十勇士 作:妖狐
幸村の部屋に集まっていた才蔵達に、彼はそう話した。
「先日、兄上が茶会の招待状を持ってきてな。
自分が行く予定だったんだが、生憎別の用件があって行けぬらしい。そこで代わりに俺に行って欲しいと」
「京かぁ。面白そう!」
「父上!僕も行きたいです!」
「大助が行くなら、俺も!」
「大助は連れて行くが、鎌之介は連れて行かぬ」
「ハァ!!何で!!」
「問題起こすからに決まってんだろ!」
「誰が一緒に行くの?」
「俺と六郎、大助と伊佐道、そして才蔵と桜華だ」
「あら、珍しい組み合わせ」
「私行かない。鎌之介に譲る」
「本当か?!桜華!」
「主の命に、逆らうでない!」
「だって、京に行くなって母さんに言われてるもん!」
「何で?」
「裏で高く売れるからだって」
「裏?」
「闇業者のことだろう」
「安心せい。母親からはしかりと許可を得た」
「行動が早い殿様ですこと」
馬に乗り、山道を歩く幸村達……
「父上、晴れてよかったですね!」
「まさに、旅日和だな」
空を見上げる才蔵達。同じように、才蔵の馬に乗っていた桜華は、深く被っていた笠の鍔を持ち上げ空を見上げた。
「凄い真っ青!」
「桜華」
「?」
「そんな格好して、苦しくないの?」
「六助がこの格好で行けって……
何にも狙われていない大助が、羨ましい」
「っ……」
「まぁ、京に着くまでの辛抱だ」
「京に着いたら、今度はこっち着けなきゃいけないもん」
そう言いながら、桜華は懐にしまっていた目元だけのお面を出し見せた。
「……何か、大変だね」
「里を出た時も、今の格好したのか?」
「うん。
でも私の場合、髪の色も珍しいから髪の毛も隠して来たんだ」
「……?
でもお前、上田に来た時結構身軽だったじゃねぇか」
「信濃に着いたと同時に、身軽にしたの。
国に入れば、母さんと父さんそれに六助の知り合いがいるから、その人達に匿って貰ったから」
「へ~」
「あ~あ、早く上田に帰りた~い」
「出発してから、二日しか経ってないぞ」
「だって~」
文句を言う桜華を宥めながら、一行は都へと向かった。
夕暮れ……馬から飛び降りた桜華は、夕日に照らされた京を眺めた。
「着いたぁ!」
「あぁ!桜華待って!僕も!」
「オイ、離れるな!!
桜華!大助!」
駆け出した二人を、才蔵は追い駆けた。
「俺等は宿に行ってるぞ!」
「分かったぁ!」
都の中を駆ける桜華……ふと、後ろを振り返ると後から着いてきていた大助の姿が、いつの間にかいなくなっていた。
「あれ……いなくなってる……
やっちゃった……」
手に持っていた笠を、首に掛けた桜華は一人町を歩いた。
(面をしてなければ、売ってる物見たかったなぁ)
道を歩いている時、桜華はある物が目に映った。
ツタが絡んだ古びた井戸……気になり、その井戸に近付き縁に触れた。
(……何だろう。
この井戸、見覚えが……)
その時、何かの気配に気付いた桜華は束を握り、鞘ごと刀を抜き後ろにいた敵を攻撃した。
後ろにいた二人の敵は、峰打ちをされそのまま倒れた。
「浚うなら、気配消さないとね」
「そうだな」
「!?」
その声に、桜華は手に持っていた刀を抜こうとしたが、自身の首に冷たい鉄が当たり、それ以上のことが出来なかった。
「さぁ、来て貰おうか?」
「……」
目を下に向けたその時だった……
目の前から鞘に入った長刀が、桜華の後ろにいた敵を突いた。敵は喘ぎ声を出しながら、そのまま倒れた。
「……凄ぉ」
「小娘にしちゃ、上出来だな」
顔を上げた先にいたのは、黒い髪を耳上で結び、片目に眼帯をした男。
「(眼帯……!)
梵天丸!」
「テメェ、どこのガキだ!!」
その頃、大助は……
即刻、才蔵に見つかり宿に戻っていた。だが、一緒ではなかった桜華を、彼はまた探しに行っていた。
「桜華の奴、どこ行っちゃったんだろう……」
「何、あの子は強い。
簡単に連れて行かれはせん」
「……だといいんだけど」
茶屋で串団子を頬張る桜華。その隣で、梵天丸……伊達政宗は、茶を飲んでいた。
「なるほどねぇ……母親と父親、そして書物で俺のことを調べて、俺の幼少期の名前を知ってたのか」
「うん。
外に出る際、今の殿方の名前は覚えとけって。
母さんが梵天丸は、卑怯な手を使うけど話せば話を分かる奴だって言ってた」
「俺はテメェの母親が、どんな奴かを知りたい」
「個人情報なので、教えられません」
「しっかりしてるな。お前の母親。
そういやお前、何で目元だけ面着けてるんだ?」
「見られちゃいけない目だから。
珍しがって、さっきみたいな野郎に捕まると、厄介だし」
「なるほどねぇ」
「ふぅー!ごちそうさま!
助けてくれて、ありがとね。梵天丸」
「その名前で呼ぶのやめろ」
「じゃあ……独眼竜!」
「……まぁ、いいか」
「じゃあね!独眼竜!
またどっかで!」
政宗に手を振りながら、桜華はその場から跳び去って行った。
夜……タンコブを作り、屋根の上で拗ねる桜華。
「いつまで拗ねてんだ」
「……」
(完全に機嫌損ねたな……)
面を取った桜華は、暗くなった都の景色を眺めた。
「綺麗……」
「……」
「産まれた時から、里にいたから……
こういう光景見るの、初めて」
「里だから、やっぱり夜になると暗いのか?」
「うん……
明かりって言ったら……里の道に点々と点いてた松明ぐらいだね。
あとは月明かり」
「本当に里だな……」
「でも……
この光景、見るの初めてじゃない気がするんだ」
「初めてじゃない?
でも、里から出たことないんだろ?」
「そうなんだけど……」
「夢とごっちゃになってんじゃねぇか?」
「う~ん……そうかなぁ」
「そうだよ」