オーバーロード~悪魔王の帰還~   作:hi・mazin

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三十三話目 謎の遺跡探索 ~人材選別編~

 

 

今だ太陽が昇らぬ時間だがサイファーはある伯爵家の敷地に用意された馬車に遠出に必要な荷物を積み込んでいた

 

「ふ~。水はこれでOKと・・・モモンさんこっちにまだスペースが空いてるから携帯食料はここに置いたら?」

 

「了解しました。・・・ふ~、やはり黙って見てるだけより身体を動かしたほうが気分が楽ですね」

 

「全くですね、ほかの人が働いているのに自分だけ座っていると、なんかそわそわすんだよね」

 

「分かりますその気持ち、働いている人がいるとなんか自分も働かなきゃって心が騒ぐんですよね」

 

リアルで馬車馬のごとく働いてきた二人は異世界にきて支配者階級になったとしてもその心には休まず働かなくてはならないという一種の本能が植え付けられており、同じ仕事で人が働いていると休むことを無意識に拒絶してしまうのだ

 

「ひい、ふう、みい・・ワーカーとかいう奴らも結構集まって来たみたいですねモモンさん・・・ってまた不機嫌オーラ出てますよ」

 

ワーカーという単語がでた瞬間からアインズは黙りブスッとした空気を出し始めワザとらしくワーカーの集団から視線をそらしていた

 

「俺だって人の子です。大事なナザリックに土足で踏み込む奴らに笑顔で対応なんかできませんよ・・・」

 

「さいですか・・・そうだ!、ナザリックに侵入される前に全員風呂に入れて綺麗になってから侵入させますか、それなら汚くないですよ」

 

「ぶっふふふ。なにドヤ顔で言ってるんですか。思わず笑っちゃったじゃないですか」

 

ユグドラシル時代からサイファーの発想は少しずれているがアインズ自身はその発想自体は不快ではない、寧ろちょっと面白いから好きな分類である

 

「大体、何処でアイツらを風呂に入るんですか。墳墓の近くに風呂場なんて設置しても怪しすぎて誰も入りませんよ」

 

墳墓に近くにある風呂屋・・・いくら楽観的に考えても怪しさ満点であり、設備費の無駄遣いにしかならないだろう

 

「あ~あ。良いアイデアだと思ったのになぁ~」

 

どうやら本気で良い考えだと思っていたようで肩を落としガッカリしているようだった

 

「まぁ、サイファーさんの気持ちだけは受け取っておきますよ。・・・しかし、墳墓の入り口で水系トラップを臨時で仕掛けて丸洗い・・・アリかもしれんな」

 

「ん? 何か言いましたか」

 

「いや、何でもありません、気にしないでください」

 

雑談もそこそこにし荷物を積み込みを再開し始めると、また新たなワーカーと思われる者が現れたが、そのチームのメンバーを見た瞬間、今度はサイファーの機嫌がみるみる悪くなっていく

 

「 !! ・・・ちっ。クズが」

 

低い声で吐き捨てるように悪態をつくサイファーをみて何事かと思いアインズも新しく来たワーカーに視線を移すと剣士の男と3人のエルフの女の姿があった

「他種族との混合チームか、この世界では珍し・・・なるほどサイファーさんが不機嫌になる理由が分かりました」

 

よくよく見ればエルフの女性は最低限の装備は身に着けているが生地も仕立てもみすぼらしく、エルフの特徴である長い耳も中ほどから切られたかのように短く、世界の情勢についての書類に書いていた奴隷の特徴がみられる

 

「・・・アイツは特に念入りに処理してやる。異形種狩りのクソ野郎が」

 

「サイファーさん、気持ちは分かりますが、まずは落ち着いてください」

 

恐ろしいほど不機嫌な顔で殺気を放っていたがアインズの手が肩に置かれサイファーは冷静さを取り戻していった

 

「・・・すみません。アインズさんに偉そうに言っていたのに、俺、全然自分の感情を制御できていませんでした・・・本当にすみません」

 

深々と頭を下げ謝罪するサイファーに対しアインズは優しく諭すように声を掛ける

 

「俺は気にしていませんよ、だから頭を上げてくださいサイファーさん」

 

「ありがとうモモンガさん、そう言ってくれると少し気分が晴れます」

 

手近な荷物の上にへたり込む様に腰を下ろしたサイファーは何か言いにくそうにもじもじし始めた

 

「・・・なにもじもじしているんですか? トイレなら早めに行ってきてくださいよ」

 

自分とは違い生身の肉体を持つため生理現象だろうと思ったが違うらしくサイファーが勢いよく立ち上がる

 

「ちゃうわい! ・・・ただ、言いにくいことなんですけど・・・厄介だと思われるかもしれませんが、ちょっといいかな?」

 

「・・・厄介ごとですか、まぁ、大体想像できますよ。どうせエルフの事ですよね」

 

「わーい、流石ギルド長、俺みたいな下っ端の気持ちまで分かってくれるなんて嬉しいです」

 

「この話の流れで空気が読めないほど鈍くはありませんよ。・・・ただ。やるならアダマンタイト級冒険者の名前に傷をつけず、尚且つ、ナザリックの不利益にもならないように『一人』で解決してください」

 

「手ぇ貸してくんないのかよ!?」

 

「当り前です。俺としてはあんな面倒くさい奴とは関わり合いになりたくないと言うのが本音ですし、ぶっちゃけ、助けようが助けまいがナザリックに利益がなさそうなので興味がないです」

 

「まぁ、それはそうですけど・・・」

 

「あ、出費があってもサイファーさんの個人資金から出してくださいね、経費では絶対に落としませんから」

 

「せちがれぇ~!」

 

そんな冗談半分な会話で盛り上がっているとアインズが関わり合いたくないと言っていた剣士の声が響いてきた

 

「金級冒険者ごときで大丈夫なのですか? 帰ってきたら拠点が潰されていたとか、野営の最中モンスターが横をすり抜けてきたとかあっては困るのですが?」

 

如何にもな高慢ちきな強者ぶった嫌味にサイファーとアインズは顔を見合わせる

 

「・・・やっぱ、手を貸してくれません」

 

「いや、多分話し合いよりナザリックでアイツを処分してから助けたほうが早いですよ」

 

余談だが金級冒険者の皆様はとっても気が利きますし良い人たちです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ご紹介いたしましょう。アダマンタイト級まで上り詰めた冒険者『漆黒』のモモンさん、あとチームメイトのサイファーさんもいらっしゃいます。このお二人が同行されて、皆様の野営地を守っていただけます。これでご納得いただけようですね」

 

ワーカーの一人である『天武』エルヤーの空気の読めない問題発言で険悪すぎるムードに包まれるいたがモモンの名前が出た途端にまたも場の空気は大きく変化する

最強たる者の登場でワーカーの誰もが静まり返り、金級冒険者たちは機嫌が直り、仕事の手を再び動かし始める

 

「後は私達でやっておきますので、モモンさんは私達のリーダーとしてワーカーの皆さんと交流を深めながら今後の警備方針などの打ち合わせをお願いします」

 

「了解した、それでは後の事はお任せいたします、しかし警備方針は君達を主に置くべきだろう。というのも、君達の方が人数が多いのだ。メインで動いてもらった方が何かとやりやすい」

 

「いや、アダマンタイトのモモンさんを差し置いて何て恐れ多い・・・」

 

「いや、警備は君達メインで頼む。私達をうまく使ってくれ」

 

荷台の上より飛び降りたアインズに続きサイファーも荷台から飛び降りたが、ふと思ったことがあった

 

「みんなしてモモン、モモンって、注目しちゃって、俺もいる事忘れてるんじゃないか?」

 

どう思います、とアインズに声を掛けようと視線を戻すと既にアインズはワーカーの集団に声を掛けている最中だった・・・

 

「あの人ホント演技中に俺の事置き去りにする事多くね?」

 

 

 

 

 

 

 

「交流する前に君達に聞きたいことがある・・・なぜ遺跡に向かう?しがらみの多い冒険者と違い、君達は断ろうと思えば断れたはずだ、何が君達を駆り立てるんだ?」

 

大声ではないが雄々しいその声にワーカー達は目を交わす。誰が誰が言うべきかと迷い、最初に口を開いたのは齢八十にもなるパルパトラ率いるチームの一人だった

 

「そら、金ですよ」

 

「うん、知ってた。他には?」

 

いつの間にかアインズの背後に待機していたサイファーは99%予想通りの答えについ言葉が出てしまい、一応他の答えが無いか聞いてみたが・・・

 

「無い。我々は納得がいくだけの金額を提示してもらっている。さらには遺跡で発見された物次第で追加の報酬すらも期待できるのだ。命を賭けるには十分だと思うが?」

 

『ヘビーマッシャー』のリーダーであるグリンガムの答えと周りからの同意の言葉がチラホラ上がり始めた

 

「なるほど・・・それがお前たちワーカーの決断か。よく分かった。本当にくだらない事を聞いた。許してくれ」

 

他の答えを僅かでも期待していたと思われるアインズはこの時点でワーカー達への興味が無くなったらしく、わざわざ『くだらない事を聞いた』などと遠回しな言葉を使っていた

 

「謝罪されるほどの話では・・・気にされないで欲しい」

 

ワーカー達はアインズの言い回しを理解できていないようでただ普通に謝罪されたとしか感じていないようだ

 

「サイファーさんも彼らに何か質問はありませんか?」

 

「そうですね・・・一つだけあります。そこのお嬢さん。貴女、エルフですよね?」

 

「! 正確にはハーフエルフだけどね。何か問題でもあるのかしら」

 

突然指名されたことで皆の視線がサイファーが指を差した女性に集まり、彼女のチームメイトと思われる者たちからは僅かだか緊張と敵意が一瞬だけサイファーに向かったがすぐにその気配を消し不機嫌そうに答えてきた

 

「チームの皆から優しくされてる? 大切にしてもらっている?」

 

「はぁ!? あ、いや、まぁ、良くはしてもらってるわよ・・・」

 

あまりにも意外な問いかけに周りの全員がアインズの問い掛けとのギャップに面食らっていたが、いち早く回復したハーフエルフの女性が訳が分からない顔で一応答えてくれた

横にいた短髪の男が当り前だと抗議し、神官風の男が当然ですと肯定し、魔法詠唱の少女が彼女を庇う様に前に出た

 

「うん、うん。君達、たしか『フォーサイト』だったよね・・・+1ポイント追加」

 

「はぁ、なんだよそれ」

 

サイファーの言葉を今一理解できていない感じでうなだれている『フォーサイド』の横から元気のいい御老人が笑いながらモモンに声をかけ始めた

 

「ひゃひゃひゃ。そちらの質問は終わりのようしゃか、こっちも質問して良いかのぉ?」

 

「どうぞご老人」

 

「主の噂を確かめたいんしゃ。主が桁外れに強いという噂真実を見せてはくれんかね?」

 

「なるほど百聞は一見にしかず、か。それはかまわないが、どの様な手段で強さを表明する?」

 

「そりゃ、誰かに相手になってもらうのかベストしゃろ」

 

いったい誰がモモンの相手をするのかと誰かが言う前に老人が声をだした

 

「もちろん、言い出しっへの儂しゃよ、儂」

 

「何? 御老人が、か? ・・・大変申し訳ないが、私は手加減の不得意な男だ。怪我をさせるつもりは無いが、程よい相手が出来る自信はないのだが・・・」

 

珍しくアインズが困っているようなので助け舟になるか分からないが一応治療出来る事をアピールしてみた

 

「心配ないよモモンさん。死ななければ俺が治せるんだし」

 

「ひゃひゃひゃ、流石はアダマンタイトしゃ。儂か主を怪我させるなとこれっほっちも考えてはおらん」

 

何かしんないけど御老人には大うけのようだがギャグで言ったつもりは毛頭もないが老人の戦意を駆り立てるには十分だったらしく、どうやら勝負は避けられないようだ

 

そうこうする間に御老人が執事から許可をもらったらしく皆を連れたって庭へと歩いていく、ワーカーはもちろん、執事のおっちゃんまでついて行ってしまい、サイファーのみ、その場に残っていたが、一人になるのが何となく嫌だったので少し出遅れたが急いで庭まで向かっていった

 

 




次回、謎の遺跡探索~人材処分編~

イセキニムカッタミンナハドウナルンダ~

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