十勇士   作:妖狐

60 / 65
城の中を歩く才蔵と桜華……


「私のお家より広い」

「そりゃあ、この上田の主だからな」

「私のお家、この城の半分もないよ」

「それはそれで、大きいぞ」

「だって爺様、長だったんだもん」

「爺様?」

「母さんの叔父さん!

叔父さんが急な病で亡くなって、跡継ぎに母さんが長になったの」

「へ~」

「あ!なぁ、お前ここに長く住んでるんでしょ?」

「お前じゃねぇよ。霧隠才蔵だ」

「霧隠……才蔵(あれ?この名前、どっかで……)」

「で?長く住んでるから、何かあんのか?」

「山本真助って人、どこにいるか知ってる?」

「真助?


あぁ、真さんのことか」

「ねぇ、どこにいるの?」

「あの人は、幸村の兄貴の所だよ」

「信幸の?

……何だ、ここにいないのか」


少しガッカリしたように、桜華は急に静かになった。そして、懐から封がされた紙を出し軽く溜息を吐いた。


「何だ?手紙か?」

「うん……父さんにって、母さんが」

「……?(父さんって……)」


夜桜の花見

「ウワァァアア!!」

 

 

突然叫び声が聞こえ、才蔵と桜華はすぐに庭へ向かった。

 

飛び出すとそこには、甚八と彼の相棒・レオンが目の前にいる狼の子供に向かって、唸り声を上げていた。

 

 

「才蔵!大きな狼が、レオンに!」

 

 

甚八の後ろに隠れていた大助は、才蔵に駆け寄りながらそう言った。

 

 

「何だ?あの狼」

 

「ありゃりゃ、降りて来ちゃったか……

 

水(スイ)!おいで!」

 

 

桜華の呼び声に、狼はレオンと甚八の横を通り過ぎ彼女の元へ駆け寄った。

 

 

「お前のか?」

 

「母さんが連れてけって。名前は水。

 

私の合図があるまでは、森にいろって言ったんだけど……何か、降りて来ちゃったみたい!」

 

「……」

 

「才蔵、この子誰?」

 

「昨日話した、光坂の」

「光坂桜華!

 

今日からお前の父さんに、仕えることになったの!」

 

「へぇ……(何か、初めてじゃない気が……)

 

あ!オイラ、真田大助!よろしく、桜華!」

 

 

その時、後ろからレオンが桜華に抱き着いた。桜華はレオンの頭を撫でながら、下ろし地面に座った。

 

 

「凄え、レオンが初めて会う人に懐きやがった」

 

「初めてじゃないもん。ねぇ!」

 

「え?初めてじゃない?」

 

「久し振りだな、桜華」

 

 

桜華に歩み寄った甚八は、彼女の頭を雑に撫でながら軽く挨拶をした。

 

 

「随分とデカくなったな」

 

「まぁね!また来るんでしょ?里に」

 

「あぁ」

 

 

「ウホ!デッケぇ狼!」

 

 

縁側を歩いていた鎌之介は、外へ飛び出すと水に飛び付いた。水は驚いた拍子に、レオンの首を噛みそれに驚いたレオンは、鎌之介に向かって牙を向けた。

 

 

「な、何だよ!お、俺の……ウワァ!」

 

 

水から落ちた鎌之介は、地面に尻を着いた。水は首を振ると牙を剥き出し、唸り声を上げながら彼を睨んだ。

 

 

「甚八、どうにかしろ」

 

「悪いのはあいつだろ?」

 

「水、おいで!」

 

 

桜華の声に、水は耳を貸さず鎌之介目掛けて襲い掛かった。

 

 

「鎌之介!!」

 

「水!!」

 

 

腰に挿していた刀を手に、桜華は水の前の地面を叩いた。叩いたことに驚いた水は、跳び上がり足を止めた。

 

 

「あ、危ねぇ……」

 

「ふぅ……」

 

「相変わらず、躾のなってねぇクソガキだな」

 

「んだと!!もういっぺん!!」

「だー!もう!いちいち突っかかるな!」

 

 

食い付こうとした鎌之介の服の襟を掴みながら、才蔵は彼を止めた。

 

 

「何ですか?騒々しい」

 

 

その声に水は、尻尾を振りながら嬉しそうに声の主の所へ駆け寄った。

 

 

「あ、真さ」

「父さん!!」

 

 

刀を腰に挿しながら、桜華は真助の元へ駆け寄ると嬉しそうにして飛び付いた。

 

 

「……え?い、今なんて」

 

 

飛び付いた彼女を受け止めた真助は、頭を撫でながらしゃがんだ。

 

 

「大きくなりましたね。桜華」

 

「へへ!父さん、もう髪伸ばさないの?」

 

「えぇ。長いと何かと邪魔で」

 

「ねぇ!私ね、強くなったんだよ!

 

剣術師の砕牙から、一本取ったんだよ!!」

 

「それは強くなりましたね」

 

 

「真さん、今こいつ……」

 

 

疑いながら、才蔵は桜華を指差しながら真助に質問した。彼は立ち上がりながら、水の頭を撫でて答えた。

 

 

「僕の娘ですよ」

 

「……嘘ぉ!?」

 

 

 

夜……

 

 

満開の桜の木の下に、敷物を敷き酒や食べ物を広げる六郎達。

 

 

「今宵新たな仲間、望月六助と光坂桜華の歓迎会を含んだ花見だ。

 

思う存分、楽しむがよい!」

 

「よっ!幸村の旦那、太っ腹!」

 

「よさぬか!甚八!その様な端たない言葉で!」

 

「堅苦しいこと言うなよ、十蔵」

 

「こいつがこれだから、俺も口の利き方いいだろう?これで」

 

「いちいち真似をするでない!!」

 

「大人の喧嘩は止めて置けって!ガキが見てるぞガキが」

 

 

真助の膝に座る桜華を指差しながら、才蔵はにやけながら十蔵に言った。

 

 

「……今回はこのくらいにしておく」

 

「やりぃ!」

 

「いつも口うるさい十蔵が黙った」

 

「桜華凄え!」

 

「しかし……

 

見れば見るほど、真助によく似ておるな」

 

 

口いっぱいに真助が握ったお握りを頬張る桜華は、十蔵の方を見た。

 

 

「お!真さんのお握り!

 

一つ貰うぜ!」

 

「どうぞ」

 

「真助のガキだったのか、お前」

 

「お前じゃない!桜華!

 

てか、さっき水とレオン怒らせてた奴!」

 

「奴じゃねぇ!!鎌之介だ!由利鎌之介!」

 

「そういえば、十蔵達にはまだだったな?」

 

「そうだね。それじゃあ、この場を借りて……」

 

 

持っていたお猪口を置き、伊佐道は桜華と六助の方を向いた。

 

 

「僕は三好伊佐入道。大助様の勉学を見ている者です。

 

どうぞよろしく。そんで」

 

「拙僧は三好清海入道。伊佐道同様のことをしております」

 

「某は筧十蔵と申す。今後ともよろしくお願いする」

 

「本日より、あなた方同様幸村様に仕えることになりました望月六助と言います。

 

ここでは皆様より、未熟者ですが何卒よろしくお願い致します」

 

「こちらこそ」

 

「六助は未熟じゃないよ!

 

父さんと母さんの右腕って呼ばれてたくらい、強いぞ!」

 

「それは武田時代の事です。

 

真田に関して、六助はまだまだ未熟です」

 

「?どういう事?」

 

「その内分かりますよ」

 

「さぁ、次はあなたのご紹介をお願いしますよ。お嬢さん」

 

「……本日より、光坂一族の代表として真田幸村様に仕えることになりました、光坂桜華です。よろしくお願いします!」

 

「はい、こちらこそ」

 

「真助と同様、礼儀がなっているな」

 

「僕が出て行った後、お義父上に叩き込まれたのでしょう」

 

「爺様すぐ怒るから、嫌いだった。父さんの方がよかった!」

 

「あのねぇ……」

 

「あ!そうだ!

 

これ!母さんから!」

 

 

懐から封がされた紙を、桜華は真助に渡した。

 

 

「桜華!木登りしよう!」

 

「あ!する!」

 

 

大助に誘われ、桜華は桜の木に登った。二人に釣られ鎌之介も駆け寄り、木を登り始めた。

 

 

「また危ないことを……」

 

「鎌之介がいるから平気だろ?」

 

「そうですけど……」

 

「真助、桜華とはいつ以来なんだ?会うのは」

 

「彼女がまだ五歳の頃に、信幸様の所へ来たので……

 

九年は会っていませんね」

 

「真さんが来てから、それくらい経つのか……」

 

「けど、よく分かったわね桜華。真助さんのこと」

 

「娘の勘って奴じゃねぇの?女の勘みたいに」

 

「普通に覚えていたんだと思いますよ。

 

あの子、記憶力だけは人並みに長けてますから」

 

「そ、そうなの……」

 

「して、真助。

 

文には何と書いてあるんだ?」

 

「……こちらで九年間育てたので、桜華の我が儘は全て聞き入れなさいと……」

 

「相変わらず、抜け目のない」

 

「全く、蓮華は……」

 

 

その時だった……心地良い風が吹き、桜の花弁を舞い上がらせた。

 

 

「見事な桜吹雪だ」

 

「雅ですねぇ」

 

 

風が吹く中、桜華は自身の前に舞い降りてきた桜の花を手の上に乗せると、そこから飛び降り真助の元へ駆け寄った。

 

 

「父さーん!見てぇ!

 

桜の花ぁ!」

 

 

駆け寄ってきた桜華は、真助に飛び込んだ。飛び込んできた彼女を、真助は受け止めたが、バランスを崩しそのまま倒れ、隣で飲んでいた才蔵にぶつかってしまった。

ぶつかった拍子に才蔵は、持っていたお猪口に鼻をぶつけ、酒を撒き散らした。

 

 

「ちょっと、大丈夫?!」

 

「鼻……鼻、やられた」

 

「才蔵、鼻から血ぃ出てるぞ」

 

「注意力が足りないんだ」

 

「あ!?何だと!猿!」

 

「喧嘩しない!!

 

ほら!鼻血が止まらないじゃない!」

 

 

騒ぐ才蔵達……その様子を、キョトンとした表情で桜華は見ていた。

 

 

(……何だろう……

 

 

凄い、懐かしい……それに、嬉しい)

 

「桜華」

 

「!」

 

 

トーンの低い声で、真助に呼ばれた桜華は、体をビクらせた。

 

 

彼は怒りのオーラを放ちながら、体を起こし自分の膝に座る桜華を睨んでいた。

 

 

「と、父さん……

 

アハハハ……」




大きいタンコブを作った桜華は、半べそを掻きながら串団子を、甚八の隣で食べていた。


「真助、何も殴らなくてもいいだろう?」

「躾をしたまでです」

「父さんの馬鹿!!阿呆!!」

「馬鹿で阿呆で結構です」

「才蔵や佐助もだったが……

相変わらず、厳しいのぉ……」

「その厳しさ、幸村様に向けてくれませんか?」

「向けてもいいですけど……果たして、数年後に生きているか」

「命に関わるのか?!」

「父さん、怒った時怖いもん」

「怒られて一番怖かったのって、何だ?」

「爺様と父さんの顔に、墨で落書きした時」

「それは怒られるよ」

「だって、寝アグッ」


言い掛けた瞬間に、真助は桜華の口におにぎりを入れ黙らせた。


「余計なことを言わない」

「ふぁーい」


おにぎりを手に持ち、頬張りながら桜華は返事をした。


「なぁ、桜華」

「ん?」

「後で、何かあったか」
「才蔵。

変なことを、吹き込まないで下さいね」


真助の優しい声に、才蔵は体を震えさせながら、甚八の後ろに隠れた。


「俺を盾にするな!」

「俺が再起不能になったら、城の守備力が下がるだろ!!」

「俺はいいのかよ!!」

「貴様が再起不能になっても、城は安定だ。

むしろ、そのまま一生寝ていろ」

「何だと!!お前の方が、一生寝てろ!

だいたい、今日だって警備怠ってたせいで、山賊に入られてたじゃねぇか!!」

「貴様がとっとと、起きないのがいけないんだろうが!!」

「自分の失敗を人のせいにするな!!」

「貴様こそ!!」

「もういい!!今日という今日こそ、決着を付けてやる!!」

「望むところだ!!」


束を握り、鞘から剣と小太刀を出した二人は飛び上がり、戦闘開始した。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。