日が沈み辺りが暗くなった頃ようやくハムスケの登録が完了した。
「やっと終わった・・」
「お金を払えばもっと早く済んだんですけどね」
「それは言いっこ無しですよ。まさか魔法での登録があんなに高いとは思わなかった」
「どこの世界でも駆け出しは金策に追われるんですね」
こうなったらンフィーレア君が言ってた追加報酬に期待するしかない。
「ではハムスケよ、報酬を受け取りに行くぞ」
「了解でござる・・・って殿、それがしに乗らないんでござるか」
「そうだよ、もったいない」
「ギク・・・いや、お前はアルと共に私の前を歩き先導を頼む。私とサイファーさんはその後についていく」
もうあんな恥ずかしい思いはごめんだ。自分は関係ないって顔してますけどサイファーさんが余計な一言が無ければこんな事にはならなかったんですから。
「了解したわ。ハムスケこちらに来なさい」
「はいでござる! 姫」
「姫・・・ふふふ、アインズ様が殿で私が姫って事は・・・くふふ」
ヘルムかぶってんのにどんな顔してるか簡単に想像できるな。愛してる設定もここまでくると呪いの一種だな……アインズさんは気づいてないし……ん、なんだあの婆さん馴れ馴れしく近づいてきやがって。
二人と一匹の話を聞いていたらハムスケを見るために集まった人の中から変な婆さんがあらわれこちらに近づいてきた。
「のぉ、おぬし達はわしの孫と薬草を採取しに行った者じゃないか?」
「え? 婆さん誰」
「リイジー・バレアレと言うんだがね、ンフィーレアの祖母じゃよ」
なん……だと……、しまった、依頼主のお婆様になんて口をきいてしまったんだ。
「ああ、そうでしたか。お婆様のおっしゃるとおり私達がンフィーレア君の護衛に就きましたサイファーと申します、あそこのいるのが我らのリーダーであるモモン、その隣の女性がアルと申します」
依頼主のお婆様に接待態度で接するサイファーの紹介でアインズとアルベドはぺこりと頭を下げて挨拶をかわす。
「信じられんほどのべっぴんさんじゃな。それでそこの魔獣は?」
「これは森の賢王でハムスケと言います」
リイジーに興味を持ったのかアインズが会話に加わってきた。
「なんと!この精強な魔獣こそがかの伝説の森の賢王だと言うのか」
Q伝説って Aああ!
(なんかこのやり取り仲間内で伝説級のアイテムを手に入れる度に意味もなく繰り返していた記憶があるなぁ)
お婆さんの言った伝説って言葉に反応して周囲で盗み聞きしていた冒険者の口からも伝説、伝説ってみんな言ってるけど。俺は伝説の魔獣よりフワフワでぷにぷにでモフモフな巨大な生き物の方が良かったんだがな。
こいつの毛、かてーんだよ
「それで、孫はいまどこにおるんじゃ?」
「彼ならもう一組の冒険者チームと一緒に薬草を持って先に帰ってますよ。・・・そうだ、良かったら一緒に行きませんか? 俺・・・いや、私達も報酬を受け取りにお宅に向かう途中でしたから」
まだこの辺りの地理に不慣れなサイファーは道案内もかねてもらおうと提案した。
「もちろんじゃ。わしもおぬしらの冒険にもちと興味があるしな」
サイファーの提案はリイジーに受け入れられたようだ。
「そうでしたか。私達の話でよければいくらでもリーダーであるモモンさんが話しますよ」
「俺かよ!」
「あはは、お約束的なツッコミをありがとう。じゃ、そろそろ暗くなってきたし行きましょうか」
一行はリイジーの案内に従って、エ・ランテルの街を進む。
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「それじゃぁ入るかね」
思ったより早く店に着いた。外見は暗くてよく見えないが中々大きい店のようだ。
「なんだい、あの子、不用心じゃないか」
「何が不用心なんですか」
ぶつぶつ言っていたリイジーが気になりサイファーはつい尋ねてしまった。
「いや、鍵が掛かってなくってね」
確かに不用心だ、家の中に居るったって安全のため鍵を掛ける事は必要だ。いつ押し込み強盗が来るか分からないし、最悪空き巣だって来るかもしれない。世の中には犯罪が溢れているのだから。
サイファーは元の世界の治安の悪さを思い浮かべながらうんうんとうなずく。
「ンフィーレアやーい。モモンさん達が来たよー」
リイジーが店の奥に声を掛けていたがサイファーは店の奥より陳列されている商品に目がいっていた。
「これが街一番のポーションか・・・アインズさんが言ってた通り青いな、匂いはっと」
勝手に商品を開け匂いを嗅ぐサイファー、その匂いは薬品ポイような、青臭いような、自分達のポーションとはかなり違う匂いだ……ちなみにユグドラシルのポーションは赤い以外無味無臭である。
「サイファーさん、どうやら厄介な事になってますよ」
「なんか引っかかるの?」
「ええ、私のスキルの『不死の祝福』に反応があります」
「という事は・・・アンデッドが店にいるんですか」
「数は今のところ三体だけのようです」
サイファーも武器を構えている二人に習い腰に下げていた杖を引き抜き、OFFにしていた常時発動系スキルをすべてONに切り替える、これで不意に襲われても後れは取らないだろう。
「な、なんだい!」
「ちょっと俺の後ろにいてねリイジーさん。アル、モモンさんのバックアップをよろしく」
「分かりました」
そう短く答えたアルベドはアインズの近くに移動した。
「では、行きますよ」
アインズ達は店の奥に歩き出した。奥の扉を乱暴に開き、さらに奥に進んだアインズはリイジーに問いかける。
「この奥はどうなっている」
「こ、この奥は薬草の保管庫で、裏口もそこにある」
「そうか・・・サイファーさん」
「分かってますよ、ここに待機してリイジーさんの護衛に着きますよ」
アインズの口ぶりからして、この部屋にアンデッドがいるようだ。サイファーは後ろにいるリイジーを扉から離れた位置に誘導した。
アインズが扉を開け中に入っていった、開け放たれた扉の奥から匂ってくるのは森でンフィーレア君に嗅がせてもらった薬草の香りではなく、生臭い血の匂いであった。
ほどなくして奥にいたアンデッドを始末したとアルベドより知らせがあり後ろにいるリイジーを連れ部屋の中に入っていく。
部屋に入って最初に目に飛び込んできたのは首を切断され動かなくなったアンデッドが3体、次に壁にもたれかかる様に座り込んでいる死体を調べているアインズの姿があった。
「ここにいたアンデッドは自然に涌き出たタイプでしたか?」
絶対に違うと思うが一応アインズに聞いてみた。
「いえ、『不死者創造/クリエイトアンデッド』で創られた存在です・・・だが材料がまずかったな」
何時もより低い声でアインズが答える、その声は少し怒りが混じっている気がする。
「材料?・・・どれどれ」
床に転がっている首を適当に拾い上げて確認してみると魔法により少し顔が崩れていたがアンデッドの正体がわかった……と言うか胴体の装備品で大体察しがついていたが当たりのようだ。
「ペテル、ダイン、こっちはルクルットか・・・ということはそこの死体がニニャか・・・」
「ンフィーレア!」
サイファーの独り言を聞き何が起こったかをようやく理解したリイジーは孫の安否を確認するため走り出していった。
「アルベド。リイジーを守ってやれ、室内に生きている何者かが隠れている可能性がある」
「畏まりました」
アインズの命令に従いアルベドはリイジーを追っていく。
「アインズさん、怒ってます?」
「いえ……いや、少し不快感を覚えてます、サイファーさんはどうです?」
アンデッドでカルマ値マイナスの自分と違ってサイファーは悪魔だが生身の身体がありカルマ値も±0であるため自分とは感じ方が違うはずだ、その感情のすり合わせのためサイファーの気持ちを知っておく必要がある。
「ガンガン怒りがこみ上げてきてます。ここまで知り合いを弄られて黙っておけません」
そう言って両拳を握りしめたサイファーはアインズに向き直る。
「当然仕返しに行きますよねモモンガの旦那! こいつらを殺した奴らにアインズ・ウール・ゴウンの知り合いに手を出したことを死ぬまで・・・いや死んでからも後悔させてやりましょう!」
PKに対しPKKをもって報復し続けたメンバーからの熱い視線を受け答えをだしたアインズ。
「ええ、もちろん。私達の計画を邪魔したことを死んでからも後悔させてやりましょう」
そこまで言ってアインズはサイファーに指を出し冷静に話し始めた。
「その前に状況の整理に情報の収集です、そしてすべてが揃った時こそ・・・」
「「奇襲でもって一気に勝負をつける」」
声が揃ったところで二人から笑い声が漏れる。
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「ンフィーレアが無事に帰ってきたならばリイジー・バレアレ。お前の全てをよこせ」
「おぬし・・・」
やれやれ、報酬に全てよこせって、リイジーさん困惑してるじゃないか、そんな言い方だから悪魔に間違われても仕方が無いよ……まぁ悪魔はアインズさん以外そうなんですけどね……あとアルベド、全てをよこせってセリフの時一瞬殺気が漏れてたぞ。あれはそういう意味じゃないからな。この世界の知識と経験を提供しろって意味だからな。告白的なアレじゃないからな。そんなに気になるなら今度アインズさんに言ってもらえよ……なんだよ今度はクネクネと鎧姿だから余計危ない人に見えるよ。
アルベドとお話をしていたら契約は完了しリイジーは部屋より追い出されるように出て行った。それを見送りアインズは二人に向き直る。
「どうされるのですか?アインズ様」
「今回に限っては簡単だな。敵がバカなのか、はたまた」
「どこまでもふざけやがって!」
余裕の空気を出すアインズに再び怒気が再燃するサイファー対照的な二人にアルベドは首を傾げる。
「どういうことですか?」
「それはだな。見ろ、彼らのプレートが無くなっているだろう。おそらくここを襲って奴らが持ち去ったんだろう。それがサイファーさんが怒る理由だ、なんだと思う?」
「・・・申し訳ありません、分かりかねます」
「狩猟戦利品だよ。ぶっ殺した奴が記念品として持ち帰ったんだよ!どの世界でも同じかよ異形種狩りのくそ共が!」
「サイファーさん落ち着いてください。そいつらは一人残らずぶっ潰したでしょう」
ああそうだったと怒りを収めるサイファー、話を進めようとした時、アインズの頭に『伝言/メッセージ』の声が響く。
が忙しいから後でかけなおすと『伝言/メッセージ』を切り話を進める。
アインズがアイテムBOXより巻物を10数個取り出しサイファーに渡す。
「サイファーさんお願いします」
「了解しました」
ビシッと敬礼しサイファーが手慣れた様子で巻物を順番に広げ、魔法を発動し始め魔法を唱える。その度に巻物は熱を感じない炎に包まれ灰も残らず燃え尽きていき魔法が解放されていく。
「二人ともここだよ」
サイファーが机に置いた地図の一角を指さす、文字の読めないアインズは記憶よりその場所を思い出す。
「・・・墓地か。よし、次はこれをお願いします」
「アイアイサー」
またしてもビシッと敬礼し二つの巻物を受け取り発動させる。そこに映るのはえらい格好に変わり果てた少年の姿が映り、さらには大量のアンデッドの姿が確認できる。
「ンフィーレア君・・・すまない、誰得だよとか考えてしまった・・・モモンガの旦那、ンフィーレア君こんな格好させられてるけど、まだ清い身体かな」
大量のアンデッドには目もくれずそんな見当違いの心配をするサイファーをアインズは生暖かい目を向けるしかなかった。
「とにかく、これで確定だな」
「どうなさいますか?転移で一気に攻撃を仕掛けますか」
「馬鹿を言うなよ、一瞬で終わったら俺の怒りが収まらないぞ」
サイファーとアルベドの話を聞きながらアインズは考える、自分でさえこれほどのアンデッドを一度には召喚し使役は出来ない、何らかのトリックがあるはずだ・・・それはンフィーレアの命かもしれないため早急に解決しなければまずいが本音としてはンフィーレアを犠牲にしてもタネを知りたい、そしてナザリックの強化に利用したいが
友であるサイファーは少年を助ける気らしい……しかたない、今回は名声をとるか。
「よし、二人とも墓地に向かうぞ」
「え、歩いていくんですか? せめて入口までは転移で行きましょうよ。あ、空を飛ぶのはパスで」
「転移や『飛行/フライ』では直接乗り込んだら問題が静かに解決してしまうだろ」
「え?それのどこがいけないんです」
不思議そうに首を傾げる二人にアインズは語る、つまりは騒ぎを大きくして漁夫の利を狙う作戦である。
「リイジー準備が整った。私達はこれから墓地に向かう」
「地下下水道は!?」
「それは奴らの偽装だ、本命は墓地だ。しかも数千のアンデッドのおまけつきでな」
「なんと!!」
「私達はその中を突破する予定だ。リイジーは出来るだけ多くに人にアンデッドの脅威を伝えて欲しい、証拠に乏しい話だが有名なお前の話なら皆耳を傾けるだろう」
騒いでほしいくせにとぼそっと聞こえた悪魔のささやきはこの際無視し玄関へとむかう。
「おぬしはアンデッドの軍勢を突破できる手段を持っておるのか?!」
アインズは背負った剣を、アルベドは手に持ったバルディッシュを、サイファーは腰に下げている杖を見せ
「ここにあるだろう?」
その一言でバシっと決め店を後にし墓地に向け行動を開始する。
余談だが墓地に急ぐためイヤイヤだがハムスケに乗った一行だがサイファーだけ背中ではなくしっぽにしがみ付いていた。
「モモンさん、急ぎますからしっかりと掴まって下さい♡」
「分かった、頼むぞアル」腰ギュ
「はあぁー、私今最高に充実してるわ。ありがとうございますサイファー様」
「だったら俺も背に乗せてくれよ!」
果たしてンフィーレアの運命や如何に・・・・全く名前が出てきていないぞ黒幕たち!