十勇士 作:妖狐
「憎き!!憎き光の男よ!!」
伊佐那美は、才蔵に再び攻撃をしようとした。だが次の瞬間、彼女の魂は桜華の体から分離した。離れた桜華を、才蔵は抱き地上へ戻ろうとした。
「行かせはせぬ!!」
「くっ!」
「どうせ、また桜華を裏切る……だったら、妾達と共に黄泉へ連れて行く!!」
「させるか!!」
闇の触手を操りだした伊佐那美だったが、その時突如後ろから、矢が飛び彼女の背中に突き刺さった。
「!?ち、千草……」
『才蔵の邪魔は、させない!』
「死人が、口を利くな!!」
才蔵から伊佐那美を引き離した千草は、彼女を黄泉の奥へと蹴り落とした。そして、才蔵に抱き着き、こう言った。
『才蔵達に会って、私幸せだったよ』
笑顔を見せた千草は、才蔵の背中を押した。
地上へと戻ってきた才蔵……それと同時に、黄泉の扉は固く閉じ再び地の底へと沈んだ。地下への入り口の扉が閉まる寸前、悪しき魂は白くなり、四つの勾玉は色を取り戻して、持ち主の元へと帰った。
「桜華!!目を開けろ!!」
才蔵の腕に抱かれた桜華を見た佐助達は、すぐに彼等の元へ駆け寄った。地面に寝かせた桜華に、佐助は寄り血で赤く染まった胸元に、耳を当てた。
「……心臓が……動いていない」
「?!」
「早く蘇生術を!!」
氷柱に言われ、佐助はすぐに桜華に蘇生術を施した。だが、いくらやっても桜華は目覚めず時間だけが過ぎた。
数時間後……辺りが薄らと明るくなってきた頃。
息を切らす佐助は、才蔵達の顔を順々に見ていきそして、首を横に振った。
「そんな……」
「佐助!もっとやれ!!桜華が起きるまで!!」
「無茶言うな!
もう何時間もやってる……これだけやって、心臓が動かなかったんだ……
桜華はもう……」
「……
嫌だ……俺、そんなの絶対嫌だ!!」
「鎌之介……」
「桜華!起きろよ!
上田に帰ろうぜ!!なぁ!
大助が……幸村が……空や青達、レオンがお前の帰り待ってんだよ!!なぁ!桜華!!桜華!!」
体を揺らしながら、鎌之介は涙を流して訴えた。彼の流した涙が、桜華の頬に当たるが彼女は目覚めなかった。
拳をを強く握り悔し泣きをする優之介……陸丸に抱き着き泣く椿に、彼女を慰めるかのようにして頭を撫でながら、共に涙を流す陸丸。
彼等の流した涙が、色を取り戻した勾玉に当たった……
その時……
突然、昇った朝日と共に強烈な光が辺りに差し込み、才蔵達を包んだ。
光の中に眠る才蔵……
『我妻を黄泉へ返したことに、礼を言う。光の勇士よ』
「誰だ……アンタ」
『我が名は伊弉諾尊(イザナギ)。
妻を封じた礼に、お主等に褒美を与える……
何、運命を少し弄るだけだ……
さぁ、戻るがいい……現世へ』
「!?」
飛び起きる才蔵……見慣れた部屋を見回しながら、彼は頭を掻いた。
「……何だ?今の」
「やっと起きたか」
障子を開けながら、佐助が呆れた様子で言ってきた。
「猿……ここは?」
「何寝ぼけたことを言ってる。ここは上田だ。
とっとと着替えろ。今日来る予定なんだから」
「今日来る?誰が」
「いっぺん死ね」
服を着替えた才蔵は、頭を軽く叩きながら城内を歩いていた。
「光坂のガキか……そういや、結構前にそんな話しあったな。
確か、幸村が正式光坂の主となって……その親交の証として今の長、光坂蓮華が自身の娘を部下と一緒に送るって」
「そうだ。
全く、昨日話したことを忘れるとは、一体どういう頭になってんだか」
「御山の大将の猿に言われたかない」
「下品な伊賀よりはマシだ」
「んだと!!もういっぺん言ってみろ!!」
「何度でも言う!下品伊賀!」
「うるせぇ!!馬鹿甲賀!」
「何騒いでるのよ!朝から」
二人の喧嘩を止めるかのようにして、氷柱が間に入ってきた。
「喧嘩してると、また六郎と十蔵に怒られるわよ」
「先に喧嘩振ってきたのは、甲賀の猿だ」
「黙れ馬鹿!」
「誰が馬鹿だ!」
「あぁもう!止め止め!
喧嘩より、早く下町行くわよ!」
「何で?」
「騒ぎがあるって、さっき町の人から聞いたの」
「俺は光坂のガキを出迎えるから、お前が行け。猿」
「下品な伊賀より、高貴な甲賀が出迎えた方がいいだろう」
「誰が下品だ!!」
「喧嘩するなら、二人で来なさい!
ほら行くわよ!」
「耳を引っ張るな!」
「耳を引っ張るな!」
城下町……山賊の格好をした男の群れで、暴れる一人の少女。
「この尼!!調子に乗るな!」
「乗らせたくなきゃ、とっとと倒せばいいじゃん!
ま、倒せればの話だけど」
「この!!」
手に地面を着いた少女は、その手を軸に回転して攻撃してきた男の刀を蹴り飛ばした。
「暴れるなと、副隊長から言われてますでしょ!」
「それは上田外でしょ!
ここはもう、上田だからいいの!」
「そ、それは確かに……!!
後ろ!!」
男に言われ後ろを振り向いた瞬間、男の仲間の一人が鉄棍棒を振り下ろしてきた。当たる寸前に、少女は転がり避けた。
その時、被っていた笠が取れた。
「ほぉ!珍しい!
裏で、高く売れるな!」
「売られる前に、お前が私を捕まえられればいいけどね!」
「すぐにその足をへし折ってやる!!」
鉄棍棒を振り上げ、地面に叩き付けようとした瞬間、才蔵が彼女の前に立ち棍棒を受け止めた。
「何人の地で、暴れてんだ!?」
「!?」
「少しばかし、お城でお話聞きましょうか?」
「城で、痛めつけるのも言いがな」
不敵な笑いに、山賊達は武器をしまい一目散に逃げていった。
「ったく……オイ猿、もっと警備厳重にしろ」
「だな……少し緩すぎた」
「助けて頂き、ありがとうございます」
笠を被り旅の格好をした男は、礼を言いながら少女を立たせた。
「いや、別に」
「見掛けない顔ね。旅人さん?」
「この国の真田幸村という方に、会いに来たのですが……」
「俺達はその幸村様に仕えてる者だ」
「おぉ、そうでしたか!」
「アンタ、何者だ?」
「拙者は望月六助。
そしてこの子は」
服の土を手で払った少女は、才蔵達の方に振り向き笑顔で言った。
「光坂桜華!初めまして!」
名を聞いた瞬間、微風が吹き彼等の髪を靡かせた。肩下まで伸ばした真っ白な髪を、耳下で結い透き通った赤い目をした容姿。
「……光坂って(何だろう……)」
「じゃあ、この娘が(初めてじゃない……気がする)」
「光坂の長、光坂蓮華の(桜華……何だ、この嬉しい気持ちは)」
「はい、この子が……光坂蓮華の娘・光坂桜華。
この度、拙者と共に真田で仕える事になります」
「堅苦しい挨拶いいから、早くお城行こうよ!」
「コ、コラ!また勝手なことを」
駆け出そうとした桜華を、六助は慌てて引き留めた。
才蔵達に釣られ、桜華達は城へと向かった。
城内……
「いやぁ、大きくなったのぉ!」
自身の前に座る桜華の姿を見ながら、幸村は嬉しそうに言った。
「そりゃあ大きくなるよ!幸村さんが最後に来たの、私が五歳の頃じゃん」
「確かに!」
「じゃあ改めて!
本日より、光坂一族の代表として真田幸村様に仕えることになりました!」
「うむ!しかりと受け取った。
しかし、立派に育ったのぉ」
「まぁね!
ねぇ、もう挨拶済んだから城の中、見て回ってもいい?」
「いいぞ。才蔵、案内を」
「あぁ」
「ワーイ!」
「おいコラ!先行くな!」
部屋を飛び出した桜華の後を、才蔵は慌てて追い駆けていった。
「相変わらず、元気があるなぁ」
「あの元気のおかげで、ここまで来るだけで疲れました」
「お疲れ様」