オーバーロード~悪魔王の帰還~   作:hi・mazin

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十五話目 まだ楽しい時

 

 

 薄暗い森の中を漆黒の剣と依頼主のンフィーレアはほぼ全力で走っていた。目指すはもちろん森の出口だ。

 急いで避難しなければあの人達の足手まといになってしまう気がして皆自然と急いでしまう。

 もちろんあの人達の事は信じているが先ほど木々が倒れるような音が森に響き、ついネガティブな考えをしてしまう。

 

「見えたぞ! みんな急げ!」

 

 何時もはおちゃらけているルクルットが急かすように指示を飛ばす。

 

「大丈夫ですかンフィーレアさん」

 

 ペテルは自分の後ろにいたンフィーレアに声を掛けると息を切らしながらだが返事が返ってきた。

 

「はぁはぁはぁ、僕は大丈夫です・・・」

 

 どうやら無事に森から脱出できたようだ。

 

「あとはモモン氏達だけであるな」

 

「木が倒れる音がやけに大きく聞こえましたがモモンさん達は大丈夫でしょうか」

 

 ダインもニニャも心配そうに森を見つめる。

 

「大丈夫だって、モモンさん達がそう簡単に死ぬものかよ」

 

 一通り安全を確認したルクルットが話に入ってきた。その顔は何時ものように緩んだ顔をしいた。

 

「心配だろうが今は信じて待つしかないな。だが、いざという時は皆分かっていいるだろうな」

 

 リーダーであるペテルは最悪の場合を想定し準備をする事を皆に伝える。

 

「信じてますよモモンさん。貴方はこんな所で終わる人じゃない」

 

誰にも聞こえない声でペテルはひとり呟いた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

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 謎の物体に叩き飛ばされ、サイファーは倒れた木々の下敷きになっていた。身体に覆いかぶさった大きな木をものともせず起き上がり身体に着いた木々の葉や泥を落とすためマントや服を手ではたいたが水分を含んだ泥服からほとんど落ちずシミになっていた。

 次に身体を確認したがどこにも異常は見られず、装備品にも破損は無かったが全身が泥と草の汁が付着し薄汚れてしまっている。

 今まで冷静に確認作業をしていたサイファーであったが確認し終わったあと激しい怒りを覚えた。

 

「あ~あ、服がこんなに汚れちゃった……くそが!!  何が森の賢王だ!  戦闘前の粋な小話もなしに不意打ちかましやがって!! スキルさえOFFにしていなかったらお前なんか俺に触れた時点で終わってたぞ! くそ、くそ、くそ! モモンガさんが足の一本でも切り落とすと言った時、流石に可哀そうだと思って庇おうと思っていた俺がバカだった!」

 

 サイファーはまだ見ぬ森の賢王(ローブを来た猿人類)を頭の中で描き如何に惨たらしく殺すのかを考え始めた。そこには人間としての倫理観はなくただ怒りを抑えた悪魔の姿があった。

 

 アインズのもとに戻る前にたまった怒りを少しでも下げるため近場の木に殴り掛かった。その木はいとも簡単に砕け周りの木を巻き込みながら吹き飛んでいき太陽の光が差し込み始めた。

 

「ふぅー、待ってろよ森の賢王。お前もこの木と同じ目に遭わせてやる」

 

 静かな怒りを胸にサイファーは歩き始めた。

 

 

 

 

 

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「はぁー・・・森の賢王って・・・外れだ・・・完全にハズレだ」

 

 アインズは森の賢王に完全に興味を失くし剣で不貞腐れたように剣で地面をたたいていた……最初は不意打ちとはいえサイファーを吹き飛ばした賢王に興味が湧いてきていたが……その正体はでっかいハムスターであり、ちょっと魔法は使えるがそれだけだ、全然賢者らしいことはしないし、アインズの事を戦士と信じて疑わず、少しの違和感も持ってくれなかった。

 ということでアインズは戦う気力を完全に失くしていた。

 

「どうしたのでござる、さぁ、勝負の続きでござるよ、命の奪い合いでござる!」

 

 やる気満々のハムスターにアインズはガリガリと精神が削られていく。

 

「もういい・・・絶望のオーラ・・・れべる1」

 

スキルの発動と共に威勢の良かったハムスターは急にしおらしくなり腹部を無防備にさらけ出す

 

「キュ~・・・それがしの負けでござるよ・・」

 

「はぁ~、所詮は獣か」

 

 あきれながらハムスターのもとまで歩き、次の一手を考え始めようとした時、後ろからメキメキと木の倒れる音が響く。

 

「なんだ、新手か?」

 

「アインズ様お下がり下さい!」

 

 アインズが構えるより先にアルベドが前方に陣取り武器を構える。そして音はだんだんと近づき目の前の木が次々と倒れていき、ついには目の前の最後の木が倒れ犯人が目の前に現れる。

 

「ぐおぉぉ! 森の賢王め覚悟しろ!  野郎ぶっ殺してやる」

 

 木々を倒しながら現れたサイファーはフードも仮面も脱ぎ捨て目を輝かせ肌の色も元に戻り完全に正体を現していた。

 

「サ、サイファーさん?」

 

 何時もの人の好さそうな様子と打って変わりかなり怒りを露わにしていた。

 

「ひ~!! 恐ろしい化け物が現れたでござる~!!」

 

 とりあえずハムスターは無視しよう。

 

「おお、モモンガさん。森の賢王はどこですか! 俺の服を汚した+不意打ちのお礼に八つ裂きにしてやりたいんですよ……もしかして、もう終わったあとですか?」

 

 口調こそ何時通りだがイライラが手に取るようにわかる。

 

「終わったには終わったんですけど、そこで寝ているのがそうです」

 

 アインズが指をさした方にはでっかいハムスターしかいなかった。

 

「え?どこどこ?」

 

「だからあそこですって」

 

「だからどこです? 賢王っていうくらいなんだからローブ姿の猿かなんかでしょう」

 

「だから、そこのハムスターがそうです」

 

「・・・え・・・」

 

 アインズに紹介されてハムスターを見た瞬間、徐々に怒りが収まるのをサイファーは感じた。

 

「これがですか?」

 

「ええ、多少の魔法が使える以外ただのでっかいハムスターです」

 

 こんな奴に不意打ちを受け怒りを露わにしてたなんて……恥ずかしい。

 サイファーに残っていた怒りは完全に鎮火した。

 

 改めて賢王を見たが、腹部を無防備にさらし少し涙目になっている姿はなんとも愛らしい……そしてこのサイズ、これなら夢に見たト○ロごっこが出来るかもしれない。

 

 サイファーはゴクリと唾を飲み込み腹にダイブすべくジリジリと距離を詰め始めると後方から声が掛かる。

 

「なにやっているんですか?」

 

 声の方を向いてみるといつの間にかアルベドの横にアウラの姿があった。

 

「いや、中々柔らかそうな腹だから、ちょっとトト○ごっこでもしようかと」

 

「○とろ? 知ってるアルベド」

 

「いえ私も知らないわね。アインズ様はご存知でしょうか?」

 

「いや、しかし昔仲間の誰かがジーブリがどうだのって熱く語っていたような、ないような?」

 

 三者三様に首を傾げている中サイファーだけは話に加わらず森の賢王にさらににじり寄っていた。

 

「はぁはぁ、暴れんなよ、暴れんなよ、これでさっきの事はチャラにしてやるんだ」

 

「ひぃ~なんか怖いでござる」

 

「ひゃっは~、もう我慢できねえぜ!」

 

 怯える森の賢王を無視しサイファーはその無防備なお腹に飛び込み小さいころから夢にまで見たその柔らかさを堪能……やわらか……やわら……固い……ゴワゴワする……獣臭い……おまけに服に抜け毛がついた。

 

 うひゃーくすぐったいでござるなどと言っている獣を無視し無言で立ち上がるサイファー。心なしか少し小さく見えた。

 

「・・・で、この期待はずれ君はどうするの?」

 

「さっきと違いえらい淡泊ですね」

 

「・・・ほっといてください、俺は今また一つ大人になったんですよ」

 

 のちにアインズは語る、あんな悲しそうな(´・ω・`)顔のサイファーさんは見たことなかった……と。

 

 

 

 色々と後始末をアインズに押し付けサイファーは一人黄昏る……俺はメイちゃんにはなれないのか、あのフカフカはやはり絵本やアニメだけの夢物語なのか。いや違う、必ずどこかに理想のフカフカがあるはずだ、なぜならここは異世界なのだから……などと自分を慰めている間に森の賢王はナザリックの一員になったそうです。

 

 

 

 

 

 

 

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 二泊三日の冒険が終わりやっとこさエ・ランテルまで戻ってきたアインズ達は森の賢王もといハムスケを街中に連れ込むため組合で登録する必要があったため漆黒の剣と別れ冒険者組合に向かっていた。

 

本当にこの三日間色々とあった、俺はカルネ村でネムちゃんに正体はバレるし、アインズさんはンフィーレア君にバレるし、なんか散々だった気がするし、結局一番ミスが少なかったのがアルベドってだけでちょっと複雑な思いがある・・・だって組織のトップ2人が凡ミスが出たのにその部下はノーミスとか、ホントに優秀だようちの守護者統括様は・・・

 

 サイファーの後方に目を向けるとそこには森の賢王に騎乗するアルベドの姿があった。最初はアインズが乗るべきだと漆黒の剣とアルベドが強く勧めたがサイファーが騎乗スキルを持つアルベドが乗るべきだと勧め、ハムスターに乗りたくないアインズが必死に説得し折れたアルベドが騎乗する事となった……が。

 

「モモンさん、もうじき組合につくからしっかりつかまっていてね」

 

「・・・・はい」

 

 ハムスケに堂々と騎乗するアルベドの後ろに身を小さくさせながら相乗りしているアインズ、なぜこうなったかというと、簡単に言うと俺達が歩いているのに自分だけ騎乗するのが嫌だというアルベドに対してじゃあアインズと相乗りしたらと軽い気持ちで言ったらこうなった。アルベドや漆黒の剣のメンバーがどうやって説得したかは覚えてないがこうなった訳だ。

 そのせいもあって傍から見てもアルベドの機嫌は最高に良い。周りの声など全く気にせず鼻歌交じりに堂々としている。後ろの人も胸を張れば良いのに。

 

「ところで、彼らを信じても良かったの?」

 

「ん、報酬のこと? 3日間一緒にいたけどそんなせこい奴らじゃないと思うよ」

 

「・・・そうだな、裏切られたとしても損失は軽微だ。それよりその程度の金額で騒いで意地汚いと思われる方がよっぽど問題だ」

 

 ハムスケの背中で何とか言葉をひねり出すアインズ。

 

「そうですね、ところで今日もアルと訓練するの?」

 

「もちろんしますよ、まだまだ本職の戦士みたいにはほど遠いし、せめて動きくらいはもう少しまともになりたいし」

 

「そうですか。では今日は動き方の訓練を中心にいたしましょうか」

 

「よろしくたのむぞ。アル」

 

 ハムスケの上で今晩の訓練の話をする二人、正直戦士の演技のためにそこまでする必要はみられないがアインズさんは凝り性だし、アルベドは二人の時間が増えるからどんとこいみたいだし。

 

「じゃ、訓練の間露店に行くからお金頂戴」

 

そう言って手を差し出したが

 

「ははは、そんな金ある訳ないじゃないですか」

 

 そう言ってアインズはペラペラの財布を振るってみせた。

 

「組合で登録料請求されたらどうする気ですか」

 

「・・・・」

 

 無言のアインズにさらに続ける。

 

「ハムスケの維持費って一日いくらかかるんでしょうね」

 

 当のハムスケはきょとんとしているが餌の事を考えてなかった。

 

「おいハムスケ、お前は一日どのくらい食べるんだ」

 

「へ? そうでござるな・・・あそこの馬なら一日二、いや三頭くらいならペロリでござる」

 

「なん・・・だと・・」

 

 アインズは再び自分の財布の中身を確認したが今日の宿代だけで精いっぱいの金額しか入っていなかった。

 

「はぁ~仕方がない、しばらくはナザリックから餌を取り寄せよう」

 

 本当にこのハムスケは良い拾い物であったんだろうか。もしかしたらとんでもない負債ではないだろうか。

 どう見てもでかいだけのハムスターのはずがどういう訳か現地人の反応は絶大であった。

 

「アルにモモンさん、そろそろ着くから降りたほうがいいよ」

 

 どうやら着いたらしい。アインズは心の中でどうか登録料が高額ではありませんようにと祈りハムスケから飛び降りた。

 

「そうだモモンガさん」

 

「何ですサイファーさん?」

 

「初任務達成のお疲れ会をしたいと思うからンフィーレア君からお金もらったらどこか食べに行きません?」

 

「金がないって言ったばかりなのに、もう無駄遣いの相談ですか」

 

「いやいや、大事なことですよ、やっぱりこういう息抜きは必要ですって、せっかく異世界に来たんだから異文化交流と洒落こみましょうよ」

 

 良い笑顔で浪費を勧める友であったが、異文化交流という言葉がアインズの興味をとても刺激し、どうやら抗えそうにない。

 

「今回だけですよサイファーさん」

 

「さすがモモンさん話がわかる、アルも参加してもらうから変に畏まるなよ」

 

「分かったわ、で、場所はどうするの」

 

「こうゆうのはその場の勢いで決めるもんだから、登録が終わったらみんなで決めるとしましょう」

 

 サイファーとアインズの話は冒険者組合の前ですっかり話し込んでしまい、結局一次会には世話になった漆黒の剣と依頼主であるンフィーレア君を呼ぶ事で話がついた。

 

 何だかんだあったが楽しく冒険者をやっていけそうだ。

 

 


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