オーバーロード~悪魔王の帰還~   作:hi・mazin

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二十二話目 予想外です

 

 

 

 

 

 

 

コキュートス軍敗北

 

 その結果にアインズとサイファーの二人はそれぞれの思いが頭にうかぶ。

 

「コキュートスがまさか負けるなんて」

 

 正直言って少し信じられなかった、アインズさんが用意した下級アンデッドは総数4950体というバカみたいな数になっており、蜥蜴人との戦力差は約三倍にもなっていた。

 蜥蜴人に対して過剰すぎる戦力と思っていたがまさかの敗北。その事にサイファーは一つの答えを導き出す。

 

三倍の戦力差を埋める存在・・・つまりはプレイヤーの存在

 

「どうやらアインズさんの懸念は当たったみたいですね」

 

 何時になく真剣にアインズを見つめる。見つめられたアインズはちょっと驚いた顔をしていた。

 

「え? 懸念って」

 

 どうやらとぼけている様子だ。

 

「プレイヤーの存在ですよ。まさか下級とはいえ三倍の戦力差を埋めるほどとは。蜥蜴人にも被害があると言うことはカンスト勢ではなさそうだけど・・・」

 

「いや、多分いないと思いますよ」

 

「え? いや、三倍の戦力を退けたんですよ、間違いないですよ」

 

「下級アンデッドなんか戦術次第ではいかようにもなりますよ。アンデッドって命令通りにしか動かないし臨機応変な態度もとれませんからね。この勝負はコキュートスの油断と蜥蜴人の作戦の効果で決まったものですよ。ですがほんとにいた可能性も捨てきれませんけどね」

 

「さいですか。それより、その原稿用紙は暗記出来ましたか?」

 

「ばっちりです、想定外の事が起きない限りは完璧のはずです……タブン」

 

 アインズは机の上に置いていた資料をアイテムBoxの中にしまいこんだ。

 

「サイファーさんも打ち合わせ通りの行動をお願いしますね」

 

「わかってますけど、あまり偉ぶった話し方はしたくないんですけどね、肩こるし、精神的にきついんですよね」

 

「我慢してください。普段は構いませんけど今日はしっかりしてください」

 

「あと、呼ばれるまでここで待つのって何か意味があるんですかね?」

 

「いや、さっぱりわかりません。しかし皆がこれを望んでいるのである程度はしょうがないんじゃないんですか」

 

「アインズさんは玉座に座るから良いかもしれないけど、俺なんか話が終わるまでカッコつけて立ちっぱだから足がパンパンになるんですよ・・・なった事ないけど」

 

「威厳をもって座るのも肩が凝るんですよ。いや、肉体的じゃなくて精神的な意味でね……あとシャルティアへの罰はホントにアレで良いんですか?」

 

「俺は良いと思うけどね。なんせたっち・みーさんも奥さんにゲームのやり過ぎの罰でやらされたらしいから、ある意味、至高の方も受けた罰だからいい感じだと思うよ」

 

「そうですよね。俺もたっちさんから聞いた時、思わず同情しちゃったし」

 

 二人が笑いあっていると扉をノックする音が聞こえたため入室を許可するとアルベドとユリ・アルファが入ってきた。

 

「お時間となりました、アインズ様、サイファー様。王座の間までご足労願います」

 

 ついに時間が来てしまったようだ、サイファーに軽い緊張が身体を駆け巡る。

 

「うむ。では行きましょうかサイファーさん」

 

「了解いたしました、アインズ様」

 

 二人は覚悟を決め玉座の間に行くべく行動を開始する。その表情はさっきまでの和やかなものではなく絶対に失敗できないプレゼンに向かう企業戦士の顔であった。

 

 

 

 

 

 

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「ナザリック地下大墳墓最高支配者アインズ・ウール・ゴウン様。至高の御方悪魔王サイファー様。および守護者統括アルベド様のご入室です」

 

 戦闘メイドプレアデスの一人、ユリ・アルファの声に合わせ扉を開き玉座の間に足を踏み入れる。静寂に満ちた空間にアインズの杖が床を叩く音やサイファーの靴音、アルベドのハイヒールの音がいやに大きく室内に響いている。

 既に玉座の間に待機していた守護者達は片膝をつき頭を垂れ、敬意を示していた。

 一体何時からいるのだとサイファーは場違いな事を考えながら玉座に座ったアインズの右横に待機する。

 

「顔を上げ、アインズ・ウール・ゴウン様のご威光に触れなさい」

 

 アルベドの言葉に守護者達は一斉に顔を上げアインズに視線を集中させる。しかしコキュートスだけ一瞬反応が遅れたような気がした。

 そんな事を考えているとアインズが俺相手に何回も練習したセリフをゆっくりと話し始めていた。

 

「よくぞ私の前に集まってくれた各階層守護者たちよ。まずは感謝を告げよう。デミウルゴスよ!」

 

 練習した時以上に支配者としての威厳たっぷりに労うアインズ、デミウルゴスはいつもの冷静な顔ではなく歓喜に震えた表情で頭を下げている。

 話を聞く限りデミウルゴスの周りでは不審者情報はなし、そして低位のスクロールの制作に耐えうる皮を発見し安定して供給も出来るという話だ。材料となっているのは聖王国両脚羊……アベリオンシープの皮らしい。

 ユグドラシル時代でも聞いた事のない種類である。この世界独特の動物だろうか。モコモコのふわふわだろうか、それともハムスケと同じで硬くてごわごわなのだろうか。

 いや、最近は毎日のブラッシングと定期的なシャンプーで前よりかは柔らかくなってきたし理想のモコモコまでもうちょっとだと思う。

 幼少時の夢は中々捨てられないらしい。

数が多いらしいから何匹かあとで分けてもらえないだろうか?

 

 少し空想にふけっていたらしくヴィクティムの話を半分くらい聞き逃してしまったが、いざという時は殺してくれてかまわないという事だ、ヴィクティムマジ天使。彼? 彼女? にはあとでお菓子でも差し入れてあげよう。

 

「次にシャルティア」

 

「はっ! はい!」

 

 シャルティアにしてはやけに甲高い声を上げる。

 

「我がもとまで」

 

 アインズの言葉にシャルティアは驚きと不安と共に玉座の側まで来て片膝をつく。

 

「シャルティアよ。お前の心に刺さった棘の件だ」

 

「ああ! アインズ様。どうかわたしに罰をなにとぞお与え下さい! 罪深き愚か者に相応しい罰を!」

 

 シャルティアの血を吐くような声が玉座の間に響き、守護者達もその気持ちは理解できた。

 

「わかっている、信賞必罰は世の理。サイファーさん」

 

 アインズに呼ばれサイファーはシャルティアの前に立ちアイテムboxより一枚の紙を取り出し読み上げる。

 

「シャルティアよ、七日間の守護者としての業務停止及び第九階層のトイレ掃除に処す。最初の一日はメイドにやり方を習い残りの六日間は一人で行うように」

 

「・・・・はっ、はい?」

 

 困惑するシャルティアに横からアインズが言葉をかける。

 

「この罰は私の友である、たっち・みーさんも行った事もあるナザリックにおける罰の一つである、決して悪ふざけで言っているわけではない・・・それと・・・」

 

 玉座の前で頭を垂れたシャルティアに骨の手が伸び、優しく頭を撫でる。

 

「・・・あの失態は私の失態でもある。それに『世界級/ワールドアイテム』が相手では分が悪すぎる。私はナザリックに仕えるお前たち全員を愛している。当然、お前もだ。だからそんなに自分を卑下にするな、これからも変わらず私に仕えてくれないか?」

 

「あ、あいんずさ・・・ま」

 

 アインズの言葉に皆目の辺りを拭っている……ホントにすごいなこの人。

 アルベドは少し不満そうだけど至高の御方も受けた事があるという前例があるから口をはさめないようだ。

 

 赤い目をさらに充血させシャルティアが階段を下り、元の場所に戻っていきこれ以上ないくらいに臣下の礼を取っている。

 さて、ここからが本番、コキュートスの番だ。

 

「コキュートス。アインズ様よりあなたに向けての御言葉があります。傾聴しなさい」

 

 その言葉にコキュートスは頭を大きく下げる。その姿は拝謁には適しているように見えるがサイファーには叱られるのを待つ子供のように見えた。

 

「蜥蜴人との戦闘、見せてもらったぞ。コキュートス」

 

「ハッ!」

 

「敗北で終わったな」

 

 アインズの言葉にコキュートスは即座に謝罪を口にするがアインズは杖で床を叩き制止する。

 そして指揮官としての戦闘について感想を求め、どのようにしたら戦いに勝てたかを続けざまに質問していく。

 コキュートスはこちらが思ったよりハキハキと問題点を挙げていき、その対処方法まで答えていく。

 アインズは他にも問題点はいくつかあると言っていたが正直それだけ出れば十分だろうとサイファーは考える。

 

「・・・蜥蜴人たちを殲滅せよ。今度こそ誰の手も借りずにな」

 

 いくら事前に決めた事とはいえ、その言葉にサイファーは少し不快感を覚えてしまう。いくらナザリックのためとはいえ罪のない異形種を殺すことに軽い禁忌感が心に宿る。

 しかし思うだけでサイファーは何も異論は出さない。所詮は他人である、どうなろうと知ったことではない。

 サイファーが声を上げて反論する時は自分の知り合い、又は自分が気に入っている人物が危険に晒される時だけである。

 例を挙げればカルネ村にいる三人にペットのハムスケ、外から連れてきたドリアード、エ・ランテルのいつもおまけしてくれる露店のおじさんが危機にあっていたのなら助けてあげようとアインズに声を上げて迫るだろう。

 

 何時までたっても了承の言葉が返ってこない。そのことにこの場にいる全員が疑問を抱く中、コキュートスの声が響く。しかしそれは命令の受諾ではなく、ある意味無謀なセリフであった。

 

「アインズ様ニオ願イシタイ儀ガゴザイマス!」

 

 その言葉にこの場のすべての者が凍り付いた。しかしすぐに幾多の視線がコキュートスに突き刺さる。

 サイファーも予想外のことに内心動揺しそうになるが隣に動揺せず佇むアインズを見てすぐに心を落ち着かせる。

 さすがはアインズさん、この程度の事は動揺するに値しないと言うことか。

 サイファーが別の事に感心している中コキュートスの言葉は続く。

 

「ナニトゾ!アインズ様!」

 

「愚か!」

 

 コキュートスの言葉はアルベドの叱責にて遮られる。

 

「栄えあるナザリックに敗北をもたらした身でありながら、アインズ様に請願するとは! 己が分をわきまえなさい!」

 

 いくらアルベドに責められようと決して頭を下げないコキュートス、その態度にますます憤怒の感情が強くなるアルベド。

 

「まあまあ、アルベド。あのコキュートスがここまで言っているんだから話くらいは聞いても良いんじゃない、ね、アインズさん」

 

 これはまずいと思ったサイファーはアルベドをなだめアインズに話を振る。ここでアインズが何らかの反応を示してくれないと多分アルベドは止まらないだろう。

 そんな思いでアインズに視線を向けるとサイファーの思いが通じたのかアインズは口を開く。

 

「よい、アルベドよ。コキュートスよ、お前が私に願う儀とやらを、聞かせてくれないか?」

 

 アインズの言葉に萎縮してしまったコキュートスは一言もしゃべらず辺りに重い沈黙がのしかかる。

 しかしアインズはそんなコキュートスに優しく語り掛け緊張をほぐしてやると意を決したように話し始めた。

蜥蜴人を殺すのは反対だと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 アインズの自室に戻ってきた二人は守護者とのお話し合いで受けた精神的疲労を癒すために巨大なソファーに倒れこんだ。

 

「疲れた・・・本当に疲れた・・・」

 

「いや、ホントに疲れましたねサイファーさん・・・あ~酒でも思いっきり飲んで泥酔したい・・・・酔えないけど・・・」

 

「俺のスキルの『愛憎の果て』で毒扱いの酔いをプレゼントしましょうか? あ、完全耐性を持っていても大丈夫ですよ、このスキルは耐性を持っていても自分が掛かっている状態異常を確率で相手も同じ状態異常に出来るスキルですから」

 

「マジですか、ちょっと試してみたい気もしますけど・・・ぐでんぐでんに酔っぱらった支配者ってアリなんですかねぇ」

 

 アリかナシといえばナシなのだろうがここ一か月精神がすり減るような毎日を送ってきたアインズにとってサイファーの提案は少し魅力的だった。

 

「ここまで休み無く働いたことは記憶には無いけど・・・今月の残業代、どんだけ出るんだろう?」

 

「ハハッ、何をおっしゃる。サービス残業に決まってるじゃないですか」

 

 サイファーの言葉にソファーから起き上がったアインズは異を唱えた。

 

「間違っているぞサイファーさん、 ナザリック地下大墳墓はホワイト企業であり、社員の残業代は全額保証しております……ギルド長の俺が決めたからそうなんです」

 

「まじっすか~ ナザリックに就職できた俺って超勝ち組じゃん・・・下からのプレッシャーがえげつないけどね・・・・・いやよく考えたら守護者からのプレッシャーがえげつないのは支配者であるアインズさんだけであって俺はそんなにないなぁ、それはそれで寂しいけど」

 

「そうそう、守護者と言えばコキュートスだよ、すごいことですよコキュートスがあんなこと言うなんて」

 

 あの後は大変だった、中々喋ってくれないコキュートスをアインズが優しくさとし話を聞いてあげて、サイファーがキレまくるアルベドを何とか制御し話を脱線させないように努めたのだ。

 その甲斐がありコキュートスは自分の意見をしっかり言えたが、最後の最後でアインズの望む蜥蜴人を生かすメリットを上げることが出来なかったがデミウルゴスが助け舟を出してくれたお陰でコキュートスの意見は採用された。

 欲を言えばデミウルゴスの案をコキュートスが出してくれたら最高だったが贅沢は言えない。

 今回の実験は全体的に見て大成功だと思われる。

 コキュートスの予想外の成長、そしてカンスト勢の経験による成長の可能性、外の世界の統治実験など、収穫はばっちりである。

 

 

「・・・子供の成長を嬉しがる一方で、自分が支配者として忠義を尽くされるに相応しいのかという不安が込みあがるな」

 

 ああ、怖い怖いとぼやきつつ、アインズは天井を見上げているとサイファーの調子の良い声が聞こえる。

 

「以前、たっちさんが子育ては夫婦共同で行うものだって言ってましたよ、子供のことで一人で悩まなくても良いんですよアインズさん、それと今、支配者に相応しくないならこれから支配者として『成長』していけばいいんですよ、その可能性はコキュートスが示してくれましたよ」

 

「・・・・・・真面目なことも言えるんですねサイファーさん、不覚にもちょっとジーンときちゃいましたよ」

 

「周りが茶化すだけで、俺はいつも真面目に意見を言ってるからね! あとそんな優しい目で俺を見ないで!」

 

 

先ほどの疲れを癒すように笑いあう二人・・・果たして二人は『成長』することが出来るのであろうか

 多分出来なくてもナザリックの皆はこれまで通りの忠義を尽くしてくれるだろう。

 しかし二人はそれを知らない。

 

 

 


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