「あー。ホントに遺跡があるんだからびっくりだよな。しかも草原のど真ん中にあるなんてな」
『フォーサイト』リーダーヘッケランの問いかけに共に遺跡を眺める仲間たちからも同意の声が上がる
この遺跡は正確には墳墓ということだが、大地にめり込む様な盆地に存在しており、周辺には大地の盛り上がりが広い範囲に複数点あり盆地にある遺跡を完全に隠してしまっていた
そんな遺跡が発見できたのは遺跡の周囲を包む様にあった土砂が何らかの理由で崩れたことで、壁の一部が露出したため発見されたのだろう、というのが各チームの頭脳担当の総論である
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「それでどう思う? 墳墓を見た限り、何者かが支配している可能性が高いんだが」
「墓地の草木が刈り取られて綺麗だものね、かなり几帳面に手入れしている者がいるわ、でもどんな奴が?」
「十中八九、アンデッドでしょう。そうなると不味いですね。御存じだと思いますがアンデッドを放置すればより強いアンデッドが発生する可能性があります。遺跡に強いアンデッドがいるのはそういった理由からです」
「廃棄された墳墓でかつての主人に命令されて掃除するゴーレムだけなら面倒が一気に減って楽なんだがな。で、アルシェ、今後の作戦はどうするって?」
「とりあえず、夜になったら全チームで行動を開始する。四方から侵入し、中央の巨大な霊廟に集合」
「なるほど、明るいと侵入がばれやすいからね」
「そう」
「ですが『透明化/インヴィジビリティ』を使用したほうが安全に偵察できるのではないですか?」
「それも確かに考えた。でも、面倒になる可能性があるなら全てを一度にやったほうが良い。最低でも多少は調べられる」
「ま、その辺がギリギリのラインだろうな。なら、しばらくは休憩時間みたいなもんか」
「そう、『漆黒』と『スクリーミング・ウィップ』が警護に当たってくれるが、念のためと緊張感を保つため、各チームが二時間交代で様子を窺う事になっている、順番は伯爵の家に着いた順番」
「なるほど、つまり俺達は最後って訳だ」
「そう、私達の出番はまだまだ」
「お疲れですね」
アルシェが首を回したり肩を上げ下げをしている様子にロバーディックが声を掛けるとコクンと頷いて肯定する
「ここまで時間が掛かったのも、あの最低男の我がままのため、皆で説得するのに非常に苦労した」
「最低の糞野郎で十分よ、ここまでの道程でもアダマンタイトのサイファーと何かもめてたし、協調という言葉を知らないのよ」
殺意を籠めて罵倒するイミーナに苦笑いを浮かべたが、そのサイファーについて思い出したことがあった
「そう言えば、そのサイファーさんが宿泊地に魔法具を使って簡易シャワーを設置してくれたみたいだぞ、休憩中に使わせてもらったらどうだ?」
「言われてみれば何か用意をしていましたが、あの方は何かと変わったお方ですね」
「変わり者すぎるわよ、初対面でいきなり『大事にされてるか?』なんて聞いてくるし、『ゴブリンの母親が宝石を出して子を助けてくれって頼んで来たら助けるか』とかモモンと比べて何処かおかしいんじゃないの?」
先ほどとは違い呆れた顔で同行者のアダマンタイト冒険者の話題を口にするイミーナ、それについてアルシェも口を挟む
「確かに、他のチームがゴブリンを殺し宝石を奪う方が確実と答えたのに対し、ロバーディックが助けると豪語したらいきなり+1ポイント追加とか訳が分からなかった」
「助けを求める者を助けるのは当たり前の事です。彼の言った質問は何かの比喩表現だったのではないでしょうか? 彼らは南方の出身だと聞いたことがありますし、向こうでは有名な話なんじゃありません」
「この遺跡と一緒である意味謎の多い人だよなぁ。・・・で、二人ともシャワーは使わせてもらうのか?」
「それは使うけど、言っとくけど、覗いたら」
「覚悟したほうが良い」
ワザとらしくニヤついて聞いてくるヘッケランに対し、恐ろしい形相でイミーナが睨みアルシェが杖をヘッケランに向ける、その様子をロバーディックが微笑みながら見守っていた
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夜も更け、辺りが暗闇に包まれる時間帯になり、巧妙に偽装されたテントの中からワーカー達は外に出はじめ、冒険者の用意した食事を各々で食べ始め、一通り食事が済み次第、遺跡に侵入を開始した
その姿が見えなくなったから冒険者の一人が口を開く
「やれやれ、行ったな」
「行きましたね。たとえワーカーとはいえ、同じ釜の飯を食べ、今回の依頼における仲間です。無事に帰ってくると良いのですが。モモンさんはどう思われますか?」
「・・・全員死ぬだろう」
モモンのあまりにも冷たい言葉に冒険者チームのリーダーが呆気にとられた顔をすると、すかさずサイファーがモモンの発言についてフォローをいれる
「常に最悪の事態を想定し気を抜かないように警戒するべきだ・・・という意味だからね。今回の遺跡は未発見のものだしどんな危険が待ち受けているか不明だしね。彼はちょっと口下手な所もあるけど別に悪気があって言ってるわけじゃないのはこれまでの旅で何となくだけど分かるよね?」
サイファーの言葉に思い当たる節がある冒険者達はそうなのかと納得していく
「なるほど。少し気が緩みすぎていたようです、ご心配ありがとうございます」
リーダーの男は何度も頷き、死線を何度も潜り抜けたであろうアダマンタイトの言葉を深く胸に刻んだ
「それでは予定通り、私達は先に休ませてもらう」
「分かりました、後の事はお任せください」
軽く挨拶を交わし少し離れている天幕へと向い、サイファーと共に中に入ると入り口を閉め、念の為に外の様子を窺うがこちらに注意を払っている者はみられなかった
「・・・ふぅ、ちょっと感情的になり過ぎてしまったかな。さて、ここまでは計画通りだ、サイファーさんも準備してください」
「了解です。じゃ予定通り俺は第一階層で獲物を待ち構えて、処分が済み次第合流させてもらいます」
「ほどほどで切り上げて下さいよ。あと何かあったら即座に連絡をすること、良いですね」
そう言ってアインズは『上位転移/グレーター・テレポーテイション』の魔法を発動しサイファーを目的地まで転移させた
一人残ったアインズは鎧と剣を作り上げている魔法を解除させ、全身を包んでいた拘束感から解き放たれ、別に疲労などはないが「ふぅ」とため息を漏らし、肩を回しながら疲労を取ろうとしてしまう
「・・・やれやれだな」
今だ強く残る人としての感情の残滓だが時折邪魔にも思えてくる
『これ』さえ無ければ全てにおいて冷静に対処でき、先ほどのような失言は出なかったであろう
しかし『これ』が強く残っているからこそナザリックに愛着を持ち、共に転移してきた友と笑い合う事ができる
そう思うと『これ』はこれからも手放すことは出来ない大切なものだと強く感じる
アインズは苦笑すると同時に先ほどと同じ『上位転移/グレーター・テレポーテイション』を発動させ玉座の間の前まで転移する
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「お帰りなさいませ、アインズ様」
「ただいま、アルベド」
身体を駆け抜けるむず痒さに耐えながら目の前でお目目を輝かせ凄く良い笑顔のアルベドに対し支配者としての態度をもって接する
「計画の通り、これより侵入者が来るはずだ。いや、それとももう来ているのかもしれないが、歓迎の準備はどうなっている?」
「はい、アインズ様に褒めていただくために考えに考え抜いたこの防衛網。万全で、完璧でございます。お客様方が楽しんでくださるのは確実かと」
「そ、そうか、楽しみにしているぞ」
アルベドの熱気に押されながらも玉座の間に足を踏み入み、遅れてアルベドも追従する
玉座に腰をかけたアインズの目の前にまるでテレビのモニターのようなモノが無数浮かび上がっておりそれぞれにナザリックの別々の場所が映し出されていた
「あら? これは・・・」
「どうしたのだ、アルベド?」
モニターの一つに移ったワーカーを見たアルベドが何かに気付いたのか言葉が漏れ、アインズは確認のためアルベドに声を掛けた
「いえ、報告よりも一部の侵入者達が小奇麗になっておりましたので・・・」
「ふははは。何だ、そんな事か。あれはサイファーさんがやった事だ、汚いまま入れるのは良くないとな。ふふふ」
先ほどまで少し不機嫌だったがサイファーの行動で多少心に余裕が戻ったアインズは先ほどより落ち着いた心持でモニターを眺め始めた
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地下一階の十字路で各チームと別れた『天武』のエルヤー・ウズルスは何事も起こらない墳墓の内部を非常に退屈な思いで歩いていた
強者がいるに違いないと真正面の道を進んできたがこれまでモンスターどころか罠一つ無い平坦な道であった
自らの判断が間違っていたことの思いからイラつき舌打ちを一つ打ち、イラつきを落ち着かせるためにもの思いに耽っていると前を歩かせているエルフが立ち止まっていた事に気付くのが遅れてしまった
「何故、止まるのですか? 歩きなさい」
「ひぃ、こ、この部屋に誰かがいます」
「誰か、ですか」
怯えるエルフを押しのけ、部屋に踏み入り中にいる者を確認する。かなり大きいその部屋の中心付近に旅の道中、自分の奴隷エルフの扱いについて意見してきたムカつく男がいた
「待ちくたびれてしまったぞ、エルヤー君」
「待ちくたびれた? 貴方は野営地で警護をしてるはずですよね?こんな所で何をしているんですか」
「あ~はっはははは!」
エルヤーの当然の疑問の声に対し目の前の男、アダマンタイト冒険者の一人サイファーは声を上げて笑い始めた
「何が可笑しいのですか!?、貴方がいるという事はもう一人、モモンもここにいるのですか?」
目の前の男を無視し、部屋を見渡してみたがそれらしい人物は居らず、隠れる場所も見つからなかった
「モモンは『この部屋』にはいないよ。もっとも、お前はここで俺に殺されるんだから関係の無い話だがね」
話が終わるとサイファーは身に着けていた仮面とマントを脱ぎ棄て、隠蔽系の装備をアイテムBoxにしまい込むと『冒険者』のという仮の姿から正体である『悪魔王』へと変貌した
「殺してやる、殺してやるぞ! 異形種狩りの糞野郎が!!」
目の前の男のあまりにもの変貌にエルフたちは短い悲鳴を上げ震え始める、だがエルヤーは恐怖を感じるどころか自分の所有物に対し文句を言ってきたムカつく野郎を殺す良い言い訳が出来た事と雲の上の存在であるモモンを引き摺り下ろせるかも知れないと内心ほくそ笑む
「たかが悪魔の分際で私を殺すだと・・・ふざけるなよ! おい、奴隷ども、何をぼうっとしている!強化魔法をかけろ!」
エルヤーの怒号にエルフたちは慌てて幾つもの強化魔法を唱える、それにより膨大な力がエルヤーに漲ってくる
「まだだ!武技!<能力向上> <能力超向上>!!」
さらに自慢の武技でさらに自らを強化し、限界以上の力を得た肉体能力で一瞬でサイファーの懐に飛び込み一気に剣を振り下ろす
(一気にその首をいただく)
狙う個所を定めたエルヤーの刀が悪魔の首を一閃すると生首が空中に舞い上がり、残った胴体からは血が噴水のように吹き出し辺りを血に染めていく
「・・・言い忘れていたが、俺のスキル構成はカウンター特化だ、下手に突っ込んでくるなよ。おや、聞こえていないようだね、しょうがないなぁエルヤー君は。『蘇生の杖/リザレクション・ワンド』よ、コイツを生き返らせろ」
悪魔が杖を振るうと血まみれの首なし死体が光に包まれ、数秒もしないうちに光は消え、生き返ったであろう男が苦しそうにうめき声を出していた
悪魔はその光景を眺め微笑むのであった
『特別解説カウンター特化のサイファーさん攻略法』
その壱
大ダメージを狙うと逆にこちらがピンチ、チマチマHPを削っていこう、そうすればカウンターされてもこちらの被害を減らせるぞ
その弐
一対一は分が悪いので一対多数を心がけましょう、カウンターの対象が分散されもっと戦いやすくなるぞ
その参
ギルドの仲間を呼ばれたらまず勝てないぞ、必ず一人の時を狙おう
以上解散!