オーバーロード~悪魔王の帰還~   作:hi・mazin

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九話目 ある日の日常

 

サイファーの朝は何時も決まって数個の目覚ましの音で始まりを迎える。リアルでも異世界でも人間でも悪魔でも関係なく朝起きるという行為が苦手なのである

 

目覚ましの音に無理やり意識を覚醒させるべく寝返りを打ったときゴキっとイヤな音が寝室に響く

 

「ぐわっ! く首がぁぁっぁ!」

 

あまりの痛さにベッドの上でもだえ苦しむ、リアルと違い今は頭に立派な角が頭に二本生えているサイファーは角が邪魔で寝返りが打てないのだ。しかし寝起きの意識が混濁しているとき人間の頃の癖でつい寝返りを打ってしまい首を捻ってしまうのだ・・・

 

「痛い・・・痛いよ~、此処にきて8日位たつけど・・こんなんばっかだよ」

 

自分の失敗だが誰かに当り散らしたい、しかしこんな事をナザリックのシモベ達にでも聞かれたら間違いなく命で償おうとするだろう・・・冗談でも言えるわけがない

 

「・・・顔洗ってこよ」

 

一通り朝の恒例行事を終わらせ備え付けの洗面台に向かい身支度を整える

 

洗顔、歯磨きを終え今まで着ていた寝間着を近くにあるかごに脱ぎ入れアイテムボックスから今日の装備を取り出す

 

「わざわざ着替えるのは面倒だけど・・・仕方ないか」

 

アインズと違いサイファーは悪魔とはいえ生身であるため新陳代謝による汚れが少なからず出てしまうので毎朝着替える必要があるし、間違っても不衛生な姿は見せられない

 

「ま、こんなもんかな」

 

今日の装備はダーク系の色合いの貴族風の制服、右肩にある赤いショートマントがポイントだぞ・・・

おかしくないよな、お店でも大した効果も無いくせに結構な値段で売っていたし、それだけデザインに自信があるんだよな

 

サイファーは鏡を見ながら悩む、センスには自信があるが今のナザリックには正当に服の評価をしてくれる者はおらず(アインズ含む)本当に似合っているのか分からないのだ

 

「まあ、考えても仕方ないか」

 

サイファーは考えるのを止め鏡に向かい直し髪をとき、最後にブラシを取り出し角をブラッシングする

角の手入れの仕方が分からないため取りあえず毎朝行っている

 

身支度を終え主寝室を出ると今日のお付きのメイドが手向かえてくれた。

毎朝違うタイプのメイドが来てくれるのが正直うれしい、アインズさんは一人の時間がなかなか取れないと煩わしいと思うことがあるらしいが俺はそうは思わない、もう一度言う正直うれしい

 

「おはようございます。サイファー様」

 

「うん、おはよう」

 

優雅に挨拶をするメイドは素晴らしいの一言に尽きアインズが嫌がるのが分からない

 

「アインズさんを朝食に誘いに行ってくるから食事の準備をしといてもらえる」

 

「かしこまりました。朝食のメニューはいかがいたしましょうか?」

 

「メニューねぇ・・・あっそうだ、この前食べたサンドイッチってやつにして、それでスープはコーンスープね、それとサラダと食後のコーヒーもお願いね」

 

一度軽食で出されて以来この2品は大のお気に入りである。サンドイッチはシンプルながら中の具材やパンを変える事により何十種類もの味が楽しめる最高の一品である

コーンスープは甘くて温かくパンとの相性は最高であり何より自分の嗜好にあっているし、素直に美味いと感じる

子供っぽいと言われようがナザリックの料理はリアルとは比べ物にならない位美味く一度食べたらやみつきである

 

「じゃ、アインズさんを呼んでくるから。後の事はよろしくね~」

 

「かしこまりました。いってらっしゃいませ、サイファー様」

 

メイドが開けてくれた扉をくぐりアインズの執務室にむかうサイファーだが頭の中はアインズ:2食事:8の考えであった

 

 

 

 

 

 

 

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ナザリック地下大墳墓最高支配者の執務室は豪華であり、室内に置かれた調度品の数々は細かな装飾が施されておりその気品と希少性を漂わせている。この部屋はサイファーの部屋とは比べようも無いほど物に溢れていた

ただの仕事部屋にここまで物が必要かは疑問だが全く物が無い部屋と比べたら何倍もマシなのだろうか

 

「おはようございます、サイファーさん。良く寝られましたか?」

 

「おはよう、アインズさん。もちろんバッチリよ」

 

アルベドと共に黒壇の執務机に向かい書類の確認していたアインズはサイファーの来訪に仕事の手を止めにこやかに挨拶を交わす

 

「約束の時間には随分早いですけど、こんなに早くにどうしたんですか?」

 

「いや、一人で朝食を食べるのも寂しいからお誘いに来たんですよ」

 

「朝食? と言う事はもう朝なんですね」

 

にこやかに言うアインズであったがサイファーは顔をしかめ注意する

 

「また徹夜で仕事してたんですか?、会うたびに言ってますけどアンタが休まないと部下も休めないんだよ。人に休め、休めって言う前に自分が休めよ・・・俺みたいにね」

 

毎日9時間の睡眠をとるサイファーが言うとなぜか説得力が出てくる

 

「うっ・・・すいません、アンデッドの特性で眠らなくてもいいし、疲労のバットステータスも無いから集中しちゃうと時間を忘れてしまってつい・・」

 

「ふぅ、このやり取りも恒例になってきましたね。で、その報告書は誰からのです」

 

アインズの左隣まで移動したサイファーは横から報告書を覗き見る。報告書には万年筆て丸っこい字がびっしり書かれていた

 

「外で調査をしているアウラからですよ・・・今のところプレイヤーと思われる者との接触はなくて、ナザリックの近くにある大森林の調査は森を抜けて山脈のふもとに広がる湖まで順調らしいですよ」

 

「ほー、山に湖か・・・一段落着いたら湖の側に別荘でも立ててBBQってやつでもやってみますか、本に書いてたけど凄く綺麗な景色に囲まれてやると美味いらしいよ」

 

「湖のほとりの別荘ですか・・・いいですねぇ・・」

 

別荘なんて一部の金持ちしか手に入れる事が出来ず貧乏人には夢のまた夢であったが、今ならいけるんじゃねえ、とアインズは少し空想してしまった。

綺麗な湖のほとりでサイファーや守護者全員でBBQを囲む姿を、想像の皆はありえないほど笑顔であり、男組は缶ビール片手に肉を食べながら笑顔で話をしており、女組は湖のほとりで水を掛け合いながら黄色い声を上げていた

 

「ぷっくふふふ・・」

 

皆のありえない姿を想像し笑いが漏れ気分が高揚してくるが楽しい気分は長くは続かなっかた・・・

 

「・・・ち、せっかく良い気分だったんだがな。こういう時は精神の安定化が煩わしいな」

 

誰かが口を開こうとしたとき、扉が静かに数度ノックされるとアルベドがアインズの表情を窺い、一礼と共に扉に向かう

 

「シャルティアがご面会を求めております」

 

「シャルティアが? 構わない入れろ」

 

アインズの許可に従い、スカート部分が大きく膨らんだボールガウンを着た14歳ほどの少女が優雅に入室した

 

「アインズ様、サイファー様ご機嫌麗しゅう存じんす」

 

「お前もな、シャルティア、それで私達に何用か?」

 

「もちろん、アインズ様のお美しいお姿を目にするためでありんすぇ」

 

「え、俺は・・・」

 

友の漏らした言葉にアインズは頭が痛くなる感覚がした。シャルティアは創造主のペロロンチーノにより様々なエロゲ的要素をぶち込まれておりその一つが死体愛好癖である、サイファーの事を同じ至高の御方と忠誠を誓っているとはいえ、やはり生身のサイファーよりアンデッドのアインズに魅かれるものがあるらしい

 

「ならば、満足でしょう。下がりなさい、シャルティア。今、私とアインズ様はナザリック地下大墳墓の将来に関して相談しているところなの。邪魔しないでくれるかしら」

 

「だから俺は・・・」

 

やはり友の悲痛な声が聞こえる。アルベドはユグドラシルのサービス最終日の最後につい出来心でビッチ設定からモモンガを愛してる設定に書き換えたためサイファーの事を同じ至高の御方として忠誠を誓っていても愛情という楔があるため、サイファーよりアインズを何気なく優先してしまう傾向がある

 

悩むアインズの前には形容しがたい顔になりお互いを威嚇しあう二人と、どこからか手鏡を取り出し自分の顔をチェックしながら『悪くは無いはずなんだよなぁ』と呟く友の姿が目に入り急に冷静な自分が戻ってきた

 

「・・・両者とも児戯は止めよ」

 

瞬間、二人は元の美しい顔に戻り満面の笑みをアインズに向けるがその豹変っぷりに若干引きそうになる

 

(女って怖い・・あとサイファーさん戻ってきてください)

 

いまだに顔のチェックをしているサイファーは一時置いといて

 

「再び聞こう。何用だ、シャルティア」

 

「はい、これより君名に従いまして、セバスと合流しようと思っておりんす。今後少しばかりナザリックに帰還し難くなると思われんすから、御二人にご挨拶にまいりんした」

 

「了解した。シャルティアよ、油断せずに務めを果たし、無事に戻ってこい」

 

これで終わったと思っていたアインズに更なる爆弾発言がサイファーより飛び出す

 

「これから出発なのか? まだ時間があるんなら、皆で朝食でも取らないか」

 

その言葉にこの場にいる三人はそれぞれ驚きをあらわし、最初に声を出したのはシャルティアであった

 

「み、皆と言うからにはアインズ様も入ってありんすか?」

 

「ん、そうだよ、まぁ簡単だけど壮行会みたいな感じで、あっ急なことだから断っても・・」

 

「断るなんてありんせん! 是非にお願いしますよ」

 

「お、おう・・・アインズさんも構いませんね」

 

興奮気味に迫ってくるシャルティアの重圧から逃れるようにサイファーはアインズに確認を取る

 

「俺も構いませんよ。場所は決まっているんですか?」

 

「俺の部屋でと思ってます、人数が増えたけど、まぁ足りない分はすぐに追加出来ると思うよ」

 

「サイファー様のご厚意大変ありがたく存じます。ではアインズ様、サイファー様。参りましょうか」

 

「はあ~、アルベドもくるんでありんすか」

 

「あら? 何か問題でもあるかしら」

 

せっかく和やかな感じになってきたのだが二人の間に新たな火種が燃え始めたような空気になった

 

「ええ、私の為の食事会になんでアルベドが首を突っ込むんでありんすか」

 

「物事は正確に把握するべきねシャルティア、サイファー様は皆と仰られたわ、つまりここにいる4人に向けて言われたのよ」

 

またしても二人して形容しがたい顔になりながらお互いを威嚇し始め、空気を変えようとサイファーが頑張ってもこのざまである

 

「アインズさん、Go」

 

「!! また俺ですか」

 

いつかの草原でのやり取りと同じようにアインズに全て任せようとするサイファーに精一杯の抗議を上げたが、この状況を収められるのは自分しかおらずしぶしぶ了解した

 

「じゃ、先に戻って料理の追加を頼んできますので、終わったら来て下さい」

 

「はぁ、分かりました。また後でうかがいます」

 

サイファーは美女二人の視界に入らないように注意し扉に向かい歩き始めた。友達を食事に誘うのってこんなに難しかったっけ? と考えながら空腹なのを我慢し部屋を後にした

 

 

 

 

 

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目の前の皿からサンドイッチを掴み口に運びながらサイファーは目の前の光景を怨めしそうに眺める。自分の対面はアインズ、その右隣にシャルティア、アインズの左隣にアルベド、自分の隣は空席。お分かりいただけたでしょうかこの惨状を、目の前で片方の美女がアインズにアーンなんてやるともう片方の美女も負けずにアーンってやっている光景が延々と続いていくこの恐怖を、あれほど楽しみにしていたサンドイッチが全然美味く感じず空腹を満たすために口に運んでいる状態だった

・・・しかし最初は怨み辛みがあったが慣れてくるとアインズが逆にかわいそうに見えてくる、アインズは全く自分のペースで食事が出来ず右に左とあたふたしており気を使いまくっていた

その事に気づくと何ということでしょう、飯が美味い、美味すぎて2回もお代わりをしてしまった

 

最後に食事のコーヒーを飲みながらサイファーは思う・・・・食事に誘うのはアインズだけにしよう、お互いに失うものが多すぎる

 

目の前の喧騒にコーヒーの苦みがよく合い、心を穏やかにしてくれる。今日もナザリックは平和である

 

 

 

 

 

 

 

 

 





「良い話みたいに纏めないで助けてくださいよ」

「他人の不幸でメシウマ~」





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