ここは地獄だ
目の前の光景を三人の奴隷のエルフはそう表現することしかできなかった
「うで、うでがぁぁああ! ち、ちゆ、ちゆをしてくえぇぇぇ!」
両腕が切り落とされ傷口から血が噴き出しながらヨタヨタと近づいてくる主人の姿を眺めながら改めて思う・・・ここは地獄だ
「ふふふ、どうしたエルヤー君?。まだ腕が無くなっただけじゃないか、死んでいないんだからまだ戦えるよね?」
悪魔が主人から切り落とした腕を玩具のように弄びながら近づいてくる
「ひっ!! くるな・・・来ないでくれ!!」
闘争心どころか心がポッキリと折られたエルヤーにはもう戦う意思は見られなかった
「おいおい、つれないこと言うなよ!」
そう言い放つと悪魔は持っていた主人の腕を頭に叩き付けるとグチャっと嫌な音が室内に響き渡り、顔の半分つぶれた死体が力なく倒れる
騒いでいた者がいなくなり再び静かになった室内に悪魔の声が嫌に大きく響き渡る
「まったく、最初の威勢はドコに行ったのやら。一回目、二回目はまだ良かったが、三回目の今回は戦う素振りも見せず逃げだす始末、四回目は何をしてくれるのだろうな。ふふふ、あははは、あ~はっはっはっは~!!」
やがて笑うのをやめた悪魔は再び魔法の杖を取り出し死体に向けて杖を振るう、そして再び主人は生き返る
「・・・う・・・ううう・・・ひぃ! な、なんで、なんでぇぇ!!」
目を覚ました主人は目の前の悪魔の姿に狼狽し、もはや立ち上がる事も出来ず、腰を抜かした状態で後ずさりをする
「さぁ、四回目の勝負をしようか、武器は・・・さっき折れてしまったから素手でもいいよな?」
「あは、あははっはっははふはhしゃlっはfhヵhfkぁhぁか」
「なんだ、もう壊れたのか・・・・じゃ、もういいか」
主人に興味を無くした悪魔は額に指をあて、何処かに連絡を取り始め、それが終わるとこちらに近づいてきた
三人のエルフは互いに身を寄せ合いただ恐怖に震えることしかできなかった
誰の脳裏にも悲惨な未来しか予測できず、目からは涙が溢れてくる
人間の奴隷にされ、生き地獄を味わい続けとうに枯れ果てたはずだと考えていたがそれは間違いだったらしく枯れることなく溢れてくる
目の前に悪魔が近づき口を開く、今まさに死の宣告が下されるのかと恐怖しさらに三人は身を寄せ合い体を縮こませる
「もう大丈夫だよ、君達を苦しめる奴はいなくなったよ、もう辛い思いをしなくても良いんだよ」
優しい声に三人は恐る恐る目を開き目の前の悪魔の顔に視線を向ける
そこにいた悪魔は先ほどの恐ろしい形相ではなくにこやかに微笑む姿があった
その笑顔に見惚れていると悪魔はどこからともなく大きめのマントを取り出し一人一人の肩にマントを羽織らせていく
「・・・私たちを殺さないんですか?」
誰ともなく弱弱しい声で悪魔に質問すると悪魔は先ほどよりも優しい口調で語り始める
「そんな事する訳ないじゃないか、君達はこれからは幸せに生きて良いんだよ。俺に出来る事があれば何でも言ってくれてかまわない。俺は君達を助けたいんだ」
「もう痛いことされないの?」
「当り前だ。悪魔王サイファーの名にかけて君達の安全を保障しよう」
その言葉にエルフたちはまた涙を流し始める、へたり込むように地面に座り大声で泣き始めた
先ほどと違うところがあるとすれば、先ほどの恐怖とは違い、安心と嬉しさ、そして優しさに触れて心から暖かい涙を流していく
「好きなだけ泣いたら良いよ、泣き終わったら身体の診察とお風呂に美味しい食事にふかふかのベッドでの睡眠とやる事がいっぱいあるからね」
悪魔は三人が泣き止むのを笑顔で待ち続けるのであった
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第六階層の闘技場にてアインズは『フォーサイト』のメンバーと対峙していた
勿論、偶然ではなく、アインズ自身が自らの剣の練習のためにわざわざ呼び寄せたのだ
「まずは謝罪をさせていただきたい。アインズ・ウール・・・殿」
「・・・アインズ・ウール・ゴウンだ」
「失礼、アインズ・ウール・ゴウン殿。この墳墓にあなたに無断で入り込んだことことは謝罪いたします。許して頂けるのなら、それに相応しいだけの謝礼金として金銭をお支払いいたします」
暫しの沈黙が流れ、アインズから笑い声が微かに漏れる
「そうだな・・・金貨9999枚で手を打とうではないか、お前らに払えるかな?」
「なっ!!」
金銭による交渉が通じたところまでは良かったがその請求額は想像以上というか、ぶっ飛んだ額であり完璧にこちらの足元を見ている額であった
「どうした、払えないのか? 先ほどこの墳墓に相応しい金額を払うと聞こえたのだが私の気のせいであったかな?」
正直その程度の金額では到底収まらないと思うがヘッケランの驚愕の表情に内心ほくそ笑む
が、そんな事は表情には出さずすまし顔で相手をにらみつける、しかし解決の糸口が見つからないのかどう返していいのか返答に困っているらしく相手は沈黙したままであった
「どうやら払えないらしいな。まぁ当然か、親の借金を返すためにここに来た奴がいるのに、そんな大金は持っているはずはないな」
「どうしてその事を知っているの!!」
ヘッケランの後ろに控えているアルシェの驚愕の声をあげるがその言葉を無視しアインズは話しを進める
「さて、無駄話が過ぎた。弱肉強食というシンプルな真理に従い、お前たちから一つの物を奪うとしよ」
「いや、実はやむ得ない理・・・」
「やめろ、嘘を言って私を不快にするな。・・・せっかくの得たポイントがマイナスになるぞ」
アインズの言葉に『フォーサイト』全員に衝撃が走ったかのような動揺が手に取るように分かり慌てているのその姿は笑いを誘うには十分すぎるものだった
「最後の慈悲をもって戦士として戦ってやろう。さぁ、決死の覚悟で挑んでくるがいい!」
装備していたガウンを脱ぎ捨て片刃の黒剣と円形の黒盾を構える・・・が、上空からの奇声のせいで妙にしまらなかったのは黙っておくのが吉だろう
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やる事を終え、スッキリと晴れ晴れした気持ちでサイファーはアインズと合流するために第六階層に転移してきた
「はぁ~。溜まった鬱憤をこれでもかというくらい晴らせて気分爽快だぜ、やっぱ良いことをするって気持ちいなぁ」
エルフ達の事はセバスとペスに任せたしもう大丈夫だろう。
そう思いながら闘技場のアリーナに向けて通路を歩いていると前方からすごい勢いで少女が飛んできた
その少女、アルシェはサイファーの存在に気づき『飛行/フライ』の魔法を解きいきなり抱きついてきた
「うぉ! いきなりどうした!? そんなに俺に対する好感度って高かったのか?」
いきなりの事で動揺していたがアルシェの方がもっと混乱というか動揺していた
「みんなを助けてほしい! でも、ここにはバケモノがいて勝てるはずがないのにイミーナもロバーも私に逃げろって・・・サイファーも早く逃げないと貴方でも勝てない」
「は? え? 何言ってんの?」
必死になって何かを伝えようとしてくれているようだが早口だったため分かりにくい
首を傾げていると突然聞いたことのある声が廊下に響く
「鬼ごっこはもう終わり?」
「!追跡者・・・」
サイファーが状況を理解するよりも早く事態は動き、今度はシャルティアが微笑を浮かべながらやってきた
「サイファー、貴方も逃げ・・・」
サイファーの手を掴み共に逃げようとしたが逆に腕を掴まれてしまい動けなくなってしまった
「おお、シャルティア。良いところに来た。『伝言/メッセージ』が繋がらなくて状況が今一理解できないんだ、説明してくれないか?」
サイファーが追跡者ににこやかに話しかける様子にアルシェが何かショックを受けたようだがそんな事は今はいい
状況を確認することが第一である
「わかりんしたサイファー様。簡潔にご説明いたしますと・・・」
① 『フォーサイト』と戦士として戦うアインズ
② アルベドとの訓練の成果で危なげなく前衛であるヘッケランを無力化することに成功
③ 残ったメンバーがアルシェを逃がすために時間稼ぎを行い、アインズはシャルティアに捕縛を命令
④ 今に至るという訳である
「うん、理解した。アルシェ良い仲間に恵まれて良かったな・・・まぁ俺達ほどではないがな」
「何を・・・言っているの?」
どうやらこの子はまだ理解できていないらしい、それとも理解しているが脳がその事を拒否し、嘘であってほしいと願っているのかもしれないが・・・まぁ、現実は非常である
「まだ理解できないのか。じゃ、これを見たら理解できるかな?」
せっかく着替えたが彼女に現実を理解してもらう為にもう一度『冒険者』の装備品を外し『悪魔王』の姿へと戻る
その姿にシャルティアは臣下の礼をとり、アルシェは何かを悟ったようにへたり込んでしまった
「どうやら理解してくれたようだね。じゃ、みんなでアインズさんのところに戻ろうか」
へたり込み動かなくなったアルシェを小脇に抱えながらシャルティア先導の下アリーナに向かうと半裸のアインズと地面に這いつくばっている残りの三人の姿があった
「良いタイミングですねサイファーさん。こちらも今終わったところです」
「俺の方も片が付きました。いや~人助けは気持ちが良かったなぁ」
にこやかに二人はお互いに情報交換を行い、アインズからは戦士としてかなりの腕前になったと自慢話をされ、サイファーからはリスポーンキルの成果を報告した
そんな命を何とも思わない会話にアルシェはただ震えることしかできなかった
「それでは俺は今回の成果をアルベドとチェックしに行きます。残ったゴミはさっき話した通りサイファーさんのお好きにどうぞ」
「ありがとうございます、ではまた後で。」
話が済むとアインズは今回の計画の支出を調べるためにアルベドと共にその場を後にし、貴賓席にいた守護者達もそれぞれの持ち場に戻りその場にはサイファーとアルシェのみが残された
「さて、アルシェ。君には二つの選択がある」
サイファーの言葉にビクっと身体を震わせながら彼女はこちらに視線を向けてきた、その顔はこれからの事を想像してかひどい顔であった
「一つは・・・人間として安らかに死を迎えることだ」
サイファーの言葉に涙を流し始めるアルシェだったがそんな事は気にせず言葉を続ける
「もう一つは・・・俺に永遠の忠誠を誓い妹たちと幸せを掴むかだ」
妹という単語に彼女の表情は面白いほど憔悴していく
しかしこれはまずい、アルシェは後々利用価値が有るから出来れば殺したくない、だから忠誠を誓ってくれたほうが都合が良いがここまで絶望していると死を選ぶかもしれない
そう思ったサイファーはもう少し生きる希望を持ってもらう為にアイテムBoxより蘇生アイテムを取り出しアインズとの戦いで死亡した者達を対象に効果を発動させた
「あ・・・」
死亡していた三人に光が降り注ぎ血の気が引き蒼白となった肌に生気が戻り始め、光が消えるころには意識を取り戻しノロノロとだが皆立ち上がり始めた
「これはサービスだ・・・さぁ、君の答えを聞かせて貰えないだろうか。」
生き返った仲間たちを見ながらアルシェはどこか安心したようにサイファーに自分の答えを伝える・・・
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「お姉さま、いつ帰ってきたの?」
「いつお部屋に入ってきたの?」
双子の姉妹はいつの間にか帰ってきた姉にしがみ付き子供らしい喜びをあらわにしていた
そんな二人と同じ目線になるように屈みこんだアルシェの顔には笑顔が見られた
「心配かけてごめんね。クーデリカ、ウレイリカ。どう、良い子にしてた?」
「「うん!」」
「そう、えらかったね」
大好きな姉に褒められた二人は可愛らしく笑いあう
「それじゃあ二人とも、もう夜遅いけど引っ越しの準備をしてもらえるかな」
「えー、いまからー」
「もうねるじかんだよー」
「ごめんね。でも服や下着は用意してくれているから、本当に大事な物だけ持ってきて」
「「はーい」」
二人は引っ越し先に持っていく人形や絵本を真剣に選び始める
その様子を見ながらアルシェは自分の選択は間違っていなかったと忠誠を誓った悪魔に感謝し、荷物を選ぶ二人はこれから訪れるであろう、楽しい時間を夢みていた
『フォーサイト』の皆様はナザリックに置くわけにはいかなかったのでカルネ村の護衛に回されました
エルフの三人はナザリックにて療養中、元気になれば国元に戻してあげる予定です
アインズ様の金貨9999枚発言
単純に所持金のカンスト額と思われる金額を提示したまでです
ゲームではよくある事