オーバーロード~悪魔王の帰還~   作:hi・mazin

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二十一話目 悪魔王と守護者達

 

 

「結局、蜥蜴人を襲う事にしたんですね」

 

 執務室でアインズより渡された書類を確認したサイファーは自分の企画が却下されたかと内心がっかりした。

 自分としては結構まじめに考えて発言し、その後ちゃんと企画書まで書いて提出したのに採用されたのはデミウルゴスの『蜥蜴人襲撃企画』である。

 元社会人としては少し悔しい気持ちも……多分ある。

 

「全面的にデミウルゴスの案を採用した訳ではありませんよ。ただシャルティアを洗脳した奴らの関係者が蜥蜴人の中にいないとは限りませんから、殲滅って訳じゃありませんがちょっと小突いてプレイヤーが居るか確認するだけですよ」

 

 露骨に嫌がるサイファーにアインズは少なからずデミウルゴスの案にフォローをいれる。

 

「アインズさんの気持ちも分かるけど・・・軍の総数5000前後の見通しって、奮発しすぎじゃないの? 俺はこの半分・・・いや、三分の一で十分だと思うけどなぁ」

 

 書類をめくりながらサイファーはますます不安になる。はっきり言って過剰戦力にも程がある。ちょっと小突くくらいならアンデッド1000体くらいで十分脅威だと思う。

 

「確かに俺も最初はそう思いました、けどもし俺達以外のプレイヤーがいるのなら最低このくらいは必要だと思いますし、相手が俺らの知らないマジックアイテムを持っているかもしれません、あとタレントにも警戒が必要です」

 

 アインズの補足説明を受けながらさらに書類を読み進める。そして総指揮官の名を見て少なからず驚きをおぼえる。

 

「コキュートスが総指揮官ですか。でも、アイツ『コマンダー』とか『ジェネラル』とかの指揮系統のクラスを習得してましてっけ?」

 

 サイファーの驚きぶりにアインズは内心ほくそ笑み、この作戦に隠されたもう一つの目的を語り始める。

 

「サイファーさん、俺達ってこれ以上強くなれると思いますか?」

 

 いきなりの質問にサイファーは首を傾げるがすぐにアインズの質問に答える。

 

「なにいってんの、俺達はレベル100のカンスト勢なんですよ。それに出来る限りの課金で身体を強化してるんですよ。さすがにこれ以上は強化出来ないと思いますけどね」

 

 そう言いながら自分の顔や角をぺたぺたと触りながら答えるがアインズは首を振って否定する。

 

「確かに身体のスペックはこれ以上成長しないでしょう、ですが俺が求めているのは技術や経験の事ですよ」

 

「ぎじゅつやけいけん?」

 

「そうですね、俺がモモンとして戦士をやっていますけど、最近何か変わったと思いません?」

 

「最近? アダマンタイトの冒険者になった・・・じゃなくて、動きが滑らかになってきた・・・とか?」

 

「そう!それです」

 

 思いがけないアインズの大声に若干驚いたが話は途切れることなく続く。

 

「俺は魔法職しかとっていないのに戦士としての剣の腕が格段に上がってきてます。これはスキルやクラスによるものではなく、れっきとした俺の実力アップに繋がっています」

 

 その後もアインズは色々と強さの定義や可能性の話を熱く語ってくれた……小難しい話が多かったが、つまりはカンスト勢の成長の可能性の模索である……と、サイファーは思う事にした。

 

 

「じゃ、話も終わったことだし、俺はこのままこの書類を各部署に伝達にいきますね」

 

「わざわざサイファーさんが行かなくてもアルベドかデミウルゴスに任せたらいいんじゃないんですか?」

 

「いや、アインズさんと比べて俺ってあんまり守護者達と話す機会がすくないなぁって思ったから、書類配るついでにお話でもしてこようかなって」

 

 確かにサイファーは守護者達とある意味疎遠になっている。アインズはナザリックの支配者であるため頻繁にとまではいかないがちょくちょく報告のため顔を合わせている。しかしサイファーはアインズの個人的な頼み事や支配者に相応しい態度や言葉遣いの練習相手や魔法具のゲームとの差異の調査などを一人で行い、報告もアインズに直接行うので会う機会がほぼないのだ(アルベドを除く)。

 

「確かに、良い機会ですし存分に話してきてください」

 

「ありがと、じゃぁ、いってきます」

 

 そう言って扉に向かい開けようとドアノブを掴んだところで急にサイファーが振り返ってきた。

 

「ああ、そうだ。例の食堂の件、考えてくれました?」

 

 その言葉にアインズは頭を押さえる。サイファーが一人で食堂に行くのが恥ずかしいなどおかしな事を言うものだから気になって調べに行ってみたのだが、食堂にはメイド達がたくさん食事をしてる以外特に変わりはなく、入って食事もしてみたが普通においしかった。ただ周りが恐ろしく緊張していたことを除けばいたって普通だった。

 どこに恥ずかしい要素があるのか全く分からない。

 

「一緒に行ってほしいってやつですね。俺は何時でもいいのでサイファーさんが良い時に誘って下さい」

 

「ホントですか! さすがはナザリックの最高責任者でギルド長のモモンガさんだ。それでは明日の朝食をご一緒してください」

 

「ええ、喜んで」

 

 他愛のない会話を済ませサイファーは退出した。その事を確認したアインズは机の上の資料をまとめ背伸びをする。

 

「んん~! あとはサイファーさんに任せて久しぶりに自室に帰ろうかな」

 

空いた時間の活用法を模索しながらアインズは自室に向かい歩き始める・・・・自室に新妻がいるとも知らずに・・・

 

 

 

 

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第九階層ある一室

 

 

 

「確かに承りました」

 

 いつも通りのピシッとした格好と優雅な態度で書類を受け取るデミウルゴス、何時も思うが同じ悪魔でも、こうも違うのはどうしてだろう。

 

「ああ、お前からしてみればぬるい内容に変更されたと思うが、これもアインズ様のご意志だしっかりと頼んだよ」

 

「ご期待に沿えるよう努力いたします」

 

「良し!  これで表向きの用件は終了だ。デミウルゴス、この後少し時間はあるか?」

 

 サイファーの言葉にデミウルゴスは少し考える素振りを見せるがすぐに了承する。

 

「そう畏まらなくても大丈夫だよ。ただ少し話をしようと思ってね」

 

「話?でございますか」

 

「そう、俺はアインズさんの命で一人動いているから守護者達とあまり顔を合わせる機会が少ないからね、だから書類を持ってくるって口実で皆に挨拶に回ろうかと思ってね」

 

「なるほど、そういうわけでしたか」

 

 どうやら納得してもらえたようだ。

 

「そういうこと、話もお堅いものじゃなくて世間話みたいなものだから・・・例えばデミウルゴスはアインズさんの妃候補にアルベドとシャルティアを考えているそうじゃないか」

 

「!!」

 

 軽いジャブみたいなつもりで話を振ったけどデミウルゴスは固まってしまった……恋愛話はまずかったかな、よし少しおどけた感じで押し切ろう。

 

「その顔は当りみたいだな・・・じゃ、俺の妃候補とかは決まっているの?」

 

「!!」

 

 デミウルゴスは多分しまったとか忘れてたって顔をしたと思う。

そのまま事務的な話をして俺は次の階層を目指した・・・・ここでも俺は独身なのだろうか・・・

 

 

 

 

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第九階層とあるショットバー前

 

「話しかけづらいな、あれ」

 

 シャルティアが出入りしている店があるというので窓から覗いてみると落ち着いた照明が照らすこじんまりとした大人の雰囲気が漂う感じの良い店であった。

 しかしそこには場の雰囲気をまるで考えない飲み方をしているシャルティアを発見した……いや、してしまった。

 

「次ぃ!」

 

 ジョッキをカウンターに叩きつけながらおかわりを要求する姿なぞ見たくなかった。

 

「まじかよあれ、ペロロンチーノの兄貴の最高傑作とまでいわれてたのに・・・・」

 

 あまりの豹変ぶりにドン引きしているとバーのマスターをしている副料理長のピッキーと目が? あってしまった。

 やばい巻き込まれる。そう直感したサイファーは覗きを止め転移の指輪を発動しその場を去った。

 

シャルティアは・・・また後日にしよう。

 

 

 

 

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第5階層「氷河」大白球

 

 

 

「話?デゴザイマスカ」

 

「そう、アインズさんばかりが表に立って守護者達と接していて俺はあまり皆と話が出来ていないから書類を配るついでに皆の顔を見て回ろうと思ってね」

 

「ソウデアリマスカ。シカシ、ソノヨウナ些細ナ事デ我々ノ忠義ガ揺ラグトハ思エマセンガ?」

 

「そうかもしれないけど、俺が気にしているからちょっと付き合ってよ」

 

「ワカリマシタ、シカシ、会話ニテ、サイファー様ヲ楽マセルノハイササカ無理ガアルヨウニ思ワレマスガ」

 

 コキュートスの真面目すぎる意見にサイファーは苦笑いを浮かべる。別に会話を楽しみたいわけではなくただ少し雑談でも交わして友好を深めようと思っただけである。

 

「いやいや、そこまで気にする必要はないんだよ。例えば何か困り事があるから俺に聞いてほしいとか、そんなんでも良いんだよ」

 

「困リ事デアリマスカ・・・ソレデシタラ、一ツゴザイマスガ・・・」

 

「お、なんだ? 言ってみ」

 

 言い淀むコキュートスに続きを話すように促すと意を決したように話し始める。

 

「実ハ。アインズ様トシャルティアノ戦イヲ見テカラ、モット歯ゴタエノアルトレーニング相手ガ欲シイトオモッテイタノデス」

 

 おお、なんというストイックなやつ、そういえばコキュートス程の者とまともにやり合えるいえばセバスかアルベドくらいか、しかし二人は任務があるから早々コキュートスの訓練には参加出来ないだろう。

 

「分かった。アインズさんに協力してもらってかなり高レベルなシモベを見繕ってきてやるから任務開始まではそれで我慢してもらえるかな」

 

「オオ! ワガ願イヲ聞イテクダサリ感謝ノ言葉モゴザイマイセン」

 

「良いってことよ、それでじゃ、任務がんばれよ」

 

 そう言い残し大白球を後にした。コキュートスのやる気に満ちた顔を見られてよかった気がする。

 

 

 

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第六階層 円形闘技場

 

 

「アウラちゃんとマーレ君に会いに来たのに、なんでアインズさんがいるんですか?」

 

 外に仕事に出ている二人が珍しく一緒にナザリックに帰ってきたと聞いたから来てみれば、なぜかアインズと三人で話をしていた。

 

「なんでって、珍しく二人が一緒に帰ってくるって聞いたから様子を見に来たんですけど」

 

「まあいいか、アウラちゃんにマーレ君。おかえり」

 

「わざわざありがとうございます、サイファー様」

 

「た、ただいま戻りました、サイファー様」

 

 元気なアウラとおどおどしたマーレ。設定に忠実とはいえ中々可愛らしい子供達だ。アインズさんの目もどことなく優しい気がする。

 

「今日はどうされたんですか? あたし達に何かご用事でしょうか?」

 

「ああ、次回の作戦の書類を守護者達に配るついでに二人に個人的な話があってね」

 

「そ、そうなんですか。で、でも、お話ってなんでしょうか」

 

「みんなにも言っているけど、そんなお堅い話じゃないよ」

 

 そう前置きをしてここに来た目的を話すと二人は多分嬉しそうな顔をしたと思う。子供だから構ってもらえるのが嬉しいんだろうか。しかし二人の設定年齢は俺の倍以上あるんだけどね。

 

「と言う訳でなにか聞きたい事とか、困ってる事とかはないかな?」

 

「あ、一つありました、いいですかサイファー様」

 

「なんでも言って良いよアウラちゃん」

 

「他の守護者達は呼び捨てなのに、どうしてあたしとマーレを『ちゃん』や『君』付で呼ぶんですか?」

 

「そういえばそうですね、何でなんですサイファーさん」

 

 アウラの疑問はアインズにとっても疑問だったらしく話に入ってきた。

 

「なんでって。ぶくぶく茶釜の姐さんが二人の事を俺らに紹介した時に二人を呼び捨てにすんなって言ってたじゃないですか、アインズさんもその場にいたから知ってますよね?」

 

「でもその後で茶釜さんから『冗談だからね』ってメールが来ましたよね」

 

「え?」

 

「え?」

 

 二人の間に沈黙が生まれアウラとマーレが心配そうにオロオロしはじめた時サイファーは口を開いた。

 

「俺、メールもらってませんけど」

 

「あ~、一人だけメールを送ってないから黙っててねって書いてありましたけど。あれサイファーさんだったんですね」

 

「聞いてないよ~!!」

 

 何年か越しのドッキリにサイファーの叫びは円形闘技場中に木霊した。

 

 その姿にアインズは肩をプルプルさせながら笑いをこらえ、アウラとマーレは思いがけず創造者のぶくぶく茶釜の話を聞けて嬉しさで盛り上がっていた。

 

 そんな三人を余所にサイファーの叫びは何時までも続くのであった。

 

 

 


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