オーバーロード~悪魔王の帰還~   作:hi・mazin

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二十六話目 王都騒乱その1

 

 

 

 

 

「サイファーさん、ご苦労様です」

 

ナザリックの転移先で待っていてくれたアインズはそう言って出迎えをしてくれた。

 

「やはりセバスの事は俺達が思っていた通り杞憂に終わって良かったですね」

 

「ま、あのたっちさんが創ったんだから当然ですよね」

 

肩の荷が下りた事に二人は少し安堵し、ビクティムを抱くアインズ、もといアインズに姿を変えているパンドラズ・アクターに視線を移すと、彼はすでにいつもの軍服姿に戻っておりビクティムを抱きながら器用に敬礼をしていた。

その姿を直視したアインズは視線をビクティムに固定しながら支配者らしい口調で二人を労い始める。

 

「パンドラズ・アクター。よくぞ私の代わりを務めてくれた」

 

「はい! こ~の程度の任務など私に掛れば造作も無い事。しか~し! あの程度でアインズ様の素晴らしさを十二分に発揮できたとは到底思えません! な!ぜ!に! 私にあのように地味に振る舞えと仰せつかったのでしょうか! 私に全てお任せくださればもっとアインズ様に相応しい演技をして魅せましたのに」

 

「お、おう・・・いや、あの場ではあの態度こそ相応しいと私が思ったからだ。今度同じような事があればその時はお前に全権を与えよう・・・タブン」

 

最後は消え去りそうな声で呟き、いつの間にか離れた所で浮いているビクティムに急いで声を掛ける。

 

「ビクティムもご苦労であった。そしてすまなかったな。もしもの時のためとはいえ、またお前を犠牲にする決断をくだしてしまって」

 

「訳-そのように想われ感謝の言葉も御座いません、私はそのように生まれてきましたためアインズ様が御心を痛める必要は御座いません-」

 

「分かっている。しかし、それでも私はお前をなるべく犠牲にはしたくはないのだ。それだけは覚えていてくれ」

 

アインズの言葉にビクティムは頭を下げ肯定の意を示した。

 

「三人で盛り上がっているところすみません、そろそろ戻る時間ですよ」

 

どうやら長く話しすぎたようでサイファーさんを待たせてしまったようだ。

 

「おっと、もうそんな時間か。では二人は通常業務に戻れ」

 

アインズの言葉にまた敬礼で答えるパンドラズ・アクターを見ながらアインズは精神の抑制が起こり、

サイファーはパンドラズ・アクターの真似をし一生懸命短い手で敬礼をするビクティムにほっこりした。

 

 

 

 

 

 

 

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アインズの魔法により王都の館の一室に戻るとすでにコキュートス、デミウルゴス、セバス、ソリュシャンがおり、アインズとサイファーの姿を確認するとすぐさま跪き、頭を垂れる。

その光景にサイファーは違和感を覚えなくなり始めていた。

アインズとデミウルゴスのやり取りのあと本題に入る。

 

「では、ツアレをどうするかの話し合いを始めたいと思います。意見や質問は俺達に遠慮しないで発言してください」

 

「と、言う事だ。お前達の屈託のない意見を聞かせてもらおうか」

 

サイファーとアインズの言葉にデミウルゴスがいの一番に意見をだす。

 

「アインズ様、殺してしまう方が楽ですし、確実だと思われます」

 

その意見にソリュシャンは賛成のようで首を縦に振っていた、しかしセバスだけ少し動揺したように見られる。

しかしアインズはこれを却下し殺さず有効活用すべしとの事だった。

 

「でしたら私が支配している飼育場で働かせますか?」

 

「ああ、混合魔獣を飼っているのだったな。ちなみに潰して食料には出来ないのか? ナザリックの食糧事情も良くしないといけないからな」

 

アインズがステーキとかハンバーグとか呟いているところにサイファーが割り込んで意見する。

 

「食料とかは置いといて、ふわふわのモコモコの奴がいたら何匹か回してほしいんだけど」

 

「まだあきらめていなかったんですね」

 

当然よとアインズと話している二人からデミウルゴスの視線は逸れ、どこか遠くを見るものに変わり、そして戻ってきた。

 

「・・・肉質が悪く食料としては不合格ラインかと。それと残念でありますがサイファー様がご納得いただけるような体毛は生えておりません」

 

オススメ出来ないとデミウルゴスは微笑み、サイファーは肩を落としていた。

 

その後のデミウルゴス達の会話を聞いていたセバスは飼育場の正体について思いを馳せていた。

デミウルゴスの性格上単なる飼育場のわけが無い。それがたとえ混合魔獣のようなモンスターだとしても。

そこまで考えてセバスに電流が走る、ナニを飼育しているか推測が出来てしまったからだ。

そのような場所にツアレが送り込まれてしまうと精神的に死んでしまうかもしれない。

口をはさむタイミングを計り主人に話しかける。

 

「アインズ様」

 

「ん? どうした、セバス」

 

「もしよろしければ・・・ツアレをナザリック地下大墳墓で働かせたいと考えております」

 

静寂が生まれ、全員の視線がセバスに集まる中、アインズが口を開く。

 

「セバスよ、ツアレを働かせるメリットはなんだ?」

 

もともと助ける気でいるのにわざわざ聞かなくても良いと思うがコキュートスの時も訳を聞いていたから聞かないわけにはいかない。

しかし頭の回るセバスならこの程度スラスラとでてくるだろう。

そう思っていたサイファーの考え通り、セバスはスラスラとアインズが止めに入るまでメリットを語りだしていた。

しかしセバスの案をあえて望まぬ形に歪めようとデミウルゴスがやんわりと反対の意見を語りだし、それに対してセバスはさらに反論し、反論に対しデミウルゴスも負けじと別の案を口にする

昔ウンザリするほど見た口論は終わることなく続いていく。

その光景はどこか懐かしく心地よかったが、いつものように口論に巻き込まれないようにアインズの陰に身を隠した。

そしてさらに白熱し始めたところでコキュートスが止めに入り我に返った二人は慌てて頭を下げ二人に対し謝罪を口にするがアインズは機嫌よく笑い始めた。

 

「あははは! 構わないさ。許す、許すぞ! サイファーさん隠れても無駄なのにやっぱり俺の陰に隠れるんですね! ふははは!」

 

「・・・つい昔の癖で、だってあの状態の二人に絡まれたらどっちの味方をしても後が怖いんですよ」

 

後ろから聞こえてくるサイファーの声にさらにアインズの機嫌は良くなりさらに笑い声が響く。

 

「ぶっ! あははは・・・ちっ、抑制されたか」

 

精神の高揚が一定値以上になり冷静にはなったがまだ少し機嫌が良さそうにセバスに話しかける

 

「セバスの言う事は分かったが、残念ながらナザリック地下大墳墓に人間を招き入れるのはない。とはいえ、そのツアレという女を見てみたい。連れてこい」

 

「え? ぁ、はっ! 畏まりました!」

 

そう言ってセバスは即座に部屋を出て行った、その隙にサイファーはアインズの後ろから元の立位置に戻る。

そうこうしている間にセバスはツアレを連れて戻ってきたがツアレを見たアインズは椅子から身を乗り出しツアレを凝視し始めた。

その異様な態度にサイファーはセバスからは見えない位置からアインズの服の端を引っ張り身を乗り出しすぎだと注意を促す。

それに気付いたのかアインズは再び椅子に腰を下ろした。

 

「似ているな」

 

ツアレを凝視するアインズの代わりにサイファーが口を開き語り始める。

 

「よく来たなツアレ。今から色々と質問させてもらうが嘘偽りなく答えろよ、偽りを言えば話はそこで終わりだ。・・・終わりという意味を間違えるなよ」

 

サイファーの言葉にツアレが唾を飲み込む音が聞こえるが、そんな事はお構いなしにアインズが口を開く。

 

「では、質問だ。お前のフルネームを聞こう」

 

その言葉にツアレの視線はあちらこちらに動きしばらくしてから口を開いた。

 

「ツ、ツアレ・・・ツアレニーニャです」

 

「下の名前は?」

 

「ツアレニーニャ・ベイロンです・・・」

 

この時をもってツアレの願いは叶えられる事が決定し、身の安全はアインズ・ウール・ゴウンの名によって保障されることに決定した。

彼女の幸運は皮肉にも死に分かれた彼女の妹の存在により揺ぎ無いものになったのである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「これほどのメンバーが揃うとは・・・アインズ様に感謝の言葉を申し上げなくては」

 

アインズより王都からの撤退の指示を受けたセバスは、この地で作り上げた伝手をなくさないために朝早くからソリュシャンを連れて挨拶回りをし、夕方に館に戻るとツアレが消え、代わりに脅迫状が残されていた。

そのことに対しセバスはかなりの怒りを憶え単身ツアレの救出に向かおうとしたがソリュシャンに咎められ、ツアレが誰に保護されていたかを思い出したセバスは早急にアインズに助けを求めた。そして、すぐさま援軍が送られてきたのである。

 

「ふふふ。まだこれで終わりではないのだよセバス」

 

「なんと! まだ誰かしら来てくださるのですか」

 

デミウルゴスの言葉にセバスは驚きを隠せなかった。

なにせ今いるメンバーは守護者からデミウルゴス、マーレ、シャルティアの三名。

プレアデスからはソリュシャン、エントマの二名。

そしてデミウルゴスの配下の高位のシモベが複数。

あり得ないほどの過剰戦力であるにもかかわらずまだ終わりではないと言う。

 

「どうやらお越しくださったようですね」

 

デミウルゴスの言葉通り、部屋の中心に『転移門/ゲート』が開かれ一人の悪魔が出てきた。

その姿を確認し全ての者が臣下の礼を示しその人物に敬意を払う。

 

「いや、挨拶はいい。皆、楽にしてくれ」

 

その言葉に皆の緊張が解け元の状態に戻る。その様子にセバスはあっけにとられていた。

 

「ま、まさか サイファー様自らお越しいただけるとは・・・」

 

「気にするな。あいつらはナザリックに、『アインズ・ウール・ゴウン』に手を出したんだ! それ相応の報いが必要なのだよ」

 

「さようでございますか。して、今回の作戦の指揮はサイファー様がお取りなさるのでしょうか?」

 

「いや、今回の指揮はアインズさんよりデミウルゴスに全権を委ねられている。俺は今回に限りデミウルゴスの指揮下に入ることになっている」

 

その言葉にセバスの顔は強張る、至高の御方に指示を出すなど余りにも無礼ではないのか。セバスはデミウルゴスに視線を向けると当の本人はとても誇らしげにしていた。

 

「セバス。君の言いたい事は大体想像できるが、我々ではもう話は済んでいるのだから余りむし返して欲しくないですね」

 

その言葉にセバスが肯定の意を示し、それに満足したデミウルゴスは作戦を話し始め、セバスは怪我をしているかもしれないツアレの為ソリュシャンを連れて行くことを了承し、セバスが行動の準備をするために部屋を出て行くとデミウルゴスは次なる作戦のため残った者達に向かって口を開く。

 

「よし。まず最初に皆に重要事項を告げる。決して見逃したりしないように。エントマ。私の指示通りに幻術で作ってほしいのだが?」

 

「了解ですぅ」

 

デミウルゴスは出来上がった幻術の人物は決して殺すことはしてはならないと皆に念を押し、全員それに了承した

 

今回の作戦は主人から全権を任されている以上失敗は許されない。

特にサイファー様からは『全権を任されたのだ。俺くらい使いこなしてみせよ』などと身に余るほどの栄誉と信頼を掛けてくださったのだ。

守護者の失態が続いている今の状況は決して楽観視出来るものではなく、今回の作戦の成功によって自分達守護者が役に立つという事を見せなくてはならない。

 

サイファーがいる手前いつもより念入りに打ち合わせを行ったためいつも以上にシャルティアに突っかかってしまったが、『血の狂乱』のデメリットのため仕方のない事だと割り切るようにした。

幸いシャルティアへのフォローはサイファーが行っているため余り落ち込んではいなかった。

 

話も大詰めに入ろうとした時デミウルゴスの影よりシャドウ・デーモンが現れ新たな情報がもたらされた。

 

「すまない、マーレ。最新のニュースとして襲撃ポイントが一つ増えてしまった。君には申し訳ないが襲撃場所を変更してほしい。一人でも十分と思うが念のためエントマと一緒に行ってくれないか」

 

「は、はい。えっと、任せてください」

 

「では皆が集まっているうちに作戦の第二段階、ゲヘナに関する説明を行う。これが今回の作戦の最も重要な部分なので、静聴してくれたまえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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作戦開始から数時間が経過し夜も更けてきたころ、サイファーにデミウルゴスから『伝言/メッセージ』の魔法がかかってきた。

 

「もしもし、こちらサイファー。今シャルティアと幾つ目かの敵拠点を潰し終えたところだけど、なんかあったのか?」

 

『はい、実はマーレとエントマが向かった館なのですが撤収時間を過ぎてもエントマが戻らないらしいのです。何かしらのトラブルがあったと思われますので、御手すきであれば様子を見に行っていただきたいのですが?」

 

「了解した。近くにシャルティアもいる事だし『転移門/ゲート』で送ってもらうよ。あと、そんなに畏まるなよ、総指揮官はデミウルゴスなんだからもっと普通な感じで話しても良いんだよ」

 

『・・・さすがにそれは恐れ多い事かと』

 

「ははは、まあいいよ。ではまた後で連絡する。そちらの健闘を祈る」

 

そう言うと『伝言/メッセージ』を切り、近くにいたシャルティアに声を掛ける。

 

「すまないシャルティア。エントマの所まで『転移門/ゲート』頼むわ」

 

「どうかなされたんですか?」

 

「予定時間過ぎても帰還しないんだって。なんかトラブルがあったみたいだから様子を見に行くわ」

 

「でしたら私もご一緒に!」

 

「いや、なんかあった時の後詰は俺の役目だ。シャルティアは俺を送ってくれたらマーレと合流してくれ」

 

「わかりました。では門を開きます」

 

すぐさまシャルティアは魔法を唱え門を作り出してくれ、サイファーはその門をくぐり目的の館に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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門をくぐり抜けたサイファーの目に信じられない光景が飛び込んできた。

トラブルを起こしていたと思われたエントマは糸の切れた人形のように倒れこんでおり、敵と思われる武装した三人がボロボロだが立っていた。

あんなゴミどもはどうでもいい。エントマだ。

 

「エントマ! 生きているか」

 

急いで駆け寄り抱き起し意識を確認すると辛うじて意識はあるようだがほぼ虫の息であった。

 

やばい。そう思ったサイファーは急いでアイテムBoxより最上級ポーションを数種類取り出し全てエントマに口と思われる所に流し込んでゆく。

最初は全種族用の最上級ポーション、次に状態異常回復の最上級ポーション、最後にステータス異常回復の最上級ポーション。

全てを与え終わるとゆっくりとだが起き上がりそのまま片膝をつけ臣下の礼を取り礼を述べ始めた。

 

「サイファー様。コノ様ナ御慈悲感謝ノ言葉モ御座イマセン」

 

「お前・・・声が・・・」

 

エントマの声は何時もの甘ったるいような声ではなくどこか不気味な声へと変貌していた。

周りを見渡すと様々な瓦礫や虫の死骸が散乱していたが、仮面虫とその傍に蛭のような生き物がいる事に気が付いたサイファーはエントマに待つように声を掛け動かなくなった虫の下に向かう。

 

「さすがに死んでいるか・・・ゲームじゃ無理だろうがこの世界ではギリ大丈夫だろう」

 

再びアイテムBoxから本当に数の少ないノーリスク蘇生薬を取り出し口唇蟲にかけ始める。

するとかけた薬品が動かなくなった口唇蟲に吸収され始め、全てを吸い尽くし終わったと同時にウネウネと動き始めた。

サイファーはエントマを呼び生き返った蟲を手渡す。その様子に最初は驚いていたエントマだったがすぐさま蟲を口の中に入れ再び頭を垂れ始めた。

 

「サイファー様! このたびは!」

 

「良い。お前の気持ちは分かっている何も言うな」

 

彼女がこの後どの様な事を言うのかはさすがに学習しているサイファーは彼女の言葉を遮り、未だに動かない三人に視線を向ける

 

「お前達・・・何故、彼女を殺そうとした」

 

サイファーの言葉に三人に動揺が走り何やら言い争いをしているようだった、しかしそんな事はどうでもいい。

 

「こ、殺す・・・殺してやるぞ!! 異形種狩りのクソどもが!!

 

 

 

 


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