十勇士 作:妖狐
煙が晴れ、佐助は辺りを見回した。
(……逃げたか)
「ガハッ!ゲホッゲホッ!」
咳をしながら、才蔵は体を起こした。彼の咳に、桜華は才蔵の方に顔を向けた。
「……才…蔵」
「?
桜華!」
才蔵の声に、我に返ったのか桜華はふらつきながら立ち上がり、彼に駆け寄り抱き着いた。
「もう大丈夫だ」
「……」
才蔵に撫でられ、桜華は次第に体を震えさせそして大泣きした。
彼女の泣き声は、しばらくの間城中に響きそして木々もざわついた。
「あの子が……」
「?」
佐助に支えられ立っていた真助は、突然口を開いた。
「あの子が……泣いている」
「真助さん?」
「オーイ!無事かー!」
門を潜り、庭へ男二人と白い虎が駆け付けてきた。
夜……
「痛って!!
六郎さん、もうちょい優しく」
「これくらいの傷で、音を上げるんですか?」
「いや、そういう意味じゃ」
「はい。終わりました」
そう言いながら、六郎は才蔵の背中を叩いた。才蔵は声にならない声を出し、その場に倒れた。氷柱に手当てして貰っていた佐助は、そんな彼に深くため息を吐いた。
「民に被害はなかったが……
城には相当な被害にあってしまったわい」
「あなた方二人はどこに?
こちらは、腹を刺され瀕死の状態でしたのに」
「こちらもこちらで、敵に対応していました」
「そういうことだ」
「そうですか……
幸村様、信幸様に文を出しといて下さい。
『真助は少々ドジを起こし、腹を切ってしばらく動けない』と」
「あ、あぁ」
(ドジって……)
「まぁ、うちは大丈夫だろう。
優秀な勇士達がいるのだからな」
「大層なことを言うもんになったな?幸村の旦那」
「ハッハッハ!そうだろう」
「甚八!いい加減、その口の利き方どうにかしろ!」
「嫌なこった」
「甚八がいいなら、俺もいいだろ?」
「才蔵が真似をする!今すぐ直せ!」
「お断りだ」
「甚八!!」
「よいよい。儂は別に気にしてない」
「しかし」
「こう言ってんだ。いいだろ?」
「……ハァ」
「そういや、そのガキ誰だ?」
才蔵の隣に座っていた桜華に、甚八は目を向けながら質問した。桜華は少し怯えた様子で、才蔵の腕を掴み身を縮込ませた。
「あぁ、こいつは」
「数日前から、訳あってこの城に身を置いている桜華だ」
「置いているって……」
「何で?」
「その話は後だ。
それより、本題に入らせて貰う」
目付きを変えた幸村は、全員を見ながら口を開いた。
「今回の件だが、徳川絡みで無いことが分かった。
そうだったな?十蔵」
「はい」
「そして、今回の件で分かったこと……
服部半蔵が徳川を辞め、今は別の者の下に就いていたと言う事」
「あの馬鹿が言うには、四年前から就いているらしい。そいつの下に」
「そうか……」
「筧さん、他に何か情報は?」
「情報と言えば……
四年ほど前に、出雲と伯耆の間に隠れ里があったということを聞いた」
「里?」
「噂だと、ある一族と許された者しか入れない里だったそうだ」
「一族?何だ?」
「赤き瞳を輝かせ、自然の神達から力を借り多数の技を出す忍……光坂一族」
「光坂……」
「一族」
「懐かしい名ですね」
「え?」
「光坂一族……確か、武田に仕えていた忍です。
けど、武田が滅んだ後は誰にも気付かれぬようヒッソリと生きていると」
「真さん、詳しいんですね」
「小姑をやる前、武田にいたものですから」
「嘘!?」
「本当だ。確か、武田二十四将の一人だったよな?」
「それは父上です。僕は関係ありません」
「けど、その武田に仕えていた一族の里に行けば、桜華のことが分かるんじゃないの?」
「そうだよな。筧さん、その里どうすれば入れる」
「心配しなくとも、今は普通に入れる」
「え?」
「四年前、襲撃があり滅んでしまったんだ」
「マジかよ!?」
「生き残りは?」
「いないらしい。一人残らず殺したらしいからな」
「……」
十蔵の話を聞いた桜華は、才蔵の服の裾を震える手で掴んだ。
「桜華」
「?」
「来なさい」
煙管を口に銜え襖を開けながら、真助は桜華に言った。彼女はキョトンとした顔で、先に出た彼の後を追いついて行った。
「真助には、懐いているようだな?」
「アイツだけじゃねぇだろ?
才蔵にも懐いてたじゃねぇか」
「当たり前よ。
あの子にとって、才蔵は命の恩人だもの」
「へ~」
「さてと、続きを話すか」
廊下を歩く桜華と真助……
「少しは楽になりましたか?」
「?」
「先程の里、覚えがあるんですか?」
振り向きながら、真助は足を止め質問した。桜華は覚えはないと首を左右に振った。
「……桜華。あなたまさか」
「……」
「少し、話をしてもいいですか?」
真助は桜華を連れ、どこかへ行った。
「里に?」
幸村と話をしていた才蔵は、口を開いた。
「そうだ。
桜華を連れて、その一族の里に行ってくれ」
「行くのは構わねぇけど、アイツ行くか?」
「そもそも、桜華があの里の者とは言い切れませんし」
「言い切れるだろ?」
「どう言い切れるんだ?」
「少しは頭使え佐助。
アイツの目、赤かったぜ」
「だから、何だ?」
「筧さん、確か光坂一族って」
「赤き瞳を輝かせ……!」
「そう。桜華の目は赤。
もしかしたら、あの子はその里の生き残りだ」
「だとすりゃ、アイツ四年も逃げてたって事になるぞ!?」
「不思議ではない。
身を隠しながら、逃げていたのだろう。国や町を転々としながら逃げ続け……」
「そして、辿り着いたのがこの上田」
「その間に、記憶を無くしたってか?」
「無くした?あのガキ、記憶ねぇのか?」
「無いみたいよ。
多分覚えているのは、自分の名前だけ」
「何で名前だけ……
記憶を無くすなら、普通名前も」
「誰かに助けを求めてたのかもね」
「誰かって?」
「一族の里って、一族と許された者しか入れなかったんでしょ?
だったら、その許された者……武田に関係のある人の所へ行こうとしてたんじゃない?」
「あり得るな」
「けど、どこかで名前以外の記憶を無くして、行けなくなった……」
「……あ~~。
堅い話は止めだ。どうせ俺と十蔵、才蔵の三人でその里に行けって命令出すんだろ?旦那」
「そうだのう」
「ったく、身勝手な殿様だ。
明日、港へ行ってそこで俺の船を出してやるよ」
「げ!よりよって、甚八の船かよ」
「何か文句あんのか?」
「お前の運転、雑なんだよ!」
「うるせぇ!!」
「喧嘩をするでない!!幸村様の前だぞ!」
月明かりが照らす庭を桜華と真助は歩いていた。そして、庭の隅に植えられていた桜の木の所へ着いた。
「……桜?」
「あなたの名前にもありますよね?
『桜華』……」
「……」
「僕にも、子供がいたんですよ」
「え」
「でも、四年前に亡くなりました」
「……」
蘇る桜華の記憶……
自身の前から、去って行く男の背中。去って行く男の名を泣きながら呼び、追い掛けていた。必死に手を伸ばし、引き留めようとする……だが、後ろにいた女に止められ、呼び叫ぶことしか出来なかった……
「桜華」
「!」
「どうかしましたか?」
いつの間にか目から涙を流していた桜華は、涙を拭いた。
「何で……涙なんか」
「ここへ来る前は、どこに?」
「……覚えてない。
気が付いたら、茂みで倒れてた」
「……」
「頭にずっと響いてる。
逃げて……あいつ等の手の届かない場所へ。
振り向いちゃ駄目。もっと遠くへ」
「……そうですか」
優しい微風が吹いた。風は二人の髪を靡かせ、桜の花弁を舞い上がらせた。
才:雑談コーナー!
いや~、久し振りだな!
猿:妙にテンション高いな?
才:だって、新しいキャラ出たんだぜ?テンション上がるだろう?
氷:早く紹介しなさいよ!
才:そんじゃ、ご紹介します!
火縄銃使いの男・筧十蔵さんと馬鹿で船の運転が雑な海賊・根津甚八。
甚:誰が馬鹿だ!!
才:お前に決まってんだろ?
甚:ンだと!!
筧:止さぬか!!お主等は!!
狐:賑やかになってきたねぇ。
猿:狐。
甚:お!
アンタが狐か?どうだ?今度一杯。
狐:お!いいねぇ。是非
筧:お主、未成年だろ!!
狐:え~。飲むし。
筧:駄目だ!!
甚:堅いなぁ、十蔵は。
猿:もうキャラは増えないよな?
狐:いや~。まだ増えるよ~。
才:だったらこのコーナー、もっと楽しくなるな!
氷:桜華の秘密が、段々分かってきたわね。
才:なぁ、記憶がもし戻ったらどうなるんだ?
狐:そりゃあ……うん。
才:え?何、その暗い返事は?
猿:俺としては、才蔵の過去も知りたいが。
才:知ってどうすんだよ!!
氷:そろそろ喧嘩が始まるわよ?
狐:だね。
それじゃあ、また次回。
(キャラ紹介の方は、次に回します)。