オーバーロード~悪魔王の帰還~   作:hi・mazin

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年末は風邪をひいたり年末進行だのいろいろ大変でしたけど、何とか乗り切りました。

という訳で、今年もこんな作品ですがよろしければお付き合いください。




三十話目 この子誰の子知らない子

 

 

 

 

王都での騒動の事後処理が終わり、その後の守護者達との会談によりナザリック地下大墳墓としての方針がある程度決まり、その為の準備をするため皆忙しそうに働いている中、サイファーは一人休暇をもらいエ・ランテルの屋敷にて紅茶を楽しんでいた

 

なぜサイファーだけ皆が働いている中休暇を貰えたかというと、簡単に言えば王都での活躍の褒美として一日の休暇をいただいたのだ

 

他の者が幼子やら女性の衣服や小娘の声が欲しいなどアインズに頼んでいる中サイファーは自由な時間を褒美代わりに頂いたという訳である。

その際アインズがかなり渋い顔(サイファーにはそう見えた)をしながら許可を出したため、今日此処にいるわけである。

 

「しかし、世界征服ねぇ。アインズさんもはっきり言えばいいのに・・・」

 

世界征服。読んで字のごとく世界を征服する事である。その方法は書籍によってまちまちだが、どの作品でも成功した物はほぼなく、その殆どが途中で主人公にボコられて終了、又は身内の裏切りやら痴情の縺れなどが原因で頓挫してしまっている

今の所、漫画の主人公のような人間は発見されておらず、身内にも裏切り者の姿はない、ナザリック外のこの世界からの中途採用者の中にも今の所不平不満は聞かれないが、彼らの子や孫までこちらの言いなりになるとは限らないがこちらの政策次第ではどうにでもなるだろう

 

例は少ないが痴情の縺れの線は残念ながら拭いきれない・・・誰かとは言わないが・・・

 

そんな訳で俺らの知らない所で勝手に話が膨らみ、計画され、遂行中だそうだ。最初聞いた時は呆然としてしまったがその隣で『覚えていたのか』 『もちろんで御座います』などの会話が続いていたため、最初から決まっていたのかと思ったがアインズの『デミウルゴス説明してあげなさい』がでたため、俺は空気を察して黙っていた。

 

これあかんやつだ

 

そして喜々と世界征服プランを話すデミウルゴス、話し自体は納得出来ることが多く良くそこまで頭が回るなと感心し、その為にナザリックの防衛体制を査察したいと提案があった

しかし査察の方法にアインズは不快感を顕にし気に入らなかった様だが、最後はナザリックの支配者としてOKを出したが、あれは納得していない顔だった

 

 

「帝国に行くまでにアインズさんのご機嫌を治す方法を考えなくちゃな。しかし、あの人こんなに潔癖だったかな。昔からちょくちょくとは言わないけど、無かった訳じゃないんだけどなぁ」

 

アインズも自分と同じで種族に性格が引っ張られて何かしらの心の変化があっても可笑しくはない、しかし自分もその事に対し自覚症状はなく、モモンガさんも昔と今で何処が変わっていると聞かれても残念ながら見当もつかない

 

小難しいことはまた後でアインズと相談して考えよう。そう自分に言い聞かせ、カップに残っている紅茶を飲み干し、当番でついてきたペストーニャに声を掛ける

 

「ペス。すまないが少し小腹が減ってな、何か軽食でも持ってきてくれないか?」

 

「承りましたサイファー様・・・わん」

 

ペストーニャはその場で一礼し、机の上にあるティーセットを手際よく片付けている所に護衛役である八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)が入室してきた

 

「サイファー様。それならば良いものが御座います」

 

「ん?なんだ良いものとは」

 

「は! 明朝の頃、この屋敷の前に女が供物として置いていったもので御座います。我々から見てもとてもうまそ・・いや、美味なるものであると思います」

 

「くもつ~?」

 

なんだそれ

 

此処に屋敷を構えてから皆に優しく正義感あふれる頼れる英雄モモンとお近づきになりたいと思う輩から賄賂目的、純粋な好意からの差し入れなどがたびたび届けられてきているが供物はないだろ

 

宿屋に拠点を置いていた頃はロビーの係員がそういうのはストップさせてくれていたが、今はそんな人がいない為、下心アリアリの贈り物から毒物などの暗殺道具、名を上げる目的の奴、果てはやっかみから屋敷に石を投げ込んでくる連中までいる

たまになんだけど本当に美味しそうな現地の果物とかが差し入れで来るときもあり全てが悪いわけではない

 

悪意を持って近づいてきた連中はスタッフがおいしくいただいていますので屋敷には被害がなくいつも綺麗な状態である

 

そんな彼?がうまそうという供物に俄然興味がわいてきた。ちょうどアインズさんもいないし・・・一人で食ってもばれないよな

 

「それは素晴らしい! 早速持ってきてくれないか」

 

「かしこまりました。で、どのように料理いたしましょうか?」

 

「料理? という事は生の食材か。・・・迷うな。焼くか、煮るか、蒸すか。いや、ここは素材の味を生かすためそのままの状態で持ってきてもらおう。ペス、手伝ってあげなさい」

 

「はっ!」

 

一礼し食べ物を取りに行く二人を見送りながらアイテムBoxよりナプキンを取り出し首に巻き、ナイフとフォークを両手に持ちわくわく気分で料理を待った・・・

 

 

 

~三十分後~

 

 

 

「遅い! そのまま持って来いと言ったのになんで時間がかかってるんだよ、そのまま持ってくりゃいいだろ。まずい本格的に腹がなってきたぞ」

 

待てども待てども一向に料理が来ない。最初は焦らすのが上手いなと感心していたが流石に待ちつかれた

 

「遅くなりまして申し訳ございません・・・・わん」

 

その言葉を聞いた瞬間サイファーの中にあったイライラは全て吹き飛び、台車に乗って運ばれてきた大皿に注目する

大皿には名前は分からないが半球体の銀の蓋が乗っていかにも高級そうな感じでさらに期待が高まる

 

しかしペスの顔色がすぐれない様子で少し悲しそうな顔をしていた

まさかその皿の中身はゲテモノ系の珍味なのか?・・・ってないない

 

「ん、どうした? 早く持ってこいよ」

 

ペストーニャの押す台車が途中でとまってしまい、どうしたものかと彼女の様子を窺うが、彼女は俯いており表情は読み取れない

声をかけようとしたがいつの間にか八肢刀の暗殺蟲が大皿を机の上にのせていた

 

「お待たせいたしました。どうぞご賞味あれ」

 

「ふふふ、ようやく来たか。では! いっただきまぁ~・・・・ファッ!?」

 

勢いよく蓋が取られ大皿の中には丸裸の赤ん坊がスヤスヤと寝息を立てていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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明朝、まだ朝日が登りきらない頃、一人の年若い女性が屋敷の門の前に現れ、手に持っていた布に包まれた何かを優しく下ろし、屋敷に向かって長い間祈り始める

その様子を不可視の魔法で姿を隠していた八肢刀の暗殺蟲が観察していた。

彼らから見て、この女はこの屋敷に害をもたらす存在ではなく、至高の御方の威光に惹かれ供物を捧げに来た者だとわかる、彼女の祈りはいもしない神に向けてではなく、しっかりと至高の御方の住まう屋敷を見ながらしっかり祈っていた

至高の御方に対し当然の態度を示していたためサイファー様の屋敷に危害を加える者は生かしておけ、との命令通り見逃すこととした。そして女が立ち去ったあとに布の中身を確認し、さらに感心した、中には王都での活躍の褒美として熱望しても手に入れる事が叶わなかった逸品が入っていた

彼らは鮮度を保つため、サイファーが必要に応じて使う様にと屋敷に置いているシモベ用共同アイテム(レアモノ多数)を駆使し生命を維持する事にした

 

 

 

 

 

 

 

 

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「・・・・と言うのが事のあらましであります」

 

「お、おふぅ・・・マジカヨ、コンナコトアルンダナ」

 

八肢刀の暗殺蟲から事情を聴き頭痛がしてきた。今まで金貨から骨董品まで幅広く送られてきたが、捨て子などは想定外である、あとお前ら子供は食べ物ではないぞ、いや、こいつらにとっては食べ物か

今だに不安顔のメイド長に向き直り、なるべく優しく語り掛ける

 

「ねぇペスさん。王都でも言ったように俺は幼子を食べる趣味もいたぶる趣味も全くないから、こういう事は相談してください」

 

「も、申し訳ありません」

 

余りにも深々と頭を下げるものだから逆にサイファーの方が悪い事をしているみたいな感覚になり慌てて声を掛ける

 

「あ、いや、もういい。俺気にしてないから大丈夫だよ。取り敢えずこの子が着ていた物とか持ち物とかがあったら持ってきてくれる?何か手がかりがあるかもしれないから」

 

「承りました。それと、このことはアインズ様にご報告いたしますか?・・・わん」

 

「いや、余計な心配はさせたくないから、この事はしばらく黙っていように」

 

こんな問題が発覚したらアインズさんに問題があると言われこの屋敷を引き払われかねない、せっかくリアルでは手に入れる事は叶わない夢の別荘生活なのに奪われてたまるか

 

しばらくして赤子の持ち物が運び込まれ、案の定手紙が入っていた。内容はこの世界の書体で書かれていたためパッと見分からなかったが新たに作られた解読用メガネを掛け読んでみると、これまたドラマのような事が書かれていた

 

「この子をよろしくお願いします・・・か、此処に置いていくとは運が良いのか悪いのか、まぁ99%運が悪いんだけどな」

 

手紙によるとこの子の名は『オレノコ・ウーパー』というらしい。もうこの時点で嫌な予感しかしない・・・そう思いながら赤子を抱きかかえながらペストーニャに声をかける

 

「なぁペス。これって、この子が急に泣き始めて俺がオレノコ泣き止んでくれ~って言ってあたふたしているところを第三者が目撃し俺の子だと聞き違いしてドタバタ劇場が始まる展開だよなぁ」

 

必ず不幸が訪れる事を予感したサイファーに対しペストーニャは首を振って否定する

 

「お話としては大変おもしろいと思われますが、サイファー様にそのような事実が無い事はナザリックのシモベの皆が承知しておりますゆえ、そのような思い違いをする者は存在しません・・・わん」

 

ペストーニャの話を卑屈に聞くと『お前女っ気皆無だから無理だよ』という事になる、それならばアインズも同じはずだと思ったが脳裏にはサキュバスと吸血鬼とダークエルフに囲まれている友人の姿が何故か鮮明に浮かんできた

 

「・・・うん。そうだね、僕、相手がいないもんね」

 

チクショウ、それしか言えなかった

 

なんてミニコントをしていると赤ん坊が目を覚まし、あたりを見回し始めた

 

これあかんやつだパートⅡ

 

目を覚ます⇒親が居ない⇒周りは異形種だらけ⇒泣く⇒周りの忠義者不快に思う⇒死

 

見事なコンボだ半ば諦めモードに入ったサイファーだったが抱き抱えている赤子は予想に反してキャッキャッと笑い始めた

 

「おお~、異形種しかいないのに笑うなんて、度胸だけはアダマンタイト級かな? 流石はオレノコ。お母さんもそう思うよね」

 

赤子が笑った事にえらくご機嫌を良くしたサイファーは誤解されるのも気にせず冗談半分なセリフを言いながら赤子を高い高いしペストーニャはその様子を少し優しい目で見ていた

 

そんな呑気な時間は長くは続かず、急に扉が勢いよく開いた

 

「おお! びっくりした。って誰もいない?」

 

急に扉が開いたことに体をビクッと振るわせ扉の方に向き直るが誰の姿も見えない。周りの警護のシモベ達も原因も気配も感じないことに首を傾げている

静まり返った部屋の中に赤子の笑い声だけが響き何も起こらない

風か、そう思おうとした瞬間、サイファーの目の前に骸骨の魔王が急に姿を現した

 

「おわぁぁ! アインズさん急に現れないで下さいよ。完全不可視の魔法まで使って何考えているんですか」

 

そんなサイファーの意見など聞き耳持たぬという感じでアインズは詰め寄ってきた

 

「何時何処で子供なんて拵えたんですか!? サイファーさんは仲間だと思っていたのに俺に内緒で何時ペストーニャと愛を育んでいたんですか? いや悪いとは言いませんよサイファーさんも独身の男なわけですしでも友人として一言くらい声を掛けてくれたり相談して欲しかったっていうか・・・・」

 

「いや! ちょ、ちょっと待って! いきなり現れて何まくし立ててるんですか?」

 

「今更シラを切るんですか! しっかりこの耳で聞いたんですからね、その子に向かって『俺の子』って言ってるとことかペストーニャの事を『お母さん』呼ばわりしていたところも」

 

最悪だ、しっかりと誤解されている。ちょっとペストーニャ、ナザリックの皆は誤解しないって言ったじゃんか・・・あ、アインズさんはシモベの括りには入らないか、ははは、じゃ、しかたないね

 

「誤解ですよアインズさん!ちょっと冷静に話を聞いてくださいよ」

 

「ここは二階です。それに俺は冷静ですよ、アンデッドの特性で感情が一定値を超えると感情が抑制されますから俺は冷静ですよ」

 

「そんなギャグは挟まなくていいから、本気で話を聞いて~~!!」

 

 

 

 

 

 

 

アインズ曰く、ナザリックで書類の確認をしていたがデミウルゴスの計画に対し苛立ちが収まらず仕事に身が入らないとの事、そこでアインズは一人休暇を取っていたサイファーに対しドッキリを仕掛けこの苛立ちを抑え、その後に飲みに誘おうと思い行動を開始したらしい

そこでアインズはできる限りの情報遮断魔法と完全不可視の魔法を自分に掛け『転移門/ゲート』の魔法でエ・ランテルに向かい誰にも気付かれずに扉の前まで忍び込み中の様子を窺うとなんという事でしょう、その友人が赤子を高い高いしながら俺の子発言が飛び出し、その様子をペストーニャが優しそうに見ているではありませんか

これは黒だと判断したアインズは何度も精神の抑制が起こりながら部屋に突撃したと言う訳である

 

 

 

 

「なんだそうだったんですね。早く言ってくれれば良かったのに」

 

サイファーの必死の説明に納得し落ち着きを取り戻したアインズはベッド代わりの籠の中に寝かせている赤子を突きながら笑い始めた

 

「いや、予想していた筈なのにホントに誤解されるんだもの。一回お祓いでも受けたほうが良いのかな」

 

「はははは。ホントに泣きもしないなこの子、どういう神経をしているのだろうな」

 

相変わらず泣きもせずただただ愛想よく笑う赤子を不思議に思いながらもサイファーは別の事を話し出す

 

「で、この子どうしましょう? 下手にこの街の孤児院に入れたりしたら捨て子がまた来るかもしれないですよ」

 

「う~ん。難しい事ですね。サイファーさん何か良い考えはありませんか?」

 

その言葉にサイファーは頭を捻る

 

ナザリックは絶対ダメだ、人間嫌いとかの問題ではなく赤子を育てるノウハウも施設も食事もない。というか考えられていない

孤児院関係はアダマンタイト級冒険者の力を使えば簡単そうだが、その噂を聞いて捨て子がこの屋敷にまた来るかもしれない、そんな事になったら本気でこの屋敷を引き払われる恐れがある

あとは・・・

 

「あ、一か所だけ心当たりがあった・・・」

 

「え? 何処ですか」

 

「アインズさんも知っているところですよ。大丈夫あそこならしっかり育ててくれるはずですよ」

 

 

 

 

 

後日カルネ村に新しい住人が一人追加された、その子は子供のいない夫婦に引き取られ幸せに暮らしているようだ

不思議な事に月に一回位のペースでその夫婦の家の玄関先に金貨や食べ物が置かれている

その事は悪魔王のみが知っている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捨て子の母親らしき人物はその後の調べで自殺している事が分かったが特に興味は惹かれなかった

 

 

 






どうでもいいオマケ

オレノコ・ウーパー

性別 女

タレント 恐怖耐性EX

15年後自分を拾ってくれた冒険者に憧れ自身も冒険者の道に進み様々な功績を打ち立てる
残念ながら自分を拾ってくれた冒険者との対面は叶わなかった
晩年は稼いだお金で孤児院を建て親のいない子の救援に尽力し天寿を全うした





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