オーバーロード~悪魔王の帰還~   作:hi・mazin

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十三話目 出発

 

 

 青い空、白い雲、そして心地よい風。どれも大気汚染が進み汚れきったリアルでは在りえないものである。

 ある意味とてつもない贅沢を味わいながらサイファーは荷馬車の荷台で空を見上げていた。すると御者の少年から声が掛かる。

 

「どうしたんですか?ボーっと空なんか見上げて」

 

「いや、今、途轍もない贅沢をしているなって思いながら雲を見ていたんです」

 

「贅沢?・・・ああ、お一人だけ馬車に乗っている事がですか」

 

「・・・ま、そんなとこかな」

 

 そう言いながら御者の少年、ンフィーレア・バレアレに視線を戻す。

 

 ンフィーレア・バレアレ……組合でいきなり名指しの依頼を持ってきたエ・ランテルで一番有名なタレントを持つ薬師の少年。なぜ自分達かと聞いたら酒場での騒動を聞いて興味を持ち、何時も依頼していた冒険者が街を離れたため安くて無名の自分達に声を掛けたらしい。

 

「モモンさん、この辺りから危険地帯になってきます。そちらも念のため注意をお願いします」

 

「了解しました」

 

『漆黒の剣』名指しの依頼を受けるにあたって逆にアインズさんが雇う形にし付いてきてもらった先輩チーム。

 まだ出会って間もないのでこれくらいしか情報がない。

あとお詫びとかなんとか言って食料の代金を半分出してくれた・・・ナンデダロウ

 

 サイファーは荷台から身を乗り出し後方にいたアインズに声を掛ける。

 

「で、モモンさんは何を考え込んでるんですか」

 

「分かりますか?」

 

「そりゃぁ何年も一緒にいたら分かりますよ、大方出現モンスターの事やンフィーレア君をどうやって守るか、でしょう」

 

「半分は正解です、あと対処不能のモンスターが出たら魔法で片付けるとして目撃者をどうするかですよ。初任務で私達以外全滅とか洒落にならないですし」

 

 確かにそれはまずい、だが自分達とは違い職業を偽っていないLv100のアルベドがいるのだから心配は無用だろう。

 

「大丈夫だって。な、アル」

 

「はい、モモンさんなら楽勝でしょう」

 

「・・・アルのこの口調も割と悪くないな、好感がもてる」

 

 ナザリックでのアルベドの態度やお堅い口調と違い、冒険者仲間のアルの割と砕けた口調と控えめなスキンシップに満足したアインズはポロっと口を滑らした。

 

(ホントに凄いなアルベド、カルネ村では明らかに不機嫌だったのにこうも態度や言葉遣いを変えられるとは)

 

「アインズ様が私の事好きって、好きって、くぅ~」

 

 アインズの口から好きと言われアルベドは喜びに震え誰にも聞こえない声で呟き体を震わせる。

最初はアインズ様のためとはいえ人間の街で生活する事に不快感があったが・・・今はそんな事は無く幸福感に溢れている。サイファー様に言われ言葉遣いを直したら、アインズ様が変装するモモンとお揃いの真紅のマントを頂くことができたし、人間相手になるべくちゃんとした態度で接したらアインズ様の私への好感度は上がるし、至高の方の一人サイファー様も私がアインズ様の横に並ぶ事を認めて下さり、正に外堀が埋まって行く感覚がする

 あぁ、モンスターの襲撃から依頼主を守り無事に任務を終えたらアインズ様からどのようなゴホウビを頂けるのだろう。

 

 

 

 

 

 黙々と歩く仲間達に、ルクルットが元気に軽い口調で話しかける。

 

「みんな、そんなに警戒しなくて大丈夫だって。俺がしっかり見てるからさ。アルちゃんなんか俺を信じているから超余裕の態度だぜ」

 

「ええ、期待していますよルクルットさん(私とアインズ様の幸せのための踏み台として)」

 

「アルさんより暖かい一言頂きました!」

 

 親指を立てたルクルットに対し、みな笑顔を浮かべ、自然と場の空気は明るいものに変化する。

 アインズはアルベドの態度に満足し此処にきてナザリックでの絶対的な支配者でいることのストレスが和らぐ感覚がした。ホント頼りになるなぁ。

 

 そう思いアインズはアルベドの肩に手を載せるとなぜか載せた手をアルベドに握られた。

 

そんな二人を見ていたルクルットはある質問を投げかけた。

 

「なぁー。やっぱ、アルちゃんとモモンさんは恋人関係なの」

 

「こ、っここお恋人!! く、ふふふうう!!」

 

 その言葉と共にアルベドから笑い声が漏れ始め、身体が不自然に揺れ始めたため不安に思ったアインズはつい声を掛けてしまった。

 

「おい、アルベド」

 

「ちょっ、何、言ってんの!?モモンさん」

 

 荷台でうたた寝をしていたサイファーは飛び起きつい大きな声を上げた。

 

 その一言でアインズは冷静さを取り戻し「やってしまった」と思ってしまう。ここまで順調すぎてつい口が滑った。

 

「・・・ルクルットさん変な勘ぐぐりはよしてください」

 

「あー。失敬。モモンさんではなく、サイファーさんと恋人関係だったんですね」

 

「違います」

 

 先ほどとはうって変わり冷静にアルベドの口から冷たい言葉が発せられ、一同に沈黙が訪れたが前の方からペテルが声をかける。

 

「ルクルット。もう無駄話はよして、しっかり警戒してろ」

 

「了解」

 

「モモンさん。仲間が申し訳ない。他人の検索は御法度だというのに」

 

「いえ、かまいません。今回はこちらに非がありますから、お互いに水に流しましょう」

 

 それからしばらくは平穏な時間が過ぎていったアインズはニニャに魔法の事や疑問に思った事を質問しこの世界の知識の吸収に努め、アルベドは誰にも気づかれずにスキルを用いアインズとサイファーの警護を行い、一人荷台に乗る事をなぜか許されたサイファーはまた昼寝を開始し、各々自由に過ごした。

 

 

 

「動いたな」

 

 突如ルクルットから警戒の声が飛ぶ、その声は正に冒険者としてのルクルットでありちゃらちゃらした様子はなかった。

 サイファーは荷台より飛び降り森に視線を向ける、そこにはゴブリンとオーガと思われるモンスターの姿が確認できたが……何かがおかしい。

 

「モモンさん、あいつら姿や装備がバラバラで同じグラフィックの奴がいませんよ」

 

「なるほど、やはりゲームとは違うという事か」

 

 アインズは森から出てきたモンスターを観察するがやはりサイファーの言うとおり同一個体の姿はなくそれぞれに色が濃かったり、大きかったり小さかったりと特徴が見られる、まさに全てが未知のモンスターである。

 

 

 

「モモンさん。半分受け持ってもらえるということですが、どのように分けますか」

 

「2チームに分かれてきた敵を適当に、では駄目でしょうか」

 

「それでは片方に全部集まった場合が厄介です。サイファーさん、(火球/ファイアーボール)などの広範囲魔法で一気にゴブリンを焼き払うことは可能ですか」

 

「もちろん、何発でもお見舞いしてあげますよ」

 

「それは心強い、ではお任せします、あとは残ったオーガですが・・・」

 

「それは私とアルに任せてもらいましょうか、オーガごときに苦労してたなら単なる大ぼら吹きになってしまいます、皆さんには馬車に乗ったンフィーレアさんの護衛をお願いします」

 

「モモンさん・・・分かりました、とはいえ私達もただ黙っているわけにはいきません。出来る限りの戦闘支援はさせてもらいますよ」

 

「お願いします、ではペテルさん達の準備がよろしければ戦闘を開始しましょう」

 

 

 

 

 

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「・・・すげぇ」

 

誰かが漏らした小さな言葉にその場にいた誰もが同意する。それほどまでに三人は強かった・・・

 

 

作戦通り最初の一撃はサイファーの魔法から始まったがその最初から彼らは桁が違った。

 

「ではいきますね・・・(火球/ファイアーボール)!」

 

 魔法の詠唱もなしにサイファーが杖を振るうと同時に火球が生まれ空気を熱しながらモンスターに向かい爆発が起きゴブリンが何匹か吹き飛び悲鳴が木霊し予定通りにゴブリンの数が減ったが予想外の事が起きた。

 

「(火球/ファイアーボール(火球/ファイアーボール(火球/ファイアーボール・・・」

 

 魔力を消費する様子もなく無邪気に魔法を放ち続け、その度にモンスター達から悲鳴とも叫び声とも取れる声が聞こえる。

 

 あらかた焼き尽くしたサイファーは作業に飽きたように声を上げる。

 

「あとはよろしくモモンさん・・・って、もういないか」

 

 その言葉と同時にオーガの悲鳴が草原に木霊する。

 

 いつの間にか行動を開始したモモンの剣がオーガを切り裂いていたその光景は圧倒的でありオーガほどの分厚い肉体を真っ二つにするほどの剣撃であった。

 

 オーガが悲鳴じみた雄たけびを上げながら手に持つ棍棒を振り下ろすが、その一撃はいつの間にかアインズの傍に立つアルべドによりはじかれた。たまらずオーガの体勢が崩れその隙を逃さずアルベドはバルディッシュを横一文字に振り抜くと綺麗に切断されオーガの上半身は空中で回転しながら下半身とは別の所に落ちる。

 その強さと恐怖により動けなくなった残りのオーガを屠るのは二人にしてみれば簡単すぎる『作業』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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(結構・・・いや、かなり楽しいな)

 

 火を囲みながら皆が食事を食べている様子を見ながらアインズは思う。現実世界では当然、そしてユグドラシルでさえできなかったアウトドアという未知の体験、あまりにも楽しくてテントを組み立てながら自然と精神安定が起こるほどであった。

 それほどまでにアインズはリラックスしていた。供のアルベドは最初の懸念が嘘のように大人しく、絡んでくる人間(ルクルット)を見事にさばいており安心して見ていられる。

 サイファーさんは……うん、まあ、良くも悪くも何時も通りだな。

 

「モモンさん。いらないならもらってあげましょうか」

 

 その何時も通りの態度で友は空っぽのお椀を膝の上に置き、手をこちらに差し出していた。

 

「食べますよ・・・ただ・・・」

 

 サイファーのおかげで飲食は可能だがヘルムの下の顔は幻術で作った偽の顔であり食べる時に少し違和感が出てしまうのである。

 

「ただ? 何か苦手なものが入っていたとか」

 

一切手を出そうとしないアインズに対しルクルットが問いかけに皆の視線がアインズに集まる

何か良い言い訳は無いものか・・・

 

「あ~ 宗教的な理由で命を奪った日の食事は四人以上で食べてはいけないというものがありまして・・・」

 うまいぞ俺、宗教上の理由なら微妙に納得をせざるを得ない。アインズは心の中でガッツポーズをとったが意外な落とし穴が横に転がっていた。

 

「でもサイファーさんは普通に食べてますよね」

 

 ニニャの視線はアルベドにお代わりをよそってもらっているサイファーに向けられる。

 

 皆の視線が集まりサイファーの答えを待っている状況である。

 

「え~、あの、そ、そこは微妙な問題だからあまり触れないで・・・ほ、ほら、アルはまだ手を付けてないし、それで納得して、ね」

 

 しどろもどろであったが皆の顔を見る限り正解だったようだ。

 

「うむ、宗教の教えを守る守らないは個人の自由である。モモン氏やアル嬢がサイファー氏を咎めないということは御二人が納得しておられるのだろう」

 

 ダインのフォローのおかげで怪しまれないで済んだな。しかし自分で人前では食べられないと言ったが素朴な食事とはいえ、未知の世界の未知の料理か、かなり楽しみだな。

 

「では私とアルは少し離れた所でいただいてきます。サイファーさんあまり食べすぎないようにしてくださいよ」

 

 私のお代わりの分がなくなってしまいますからね。と冗談半分で場を沸かしアルベドと共にその場を後にした。

 後ろの方から楽しそうな話し声が聞こえ少し後ろ髪が引かれるがまずはこの『未知』を体験するのが先だと歩き始めた。

 

 

 


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