十勇士   作:妖狐

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『桜華』

誰?

『桜華』

誰なの?

『やっと見つけましたよ?』



飛び起きる桜華……息を切らしながら、辺りを見回した。


「あれ?……才蔵?」


部屋で一緒にいたはずの才蔵の姿が無かった。桜華は、服を着て刀を持ち部屋を出た。


陽が差し込み、眩しく桜華は目を手で覆った。


「おや?目が覚めたみたいですね」

「?」


その声の方に振り向くと、そこにいたのは煙管を手にした真助だった。


「……」

「三日も、寝ていたんですってね」

「……」

「どうしたんですか?物珍しそうに」


『桜華。

どうしたんです?そんなに泣いて。また近所の子供と喧嘩したんですか?』


優しい男性の声が、桜華の頭に響いた。桜華は、ふと真助を見た。


「……」

「桜華?」

「……なぁ」

「はい?」

「……」
「お!桜華、起きてたか!」


何かを言い掛けた時、才蔵が現れ桜華に話し掛けてきた。


「才蔵」

「服が出来た。すぐに仕立屋行くぞ」

「うん」

「あれ?真さん、来てたんスか?」

「えぇ。桜華が少し気になった者で」

「つーか、小姑って普通若君の傍にいるもんじゃ」

「いる必要がありません。信幸様は、キチンとされているお方。ほっといても、大丈夫でしょう」

「おいおい……」

「さぁ、早く桜華に新しい服を着させてあげなさい」

「あ、あぁ。

桜華、行くぞ」


先行く才蔵の後を追うとした桜華だったが、彼女は一瞬真助の方を振り向いた。晋助は彼女を見つめ、そして首から下げている勾玉を目にした。


「桜華!!置いてくぞ!」


才蔵に呼ばれ、桜華は彼の元へ駆け寄った。


(……まさかね)



仕立屋へ来た才蔵と氷柱。


「何でお前まで来んだよ」

「いいじゃない。アタシだって、桜華の新しい服見たいし。それに髪留めと靴も買わなきゃダメでしょ?」

「まぁな……」

「お待たせ~!!

さぁ、桜華ちゃん!出てきて、二人に見せてあげて!」


更衣室から出てくる桜華……

藍色の半袖の服に、黒いハーフパンツ。そして丈が長く袖無しの白いフードが着いたコートを着て、腕には藍色の肘まである手袋を嵌め、首には黒い襟巻が巻かれていた。


「あら!いいじゃない!」

「でしょでしょ!

作るの苦労したわ~」

「桜華、どうだ?気に入ったか?」

「……うん」

「そうとなれば、この服に合う靴買いに行きましょう!あと髪留めも!」

「お前が行きてぇだけだろ!!

桜華、行くぞ」

「ありがとうね!」

「またいつでもいらっしゃ~い!」


靴屋、雑貨屋へと行き、必要なものを買った三人は、いつもの茶屋で一休みしていた。


「取り合えず、買うもんは買ったと」

「桜華、本当にその靴で良かったの?忍でもないんだから、下駄とかにすればよかったのに」


白い西洋のヒール無しの足首上まであるブーツを見ながら、氷柱はそう言った。桜華は、買って貰った髪留めで髪を結ぼうとしていた。


「この靴の方が、走りやすい」

「走りやすいって、アンタね」

「いいじゃねぇか。本人が気に入ってるんだからそれで」

「う~ん……でも~」

「お前のセンスに合わせてると、変な格好になる」

「変とは何よ!!」


お茶を飲む桜華……その時、何かの気配を感じたのか、鋭い目付きになり辺りを警戒しだした。その気配は、才蔵達も感じ、辺りを警戒した。


そんな彼等を屋根の上から見る数人の人影。


「やっと見つけましたと……さぁ、捕獲しましょうか」


“ドーン”


襲撃

突然の爆発音……町を歩いていた民達は皆、悲鳴を上げた。才蔵と氷柱は、武器を手に取り出し煙が上がっている箇所を見た。

 

 

「才蔵!すぐに桜華を城へ!」

 

「あぁ!桜華、こっち…?!」

 

 

向かいに座っていたはずの桜華が、いつの間にかいなくなっていた。

 

 

「桜華!!」

 

「あの子まさか、さっきの爆発音にビックリして」

 

「動物か!!」

 

「違うわよ!!考えて見なさい!

 

追われてたのよ!ずっと。攻撃を受けてないわけないでしょ?」

 

「……」

 

「とにかく才蔵はあの子を捜して!私は、城に戻ってすぐに佐助達に報告」

“ドーン”

 

 

城の方から突如、爆発音と共に黒い煙が上がった。

 

 

「城が!?」

 

「幸村!!

 

氷柱、早く行け!!」

 

「えぇ!!」

 

「何がどうなってんだ!!」

 

 

 

上田城では……

 

 

潜入してくる忍達。その者達を、庭にいた真助は持っていた刀でズタズタと斬っていった。

 

 

「全く、普通に突っ込んでくる者がありますか?

 

忍というのは、音を立てず気配を断てず侵入するものです」

 

「真顔で言うの、辞めてください!!」

 

「おや、佐助。遅いではありませんか」

 

「蔵に火を放たれ、その消火の方を……って、何し切ってるんですか?!」

 

「真田軍隊長がいなかったもので。そのまま命令を出させて貰いました」

 

「真助さん!!」

 

「さぁ、ここからはあなたのお仕事ですよ。早く片付けなさい」

 

「分かってます!」

 

 

坂道を駆ける桜華……辿り着いた場所は、上田城だった。

 

 

「ハァ……ハァ……うっ!!」

 

 

『逃げて!!逃げて逃げて!!

 

あいつ等の手の届かない場所へ!!逃げて!!』

 

『あの人を……

 

信州の上田にいる、真田を頼りなさい』

 

『逃げて!!早く!!』

 

『見つけましたよ?』

「見つけましたよ?」

 

「?!」

 

 

聞き覚えのある声……声を聞いた瞬間、体が震えだした。震える手で、腰に差していた刀の束を握りながら、ゆっくりと後ろを振り向いた。

 

黒い忍服に身を包んだ男……顔と頭に黒い布を巻き、その間に光る灰色の目。手には大剣が握られていた。

 

 

彼の姿を見た瞬間、桜華の頭に激しい頭痛が走り彼女は頭を手で抑えた。そしてその痛みと共に記憶が流れた。

 

 

次々に人を斬っていく姿……辺り一面血の海になっていた。

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ」

 

「全く……世話の掛かるお嬢さんだ。

 

四年も姿眩ますとは。まぁ、最近になってこの辺りに似た奴がいたと聞いて着てみましたが、正解のようですね」

 

「……」

 

「さぁ、一緒に来て貰いましょうか?」

 

「……い、嫌。

 

来ないで……」

 

 

息を乱す桜華……フラッシュバックで、頭に見覚えの無い記憶が次々に甦っていた。

 

 

「どうしても嫌だと言うなら、足を斬ってでも来て貰いますぜ?」

 

「い、嫌だ……やめて……」

 

 

大剣を振り回す男……桜華は息を調えると、隙を狙い駆け出した。だが、その前に彼の仲間が降り立ち彼女の手にロープを掛け拘束した。

 

 

「逃げないで下さいよ。

 

また見つけるの大変になるじゃないですか」

 

「嫌……嫌!」

 

「連れて行く前に、首元と手の甲拝見させて貰いますよ。

 

本人かどうか、確認するんで」

 

 

近付く男……桜華は目に涙を溜めながら、ロープを解こうと暴れた。

 

 

「ちょい、大人しくして下さい。

 

確認できないじゃないですか。

 

 

全くもう。少し抑えてて下さい」

 

「はい」

 

 

手に巻かれていたロープを、二人の仲間は同時に引っ張った。引っ張られた力により、手は動かすことが出来なくなり、桜華は怯えた目で前にいる男を見上げた。

 

 

「さぁ、大人しくしてて下さいね。すぐに終わり」

 

 

首に触れようとした途端、地面から木の根が生え彼を攻撃した。男を攻撃した根は、次に桜華の腕に巻かれているロープを切った。自由になった桜華は彼等から離れ、刀を抜き勢い良く振った。その瞬間、風が起き仲間の一人を切り裂き殺した。

 

桜華は刀をしまい、振り返り駆け出した。その後を男は追い掛けもう一人は別方向から追い掛けて。

 

 

庭を走っていた桜華は、庭に植えられていた茂みに隠れ口を手で塞ぎ隠れた。すると目の前に何かが降り立ち、桜華は恐る恐る顔を上げた。

 

 

「さ、猿?」

 

「そう呼んでいいのは、才蔵だけだ。

 

 

それより、無事でよかった」

 

「……」

 

「早く城から逃げ」

「逃がしませんぜ?」

 

 

その声と共に桜華の背後から、佐助の肩にクナイが刺さった。

 

 

「また捜すのが面倒になるじゃねぇですか。

 

 

アンタ、よく見りぁ甲賀忍じゃねぇですか」

 

「お前、伊賀者か」

 

「そうそう。

 

さぁて、ガキは貰いますか」

 

 

男が桜華の肩を掴んだ時、佐助は二本の小太刀を出し彼の肩に刺した。

 

 

「痛!!」

 

「渡しはしない」

 

「……」

 

「伊賀の忍というのは、強いものですね」

 

「あ?

 

お前は」

 

 

刀を持った真助は、笑みを浮かべながら彼に剣先を向けた。

 

 

「何故上田にいないはずのお前がここに」

 

「少し用事でここへ。

 

しかしまぁ、よくも上田を襲ったものですね」

 

 

座り込んでいる桜華を立たせた真助は、彼女を抱き寄せた。

 

 

「何故分かったんですか?」

 

「何がです?」

 

「そこにいるガキが狙いだと」

 

「上田を襲い、小姑に守られている若には全然危害を加えようとしない……

 

今回は、若目当てではない。となると、もう一つは……

 

 

最近着たこの子」

 

「わお!ごめーと。合ってますぜ。

 

じゃあ、下さい。その子」

 

「それは無理なお願いですね。

 

どうしてもというのであれば、僕と戦いなさい」

 

「……ハァ~。

 

どうして、誰も素直に渡してくれないんですかねぇ。

 

 

素直に渡せば、今上田を攻撃している忍隊、退かせますぜ?」

 

「いらぬ願いだ。

 

お前等ごときで、真田忍隊は負けはしない」

 

「お~。さすが甲賀の忍。

 

けど、さすがの甲賀でも俺等に勝てますかねぇ」

 

 

男の背後に降り立つ二人の男女。二人を見た瞬間、桜華は怯えだし真助にしがみついた。

 

 

「記憶が無くとも体は覚えているもんですね?」

 

 

指を鳴らし合図すると、女は袖から無数の蛇を出した。

 

 

「へ、蛇?!」

 

 

近付いてくる蛇を、佐助は二本の小太刀で切っていった。

 

 

「真助さん、桜華を今の内に!!」

 

「桜華、ここから逃げなさい」

 

「……」

 

「ここにいては危険です。さぁ早く」

 

「……」

 

 

真助から離れ桜華は駆け出そうとした。その時、彼の腹にクナイが刺さった。

 

 

「真助さん!!」

 

「これは……一大…ゲフ……事です」

 

 

口から血を出しながら、真助は倒れてしまった。

 

 

「逃がしはしねぇよ。

 

お前には、一緒に来て貰うんだからな」

 

 

立ち止まっていた桜華の背後に回っていた男は、彼女の手足を拘束した。

 

 

「桜華!!」

 

「余所見しなで下さい」

 

 

桜華の元へ行こうとした佐助に、女は大蛇を出し彼を攻撃した。

 

 

「さぁてと、確認しますか」

 

 

近付く男……桜華は怯えきった顔で、後ろへ引きながら逃げようとしていた。目に映る光景……炎を背に自分に歩み寄ってくる、同じ男の姿。

 

 

「嫌……嫌ぁ!」

 

 

首に手が伸びた時だった。突如上から数本のクナイが降り注いだ。男はすぐに桜華から離れ、上を見上げた。

 

屋根から降り立つ影……影は桜華の前に立ち、剣の柄を握った。桜華は震える声でその影の名前を呼んだ。

 

 

「さ、才蔵」




狐:は~い!雑談コーナー!
……って、思ったけど……何か、皆忙しそうだから。今回から出て来たキャラ一人ずつ紹介していきます!

では、どうぞ↓



名前:霧隠才蔵(キリガクレサイゾウ)
年齢:19歳
使用武器:剣
容姿:金髪に黒いバンダナを巻いている。目の色緑掛かった黄色。
服装:黒のノースリーブに黒と銀の羽織を腕に通している。下は黒い長ズボンに裾を巻き込むようにして脚絆を巻き足袋を履いている。手には籠手付きのグローブを嵌め、腰にポーチと剣を下げている。

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