺は今から読書タイムに入るからお前は先に部屋に帰って昼食の準備を頼む」

 

「かしこまりましたサイファー様。昼食の御時間とメニューは如何いたしましょうか?」

 

「そうだな・・・とりあえず食事は十三時ごろにして、メニューは肉料理をメインにお任せするよ・・・あっ、ニンジ・・・いやなんでもない。フィースも時間を見つけて昼食をとるようにしなさい、ホムンクルスは食事量増加のデメリットあるから無理はするなよ」

 

「お心遣いいただきありがとうございます。それでは準備に取り掛からせていただきます」

 

深々と頭を下げてスッと行動を開始するメイドの後姿を見送りサイファーは机に積みあげられた本を一冊手に取り表紙を開こうとしたとき『伝言/メッセージ』の魔法が頭に繋がってきた

 

「これからって時に。もぉ~、もしもしアインズさん、何かあったんですか?」

 

アインズの事だから下らないことでは無いと確信できるがお楽しみを邪魔をされた事で少しぶっきらぼうに答えてしまったがそれについての御咎めはなかった・・・というかアインズの言葉は何故かか細かった

 

「・・・いえ、今日の冒険者のお仕事なんですけど、アルベドの代わりをお願いできませんか?」

 

「ん、アルベドの代わりって、あの子がアインズさんとの二人っきりの冒険者仕事を諦めるとは思えないですが、何かあったの?」

 

暫しの沈黙・・・何かを振り絞るようにアインズが言ったセリフは・・・

 

「・・・いきなり俺を押し倒してきて捕食しようとしてきたので三日間の謹慎処分にしました・・・もう俺にはサイファーさんしかいないんです、たのみます・・・」

 

捕食。おそらく何かの比喩表現だろう、アルベドがアインズを捕食、サキュバスカがアンデッドを捕食、女が男を捕食

そこまで考えて答えが頭にひらめいた

 

「あっ!!・・・いや、はい。これ以上深くは聞きません、すぐ準備をしてそちらに向かいますので少々お待ちください」

 

「・・・お願いします」

 

そう言い残し『伝言/メッセージ』は途切れ図書館にはいつもの静寂が戻り、サイファーとアインズ話が気になりこちらに視線を向けていた司書たちは視線を戻し業務に集中し始めた

 

「ちょっと、そこの司書Cのバンドをしているキミ」

 

「はい。いかがいたしましたサイファー様」

 

「いや、すまないがこの本を元の場所に戻しておいて貰えないだろうか、急ぎの用が出来たのでね」

 

「わかりました、本はこちらで片付けておきます、いってらっしゃいませサイファー様」

 

「ああ、いってきます」

 

司書に用事を言いつけ図書館から退室したサイファーはそんなに距離が離れていなかったがアインズの下に向かうべく指輪の力を開放し執務室を兼任しているアインズの自室前に転移し扉を開けようとしたが・・・

 

「あっ!フィースに食事の準備させてるの忘れてた!? 外に行くから通常業務に戻るように言わなくちゃ」

 

大急ぎで自室に戻りフィースに出かける旨を知らせ洗濯に出していた冒険者装備を用意するように伝えたが流石はナザリックが誇るメイドである

急な予定変更であってもテキパキと動き時間のロスはほぼ無かった。そのためアインズを待たせることはなく約束の時間に間にあったのである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ナザリック時刻 13:35

 

いつもの冒険者姿になったサイファーとアインズはエ・ランテルの門に設置してある検問所にたどり着いたが

今日に限って渋滞しており人の列が全く動いていない

まぁ、入国審査は出国審査より入念に荷物を調べるので行商人などがいると荷物の多さから自分たちの番がくるまで時間がかかる事がある

アインズはハムスケとエ・ランテルでの仕事や武技や装備の事を話しながら時間を潰しており、サイファーはハムスケの毛並みのチェックしたが最初に会った時よりは毛並みが柔らかく、匂いは花の香りが微かに香り不快な獣臭はほとんどなくなってはいたがサイファーの理想まではまだまだである

 

一応ナザリックの第六階層に存在するスピアニードルというウサギに似た魔獣がサイファーの理想とする柔らかさともふもふであったがベッドのようにダイブして堪能しようとするといくら言い聞かせていてもびっくりして毛を鋭い針に変えてサイファーの体に突き刺さるのである

 

アウラが命令すれば毛は鋭くならず柔らかいままであるが子供の前でいい大人がもこもこと戯れる姿を見られたくないため黙っている

そのためハムスケを改良する事で満足感を得ようとしているのである

 

しばらくそんな事を考えていたのに列は全く動いていない並ぶのに飽きてきたサイファーは目の前の地味な男に声をかける

 

「ちょっといいですか?」

 

「は、はい。何でしょうか?」

 

「いや、列が動かないんだけど何かあったの?」

 

「詳しくは分からないんですけど、前に並んでいた村娘が詰所の方に連れていかれましてそれから急に・・・」

 

結局詳しい事は分からず、詰所の方に首を伸ばし野次馬的根性で聞き耳を立てていると何か激した声が聞こえる

その声に興味をひかれたサイファーは今の自分の地位-アダマンタイト-の力を持て見に行きたくなった

 

「アインズさん、ちょっと詰所の方にいって様子を見てきますんで待っててもらえます?」

 

「ん、そうですか。俺はここでハムスケと待ってますから、なるべく問題を起こさない様に気を付けてください」

 

「大丈夫だって、ちょっとした野次馬根性だから・・・」

 

そう言い残し詰所の方にへと歩いていくき、サイファーの姿を目にした兵士たちは一斉に驚きの声を上げはじめた。

アダマンタイト級冒険者サイファーの名を知らない者はこの街には存在しなかった

もっとも一番人気はアインズで、二番はアルベドではあるがその差は僅差だと思いたい

 

アインズの墳墓での堂々とした足取りを真似しながら颯爽と詰所前に到着する。中には村娘相手に興奮する魔法詠唱者と兵士、そして困惑した顔の村娘の姿が見えた

 

「お前ら・・・女の子相手に詰め寄って何してんだ?」

 

「うぉお!」

 

ナニする前ですなんて言うなよとドキドキしていたが外の兵士と同じようなリアクションで驚きの声をあげ、村娘はこちらを見てぽかーんとしていた

 

「こ、これは!サイファー様、失礼いたしました」

 

「だから、何してた・・・ん?てか、その娘」

 

「はい!怪しげな娘がおりまして少し調査に時間を取られてしまいました。サイファー様には本当に御迷惑を―」

 

男の声などまったく興味がなくガン無視して村娘に声を掛ける

 

「エンリちゃんじゃん、こんなとこに連れ込まれて何かしたの?」

 

「えっと、あの、どちら様・・・? い、いえ、あの時ンフィーと一緒に来られてネムに不思議なリンゴの木の苗をくださった方ですよね。お話した記憶はなかったのですが、私の名前はネムから聞いたのですか?」

 

その瞬間、思わずサイファーは頭を押さえてしまった。

村に向かった時にエンリの妹のネムに速攻で正体がバレてしまいエンリも自分の正体が分かっているものだと思い声を掛けたが

・・・どちら様って(汗) ネムちゃん、本当に俺の正体を皆に黙っていたんだね約束を守れる良い子は好きだけど、今回は裏目に出ちゃった

知り合いだと思っていた女の子に声を掛けたら誰って言われた件について・・・・はずかしくてしにたい

 

 

「じゃなくて! 俺だよ俺! サイファーだよサイファー。ほら、ツノ、ツノ」

 

フードからはみ出てる角をこれでもかと強調しながら思い出してもらおうとしていたらエンリちゃんは『あっ!!』と声を上げ俺の事を思い出したらしく、みるみるうちに顔色をわるくしそのままその場にうずくまってしまった

うん、思ったより俺の変装は完璧であり正体は知れ渡っていないみたいだ

 

 

 

「それで、この娘は俺の知り合いでね。何かあったか聞かせてもらえないかな?」

 

その言葉にその場にいた兵士と魔法詠唱者は目を見開き次第に納得したという顔に切り替わっていく

この光景は良く見ている気がする・・・絶対何か勘違いしていぞこいつら

 

「なるほど、やはり・・・」

 

なにが『なるほど』なんだよ。その答えは100%間違ってるからな! まぁ、ここは話に乗っかるか

 

「そうだ、心配する必要は一切ない。彼女の身元は俺が保証する。そのまま通してくれ。できるかな?」

 

「勿論です。『漆黒』のサイファー様が保証されるのであれば、どのような犯罪者であろうとも都市に入れるでしょう」

 

「いや、犯罪者は捕まえなさいよ、それがお仕事でしょう!?」

 

犯罪者もOKと言われ思わず口から出てしまったが相手には場を和ませる冗談だと受け取られ兵士たちから笑い声がもれ場の空気はいくらか明るいものとなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

門から少し離れた場所にエンリの乗ってきた馬車を止め、いまだに顔を隠して落ち込んているエンリにサイファーは声を掛ける

 

「え~と、何で落ち込んでるかはなんとなく想像できるけど気にしなくて良いんだよ。今はその、立場が違うんだから・・・」

 

「でも!!」

 

泣きそうな顔で顔を上げ抗議してきたが多分話が平行線になるからここでぶった切っておいた

 

「それだけ大声が出ればもう大丈夫だ。・・・それで俺の正体なんだが、一切詮索せず誰にも話さないと誓え」

 

ここで自分たちの正体がバレると後々まずい事になるため不本意ながらちょっと脅すように言ってしまった

そしたら脅しが効きすぎたのか青い顔して首が取れるかと思うくらい何度も縦に振ってるから問題はなかったと思う

 

「ま、堅苦しい話はこれで終わりにして、何しにここに来たの?」

 

場の空気を変えるためフレンドリーに話しかけたがまだ先ほどの脅しが効いているのか緊張した面持ちで話し始めた

 

「えっと、その前に一つよろしいでしょうか?」

 

「ん、どうしたの?」

 

「先ほどは助けていただき、本当にありがとうございました。」

 

そう言って頭を下げるエンリを見ながらサイファーは目を丸くして驚く、普通あれほど威圧され何しに来たと尋ねたのに最初のセリフが検問所のお礼とは思ってもいなかったため彼女の評価をさらに引き上げる

 

「気にするな、今日のはたまたまだ。で、それで?」

 

「はい、私がここに来たのは、え、えっと色々あるのですが一つは村で採取した薬草を売りに来たんです」

 

「ま、馬車の上にこれでもかってくらい積んでんだしそらそうでしょう」

 

「それから神殿に行って、私たちの村に移住したい人がいないかを確認します。それと冒険者組合にお話ししたいことがあって行くつもりです。後は村では手に入らない物を色々買い込む予定です」

 

「ふ~ん、思ったより普通の用件で来たんだね・・・あ、でも移住ならこの前何人か移住したはずだけどまだ足りないの?」

 

「よくご存じで、あ、えっと、確かに元ワーカーの人とその家族の方が移住してきましたけど、あの人たちは狩りや戦闘要員ですので、人手不足で耕す事が出来ず荒れ始めた農地を開拓できる人がいないかと思いまして」

 

それを聞いてサイファーは確かにと頷いた。彼女の言う通りカルネ村に送ったワーカー達は荒事が専門だし、村の警備の強化の意味合いも込めている

一応アルシェの妹達が稼ぎを得るために果実の木の苗を十五本くらい持たせたが村全体でみるとあまり関係がなかったようだ

 

「なるほど、大体理解した。じゃ、俺はもう帰るねエンリちゃんも頑張ってね~」

 

アインズさんも待たせていることだし『飛行/フライ』の魔法を杖を振るい発動させ、そのままその場を後にした。

カッコつけて空を飛んだが高い所は苦手なためすぐに路地裏に着地し隠れてエンリの様子を見ていたが特に問題なく馬車に乗って冒険者組合に向かっていったためサイファーもアインズの下に向かう事にした

 

 

 

 

 

もちろんアインズさんに遅いとに怒られて何度も頭を下げることになったがな!(泣)

 


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