オーバーロード~悪魔王の帰還~   作:hi・mazin

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二十話目 日常の一コマ

 

 

 

 シャルティア戦より数日が過ぎたある日の朝、ナザリック地下大墳墓の自室にてサイファーは数少ない自分の仕事である消費アイテムの効果の検証をしていた。

 とは言ってもアイテムの効果がゲームと同じか変化したかを書類に記載していくだけの簡単なものである。

 一見地味だが『こういうのは後々生きてくるはずです』とアインズさんに言われたため時間がある時にゆっくりとおこなっている。

 

「うっぷ・・・今日はここまでにしよう」

 そう言いながらサイファーは空になった瓶をゴミ袋に投げ入れ先ほど飲み干した薬品の結果を書類に書き記す。

 

「ゲームではいくら使ってもお腹は膨らまないからHP回復にポーション40個とか使ったけど、今は無理だな・・・飲みすぎで吐きそう」

 

 ゲームではアイテムをいくら食べたり飲んだりしても満腹にならなかったがこの世界はどうやら腹に溜まるらしい。

 これもゲームとは違うと備考欄に記載し書類に自分の専用の判子を押し完成させる。

 

「ふ~、アインズさんに提出しに行くか……おーい、アインズさんの部屋に行ってくるから、その間に食事の準備とゴミの回収作業をしといてもらえる?」

 

 部屋に待機している部屋付きのメイドに声を掛けると彼女はすぐに行動を開始し始める。その様子を確認したサイファーは書類を手にアインズの部屋に歩き出す。

 

 

 

 

 

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デミウルゴスがナザリック地下大墳墓第九階層を歩いていると反対側よりアルベドとプレアデスのメンバーが歩いてきた。しかもよく見れば外に出ているはずのプレアデスのメンバーも揃っている

 

「あらデミウルゴス、久しぶりね。」

 

「久しぶりですねアルベド、外に出ているプレアデスを含めた全員を引き連れて、何かあったのですか?」

 

 普段は外で活動するプレアデスを見ながらアルベドに尋ねる。

 

「特には何もないわ、プレアデスが揃っているのはちょうどルプスレギナとソリシャンの定時連絡の時期がかぶったためよ」

 

「そうでしたか。それで今からどちらに?」

 

「ええ、ユリがプレアデスが全員戻ったため、改めてアインズ様に謁見をしたいと言うことなのでアインズ様にお伺いを立てに行くとこなの」

 

「そうでしたか。それと一つ相談したいことがあるのですが、よろしいですか」

 

「今、ここでかしら。重要な事なら日を改めてからお願いしたいわね」

 

 若干、機嫌を損ねたような声を出すもデミウルゴスの事だからすぐに終わる内容なのであろう。

 

「それでどうしたのかしら?」

 

「実はですね・・・」

 

 そう言ってデミウルゴスは今朝見たサイファーとアインズの事を話し出した。

 

 

 

 

 

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 今朝方、アインズのデスナイトを使った日常品を武器に出来るかの実験に参加した時事件が起きた。

 

 デスナイトがナイフやフォーク、フライパンやお玉、はては丸太などを振り回らせていた時アインズを訪ねてサイファーがやってきた。

 どうやら消費アイテムの実施結果の報告に来たようだ。

 

 

「丸太でも武器になるんですね、てっきり資材だと思っていたけど」

 

「ええ、しかし丸太を武器にして吸血鬼を倒す人や、ナイフとフォークで狩猟する美食家がいるって昔タブラさんが言ってたんで気になってしまってね」

 

「ふ~ん、ま、詳しくは朝飯でも食べながら聞きますよ、アインズさんも朝飯まだでしょ?」

 

「ええ、まだですよ。・・・デミウルゴスにデスナイトよ。実験は一時中断とする、私たちは食事に向かうのでお前達も休息を取るが良い」

 

「は!ご配慮感謝いたします」

 

「デスナイトはその丸太を片付けておけ」

 

 その命令を受けデスナイトは床に置いてある丸太を持ち上げ小脇に抱え回れ右をする……そして悲劇が起こる。

 

「ぶっほん!」

 

 デスナイトが持っている丸太が回れ右をした拍子にサイファーの後頭部を直撃し短い悲鳴を上げながらサイファーは床に倒れる。

 

「サイファー様!!」

 

 その光景を目撃したデミウルゴスは激しい怒りが湧き上がる。

 至高の御方でありアインズ様のご友人でもあらせられるサイファー様に対してのこの無礼許す訳にはいかない。

 

「ぶっはっはあっは・・・何やってるんですかサイファーさん・・・ぶっほんって・・・くふふふ」

 

 アインズの突然の哄笑で頭が混乱……いや・よくわからない状態になり怒りが霧散していき妙に落ち着いていき、デミウルゴスはただアインズに視線を向けるしか出来なかった。

 

 そんなデミウルゴスを余所に二人の話は続く。

 

「笑いすぎですよアインズさん、ちょっとは心配してくださいよ」

 

 何事も無かった様に立ち上がりアインズに詰め寄るサイファーに笑いをこらえながら答える。

 

「ハイハイダイジョウブデスカ(棒読み)」

 

「心がこもってない!(ガビ~ン) せっかく面白いアイテムが見つかったから食事の後にあげようって思ったのになぁ」

 

「大丈夫です、サイファーさんが持っているアイテムは大体俺も持ってますから」

 

「やっぱりヒドイ(笑)」

 

そして何事もなく談笑をしながら歩き出す二人を見ながらやるせない気持ちになるデミウルゴス

 あの程度の事は御二方にとっては笑い話なのかと途方に暮れてしまう。

 

 

 

 

 

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回想終了

 

「と言う事がありますてね・・・正直対処に困っておりまして」

 

 デミウルゴスの話にアルベドはハムスケとの出会いを思い出す。あの時もアインズ様はサイファー様がふき飛ばされても大笑いするだけでサイファー様の身をまるで心配してはいなかったように思える。

 

「それならば私も似たような事を目撃したことがあります」

 

 皆の沈黙を破りユリ・アルファは話し始める……。

 

 

 

 

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 ナザリック地下大墳墓の第六階層の闘技場内でアインズとサイファーはキャッチボールを行っていた。

 もちろんグローブも野球ボールもナザリックに存在している。グローブは腕部装備品でありボールは投擲武器扱いだが二人には関係なかった。

 

「たかがキャッチボールだと馬鹿にしてましたけど中々遊べるものですね」

 

 そう言ってボールを投げるアインズ、だがボールのスピードは恐ろしく速い。魔法職とはいえさすがはレベル100。

 

「でしょう、それにここに帰ってきたら書類整理ばかりで身体も鈍るし良い運動になるでしょ」

 

 アインズの剛速球を難なく受け止めるサイファー。さすがはレベル100のタンク職である。

 

「そうですね・・・そろそろ終わりにしてお昼に行きましょうかサイファーさん」

 

「オッケー、じゃ次でラストにしましょうか」

 

 そう言ってアインズにボールを投げるサイファー。それをキャッチしたアインズは最後だと言う事で思いっきり振りかぶりボールを投げたが……。

 

「しまった力み過ぎたか!」

 

 アインズの投げたボールはまっすぐ飛ばずにフライのように上に飛んでいってしまった。

 

「大丈夫だ 問題ない・・・・・ぶぐ!」

 

 ボールを追いオーライオーライと両手を上げ落下地点に向かったが所詮は素人、落ちてきたボールはグローブの脇を通りサイファーの顔面にすいこまれる。

 

「サイファー様!!」

 

 思わず待機していたユリ・アルファは声を上げてしまった。ボール代わりに使っているとはいえあれは投擲武器の一種である。もしかしたらサイファー様とはいえお怪我をなさる可能性がある。

そう思いサイファーの下に駆けだそうとした時場違いな笑い声が響く・・・

 

「ふはっははは! 何やってるんですかサイファーさん」

 

「み、見ないで! 恥ずかしイイ」

 

 二人はそんなやり取りをしながら道具を片付け昼食に向かい始める。その場には真っ二つに割れたボールとその光景にあっけにとられたユリのみ残された。

 

 

 

 

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回想終了

 

「と言う事がありまして。幸いサイファー様にはお怪我はなくボールの破損のみでしたが、肝が冷えました」

 

 再び沈黙が訪れた時次はアルベドが口を開く。

 

「は! もしかしてサイファー様に危害を加えたらアインズ様が喜んでくださるとか」

 

 その場にいた全ての者がその事を否定しようとした。しかし、皆の目撃情報を聞いてみるとありがちそうでもないような気さえしてくるがすぐさま否定する。

 たとえそうだとしても至高の御方に危害をくわえるなど許されない蛮行である。

 

「確かに対処に困る内容であることは間違いないようね。デミウルゴス、この問題は今度私達守護者全員でアインズ様に確認してみましょう」

 

「そうしてくだされば助かります。時間を取らせて申し訳ない、ではまた後日」

 

 話を切り上げデミウルゴスは次の仕事に向かい、アルベドはプレアデスを連れアインズの下へ向かい始める。

 

 

 

 

 

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 第九階層に存在する従業員食堂の入り口付近でサイファーはウロウロしていた。

 時折中を覗いたり、誰かだ食堂から退出するのを見かけると全力で廊下の曲がり角まで退避し自身の存在を悟らせないように行動していた。

 なぜこのような事をしているかというと部屋でアインズと二人で食べるのも悪くないが食堂があるんなら利用してみたいという事なのであるが……しかしまだ一度も中に入った事は無い。理由は簡単で、サイファーが女子率ほぼ100%の食堂に入る事にものすごい気恥ずかしさを覚えるためである。

 

「昼過ぎだってのにまだいるよ。すごく興味があるんだけど女の子しかいないのに中に入るなんて無理だよ」

 

 彼を誰が責められようか。現実世界だっておいしいと有名な店でも女子率100%だと男は入りにくいモノなのである。しかもサイファーは一人である。人間の感性が結構残っている悪魔にとって食堂は入りたくても入れない『働く女の聖域』みたいに感じているのだ。

 

 

「ビュッフェ形式で楽しそうだな、卵やハム類は注文してから焼いてくれるのか・・・羨ましい」

 

 今日も今日とて1時間以上食堂の入口付近をウロウロし中の様子を窺う。

 至高の御方でなければ通報ものの不審者ぶりである。

 

「最初はメイド達がいなくなってから入ろうと思ったけど、メイドの食事が終わったら即終了なんだよな・・・食べたいけど女の子の中に混ざるのは・・・無理だ、たとえモモンガさんだろうと一人では入れないだろう」

 

ん?・・・そうだ俺は独りじゃない友がいたんだ!

 

 そうと決まればモモンガ……いや、アインズさんを巻き込みに行こう。

 食堂に行ける可能性が出てきたサイファーはアインズを探すべく行動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日もサイファー様来てたね」

 

「うん、今日も中の様子を確認して御帰りになられましたね」

 

「何かお考えのあってのことかしら」

 

サイファーは気付かれてないと思っているようだが食堂に入るメイド達は全員サイファーが何時も食堂の中の様子を見ている事に気が付いている。

 

 

 

 

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 第九階層にアインズが居るとメイドに教えてもらい目的の部屋の前まで来たサイファー……しかし部屋の中が妙に騒がしいような気がする。

 

「おかしい、このナザリックでこれほど騒ぐ奴などいないはず・・・トラブルでもあったのか? いや何かあれば『伝言/メッセージ』を繋げるはずだ」

 

 何かしらの危険があるはずだと覚悟を決め扉を開くサイファー……しかしそれは開けてはならない地獄への扉だった。

 

「騒がしいですよいったい何してんで・・・す?」

 

 扉を開けるとそこはカオスであった。

 

 うさ耳をつけエラヤッチャエラヤッチャヨイヨイと変な踊りを踊っているナーベラル。

 でぶってまで何かを食べ続けているソリシャン。

 Gと一緒にその辺を飛び回るエントマ。

 逆さまになりながら何やらフリーズしたようなポンコツ具合のシズ。

 花を愛でながらおっとりしているルプスレギナ。

 頭をボーリングの球のように扱うユリ。

 モモンガの名前を連呼しながらアインズの抱き枕に抱き着いているアルベド。

そしてその光景に震えているアインズ・・・

 

「え? あ、え?」

 

 上手く言葉が出ない、そしてこの現状は自分の手に負えないと確信したサイファーはアインズの下に駆けよろうとしたがアルベドが立ちふさがる。

 

「ア、アルベドさん、ちょっと退いてもらえます・・・」

 

「サイファー様はアインズ様に笑って欲しいですわよね、ね!」

 

「え・・・ええ。ほしいです」

 

 アルベドの異常なほど熱気がこもった瞳に押されながら言葉をひねり出す……はっきり言って目がイっちゃってる。

 

「では殴らせてもらいますね」

 

 そう言ってアルベドは拳を固める。

 

「ちょっと待て! なんでそうなるの!!」

 

「私は知っておりますモモンガ様が御笑いになるのはいつもサイファー様が何らかの被害にあった時だと私は確信しておりますハムスケの件とかデスナイトの丸太の件とかボールが顔に当たったときとか」

 

「い・・・いや~~~!!」

 

 ホールにサイファーの悲痛な叫びが木霊しさらに混乱に拍車がかかる。

 アルベドより逃げるサイファーを見ながらアインズはただ唖然とするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお効果は1時間で切れたもよう。

 

アルベド「私は一体何を?」

 

 サイファー「お、終わったの?」←柱にしがみ付き中

 


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