玉座で眠る悪魔王は夢を見ていた・・・とても楽しい夢を・・・
・・・だけど・・・夢に出てくるヒトたちの名前が思い出せない、知っているハズなのに、数多の世界を共に冒険し、敵対者を打ち負かし、数々のレアアイテムを入手するため、真剣に話し合う毎日、そんな多くの時間を共に共有した、大事なヒト達なのに、名前が思い出せない・・・
だけど夢の中の私はとても楽しそうに笑っている・・・
名前すら分からない仲間達の中、一人だけ名前が分かるヒトがいた、物語に出てくる魔王のような装備を身に着けた骸骨姿のヒト
・・・そのヒトの名は・・・
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メイド達の朝は早い、いや、少し語弊があった、彼女達はナザリック、ひいては、至高の四十一人のために働くよう造られた人造人間(ホムンクルス)である。
至高の四十一人のために働くよう造られたモノ達が朝だから、夜だから、と仕事に手を抜いたり、休憩を挟んだりするだろうか?
・・・答えはノー、である。
創造主に造られ、彼らに尽くすことは当然のこと、まさに神への奉仕なのだから。
ゆえに24時間フルに働いている彼女らは朝、昼、夜関係ないのである。
そんなメイド達の仕事は、主にナザリック地下大墳墓の第9階層〜第10階層の雑務と清掃を担当している
総勢41人の人造人間(ホムンクルス)のメイドで構成されており、ペストーニャ・S・ワンコがメイド長としてその指揮をとっている。
その人数は、至高の四十一人と同じ41人が存在しており。作ったのは3人(ヘロヘロ、ク・ドゥ・グラース、ホワイトブリム)である、その外見はホワイトブリムが全力で描いた原画を基にしているため、かなり精巧に作られている
皆が当然の如く容姿端麗であり、ホムンクルスの選択ペナルティの一つによって大変な大食漢になっているため、食事休憩くらいはあるらしい。
深夜、偉大なる創造主の頂点に君臨なさるモモンガ様から非常事態宣言が発令され、かなりの動揺と混乱が起きたが、夜が明ける位の時間帯になると平常業務に差し支えるほどの混乱は収まっていた。
しかし、十階層の玉座の間の清掃に訪れたメイド達は自分たちの手に余りまくる衝撃体験に誰一人動けず、声すら上げる事が出来ず、思考停止寸前になっていた。
事の始まり数刻前・・・
10階層を清掃していたメイド達の一人フォアイル (髪が短く切り揃え、メイド服の裾が若干短めのメイド) が異変に気づいたのが始まりだった
「あれ? なんで扉が開いたままなんだろう。おーい、二人ともちょっと来てくれる?」
開いたままの扉に違和感を覚え、同じ清掃グループの二人に声をかけた。
「大きな声を出さないでよ、ここを何処だと思っているの」
「そうよ、こんな事して、はしたない」
仲間の粗相に若干ハラハラしながらゴーレムの清掃を中断し二人が歩いてきた。
で、何かあったの?とグループのメイドのシクススが訪ねていると、少し遅れてリュミエールが到着する。
「いや、玉座の間の扉が開けっ放しなのよ、今までこんな事なかったのに」
真面目な顔で扉を指さした先には、五メートル以上ある巨大な両開きの扉があり、右扉には女神、左扉には悪魔の彫刻が彫られており、まるで生きているような迫力が漂っている。
心の弱い者は扉に触れる処か、直視することすらままならないだろう、そんな扉が開かれ中からは異様な重圧が感じられる。
「誰かが閉め忘れたとか・・・いいえ、無いわね」
この考えをメイド達はすぐに否定した、扉の開閉は主人ではなく、シモベが行うべき事。
そのような大役を任されて粗相する者は存在しないし、してはならない、これはナザリックの常識だ
「モモンガ様が仰った異変なのかしら・・・」
そう、シクススが呟くと二人も同意するように頷く。
開いた扉からは未だ得体のしれない重圧が漂っており何者かの気配が感じられる
「私達の誰か1人がペストーニャ様かセバス様に報告に行って、残った二人で中を確認するってのはどう?」
今まで沈黙を守ってきたリュミエールが提案する。
二人は複雑な表情を作り思案する、ペストーニャ様、もしくはセバス様に報告に上がれば、そのまま至高の御方々の頂点、モモンガ様にお目通りが叶うかもしれない。
ここに残り中を確認するのは、少し怖いが確認するという名目でモモンガ様がいた玉座の間を隅々まで観る事が出来る・・・
どちらを取っても悪くない話ではある
「しかたないな、私とリュミエールが中を確認するからフォアイルは報告をお願いするわ」
シクススがリュミエールを見ながら発言する、リュミエールもそれに頷く。
「え? 私が報告にいくの」
「最初に発見したのはあなたでしょう、なるべく早くお願いするわ」
「分かった、すぐに戻るから、あまり無理はしないでね」
これ以上の議論は行わず行動を開始した、そして話は進む。
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「玉座の間の扉が開いていただと」
モモンガは絶対者としての態度は崩さず部下からの報告を受けるが
『だから何? 誰かが閉め忘れたんじゃないの?』 何処が緊急事態だと、内心首をひねる。
第六階層の闘技場において、自分の持つスキル、魔法の確認を行い、集まった各階層守護者達との面合わせをすまし、自室にて今まで買い込んだ大量のアイテムの確認を行おうと準備をしていたら、メイド長ペストーニャ・S・ワンコと執事のセバスが一般メイドを連れて緊急事態だと報告してきたため身構え、緊張が走り冷汗が流れるような感じすらしたが、報告を受ければ、何てことはない、ただの扉の閉め忘れだ
「誰かが閉め忘れたのではないのか?」
絶対者としてのロールは崩さず当たり前の疑問を言ってみたがそのようなことはあり得ないと強く言われ、思わず『あ、はい』と言いそうになったがモモンガは強い意志をもってその言葉を飲み込み『そうか・・』と低い声でつぶやく
更には閉まっているはずの扉が開いているのは自分が宣言した異常事態の始まりではないかと、セバスが言い始めた。
そんなことはない。と思いつつもセバスとペストーニャに真面目な顔で見つめられるとそうかと思い心が揺れ動く。
(確かに、今はどんな些細なことも見逃す訳にはいかない。この2人が異常というなら確かめる価値はあるはずだ)
「お前達が異常と感じるならば、見過ごす訳にはいかないな、調べるぞ」
「モ、モモンガ様自ら赴くのでございますか! 何が起こるか分からないこの状況で、危険すぎます」
セバスが主人を止めるべく行動しようとしのでモモンガは手をだしその行動をいさめた。
「いや、玉座の間には『世界級/ワールドアイテム』が存在している、あれにもしもの事があれば危険だ」
もし、本当に異変が起こっており、皆で創り上げたナザリックに被害をもたらす奴が侵入者がいるなら決して生きては返さない
そう決意するモモンガの心にどす黒いものが溢れてきた。
「では、可能な限り玉座の間に人員を集めよ。各自、最大限の警戒を怠らぬよう伝達せよ!」
「「はっ!!」」
モモンガは部屋にいる3人に自身が思う絶対者の振る舞いをしつつ異変を調査するべく行動を開始した。
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十階層 玉座の間 扉前
(意気込んできたが、扉が開いているだけで何も感じないな・・・)
モモンガは軽い肩透かしを受けていた、侵入者がいるならば死より恐ろしい目にあわせる、そう意気込んでいたが、扉が開いているだけで何も異常がなかった、冷静に考えると、もし侵入者がいたのなら門の前にいるレメゲントのゴーレムが反応したはずだ。
あと自分の中にあった怒りが鎮火したした理由はアンデッドに備わっている精神作用無効もあるが、周りにも原因がある。
(周りが殺気だしすぎて辛い)
モモンガは周りの熱気に充てられゴリゴリと精神を削られていく・・・
集まったメンバーは2、3人どころではなく、ナザリックのほぼ全戦力だった。
階層守護者+守護者統括+プレアデスの全員にセバス・チャン皆が例外なく玉座にいるであろう不届きモノに殺気を放っているのだ。
「モモンガ様、各員の配置完了いたしました」
そう言ってきたのは守護者統括のアルベドであった、しかしその恰好はいつもの純白のドレスではなく全身を黒の甲冑で身を包み巨大な斧頭を所持し角の生えた面頬付き兜姿だった。
(お前ら、物凄く怖いよ、なにその恰好、完全にガチじゃん、よく見るとシャルティアもいつものゴシックドレスではなく深紅の甲冑姿だし、コキュートスは全ての手に様々な武器を構えて扉を警戒してるし)
そして冷静に夜の事を思い出すと・・・最後に玉座の間から退出したのは・・・
(開けっ放しにしたのは、もしかして俺じゃないか!? 最初にセバスが偵察にでて、次にプレアデスが出て、最後にアルベドの乳・・・いや、大切なことを確かめてから、守護者たちへ伝達に向かわせて・・・やっぱり最後に玉座の間から出たのは俺だ!!)
突然異世界(仮)に飛ばされて情報集集と自身の身の安全のため慎重に行動したつもりだが、戸締りを忘れるとは
・・・ということは、ここにいる殺気丸出しの連中は俺が戸締りを忘れた結果ここにいるという事になる。
それは不味い、このまま突入したら何も異常がない事になってしまう、そして扉を閉め忘れた犯人をさがす流れになったら、ナザリック一の頭脳であるデミウルゴスは俺が閉め忘れた事に気づくだろう・・・不味いナザリックの皆に俺は絶対的な支配者と思われている、このままでは俺のイメージが崩れ、皆の心が離れてしまう
・・・何かいい手は・・・あった、俺一人で行ば良いんじゃないか、あとはどう皆を納得させるかだな。
「うむ、ご苦労、まず私が一人で中の様子を探りに行く、お前たちは何時でも動けるよう準備しておけ」
集まったシモベ達は驚愕の表情を作り各々抗議を上げ始めた。
「そんな、御一人では危険すぎます、せめて誰か供をお付けください」
アルベドが真っ先に抗議の声を上げ、周りもそれに同意するように声をあげる
だがモモンガは冷静に、皆を諭すように話始めた
「いや、ここは私が行かねばならぬのだ、この先はナザリックの心臓部、私でしか分からぬ事も多々ある」
しかし、シモベ達は納得できないという顔を見せていたが、もうひと押しだろう。
「なら一人だけ供を許そう、時間が惜しい、人選はお前達に任せる」
やった、ここにいる全員から一人に減ったぞ、一人なら何とか口止めできるはずだ
ここでの供はアルベドに決まった、最後までシャルティアが反対していたようだが、モモンガを守護出来るかが焦点となり、最後はしぶしぶ折れた
(後でなんか声を掛けたほうが良いかな?)
守護者達のやり取りを見ていたらふと、そんな気分になった。
「ゆくぞ、アルベドよ」
「はい、モモンガ様」
モモンガは『誰もいない』玉座に向かうため扉を開け歩き始めた
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アルベドに対する言い訳という名の状況説明を考えながら玉座の間を進んでいくと、『無いはずの異変』があった・・・
最初に目に入ったのは二人のメイドだ
二人は玉座に視線を向け固まっていた。
モモンガはメイドが全く動かない事に内心動揺を受けたが、すぐに精神作用無効により平常心を取り戻すが、小さい動揺は抑えることができない、だがすぐにアルベドに命令を下した。
「アルベド!、前方に見えるメイド2人を救出し急いで援軍をここに連れてこい!」
「はっ!」
最悪の事態だ、自分の戸締りミスではなく本当に侵入者がいようとは。
心中で毒づきながら前方を確認する。
まだ玉座まで遠く、誰が座っているか判別がつかないが、人型であることは間違いない。
ぼんやりだが足と腕を組み、まるで眠る様に座っている姿が確認出来る・・・
アルベドがメイド2人を小脇にかかげ戻ってきた。
「モモンガ様、二人を回収してまいりました、モモンガ様も御下がり下さい。」
「いや、私はお客さんの顔を見てくるよ、さっきも言った様に援軍を連れて来るのだ」
アルベドの答えを聞かずにモモンガは慎重に歩み始めた・・・が近づくにつれてその足は速くなる。
(そんな、まさか・・・来てくれていたのか・・・まったく、何時も来るのが遅いんですよ)
玉座には何時も遅刻ギリギリでログインしてくる悪魔の男が眠っていた。
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ユグドラシルが終わった最初の朝は、こう言っては何だが、良い夢が見れ、とても良く眠れた。
椅子で眠ってネオチしたはずなのに身体が痛くない、寝坊しないよう幾重にもセットしている目覚ましが鳴っていないので、目も開けずそのまま二度寝することにした・・・
・・・くだ・い、起きて・さい。
椅子での二度寝、三度寝の最中、懐かしい声が聞こえた。
サービス最終日だというのに、結局会えなかったギルド長の声がする
次第に意識がはっきりしてきた・・・が
まだ夢の途中らしく目に飛び込んで来たのはサービスが終了し無くなったはずのナザリックの光景と製作にえらい時間と労力が掛かったが、一度も使用されなかったギルド武器を持つ骸骨の魔王、モモンガさんが目の前にいた
「おはようございます、サイファーさん」
寝起きではっきりしない頭で思いついたことをすぐ口にした。
「おはよう、モモンガの旦那、来るのが遅かったね」
「遅かった?」
「ええ、モモンガの旦那からのメールという名の招集を受けて夜遅くに来たら玉座の間に反応があっからここまで来たんだけど、モモンガさんもアルベドもいないから、ここでネオチしちゃえと思い、今まで寝てました」
自分が道草をくっていたのをかくしつつ話を続けたがモモンガさんは心当たりがあるらしく口を開いた
「あ~、多分その時は第六階層の闘技場に守護者達を集めて情報収集の真っ最中だったと思います」
「情報収集?、何かあったんですか?まぁ、聞きたいことは沢山ありますけど、まずは・・・」
いつの間にか近くまで各々歓喜の声を上げるシモベ達を指さし
「私の置かれている立場と状況からお願いします」
「ええ、良いですよ」
そう言ってモモンガさんは歓喜の声を上げるシモベ達を落ち着かせ始めた
ユグドラシル2でも始まったのかな?
そんな呑気なことを考えながらサイファーは玉座から立ち上がり背筋を伸ばした。
サイファーさん、無事モモンガさんと合流。