オーバーロード~悪魔王の帰還~   作:hi・mazin

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三十六話目 何もない日常 その1

 

 

 

ナザリック時刻 7:20

 

朝も早くから従業員食堂には一般メイドのほとんどが集まり食事を始めていた

女性率ほぼ100%の食堂に彼女らの騒がしくも明るい話し声と食器を運ぶさいのガチャガチャとした音が加わりなかなか騒がしい場所である

 

そんな食堂だが食事をするメイド達は大きく四グループに分かれている

まず同じ至高の存在に作り出された者同士の三グループ、そして一人の時間を過ごしたい者、他の至高の存在に作られた者とおしゃべりしたい者などの混合グループである

この混合グループのメンバーはいつも決まった者達が集まっているのではなく、その日その日でメンバーが入れ替わって思い思い食事をとっている

このようにグループが分かれることはユグドラシル時代にはなく、この世界に来てからの現象である。それについて我らのモモンガ様は「これもNPCの自由意思によるもの」ということである

 

「ところでシクスス、今日はアインズ様当番の日でしょ? 普段よりびしっと決まっているね」

そんな騒がしい食堂の一画で食事をしているフォアイルはニヤニヤしながら共に食事をしているシクススに問いかけると、彼女もまたニヤリと笑い答える

 

「もちろん、アインズ様の御傍に着くのだからこれくらいは当然よ」

 

「良いですね。じゃあ昨日の休日はどう過ごしたの?」

 

その隣で食事をしているリュミエールは興味深々とばかりにシクススに質問をしてくる

 

「そうそう聞いてよ。昨日は第九階層の大浴場に入ってエステ?ってものをやったのよ 本当に素晴らしいものだったわ、さすがは至高の御方が御造りになられた施設だわ、本当に素晴らしいものだったわ」

 

「いーなー、私の番まであと何日かしら」

 

 

ごく最近まで彼女ら一般メイドには休みらしい休みがなく幾人かは一日中フルに働かなくてはならないという職場環境であった

普通なら夜逃げするレベルのブラック職場だが彼女たちはさほど問題にはしなかった

なぜなら彼女らはギルド『アインズ・ウール・ゴウン』によってナザリック地下大墳墓で働くために作り出されたのだ、故に『休む』などという概念は彼女たちには存在していなかった

 

そんな凄まじい労働環境をしったアインズは彼女達に使用されていない部屋の掃除頻度を下げるように指示を出し、次に休憩を入れるためのチーム分けを行い41日に一回の休日を設けた

アインズにしてみればこれでもまだブラック企業なみだと思っていたが、これに対して不満の声が上がった

もちろん休みが少ないとの不満ではなく、休みを返上しても働きたいという不満の声だった

その不満は大きくアインズに直談判するほどであった

そこでメイド達は「一日中働きたい、自分達から仕事を奪わないでほしい」言ってきた

それをアインズは速攻で却下し意見を変えなかった

 

頑として譲らない主人の決定に涙を流したが、その場にいたサイファーが語り掛けるように話し出した

 

「お前達に質問だが、このナザリック地下大墳墓の施設が素晴らしいものだと思うものは手を挙げよ」

 

その言葉に彼女らは一瞬戸惑ったがすぐさま手を挙た、その様子を確認したサイファーは次の質問を口にした

 

「ならばその素晴らしい施設を利用した事のあるものは手を挙げたままにしろ」

 

その言葉に毎日仕事しかしていなかった彼女らは誰も手を挙げられなかった

 

「第九階層の施設は使わないと勿体ないからとアインズさんがシモベ達にも開放した事は知っているよな、アインズさんが言いたいのはお前たち一般メイドにも利用して欲しいという事なんだよ」

 

その言葉に彼女らは口々に「恐れ多い」 「私たち如きが」などとざわつき始めたがサイファーは優しく続きを話し始めた

 

「確かにそう思う気持ちは理解できる。しかし、せっかく俺たちが丹精込めて作り上げたあの施設が一部の者しか使ってくれない状態は少し寂しい気持ちがある。だから休みの日はそこで存分に俺達の作ったものを堪能してほしい」

 

サイファーの言葉に少しずつ騒ぐ声が小さくなる、しかし皆の心には至高の存在が作り上げた施設を利用する事に対しての畏怖の念が渦巻いていた

 

「もちろん、急に言われて混乱していると思う・・・そこで今日は一般メイド全員を集めて休日の過ごし方研修を行う。もちろん監督はこの俺、悪魔王サイファーが行う・・・皆存分に堪能するがいい」

 

そしてこの研修により一般メイドから休日に対する拒否反応は薄くなり、更に休日の翌日はアインズかサイファーの側近く侍って一切を手伝う仕事を与えるとアインズより正式に発表され、最早メイドたちから休日を返上しようとの声は上がらなくなった

 

 

 

「しっかり栄養とって全力で働かないとね。場合によっては一食抜く可能性も高いんだからね」

 

「勿論よ。アインズ様当番は脳に栄養を大量に送り込まないといけないんだから」

 

「甘いものが欲しくなるのよね」

 

うん、うん、と三人は揃って首を縦に振り当番日あるあるで盛り上がり、次第にもう一人の至高の御方へと話が移っていく

 

「サイファー様って変な物を収集する癖があるって聞いたけど、それって本当かしら?」

 

「他の子にも聞いたけど本当っぽいわよ。この前の外の人間を誘い込んだ時もエルフの子とか人間を数人引き取ったそうよ」

 

「私も聞いたことがあるわ。外の世界で獣を拾ってきてナザリックで飼ってるんですって。その獣をブラッシングしてる御姿を何人も目撃しているらしいわよ」

 

「何とかの宝珠とかいう玉も拾って外の街の屋敷に置いているんですって」

 

「へー、そうなんだ。あっ、サイファー様って人参が御嫌いだってみんな言っているけどホントなの」

 

「ホント、ホント、アインズ様とのお食事の時に残しているのを見た子がいるんだって。でもアインズ様に注意されてイヤイヤ食べてたそうよ」

 

アインズの話の時は、やれ威厳があるだの、思慮深いなどと理想の上司の様な話であったが、サイファーの話になるとおかしな噂話に花を咲かせる三人であった。

 

しかしこれは彼女たちが悪いわけではない、アインズが支配者の態度をシモベ達の前で保って生活している時、サイファーはというと、支配者風の態度は取らず穏やかにすごし、メイド達に対しても気さくに話しかけ、言いつける用事といえば食事におやつに寝る準備とこんなものである

無論至高の御方として尊敬し、崇拝しているがどこかそのような気持ちにさせるのがサイファーである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ナザリック時刻 9:20

 

前回のワーカー事件より数日後、ナザリック地下大墳墓 第九階層の自室にてサイファーは大量の書類を一枚一枚確認し、不備の無い書類には自らのギルドサインが彫られた判を押していき、許容できない案件の書類には否決の判を押していく

 

最初に言っておくがここにある書類の99%はナザリックの運営には関係がなく、サイファーがエ・ランテルに購入した屋敷の警備状況、カルネ村に里子に出した赤子の成長状態にワーカー達の生活態度、ナザリックで療養中のエルフの社会復帰のためのリハビリの成果などの個人で管理しなくてはならない案件ばかりである

 

最初は誰かの手を借りようとしたが、アインズよりナザリックの運営に直接関係がある事以外は自分で管理せよとのお達しがあったため誰の手も借りられない状況である

 

勿論、至高の御方と呼ばれるサイファーが声を掛ければそれなりの人数は集まる。しかしアインズに自分で面倒をみるといった手前ナザリックのシモベを使うことに抵抗感がある

 

しかし、冒険者をやったりナザリックの運営についての相談や支配者演技の特訓、果てはハムスケのブラッシングに武技の練習相手(ハムスケからの攻撃をカウンターするだけ)など遊んでいるように見えてなかなか忙しいのである

 

「おいA作。この書類をB助に渡して問題ないから実行しろと伝えてくれ」

 

「了解いたしました悪魔王様」

 

サイファーから手渡された書類を大事そうに抱えたエルダーリッチ(A作)は深く頭を下げ部屋を後にしていく

 

A作、B助とはアインズに自分でやると豪語した手前ナザリックのシモベを使えなくなったサイファーが書類仕事を少しでも減らそうと考え、冒険者として手に入れた金貨を使って図書館で傭兵として召喚した書類整理専門のシモベである

 

何のスキルも使わずに生み出したため能力値は野生のエルダーリッチと変わらないが知力UPと高レベルの隠蔽系の装飾品を装備し、専用の腕章を付けてサイファーの事を『悪魔王様』と呼ぶのが特徴である

 

アインズに召喚してもらわず自分の金貨を使って召喚したところに一端のプライドが伺える

 

「あ~終った~。うーん、仕事が終わった開放感はリアルでもナザリックでも変わりないなぁ」

 

机の上の物を軽く片付けると側で控えていたメイドに声を掛ける

 

「おーいフィース、お茶・・・いや、コーヒーとお茶菓子でも持ってきてくれない」

 

「承りましたサイファー様!」

 

声を掛けたメイド、フィースは速足だが優雅な動きで部屋の奥にある給湯室とサイファーが勝手に呼んでる部屋へと消えていき、欠伸を一つしたころにワゴンにポッドと焼き菓子を数種類乗せて戻ってきた

 

(毎回用事を頼むたびに思うンだけど、なんでこんなに早く持ってこれるんだろう。予め用意しているんだろうか? いや、ここに来るときはいつも手ぶらだし、あの部屋には何も備蓄していないはずだし謎だな・・・)

 

そんな事を考えている間に机の上はきれいに拭かれ、レースのテーブルクロスが掛けられコーヒーと苺のタルトケーキがで用意されていた

勿論物音などはせずテキパキとこなされていた

 

「相変わらず見事な手際だな。ケーキはうまそうだし、コーヒーは良い匂いだ」

 

「ありがとうございますサイファー様!」

 

軽く褒めたはずだったがメイドの表情は非常に明るいものだった

 

「今日、君が俺の当番という事は昨日は休みだったんだろう? どうだった休日は?」

 

「はい!とても有意義な時間を過ごす事が出来ました。これも全てアインズ様の真意を私達に解りやすく教えていただいたサイファー様のおかげであります!」

 

先ほどよりも表情が眩しいまでの輝きを宿し、幸せそうにこちらを見ていた、その様子をサイファーはただ見つめ返すことしかできなかった

 

 

 

 

 






【A作、B助の設定】

サイファーが自分の管理する事案の効率化を図るために自腹で傭兵召喚した【エルダーリッチ】である

二体に外見的差異はなく左腕上腕に付けられている腕章の色で区別している
赤がA作、青がB助

戦闘能力はスキルやアイテムでの強化がされていないため野良のエルダーリッチと遜色がない

性格はナザリックのシモベ達と同じく召喚者であるサイファーに絶対の忠誠を誓っており、真面目で勤勉である

カルマ値は外に向かう事も考えて出来るだけ低く設定しており、無差別に生き物を襲ったりせず戦闘を避ける傾向にある

転移系のアイテムは一切持たせていないのでナザリック、カルネ村、エ・ランテルの屋敷には基本徒歩で移動している

仕事を頼まれていないときはエ・ランテルの屋敷で待機し、死の宝珠とおしゃべりをしているらしい


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