オーバーロード~悪魔王の帰還~   作:hi・mazin

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十九話目 終わり良ければ総て良し

 

 

「・・・つまりはサイファーさんはあの男に馬鹿にされたわけですね」

 

「まぁ、色々突っ込みどころがあるけど、大雑把に言えばそうかもしれない・・・かな?」

 

 冒険者組合での自分の作り話は「大丈夫だと思いますよ」と簡素に終わり、なぜかどういう風に嫌味を言われたのかを詳しく聞いてくるのであまり思い出したくないが一から十まで話してあげた。

 

「そうですか」

 

 その一言で話を区切りアルベドのもとに歩き出すアインズ。

 

 合流した二人に冒険者組合での話の内容を大まかに話していたが何故かアインズの機嫌が悪くなり、アルベドは何処かに『伝言/メッセージ』を繋げ何かを頼んでいるようだ、アルベドの話の途中でアインズさんがアンデッドの材料にするから原型はとどめておいてくれって言っているけど……どのみちナザリックの機密保護のため彼らは抹殺される運命だが原型は残せって、そこまでする程敵意をむき出しにしなくてもいい気がする。一瞬自分が嫌味を言われたからそれで怒っているのかなと思ったがそんな訳ないかとため息をもらす。

 おそらく何かの実験をするつもりなのだろう。

 

「アルベド、サイファーさん、馬鹿共が来ましたよ、そろそろ出発しましょう」

 

 そう言ってアインズはアイテムで召喚した馬に乗り込み、アルベドはハムスケに騎乗し、余った俺はハムスケの尻尾に持ち上げられる。

 合流した早々アインズに冒険者組合に来なかった事で絡んできたが、さすがはアインズ。どこ吹く風と受け流している。

その態度にイライラしたのかハムスケの尻尾にいる俺にまで絡み始めた・・・ホントどうなることやら

 

 

 

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こうなりました・・・

 

「終わりました、アインズ様」

 

 そう言ってデミウルゴスは優雅に一礼をしてみせた。

 

「ご苦労。さすがはデミウルゴス。アイツらは私の友であるサイファーさんを侮辱した奴だ、遠慮なくお前の実験に使うが良い。しかし死体は後で私のスキルの実験に使用するため原型はとどめるように」

 

「ありがとうございます。必ずやアインズ様にご満足いただける結果を出して御覧に入れます」

 

 二人のやり取りをみながらサイファーは思う……あっけなかったと。

 

 吸血鬼討伐のため移動を開始した俺達は目的の森の中まで来たが、森が深く馬ではこれ以上進めないのでアインズさんを先頭に森を歩くと、急にデミウルゴスが現れあっという間にイグヴァルジ達をスキルで洗脳するとナザリックに送ってしまったのだ……時間にして40秒もかからずミスリルの『クラルグラ』はこの世から消えてしまった。

 

 

「ところで、サイファー様にしがみついているその動物はいったい」

 

 アインズが視線を向けるとそこにはサイファーの両肩をつかみ半泣き状態で震えているハムスケの姿があった。

 

「これ? 俺のペット的なものだ。ハムスケ。彼はナザリック地下大墳墓の第七階層守護者のデミウルゴスだ。さ、ご挨拶を」

 

「サイファー殿よりご紹介があったように、それがしハムスケというでござる。今後ともよろしくでござるよ、デミウルゴス殿」

 

「・・・こちらこそよろしく、ハムスケ」

 

 サイファー達のやり取りが終わるのを確認したアインズは全員に聞こえるように言葉を発する。

 

「よし、挨拶は終わりだ、とりあえずここから先は私たち三人で向かう。デミウルゴスはハムスケを連れてナザリックに帰還せよ」

 

「はっ!」

 

 ハムスケはサイファーを掴んだまま問いかける。

 

「あの、サイファー殿・・・それがしは大丈夫なんでござろうか? 食べられたりしないでござるか」

 

「大丈夫だって、身内に手を出すほどの馬鹿はナザリックにはいないって・・・一応皆にこいつは俺のだって伝えてくれるかデミウルゴス」

 

「かしこまりました。それではお気を付け下さい」

 

 やはりアインズは思う。やっぱりサイファーが一番ハムスケを気に入っている気がする。

 

 アインズ達は目的の場所を目指して歩いていく。

 

 

 

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 森の大きく開けた場所に目的の人物……シャルティアがいたがその姿はどこか異常な感じがする。

 

「シャルティア」

 

 アインズが小さな声でつぶやく、その声はサイファーが今まで聞いたことのないほど弱弱しく感じられた。

 

「アインズさん、反応がないですね」

 

 サイファーも様子を確認するがシャルティアは全く動かずどこか虚空を見つめているように思える。

 二人して様子見をしていた時同行者のアルベドが声を荒げる。

 

「シャルティア!言い訳の言葉なく、さらに御二方に対しての無礼・・・」

 

「ストップ! 無暗に近づくな!」

 

 一歩踏み出しかけたアルベドをサイファーが後ろから羽交い絞めに抑える。

 

「罠だったらどうするつもりなんだアルベド! アインズさんみたいに冷静になれ」

 

 何時もとは違い声を上げて制止するサイファーの言葉に冷静さを取り戻したのかアルベドの怒気が冷えてゆく。

 

「確定だな。シャルティアは現在、精神支配を受けている」

 

「まさか、アンデッドを精神支配出来る方法があるなんて・・・まさかこの世界のタレントとか言う能力か」

 

「それは分かりませんが。おそらくシャルティアは精神支配を受け、そして何か命令が与えられる前に何かが起きたんだと思います・・・例えば、相打ちで倒したため命令が空白だとか、くそ、情報が少なすぎる」

 

「だったら早めにカタをつけましょう。アンデッドを支配する奴がいるならアインズさんの身も危ない」

 

「しかしどうやってですサイファーさん?」

 

「こうするんですよ! 残り回数1回の『流れ星の指輪/シューティングスター』」

 

 そう言ってサイファーは某ロボット風に指輪をわざわざ懐から出して高らかに掲げる。

 

「そうか、それで対象の全効果の打消しをするんですね」

 

 この世界にきて指輪の効果は立証済みであり、その万能性はアンデッドであるアインズを飲食可能にしたほど理不尽なまでの奇跡を起こせるアイテムである。

 

 ホントはアインズさんの精神の抑制をオン、オフ切り替え可能にしてあげたかったんだけど仕方がないよね。

 

「そのと~り。一応二人は周りの警戒をよろしく・・・指輪よ俺の願いを叶えてみせろ!」

 

 指輪を高々と掲げるとサイファーを中心に光輝く魔方陣が幾つも重なるように現れ身体に力が溢れてくる。指輪を使うのはこれで三回目だったが何回使っても身体に溢れてくる充実感は病みつきになりそうである。

 

「シャルティアにかかっている全ての効果を打ち消せ!」

 

 

 その言葉とともに魔方陣がさらに大きくなろうとした時、全ての魔法陣が砕けて指にはめていた指輪も音を立てて砕けてしまった。

 

「バカな!この感触は!」

 

この異世界に来て間もないころ食事が出来ないアインズのために使用し失敗した時と同じ感触がした・・・

 

 

 

 

サイファーが指輪を取り出した時、アインズは正直ホッとしてしまった「これで大丈夫だ」と

 そしてサイファーの『流れ星の指輪/シューティングスター』を全て使わせてしまった事に少し罪悪感を覚える。近い内に何かお礼をしないとな……。

 発動される魔法陣を見ながらこれからの事を考える。はたしてシャルティアはどこまで覚えているのだろう。全ては酷かもしれないが断片くらいなら覚えているはずだ。早く帰って対策を練らなくては。

 もう終わった事を考えている矢先に目を疑う光景が目に入る『流れ星の指輪/シューティングスター』が失敗するという光景が。

 

「て、撤退だ!アルベド、サイファーさんを掴め!早く!」

 

「は、はい! サイファー様ご無礼を!」

 

「ぐえ!クビガ!」

 

 アルベドがサイファーの襟首を掴むのを確認しアインズは転移の魔法を発動させナザリックの前まで戻ってきたがそれでもアインズは余裕なく警戒をするように命じる。

 

「アルベド! 追尾して転移する者に警戒せよ!  サイファーさんは俺の守りを!」

 武器を構え、アインズの左側に陣取るアルベド、サイファーはその反対の右側に陣取り不意打ちに備えスキルを発動させる……がしばらく時間が過ぎても何も起こらず全員が警戒をとく。

 

「なんでじゃ!!畜生がー!!」

 

いの一番に声を出したのはサイファーはそのまま両手を握りしめ怒りを露わにし呪詛を吐き出す

 

「3回中2回が不発だと!!  しかも原因が『世界級/ワールドアイテム』の所為だと!! どんな確率だよ!!」

 

「やはりそうなんですね」

 

 何時もより冷たい態度で言葉を発するアインズ。その纏っているオーラがあのアルベドさえ怯えさせる。

 

「ええ、アインズさんで一回経験してますし、ほぼ・・・いや、確実にそうです。まさか、この世界にあるとは」

 

 再び拳を握り悔しがるサイファー。アインズはすぐにアルベドに命令を下す。

 

「アルベド、外にいる全ての守護者を戻す。その際シャルティアのように精神支配を受けていないか調べる必要がある。すぐに玉座に戻るぞ」

 

「じゃ、俺は守護者達を出迎える係でここに残ります。誰か戻るたびにそっちに連絡します」

 

「頼みます。いくぞアルベド」

 

「はい、サイファー様もお気を付けください」

 

 二人は転移の魔法を使いナザリックに消えていった。一人残るサイファーは一人つぶやく。

 

「3回中2回不発はさすがに酷いよな・・・」

 

 

 

 

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「サイファーさん、俺は単騎でシャルティアと戦おうと思ってます」

 

 宝物殿から戻ったアインズから最初に聞いた言葉は信じられないものだった。しかし、サイファーはアインズが勝算もないのに戦う事はないという事は昔から知っているためその方面の心配はないが別の心配がある。

 

「・・・何の躊躇もなくシャルティアを殺せるんですか? ゲームのNPCじゃないんですよ」

 

 優しいこの人は……できるのか。

 

「手段はこれしかありません。『世界級/ワールドアイテム』の支配を打ち破るには」

 

 何かしらの覚悟を決めた目でこちらを見つめられサイファーは思わず目をそらしてしまった。

 

「ハァ、分かりましたよ。どうせアルベドにしか一人で行くって言ってないんでしょう、反対しそうな人達はまとめて俺が見張ってますからご心配なく」

 

「すみません、我儘を聞いてもらって・・・」

 

「いいってことよ、それに我儘を聞くのも友達の特権だしね」

 

「ふふふ、なんですかそれ」

 

「あはは、なんだろうね」

 

 二人はしばらく笑いあったがアインズが先に静かになった。おそらく精神の抑制が働いたためであろう。

 

「そうだ、行く前にもう一つお願いを聞いてもらえませんか?」

 

「何です、今日はとことん聞いてあげますよ」

 

「サイファーさんの装備を貸してもらえませんか。シャルティアにとの戦いに使いたいんです」

 

「もちろん、予備の装備も含め好きなものを持っていってください」

 

 しばらくサイファーの装備を物色したアインズはお目当ての物を転送系アイテムに登録しナザリックの外に転移し、サイファーはアルベドと合流し考えられる全ての根回しを開始するのである。

 

 

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 ナザリックにある一室に守護者を集めたがアインズが保険としてアウラとマーレを連れて行ったため思ったより集まらなかった。今この部屋にいるのはアルベド、コキュートス、そしてサイファーの3人だけであったが数分もしない内にデミウルゴスも入室してきた。しかし入室してきた彼は何時もとは違い少しイラついたような雰囲気を漂わせていた。

 

「サイファー様、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

 デミウルゴスが上座に座るサイファーに問いかける。

 

「なぜ、それをお認めになられたのですか?」

 

 その口調は聞いている分には穏やかだが普段の彼を知る者なら彼が憤りを感じていることが僅かだが感じられた。

 

「簡単な事だ。アインズさんには十分な勝算があるからだ」

 

「サイファーサマ、ソレハ真デショウカ」

 

「コキュートス、それはどういう意味だ」

 

「ハ! ワタシノ見立テデハ、三対七デアインズ様ガ三ダト思ワレマス」

 

「なっ!!」

 

 コキュートスの答えにデミウルゴスは思わず声が出てしまった。至高の御方が勝算があると言い、同僚であり優れた戦士であるコキュートスは勝率を三割程度だと言う。

 その様子を見ながらサイファーは笑みを浮かべつつ『水晶の画面/クリスタル・モニター』を見つめる。

 

「それはどうかなコキュートス。スペック性能だけでは測れない強さというものをアインズさんが見せてくれるぞ」

 

 

 

 

 

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 全てが終わった。

 

結果はアインズさんが勝利した。

 自分が貸した装備はダメージドレインを受けた時、吸収されたHPの1.5倍のダメージをお返しする効果のあるマントである。その効果のおかげかシャルティアの焦りを助長させる事に貢献できたと思う。

 しかし、ギルメンの武器や防具を代わる代わる使う姿はホントにカッコよかった。

 

 アインズさんが帰ってきた今、全員で玉座の間に集まっている……が見慣れない軍服のNPCが5億枚の金貨の横に立っていたため挨拶をしようと思ったらアインズさんに止められてしまった。彼は宝物殿の領域守護者だとアルベドが教えてくれた。どうやら自分が来なくなった後にアインズさんに造られた存在らしい。どうりで話した事が無いはずだ。だから今日初めてその存在を知ったわけです。

 後でちゃんとあいさつに行こうと思う。アインズさんが造ったんだから性格は良いはずだろう。

 

 そんなことを思っているうちにシャルティアは蘇生された……が洗脳される前の事はおぼろげに覚えているような覚えてないようなと結構あやふやであった。そして洗脳中はまるで覚えてないそうだ。

 そのあとの空気の読めない胸発言で他の守護者の反感を買い今責められている最中だ。

 

「あははは、どうやら完璧に元に戻ったようですねアインズさん」

 

 そのやり取りに気が抜けたのか玉座の手前の階段にへたり込んだアインズに視線を向けると彼は物悲しそうに守護者達に手を伸ばしていた……だから俺はアインズの背中を思いっきりはたいてやった。

 

 

「痛っっっった! 何をするんですかサイファーさん!!」

 

 先ほどの物悲しそうな態度とは一変し怒りながらこちらに詰め寄ってきた。

 

「ごめんごめん、でも元気は出ただろ」

 

「っ!! ありがとうございます。・・・そうだ俺は一人じゃないんだ・・・」

 

「何か言いました?」

 

「いえ、何でもありません・・・さて、皆の者、児戯はそこまでだ」

 

 元気を取り戻したアインズは皆を集め今回の反省点を述べさらにナザリックを強化するべく行動を開始することを宣言した。

 

「その事なのですが、アインズ様」

 

「なんだ、デミウルゴス?」

 

「アインズ様が創造できるアンデッドですが、媒介となる人間の死体では中位アンデッドしか作る事が出来なかったはず」

 

「その通りだ。それがどうした?」

 

「人間では中位アンデッドしか創造出来ないのであれば、人間以外を使ってみるのはいかがでしょうか」

 

「他にあてがあるのか?」

 

「はい、実は蜥蜴人の集落をアウラが発見しております。そこを襲撃し滅ぼしてはどうでしょうか?」

 

 デミウルゴスの意見を聞き思案し始めたアインズだったが真横から反対意見が飛び出した。

 

「アインズさん、悪いけど俺は賛成できないね」

 

「何故です、サイファーさん?」

 

「さっきシャルティアの件があったのに、なにいきなり目立つ行動するわけ。俺はナザリックの強化に図書館の傭兵モンスターを使う事を提案します。アンデッドだけじゃ戦力に偏りができるからね」

 

「傭兵モンスターですか? あれお金かかるんですよ」

 

「だったら昔みたいに鉱山の一つや二つ独占して資金や鉱石を蓄えましょうよ。しばらくは静かに行動を取るべきだと思います」

 

 サイファーの意見を受けアインズに迷いが生まれる。デミウルゴスの意見は成功すれば上位のアンデッドも常備軍としてナザリックに配備でき戦力の増強ができる。

 デメリットはサイファーさんが言うように非常に目立つ行動になりいろんな目に自分達がさらされる危険がある。

 サイファーの意見は成功すればナザリックの資金や資源の潤いにつながる、しかもこの世界特有の希少鉱石も発見できるかもしれない。

 デメリットはシャルティアを洗脳した奴らにも時間を与え、向こうの態勢を立て直されてしまうかもしれない。

 

 自分が考えている間もサイファーとデミウルゴスはこちらを見つめ自分の意見が採用されるのを待っている。

二人の間に挟まれアインズは絶対の支配者としてふさわしい答えを今日も求め考える。

 

 

 


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